バードアタック
今日は気持ちの良い日だった。
昼ご飯のあと、散歩に出た私はあまりにもいい天気なので良い気分だった。これが数カ月後には灼熱地獄になるんだな……と思うと気分も悪くなるので、夏のことはあとから考えようと思っていた。
交差点に1台の車が止まっていた。小豆色で屋根が無くて、コンパクトだが良く走りそうな感じの高級車だ。
「まあ、素敵……」
私はうっとりと車を見つめた。こんな天気の良い日に屋根のない車……と、考えたところで私ははっ!とした。
屋根が無い車……私の胸にスティーブン・キング並の恐ろしいイメージが蘇った。
十年ほど前、今日のような美しい初夏のある日、私は車を運転していた。
私は本当に運転が下手くそで、よく私が車を運転する時に歌っていたのは秋川雅史先生の「千の風になって」の替え歌で
♪私のぉー車のまーえにー
飛び出しては駄目でーす
♪私に余裕は、ありません
轢いてしまっても、知りませーん!
というもので、とにかく人を轢かないように、私は鬼の形相で運転していた。
その時は、図書館から子供の学校へお迎えに行く途中だった。その時間は道路はすいていて、私は緊張しつつも慎重にハンドルを握りしめていた。
『ゴンッ!ベチャ……』
私は悲鳴をあげた!フロントガラスがまるで銃弾を受けたかのように凹み、ヒビが入っているではないか!そしてその中心には
「血だ!血だーぁー!」
私はパニックになった。持病の関係で、私は血圧の変動が命取りになる。私はとにかく落ち着こうと車を停車させた。そこは学校近くのファミレスで、私はとにかく胸のドキドキを落ち着かせ、頭が悪いなりに状況を整理した。でも分からない……。どう考えても、私は私が狙撃されたとしか思えなかった。やだ、ゴルゴ13?しかし、私は…撃たれていない!撃たれていないのに……フロントガラスには血がついている!
「分からん……」
私は考えることを放棄した。車の中で私は水筒に入れた紅茶を飲んだ。カフェインは偉大で、私は徐々に落ち着いた。私は車の運転を再開し、子供の学校に到着した。
「栄子さん……ガラスどうしたの?」
ママ友のミドリさんがたずねたので、私は説明した。狙撃されたかもしれない、と。
すると担任の長谷川先生が言った。
「それはたぶん鳥ですよ。今は巣立ちの時期だからぶつかったのね」
ああ、鳥か。頭のどこかではそうかもな、と思っていたけど、車に鳥がぶつかるなんて……考えたことも無かった。可哀想な鳥さん……親元から離れ巣立ちを遂げ、これから羽ばたこうという時に……なんということだろう?私は心のなかで手を合わせた。帰り道にそれらしき鳥さんがいないか、見てみたものの……いかんせん運転が下手なので分からなかった。
屋根のない車は…信号が変わったので動き出した。ちょっと低めのエンジン音が軽快に響き渡った。私は車を見送りながら、運転手さんに一言言えばよかったかしら…?と考えていた。
「もしもし、鳥がぶつかるかもしれないから、屋根はあったほうがいいですよ」
そんなことを、さえない小太りの中年女がいきなり言ったら…それこそ事故を起こすかもしれない。でも、鳥はフロントガラスを割っちゃうくらいの力でぶつかるのよ?運転手さんの頭なんてぱっかーんと割れちゃうわよ。そしたら大事故よ!
まあいいや。
こんな気持ちの良い日だもの、屋根の無い車でお出かけしたいわよね……私はそう思った。あの運転手さんが鳥に遭遇しないことを私は同時に祈っていた。
