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AIが、パソコンの外に出てきた

私にとってAIは、ずっと画面の中の道具でした。

文章を書く。調べる。表を作る。要約する。どれも便利ですが、全部ディスプレイの内側で完結する仕事です。


その感覚が変わったのは、深夜0時20分ごろ、ベランダで三脚を立てているときでした。

ノートパソコンも一緒に持ち出して、カメラとケーブルで繋いでいました。試しに1枚撮ると、その写真がそのまま画面のAIに届きます。

AIに、構図のダメ出しをされたからです。

「背景が明るすぎます。このままだと夜明けに背景へ明るさを持っていかれて、肝心の花が真っ黒に沈みます」

言われて三脚を動かし、また撮る。またAIが見て、判定する。それを何度か繰り返して、ようやく構図が決まりました。

隣にあるのは、2012年に出た一眼レフです。14年前の機械で、AIのことなど何も知りません。それがこれから一晩、朝顔の開花を撮ります。

朝顔は、明け方のほんの数分で開ききってしまいます。 何時に咲くかは朝顔が決めるので、数分おきにシャッターを切りながら、一晩ずっと構えているしかない。しかも夜のあいだに、あたりは真っ暗から朝の明るさまで変わります。そのたびにカメラの設定を直す判断が要る。人間は寝ますが、その判断は誰かがしなければならない。そういう撮り方です。

オートモードと、何が違うのか

ここで、当然の疑問が出ます。

カメラには、昔からオートモードがあるじゃないか。

そのとおりです。明るさを自動で合わせる機能は何十年も前からあります。それどころか、最近のカメラやスマホは人の顔や瞳を見つけて、勝手に主役として扱います。背景をぼかすのも自動です。「見て、主役を決めて、先を読む」——これはもう、AIを持ち出さなくても機械がやっています。

やってくれるだけなら、オートモードと変わりません。

では何が違ったのか。この夜、AIが言ってきたのは、こういうことでした。

「絞りはF4〜F5.6。開放F2.8はピントの合う幅が7mmしかなく、開花で外れます。少し絞って15mmくらい確保したい」

絞りを決めたあと、テスト撮影を見て、こう続けました。

「右のつぼみは、少し奥にいてボケています。F5.6では両方は入りません。中央を主役に決め打ちでいきましょう(右も咲けば背景でぼんやり色が出て、むしろ良い絵になります)」

顔や瞳を見つけて主役扱いする機能なら、もう入っています。違ったのは、7mmという理由まで一緒に出してきたことでした。

理由が出てくると、こちらは割り込めます。

「いや、そっちのつぼみじゃない」「もっと引きで、鉢ごと撮りたい」——そう言い返せる。オートモードには、割り込む場所がありません。カメラが勝手に決めて、勝手に合わせて、結果だけが出てくる。気に入らなければ設定を自分でいじるしかない。

オートモードがやるのは「設定を合わせること」です。この夜のAIがやったのは、「何を狙うべきかを、理由つきで差し出すこと」でした。

実際、割り込んだ場面もあります。AIは「ピント合わせは手動で」という段取りを出してきました。でも手動だと、暗い中で触るたびにズレます。それで私はこう聞きました。

「AFにしておいて調整してもらって、その後、固定フォーカスで撮れる?」

自動で合わせてから、そこで固定してしまう。 この一手はそのまま採用されて、一晩ぶん効きました。理由が先に出ていたから、「その理由なら、こういう手もある」と言えたわけです。

ただし、正直に書いておきます。 同じようには割り込めなかった場面もあります。記録を読み返すと、「中央のつぼみを主役に」という提案に、私は返事すらしていませんでした。AIは返事を待たずに次の作業へ進み、私もそれを止めていない。割り込める場所はあったのに、使わなかったわけです。

その差がどこから来たのかは、後編で書きます。

どうやって繋がるのか

そもそも、14年前のカメラがなぜAIの言うことを聞くのか。種明かしをすると、拍子抜けするほど単純です。3つの部品が並んでいるだけでした。

① カメラには、最初からUSBの口が付いている

パソコンと繋いで決められた信号を送れば、シャッターが切れる。設定も変えられる。撮った写真はケーブルを通って即座にパソコンへ届く。これは新しい機能ではなく、14年前から付いていました

② その口を叩くための無料ソフトが、世の中にある

パソコンからカメラを操作するソフトです。ありがたいことに、キーボードから文字で命令を打てば動く作りになっていました。「1枚撮れ」「感度を上げろ」と書いて送れば、その通りにする。

この「文字さえ届けば動く」は、カメラだけの話ではありません。 あとで戻ってきます。

③ AIが外に出せるのは、文字だけ

——ここで、繋がります。

AIが外界に出力できるのは、突き詰めれば文字です。でも②のソフトは、文字さえ届けば動く。ということは、AIが書いた文字をそのソフトに渡す係をひとつ置けば、それだけでAIがカメラを操作できることになります。

こういう「AIと外の道具をつなぐ係」には、最近きちんと名前が付きました。MCPと呼ばれています。難しそうですが、要は変換プラグです。

「体」は、もう家にあった

ここで、②に戻ります。「文字さえ届けば動く」道具は、カメラだけではありません。

エアコン、プリンター、給湯器、照明。アプリで操作できるものには、たいてい外から指示を受け取る口があります。形はばらばらですが、「体」はとっくに備わっている。

たとえば、AIが夜のうちに天気予報を読んで、「明日の朝は今季いちばん冷える」と判断したら、起床の30分前に暖房を入れておく。頼み方は日本語一行で済みます。

これは家の話ですが、会社で毎日触っている道具も、たいてい同じ形をしています。 アプリやブラウザから操作できるなら、口はもう付いている。

AIが現実世界を動かす、という話になると、たいてい人型ロボットの映像が出てきます。腕があって、指があって、物を掴む。あれを作るのは大変そうだ、と思っていました。

でも、体はもう、そこらじゅうにありました。ロボットの体を新しく作るより、すでにある物に変換プラグを挿すほうが、圧倒的に安くて速い。私が用意したのは、ケーブル1本と、変換プラグの中身だけです。

ただし、正直な留保を2つ置きます。

ひとつめ。口が付いていることと、その口が誰にでも開いていることは、別です。

私のカメラにも、メーカーが用意した公式の接続手段はあります。ただし開発者向けの申請が要るもので、休日に思いつきで触る人間がもらえるものではありませんでした。動いたのは、誰かが先にその手続きを踏んで、無料の道具として配ってくれていたからです。

口はずっと開いていたのではなく、鍵を作った人が先にいた。「足りないのは変換プラグだけ」というのは、少し言いすぎです。

ふたつめ。そのプラグは、思ったより薄くありませんでした。

「規格を噛み合わせるだけの部品」と書きましたが、正直に申告すると、一晩ぶんの判断は、そのプラグの中に仕込んであります。明るさをどう測るか、どれくらい直すか、行き過ぎたときどう戻すか——全部、寝る前に決めて、書き込んであります。

そのプログラムを書いたのも、AIです。 私は「こういう方針でいきたい」と話し、AIが書き、動かして、直しました。だから夜のあいだ回っていたのは、AIでも私でもなく、明るくなる前に二人で書いておいた手順です。AIが夜通し起きて1枚ずつ考えていたわけではありません。

しかも、その「一晩かけて明るさを追いかける」仕組み自体、似たものは10年以上前からありました。調べたら、私が使ったのと同じ14年前のカメラで今でも動く道具が存在します。私は車輪を再発明していたわけです。

新しかったのは仕組みではなく、それが会話の中に移ったことでした。

それでも、動かしていたのは人間だった

AIにできないことも、その場ではっきりしました。

カメラを持って、朝顔に向けて、三脚を立てたのは私です。

ピントは、実はAIが自分で動かせます。ケーブル越しにレンズのモーターを回せるので、「もう少し手前に」は自分で実行できる。でも、カメラの向きと位置だけは動かせません。「もう少し寄って」と言われて、実際に寄ったのは人間でした。

見て、言って、待つ。 それがこの夜のAIの立ち位置です。

夜のあいだ、回っていたもの

段取りは、ぜんぶ会話で決めました。最後に私が「GO」を出して、寝ます。

そこから朝までは、単純な輪が回り続けます。撮る。撮れた1枚を開いて読む。明るさを判断して、設定を直して、また撮る。 この輪の中に、人はいません。

おわりに

朝、フォルダには203枚の写真が残っていました。

実はこの撮影、12日前に一度失敗しています。設定を固定したまま回して、明け方から画面が真っ白に飛んでしまった。その時間帯を、今回はきちんと通過していました。

それなのに、私はその写真を見て、少し困りました。

その話は、後編に書きます。
(追記)この撮影に使った仕組みは、Qiitaに技術記事として書きました。コードも公開しています。


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