農業は儲からないのではない。経営者が作業員を続けているからだ。
〜国産キウイで「時給6000円」を生んだ、元県庁職員の農業経営革命〜
「農業は儲からない」
そう言われるたびに、私は少し違和感を覚えます。
本当に、農業そのものが儲からないのでしょうか。
もしかすると問題は、経営者が毎日、収穫、剪定、選果、袋詰め、配達まで抱え込み、会社でいえば社長が一日中、製造ラインに立ち続けていることではないでしょうか。
香川県で国産キウイを生産する末澤克彦さんは、元県庁職員です。
県職員時代にキウイの品種開発に携わり、定年後に農園と技術会社を設立。現在は栽培だけでなく、技術指導、AI開発、人材育成まで手がけています。
注目されているのが、「時給6000円」という高い労働生産性です。
もちろん、これは会社員の給与時給と単純比較できません。設備費、雇用費、減価償却費など、計算条件によって数字は変わります。
しかし、本当に見るべきなのは金額ではありません。
末澤さん自身が農作業に使う時間を年間約400時間に抑え、残りの時間を経営判断に使っていることです。
===========
注)本記事は、元香川県職員で現在は「Orchard&Technology株式会社」を設立し、キウイ栽培・技術開発・人材育成に取り組む末澤克彦氏の実践事例をもとに構成しています。
STEP①「匠の技」が規模拡大を止めている
果樹農業では、剪定や摘果を経験と勘に頼る場面が多くあります。
「この枝は残す」
「この実は落とす」
ベテランには分かっても、初心者には判断できない。
その結果、重要な仕事が経営者に集中します。
農地を広げるほど忙しくなり、売上が増えても自由な時間は減る。
これでは経営ではなく、自分を酷使する個人商店です。
STEP②仕事を分解すれば、他人に任せられる
末澤さんは、キウイの剪定を分業化しました。
切る枝を判断する人。
枝を細かく切る人。
棚から下ろす人。
枝を粉砕する人。
一人の職人が最初から最後まで行っていた仕事を、初心者でも担当できる工程に分けたのです。
さらに「1分で説明できない仕事はさせない」という考え方を徹底しています。
袋詰めも、重さを量ってシールを貼るまで一人に任せない。作業を細分化し、迷う時間と失敗を減らす。
農業の生産性を下げているのは、作業速度だけではありません。
「次に何をするのか分からない時間」です。
STEP③AIは人を減らす道具ではない
末澤さんは、スマートフォンでキウイの果実数や葉の量を測定するAIアプリの開発にも取り組んでいます。
AIの役割は、ベテランを不要にすることではありません。
ベテランの判断を数字に変え、初心者でも一定水準の作業ができるようにすることです。
「なんとなく多い」から「何個減らす」へ。
感覚を数値に置き換えることで、技術は教えられるものになります。
STEP④高収益は「収量×単価÷時間」で決まる
農業所得を増やす方法は、単純です。
収量を上げる。
販売単価を上げる。
労働時間を減らす。
末澤さんは、栽培方法を変えて収量を高め、市場任せにせず独自の販売先を開拓し、作業を標準化して本人の労働時間を減らしました。
重要なのは、どれか一つではなく、三つを同時に改善したことです。
高級品を作るだけでもダメ。
面積を増やすだけでもダメ。
機械を入れるだけでもダメ。
経営全体を設計し直したから、利益が残ったのです。
STEP⑤経営者の仕事は「作業」ではなく「仕組みづくり」
農業経営者が本来やるべきことは、誰より速く枝を切ることではありません。
何を作るのか。
誰に売るのか。
どの作業を任せるのか。
どこに投資するのか。
次の人材をどう育てるのか。
これを考えることです。
経営者が現場から完全に離れる必要はありません。
しかし、経営者にしかできない仕事を後回しにし、誰かに任せられる作業ばかりしていては、農業は永遠に拡大しません。
おわりに
「農業は儲からない」という言葉は、半分正しく、半分間違っています。
これまでと同じ品目を、同じ方法で作り、同じ市場へ出し、経営者がすべての作業を抱えれば、確かに儲かりにくい。
しかし、仕事を分解し、技術を標準化し、販売を設計し、人に任せられる仕組みを作れば、農業は変えられます。
全体総括
農業は儲からないのではありません。
経営者が、最も優秀な作業員であり続ける構造が儲からないのです。
必要なのは、もっと働くことではない。
自分が働かなくても回る仕組みをつくること。
農業を「個人の職人技」から「組織の経営」へ変えられるか。
日本農業の未来は、そこにかかっています。
