はじめての仕事 - 「夜ふけのなわとび」で知った、たった一行の緊張感。
「お前、これやってみろ!」
右も左もわからない駆け出しのペーペーに声をかけてくれたのは、Number創刊のデザインや長年にわたり週刊文春(以後:文春)のアートディレクターを務めていた、故・阿形竜平だった。

その仕事は、文春に長年連載されている林真理子さんのエッセイ「夜ふけのなわとび」のタイトルデザイン。いわば「毎週、全国に届く書体のデザイン」を任されるということだった。
タイトルに命を吹き込む
当時の自分にとって「タイトルデザイン」とは、文字を組む以上のものではありませんでしたが、連載の世界観に寄り添い、誌面の空気と響き、何よりも「読む前に感じさせる」力が求められるものだと知った。
夜、なわとび、誰かの孤独、誰かの決意、静けさと律動……
それらすべてを内包したタイトルを、どんな視点で考えればいいのか。サムネイルは優に500を超え、何度も紙を替え、筆を替え、呼吸を整えた。

最初の学び
いま思えば、その一行に、己のすべてを投げていた。まだスタイルも哲学もないからこそ、素直に向き合い、手を動かすことでしか前に進めなかった。
阿形さんのもとで最初に学んだのは、「いいデザインとは、見せびらかすものではなく、寄り添うものだ」ということ。
初仕事として世に出たそのタイトルは、25年経ったいまでも誌面に載り続けている。
あの日の一行を、今日も心に
デザイナーとは、「見えない誰か」との対話を続ける仕事だと思う。
今でも時折、文春の「夜ふけのなわとび」のページをふと開く時がある。 そこには、「誰かの読書時間」を少しだけ静かに彩ろうとしていた、誠実な日の自分がいる。
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