Mリーグも残り2日。僕がBEASTの優勝を歓迎したくない理由
ファイナルシリーズ4日目(5月8日)に鈴木大介選手と東城りお選手による同日連勝を達成したBEAST Xは、その試合前の4位から一気に首位へとジャンプアップすることに成功した。そこから土日を挟んで迎えた今季の最終週。月曜日(5月11日)は中田花奈選手・トップ、大介選手・4着で僅差ながら首位をキープ。翌日火曜日(5月12日)は東城選手・3着、下石戟選手・4着でEX風林火山に首位を明け渡したが、それでもまだ暫定2位だ。残り4戦。一時は厳しそうに見えた初優勝だが、少なくとも可能性だけは十分残した状況で最後の2日を戦うことになった。
仮にもし、BEASTが優勝を成し遂げた場合、その筋書きはどのように語られるだろうか。
想起するのは前回優勝したセガサミーフェニックスだ。優勝前の2シーズンはともに最下位。そこでフェニックスはこれまでの女性選手中心から一転、タイトルホルダーの男性プロを加えた新たなチームへとその色をガラリと変えた。加えて長年チームに携わってきた近藤誠一監督(元選手)が勇退を発表。「2年連続最下位からの下剋上。そして勇退する監督へ花道を飾る」。その優勝にはこうした要素が含まれた、言わばストーリー性がある勝利だった。
そうした視線を今回のファイナルに向ければ、最も話がまとまりそうなのは暫定3位につけるKONAMI麻雀格闘倶楽部の初優勝だ。今季のシーズン途中、チームの創設メンバーでもある日本プロ麻雀連盟の前原雄大さんが68歳という若さで逝去。佐々木寿人選手や高宮まり選手にとっては元チームメートであることはもちろん、彼と入れ替わりでチームに加わった滝沢和典選手兼監督にとっても同団体の偉大な大先輩だ。「天国の前原さんに捧げるチーム史上初の優勝」。そんな美談、筋書きが簡単に思い浮かぶ。
4位のチーム雷電の初優勝にも盛り上がりは期待できそうだが、残り4戦で風林火山との差(約300ポイント)を捲るにはほぼ4連勝という条件だ。最低でも3勝は必須。条件的に今季も優勝は厳しいと言わざるを得ない。
そしてこの文章を書いているいま(5月13日)、最も優勝に近いのが暫定首位の風林火山だ。このまま無事に完全優勝を成し遂げたとき、その語られる要素ははたして何だろうか。今季新加入した永井孝典選手、内川幸太郎選手の名前が真っ先に触れられそうだが、彼らの活躍はさすがにもう序盤で取り上げすぎたというか、すでに味が薄い気がする。ならばここは勝又健志選手の名前を挙げたくなる。今季はレギュラーシーズンでは振るわなかったものの、ポストシーズンでは“軍師”の名に相応しいその地力をいかんなく発揮。このまま優勝をはたせば、MVPは文句なく勝又選手だと僕は思う。
話をBEASTに戻す。もし今季優勝を成し遂げた時、真っ先に名前が挙がるのはレギュラーで個人スコア賞を獲得した下石選手だとして、2番目はおそらく中田選手だろう。「新加入の下石選手の活躍も大きかったが、中田選手の飛躍も際立った」。これまで幾度も耳にした、今季のBEASTの躍進を讃えた言い回しである。
中田選手はたしかに活躍した。今季レギュラーでの成績は228.4ポイントの個人8位。麻雀歴がまだ10年程度という浅いキャリアにもかかわらず、猛者たちを相手に大きく勝ち越したわけだ。「よくやった」。感想をひと言でいえばそうなる。
だが、それでも筆者はその成績ほど中田選手を賞賛する気は起きない。今季収めたプラス以上に、内容が悪かった昨季のマイナスがまだ筆者のなかでは上回った状態にある。
中田選手についてひとつハッキリしているのは、この先も彼女はBEASTの選手としてチームに居続ける可能性が極めて高いことだ。現在31歳。この先5年、なんなら10年くらい、その座は安泰そうに見える。すなわち、今後もしばらくその成績を見ることができる選手というわけだ。
この先も今季に匹敵する成績を残し続ければそれは賞賛されて然るべきだ。しかし、今季のプラスを上回るマイナスを記録する可能性も、来季以降、当然ながらある。もちろん内容にもよるが、そうなった時、はたしてその麻雀を周りはキチンと指摘することができるだろうか。
中田選手が今季好成績を収めることができたのは、当たり前の話だが、チームとの契約が更新されたからだ。そのチャンスを与えられなければ、おそらく今季、この舞台にはいなかった。
中田選手の活躍を見て、昨季限りでチームを去った猿川真寿さんや菅原千瑛さんはいま何を思うだろうか。もし自分にも「3年目」があれば、中田選手と同じくらいの活躍はできたかもしれない。そう感じていてもなんらおかしくないと思う。
だが、彼らに「3年目」はなかった。成績的には中田選手より一応、よかったにもかかわらずだ。その一方、契約を更新された中田選手は自身に対するチームの寵愛を強く感じたと思われる。BEASTというチームが、自身のタレントとしての立場に大きな価値を抱いている、と。少なくともその優位性だけはこの件でハッキリしたわけだ。
この先も中田選手がクビを切られる可能性は比較的低い。それがプレッシャーの軽減に繋がったかどうかはわからないが、少なくとも立場的には幾分楽になったはずだ。それが今季の好成績に少なからず影響を与えたと見るが、それでも全体的にまだ甘さは見て取れた。「クビにされる心配がないのだから、思い切って踏み込めばいいのに」。そう感じる場面が実際多々目についた。
「弱気な選択ですね」と、率直な感想を述べる人も解説者のなかに実際結構いた。プライオリティの高い選手にもかかわらず、負けを極度に恐れる。弱気に見える要因はなにか。
個人的に挙げたくなるのは、BEASTがチームとしての方向性を明らかにしない点になる。
大介選手、中田選手との契約を更新。そして、オーディション優勝者の下石選手と、フリー枠で東城選手を指名した昨季のドラフト会議直後のことだ。出席したチーム責任者はそこで「“エンタメばかりを考えているチームではないか”、という声もありますが……」と、周囲からの声を否定するようなニュアンスの台詞を吐いた。実際の選手構成と辻褄が合わない言葉を口にしたわけだ。
そこに僕はこのチームの弱さを見た気がした。「我々はエンタメ性を重視したチームを目指しています」と、なぜ率直に言えないのか。繰り返すが、選手の顔ぶれを見ればそれは誰の目にも明らかなことなのに。それを言わないこと、隠そうとすることのほうがむしろ無理を感じる。
もっとも、それが言えない理由も決して分からないわけではない。「我々はエンタメ性を重視したチームです」と言ってしまえば、少なくとも“色物度”はこれまで以上に確実に増すだろう。言い換えれば、アンチを作りやすくなる。方向性に賛同しない人の多くを敵に回すことになる。ならばその辺りは明言せず、曖昧にしておいたほうが都合はいい。変に周りを刺激せずフワッとさせておいたほうが波風は立ちにくいわけだ。
だが、その姿は傍目にはあまり格好のいいものには見えてこない。むしろ格好悪い。だったら堂々と「エンタメ重視のチームです」と言ったほうが現状の何倍もスッキリする。もちろん批判はそれなりに受けるだろう。敵は増えるかもしれないが、それと同じくらいファンも増えると僕は思う。何よりチームの特別感、カリスマ性が増す。釈然とした姿勢、潔さを出したほうが好感度は遥かに高くなると見る。
チームの方向性をキチンと宣言せず、忍ぶかのようにひっそりと(?)エンタメ路線に走る現状が僕には正直狡く見える。極論を言うと、こうしたチームにはあまり勝って欲しくないのだ。初優勝より望みたいのは、まずチームのカラーを言葉でハッキリと述べること。それなしの優勝に価値はないと、この際言っておきたい。
いいなと思ったら応援しよう!
ありがとうございます