「自分らしい(=守備的な)麻雀に戻した」と語るBEAST X中田花奈選手。結果は出したが、チームが掲げる「攻撃的な麻雀」はどうなった?

 現最高位の牧野伸彦さんか、現雀王の西村雄一郎さんか。あるいはネット麻雀界で名を馳せた岡本壮平さんか。ドラフト前にU-NEXTパイレーツの指名候補として比較的名前が挙がっていたのはこの3人。その他では鈴木優選手と師弟関係にある魚谷侑未さんや、退団となった小林剛選手が所属する麻将連合の忍田幸夫さんなどもその名前は見受けられた。朝倉康心選手の名前は、上記の面々に比べるとそれこそ圧倒的に少なかった。

 多くのファンの盲点を突いた、まさに「してやったり感」抜群の指名。先のドラフトで明らかになったのは、パイレーツの木下尚監督が朝倉選手に抱いていたその信頼や期待の大きさだった。小林選手の退団が先か、それとも朝倉選手の再指名が先か、そのどちらの考えが最初だったかは知る由もないが、少なくとも獲得候補は初めから朝倉選手一本だったのではないか。木下監督のコメントを聞く限り、朝倉選手以外の人物が候補として挙がっていた様子は特に感じなかった。

 「心技体が揃えば、朝倉選手はMVPを狙える選手だということを疑ったことはない」(木下監督)。なかでも印象に残るのはこの台詞だ。「圧倒的に勝つ」をスローガンに掲げるチームが獲得する選手として、これ以上明確でわかりやすい理由は存在しない。もちろん監督によって「MVPを狙えると思う選手」は異なるが、木下監督にとっては、それがかつて自身が契約満了を言い渡した朝倉選手だった。1度は彼を手放したものの、「心技体が整ったと僕が判断して今回指名を決断した」(木下監督)。視聴者に疑問を抱かせない、まさに納得度の高い言い回しだった。

 パイレーツクルー、パイレーツ以外のファン、再指名した本人(朝倉選手)、そして契約満了を言い渡した小林選手……。これら全ての人を満足させるようなレベルの高いコメントを耳にすると、木下監督のマネジメント手腕、並びにチームの印象はそれこそ急激に上昇する。先のドラフトを目にしたMリーグ入りを狙うプロたちは、おそらく「パイレーツから指名を受けたい」と、そう思ったに違いない。

 一方、尻無濱航選手を指名したKADOKAWAサクラナイツの森井巧監督、そして佐野ひなこ選手を指名したセガサミーフェニックスの茅森早香監督(選手兼任)が残したコメントは、先述の木下監督に比べると断然弱かった。

 尻無濱選手の理由が「明るいキャラクター」(森井監督)で、佐野選手の理由が「発信力」(茅森監督)。なんというか、言い切れていないのだ。「それなら他にも適任者はいるのでは?」「成績は求めていないんですか?」などといった疑問が簡単に思い浮かぶ。インタビューでその手の質問を投じられることはなかったが、もしあったとしても「MVPを狙える選手」(木下監督)に匹敵する納得感の高い言葉は出てこなかったと思う。

 「明るく、元気に、前向きに」をテーマに掲げ、それに合致する選手として尻無濱選手を獲得したサクラナイツ。そして「発信力」というテーマのもと浅井堂岐選手を佐野ひなこ選手に替えたフェニックス。テーマは一応明確と言えば明確だ。だがそこで注目すべきは、この両チームがそれぞれ次回、選手の入れ替えを行う時だ。その際も上記のテーマに沿った選手を選べば話の筋は通るが、そうでない場合は簡単に素通りはできない。テーマやコンセプトを変えたのであれば、それに伴うキチンとした説明がこの両チームには求められる。

 そんな先のドラフトを見ていて筆者が思わず想起したのは1年前、前回行われた2025-2026のドラフト会議だ。

 そこで2人の選手を指名したBEAST Xには、今回の3チーム以上の丁寧でわかりやすい説明が求められていた。ところが、会議に登壇したBEASTの責任者が発したコメントは、木下監督はもちろん、森井監督や茅森監督以上に不明瞭で、そして酷かった。人に何かを伝えようという意思が全く感じられない、サービス精神が無に等しい喋りを責任者は臆面もなく披露した。そして挙句の果てには指名した東城りお選手に対して「Mリーグ発足当時から結果を出されて……」と、彼女の経歴を知っていないと呼べるような初歩的なミスを犯した。

 説得力ゼロ。そうした曖昧で官僚的な受け答えに終始した前回のBEASTの責任者だが、そんななかで、唯一ハッキリ述べたと言えるのが以下の点だった。

 「ーーBEASTで言うと、大介さんはじめ、中田さんはじめ、みんなで押して行こうという、“攻撃的な(麻雀)”というところを掲げているーー」

 「攻撃的な麻雀を掲げている」。BEASTはチーム創設時の3年前(2023年)にも求める選手像としてこの点を挙げていた。そして2年後にあたる1年前(2025年)にも、責任者はハッキリとそれを宣言した。

 東城選手は自身のスタイルを「攻撃的な麻雀をするタイプ」だと、指名を受けた直後に公の場でハッキリと述べている。そして復帰となった昨季のMリーグでもその台詞に見合う麻雀を披露した。下石戟選手は自身の雀風をどう思っているかはわからないが、昨季MVPを獲得したその麻雀は攻撃的の範疇に十分収まるものだった(そもそも攻撃的ではない人がMリーグ記録を塗り替える614ポイントを叩き出せるはずがない)。

 昨季新たに加わった2人の選手は、チームが掲げる方針に十分見合う選手だった。その点での齟齬はなかった。

 では、チーム創設時から在籍するオリジナルメンバーたちはどうなのか。鈴木大介選手は、こちらの尺度に照らせば十分攻撃的だ。先のMトーナメントでの1位通過を狙った末の敗退などに、負けを恐れないその攻撃精神は十分見て取れた。

 一方、もう1人のオリジナルメンバー中田花奈選手はどうか。筆者の感覚を言えば、ハッキリと「守備型」だと言える選手だ。少なくとも攻撃的ではない。その攻撃精神は現チームメートはもちろんかつてのチームメートと比べてもだいぶ落ちる。読みを入れて際どい牌をビジビシ切るタイプでもない。まずは失点をしないことを優先する、典型的な「守り重視」の選手だ。

 もちろんこれはあくまで筆者の感覚的な印象に過ぎない。しかしそうしたなか、先日公開されたABEMAの番組のなかで中田選手が自身の麻雀について述べた以下の言葉がとりわけ目についた。

 「私は一昨年(2023-2024シーズン)の麻雀のほうが自分らしい麻雀だったんですけど、BEASTらしくを求められているなとか、確かに押してる麻雀のほうが格好良くて気持ちよくて観ててワクワクするので、“なんかつまんないよな観てて”っていうのを一昨年感じて、変えなきゃ変えなきゃと思って、去年(2024-2025シーズン)変えてーー、(その結果)楽しくも打ててないし、成績も最悪だし、負のスパイラルに入っていたんですけど、自分の打ちたい麻雀を打とうと思って、一昨年の麻雀に戻しました」

 自分らしい麻雀からBEASTらしい麻雀に変えたものの、結果は出なかったので、自分らしい麻雀に再度戻したーー。要約するとそうなるが、「自分らしい」と一口に言われても、意味は広範囲にわたる。漠然とした具体性に欠ける言葉にしか聞こえない。わかる人にしかわからない抽象的な台詞になる。相手に何かを伝えようとする意思が低い、コミュニケーションを積極的に交わしたくない人が、用いる言葉と言われても仕方がない。

 ゆえに、こちらで勝手に想像するしかないのだが、“BEASTらしい”を「攻撃的」に置き換えれば少なからず意味は通じる。「攻撃的な麻雀」から「自分らしい麻雀」に戻したということは、「自分らしい」はすなわち「攻撃的」の反対だ。それはイコール「守備的な麻雀」、ということになる。

 中田選手の本質は「守備的な麻雀」、だった。そのことを半ば認める発言をしたわけだが、そこにはあまりにも大きな疑問が生じる。チームが掲げる「攻撃的な麻雀」と、それはまさに水と油の関係だ。整合性がとれない、誰の目にもわかりやすい矛盾が生じているわけだが、チームも中田選手本人もそのことに特段問題意識を抱いている様子はない。チームと選手とで目指す方向性が異なることを問題視する声も全く聞こえてこない。

 重箱の隅を突くような細かい話ではない。根本的な話である。選手とチームとで目指すものが明らかに違えば、そこに疑問を抱くのは当然だ。BEASTに関して言えば、チームが求める選手像に意図的に反する選手をどうして放置しているのか、そもそもなぜ獲得したのか(契約を更新したのか)、という話になる。

 チーム創設以降、BEASTが求める選手像を変更したと述べたことは一度もない。先述したように、つい1年前にもチーム責任者が「攻撃的な麻雀を掲げている」とハッキリ述べている。にもかかわらず、中田選手は「自分らしい(=守備的な)麻雀に戻した」と言い切った。その結果(?)、3年目にしてレギュラーシーズンプラス228.4ポイント(個人8位)という好成績を残した。

 活躍した昨季の中田選手を多くの人が賞賛した。しかし、筆者はそこまで持ち上げる気にはなれなかった。感覚的に以前より極度に「守備的」になったその麻雀が、こちらはどうも好きになれなかった。加えて、そのスタイルがチームの理念に大きく反していたことも抵抗を覚えた大きな理由だった。

 チームが「攻撃的な麻雀」を掲げているにもかかわらず、堂々と「自分らしい麻雀に戻した」と述べる中田選手。自分らしいを「守備的」とハッキリ言わなかったのは、そのチーム方針が少なからず頭にチラついていたからだと考える。それはともかく、このわかりやすい矛盾に見て取れるのは、中田選手とチームとの間にピリッとした緊張関係が全くないということだ。

 チームの方針に反しても何も言われることはないと高を括っていなければ、こうした言動は普通出てこない。言い換えれば、これはチームが選手からナメられている証拠だ。両者の関係が緩い証。中田選手に関して言えば、自分が契約を切られることはないと安心している様子がそこには見え隠れする。

 そんなBEASTと中田選手の関係を見て思わず比較したくなったのは、冒頭でも触れた木下監督率いるパイレーツだ。監督のコメント力やその振る舞いを見ても、このチームには常に高い緊張感で包まれている。競争原理がキチンと働いている。小林剛選手を切ったことがその何よりの証だ。「選手による特別扱いは一切しない」。そのことを多くのファンに知らしめた。そして朝倉選手を再指名した理由を極めて理路整然と語った。監督力及びそのチーム力の高さを見せられた気がした。

 木下さんのような監督がBEASTを率いていれば、少なくとも「自分らしい麻雀に戻した」などという台詞は簡単に出てこないはずだ。仮に言ったとしてもおそらく監督から何かしらの言及はある。そのまま放置されることだけはない。迷わずそう言い切れる。

 前回のドラフトでBEASTの責任者は、東城選手や下石選手を選んだ理由を満足に説明することができなかった。こちらを納得させることができなかった。先の木下監督とは、大袈裟に言えば天と地ほどの差があった。さらに加えて言えば、今回のドラフトに出席したBEASTの代表者は、前回登壇した責任者とその顔は変わっていた。もっと言うと、BEASTがこれまで参加した計4回のドラフトにおいて、その登壇者はなぜか毎回全て異なっている。現在の監督及び責任者はいったい誰なのか。チームの編成や選手の起用を考えているのは誰なのか。ここにきてそれはますますわからなくなっている。

 「監督の顔がわからない哲学不在のチーム」。BEASTの印象をひと言でいえばそうなる。「実態がよくわからないチーム」と言ってもいい。「このチームに優勝はまだ早い」「優勝するに相応しくない」と、昨季思った理由だ。昨季はパイレーツに勝ったBEASTだが、はたして来季も好成績を残すことができるだろうか。伝える力の低い、こだわりのないチームに、信頼は置けないのである。

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noriaki0357 ありがとうございます