ドキュメント立山縦走③【富士ノ折立〜真砂岳〜別山】
まさかこんなに天気が突然崩れるとはね。
「昼過ぎから天気が崩れる」と予言したおじさんの言う通り、12時を過ぎてあっという間に雲に包まれて大雨が降り出した。
朝から12時まではこんな青空だったことを忘れないように、もう一度ここに貼る。

綺麗なスカイブルーだ。
それがどうしてこうなった?
富士山の見えない富士ノ折立を12時過ぎに出発。
朝、7時に山小屋を出てから5時間以上経過。

一寸先は霧。
「絶景を見ながら歩ける」という立山縦走の謳い文句は、「※晴れの日限定である」と足しておいてほしい。

景色が見えないから、映画の「ミスト」を思い出してしまって恐怖感がじわじわと自分の中に生まれてくる。
そういえば、この辺にも熊の目撃情報があったなぁ、と急に思い出しておもむろに熊鈴をリュックから外し、手元につけた。もう手で鳴らしまくりながら進む。みんな、歩くのが早くて、目に見える場所には誰もいなくなってしまった。
こういう時に怖いのは、熊でも化け物でもなく平常心を失うことだ。自分自身を見失わないこと。
落ち着いて。落ち着いて、のりまきさん。
ヤバイなあ、この雨。止む感じゼロやん。
走っちゃダメ、しっかり両手のポールで支えながら、足元の岩をしっかり見て体重を乗せていいか判断して進むのです、のりまきさん。
しかし、2時間早く山小屋を出ていればなぁ。布団の中でゴロゴロするんじゃなかった。怠け者のツケが回った。
こういう時に、私の癖の独り言が役に立つ。

ああ、これは!
岩の道を抜けたら、雨が止んでいて、気持ちの良い山の稜線に出た。
山登りが趣味ではない私にとって、この手の道は人生初めての道だ。
これが噂に聞く「稜線」というやつか。うわぁ、バランス感覚大丈夫かな。ふとそう思う。まるで平均台の上のような気がするが、歩いてみると、両腕を広げてバランスを取らなくてもちゃんと歩けるスペースが十分にあり、わりと普通の道だった。

確かに稜線歩きは最高だ。見晴らしが良ければだけど。
左側の室堂の方は何もかも見えない。
右手に微かに見えるのは真砂の氷河。寒いだけある。氷河を見つけた途端、猛烈に寒さを感じはじめて、手袋をはめることにした。寒い…。
ここからほとんどエンドレスに土砂降りが始まる。
カメラをジップロックに入れてリュックに押し込んだ。
雨に濡れ過ぎて短パンが重たくなって腰パンみたいにズレるようになった。歩いているうちに激ヤセしたのかなと一瞬期待したが雨のせいだった。
ピュン、ピュンとずっと何かが鳴いているので雷鳥の雛鳥がついてきているのかなと思っていたら、靴の中に水が溜まって濡れた靴下と靴が音を奏でているだけだった。
手袋も水が滴り落ち続けていた。ボトボトの手袋と素手ではどちらがマシか少し試してみる実験をしたが、気温8℃の雨の中では、素手よりも濡れた手袋の方がいくらかマシだという発見があった。
もう絶景は諦めていたので何も見えない道を雨の中進むのは退屈かと思われるかもしれないが、私は、こういうくだらない気づきの連続で全く退屈はしなかった。
退屈しない理由のもう一つに、寒さのせいでお腹が冷えて、猛烈な便意に襲われた、ということもあった。
とにかく早く進んで、剱御前のトイレへ辿り着かないと大惨事になるぞ、という気持ちが一歩一歩進むごとに芽生え始め、足取りは力強かった。
ちなみにこの後に出会う命の恩人の青年が、記録していたYAMAPの地図がこちら。私と全く同じコースを歩いている。

真砂岳を越えて最後に別山に上がる登りがキツいはずである。そして立山連峰は真っ直ぐだと思っていたが、丸くカーブしているんだな、と歩いていて知った。雷鳥沢キャンプ場を支点に円を描いて回っているような気がしていた。
私は地図を持たずに黄色の矢印だけを頼りに歩いていたため、展望が開けた時にいつでも見えてくる左下の雷鳥沢のキャンプ場だけが頼りだった。

窪んでいる平らな場所が雷鳥沢キャンプ場で、7月にソロキャンプをした場所だ。あの時テントから何度も立山を見上げて、あんな所を登る人がいるんだなあと思っていたが、何故か1ヶ月半後の今、私はそこを歩いている。それも何故か土砂降りの中を。人生、何があるか分からないものだ。
何となく、雷鳥沢キャンプ場がふるさとのような気がして、あそこに無事帰るんだという気持ちを持って歩き続けた。
レインウェアのポケットに入れていたスマホも、気づくとポケットの中まで雨で水浸しになっており、慌てて救出し防水の巾着に入れてリュックに入れた。リュックに入れる時にわずかに開けるその一瞬で、リュックの中に大粒の雨が大量に入るほどの降水量だった。
雷鳥沢も見えなくなり、頼りになる目印もないまま1時間ほど進んだ。ハッキリ言って記憶がない。
覚えているのは「お腹、痛いよぉ…」という思いだけ。
隠れる場所はどこにもなかったが、誰もいないから隠れる必要もないか、とすら思い始める。
かつて、山の頂上で、お花摘み(つまりトイレ)に行き、転落死した女性登山家がいた。私の好きなクレイジージャーニーにも出ていた人だった。急にそんなことを思い出し、油断してはいけない、平常心、平常心、とまた私は唱え始めた。
こういうことがないようにとキューバで必ず毎朝ホテルで出してから活動を開始する主義だった私の友達のポン子さんを思い出す。私は便秘人間なので薬でコントロールしているし、普段は自然便意はほぼなく、旅前からは薬を飲んでいないので出るはずがないのだが、雨で冷えてしまったのが敗因だ。
コロナ禍でトイレを使える山小屋が閉まっているのも敗因の一つだ、ちきしょう。
とりあえず落ち着こう。
吹きさらしの大雨の中、ずぶ濡れの短パンとコンプレッションタイツを下ろすのがまず難易度が高いはずだ。このタイツは濡れると一生脱げないくらい脚と一体化してしまう。ひっくり返らないと脱げないはずだ。何とか脱げたとして、土砂降りの中、お尻を出して大きいものを3000mの山に出して置き去りにすることは恐らく山のマナー違反だろう。山ではゴミは持ち帰るのが常識。ティッシュペーパーだけでも嫌なのに自分のお便をジップロックに入れてリュックに入れるなんて私にやれるだろうか。もう直にお尻にジップロックを当ててしようか。秘技、直尻ジップロック。
それとも埋めたらいいか。自然に還る?のか。環境汚染になるのだろうか。
どうする?
ねぇ、山の民たち、こんな時どうするの?
もうズボンもタイツも脱がずにそのままやっちゃおうか?
雨がきっと流してくれるだろう。
もう楽になろうよ、のりまきさん。
もう1人の私が騒がしい。
いろんなシュミレーションが頭から離れない。
突然の脱線ですが、一人旅って寂しくないの?って聞く方々。全然寂しくありません。
このように、もう1人の私が頭の中でうるさすぎるので。
静かになりたくて一人旅をしているのに、自分の頭がうるさすぎるという現象が時々起こります。
そんな中、別山らしき山が目の前に現れ、あまりの大きさに言葉を失う。
ひえ…。
ラスボス感えぐ過ぎる。今からこの土砂降りの中、こんな大きい山を登るのか?!そりゃないよ。思わず怯んでしまう。引き返そうかなとすら思ったが、トイレは進んだ方が近い。別山を越えればもう剱御前だ、トイレだ。
別山のピークにこれから臨む時に、お腹が痛いのもピークを迎えようとしていた。
しかし、この後、便意も吹き飛ぶほどのピンチが私を待ち受けているとは思いもよらなかった…。
続く
いいなと思ったら応援しよう!
いいなと思ったら、よろしければサポートをお願いします。いただいたサポートは、世界2周目の旅の費用に使わせていただきます!いつか1周目で残した宿題をしにいきます。