浅井堂岐選手の契約満了を見て想起する1年前のBEAST Xの入れ替え劇。なぜ責任者は「エンタメ性を求めている」と言い切れなかったのか
この文章は渋川難波選手が活動自粛を発表する前に書いているのだが。
先日発表された浅井堂岐選手退団のニュース。世の中のムードを見る限り賛否はほぼ半々くらいに見える。もちろん筆者も驚いたが、その度合いは決してそれほどでもなかった。これまでの経緯を踏まえれば、彼の退団は予想の範疇には十分収まる出来事。これが率直な印象になる。
本人の様子を見る限り、少なくとも堂岐選手自らが退団を志願したわけではなさそうだ。「今後の編成方針を総合的に勘案した結果」。最初にチームから発せられた、その理由らしきものはこれになる。
こう言っては何だが、受け取る側次第でいかようにも解釈できそうな、具体性に欠く言葉である。理由になっているようでなっていない。それを言うならほぼ全てのチームが行う選手の入れ替えがこれに該当する。契約を更新しなかった本当の理由、その真意がいまひとつ見えてこない。
もっとも、その予想が全くつかないというわけではない。チーム内ではただ1人、所属団体が異なる選手だったこと(堂岐選手は協会所属、他の3人は最高位戦に所属)。2シーズン続けてレギュラーシーズンの個人スコアがマイナスに終わったこと。そして、今季の途中、突然の病により長期間の休場を余儀なくされたこと。それは運が悪ければ命に関わる危険もあった深刻なものだった、とは、後に本人から公開された詳細になる。
直近で大病を患った選手を今後も抱えるわけにはいかない。そうしたリスクはあまり負いたくない。おそらくこれがフェニックスの本音ではないか。だがそれを理由にすれば(公表すれば)、堂岐選手の今後に何らかの影響を与えてしまう可能性が残る。それを避けるために様々な憶測を想像させる表現で退団を公表した。これが考え得る妥当な線ではないかーーと、発表当時はそう思っていた。
「収益面と人気面を考えた時に、僕(浅井堂岐選手)を変える必要がある、ということでーー」
昨日(6月3日)公開されたフェニックスの公式動画。チーム4人全員が出演していたその場で、堂岐選手は「嘘をつくのはよくないのでそのまま言いますけど……」と、契約満了の理由としてチームから告げられた言葉を上記のように語った。
さらに堂岐選手が続けて述べた今回の件に対する心情のなかで、とりわけ筆者の印象に残ったのは以下の言葉になる。
「優勝、5位という結果は出ているが、(チームが)“そうじゃない方”に舵を切ったという理解をしている」
“そうじゃない方”とは、チームの勝ち負けや個人成績といった麻雀に関するものではない方。それはすなわち「人気面や収益面」。もう少し言えば、エンタメの面になる。
これが本当かどうかはいまのところわからないが、チームが管轄する動画内で発したコメントであることを踏まえると真実味は高く見える。そして、この手の話は今回のフェニックスに限らず、他の全チーム、すなわちMリーグ全体を通して考えさせられる内容だと、その話を聞きながら思った。
一歩でも上へ。より上の順位を目指して。これは、競技スポーツにとって欠かせないモチベーションになる。「負けてもオッケー」と言ってしまえば、勝ち負けを競う資格はない。だが、チームは消滅してしまっては身も蓋もない。存続することが、勝ち負け以上に重要なテーマになる。
優勝すればそれなりに賞金は入ってくる。だがそれはあくまで一時的なものだ。先述の言葉から察するに、今回フェニックスが求めたのは、チームの成績が出ない時でも安定して収益や利益が得られる環境。そのためにも人気面や収益面でより魅力的に見える選手が欲しかった、ということになる(堂岐選手の話が本当ならば)。
残った3人がそこにどれほど貢献しているのかわからないが、今回の決断をした以上、少なくとも堂岐選手以上の商品価値を備えた存在がフェニックスにはすでに見えているのだろう。
現状に満足していれば、パッと見人気のありそうだった堂岐選手を僅か2年で見切るようなことはしなかったはず。「いまの収益のままでは、今後チームの存続すら危うくなる」。例の病気の件も多少影響はあったと思うが、それを抜きにしても、この入れ替えには何か切羽詰まった様子を感じる。フェニックスの強い意志を感じたのはたしかだ。
話は少し逸れるが、今回の堂岐選手の件を見て思わず想起したのは、およそ1年前に行われたBEAST Xの入れ替え劇になる。
鈴木大介選手・中田花奈選手との契約を更新、および猿川真寿選手・菅原千瑛選手のメンバー入替オーディションへの参加を発表。その結果、オーディションで敗れた猿川・菅原の両名がチームを去り、オーディション優勝者の下石戟選手と元Mリーガーの復帰第1号となる東城りお選手をドラフトで指名した。
なかでも特にチームの強い意思が見て取れたのは、中田選手の残留と、フリー枠での東城選手の指名だ。「収益面と人気面」を考えれば、この編成はその目的に完全に合致する。むしろこれ以外、“正解”はほぼ見当たらない。いま振り返っても思わずそう言いたくなる。
チーム内どころか全Mリーガーのなかで一番成績のよくなかった中田選手を残した以上、成績云々の理由はそこに一切通用しない。だがBEASTはチーム初となる1年前のこの入れ替えに関して、先述のフェニックスが堂岐選手に対して述べたような具体的な説明をほぼ行なっていない。猿川選手、菅原選手ともに契約を更新されなかった理由は不明だ。少なくともこちらの耳には届いていない。猿川・菅原の両選手を加えたオーディションを開催することで、彼らのクビを切った理由を深く追求されまいと意図的に話題を作った。オーディションの開催がそのカモフラージュになっていた。そんな印象を受ける。
さらにサプライズ的に東城選手を指名した昨年のドラフト会議直後、登壇したチームの責任者はインタビューでこのような台詞を述べた。
「“エンタメばかり考えているチームじゃないか”と言われる声も自覚はしつつもあるんですがーーーそういった軸も大事にしながらも、一方で、今回選ばせていただいた2人(下石選手、東城選手)もそうですし、大介さん、中田さんも含め、新しい4人でしっかりと結果を出していけると思っています」
”エンタメばかり考えているチーム”であることを「自覚している」と、普通に言えばいいのに。なぜ「自覚はしつつもあるんですがーーー」と、回りくどい曖昧な表現を使うのか。さらに続けて述べた「そういった軸(エンタメ)も大事にしながらも、一方で、新しい4人で結果を出していけると思う」という文脈も、その意味はわかりにくかった。
フリー枠で指名した東城選手をあえて含めれば、新生BEASTの4人中3人が、この責任者が言うところの「そういった軸(エンタメ系)」の選手だ。「一方で」より、「同時に」と言ったほうがこの場合は正しい。「エンタメ性と結果(勝利)をクルマの両輪のように同時に求めたい」。そう言ったほうがチームのコンセプトとして遥かに明瞭でわかりやすかったと思う。
「エンタメ性と勝利をクルマの両輪のように追求したい」。もしいまBEASTがハッキリとこのような声明を出せば、ファンはいまよりもっと増えるのではないか。筆者はそう思う。自分で言うのもなんだが、この言い回しにはそれくらいの魅力というか、潔さ、格好良さを感じる。先述のチーム責任者が述べた言葉を要約してもおそらくこれとほぼ同義のはずだ。
上記で記した台詞以外でも、(昨年のドラフト会議で)その責任者は官僚的なまどろっこしい答弁に終始した。それは相手に何かを伝えようする意思が低い、コミュニケーションを積極的に交わしたくない人が用いる言葉と言われても仕方がない。わかりやすさ、丁寧さにも欠けた。
なぜそこでシンプルに「エンタメ性を求めている」、と言い切れなかったのか。
炎上が怖かったからだろう。「エンタメ性と勝利を同時に目指す」と言えば、「それでは勝てない」、「勝たなければ意味がない」、「綺麗事を言うな」などと言う人が必ず現れる。いわゆる対立軸、アンチが生まれる。そうした声に抗う勇気がないのか、それとも自分たちのコンセプトに本当の意味での自信がないのか。いずれにせよ思い切りがないというか、インパクト不足は否めなかった。BEASTが今季優勝に近づきながらもあと一歩及ばなかったこととそれは少なからず関わっていた、と言えば少々強引だろうか。
次回に続く。
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