髪を切る
まもなくだ…
お茶会では初めて着物を着ることになるのである
「髪の毛は結い上げるか切るかだね」
わたしの髪を見てお師匠さんが言う
着物だけではなく髪型も考えないと
ものぐさな私はちょっと面倒臭いと思う
結い上げるほど長くはなく、
中途半端な髪の長さで有る
「はい、切ります」
一もニもなく即答する
「切るのなら短めね」とお師匠さんからの要望が入る
今の時期は襟元の詰まった服を着るから短くでも気にしない
すぐに美容院の予約を入れる
「最短だといつが空いていますか?」
「明日の午後なら大丈夫」
「はい、分かりました。よろしくお願いします」
いつもならもっと時間がかかるはずなのに珍しいな
翌日の午後、美容院へ向かう
ひとりで男性の美容師さんがやっている美容室
母と一緒に通っていた
「年末は忙しいけど、年が明けると暇なんですよ」
「どのくらい切りますか」
「ううん、短めに…着物を着るから」
「ショートかな、ボブでいいね」
「お任せします」
床に散らばった髪の毛を見て
「結構沢山切ったんだ」と私がつぶやくと
「えっ、切りすぎました?」
「イヤイヤ、大丈夫」
「戻してくれと言っても戻りませんよ」
ちょっと冗談を言う美容師さん
その美容師さんがぺーぺーの頃に先輩がお客さんの女の子の前髪を切りすぎて、泣かせた話しをしてくれる
「それ以来気をつけているんですよ、コミュニケーションは大事ですから」
いつも母と二人だったから、何でもことが足りていた
友達なんかいらなかった
母とはいっぱいコミュニケーションを取ったつもりでいた
でも足りてない
だから私はまだまだ母を手放すことが出来ないのか
いつも心に母がいない孤独を感じている
「最近、かなちゃん、少し変わったね。今までは誘われないと来なかったのに、自分からご飯を食べに行けるようになってきたね」
とお師匠さんが言ってくる
誰が行くのか分からない場所へお寿司を食べに行くという
その時はどうしてもお寿司が食べたかった
だから私一人でも人の輪の中に入るつもりだった
そうしたらお師匠さんも付いてきてくれる
久しぶりに大勢で笑いながら食事をした
「この次からはお稽古は木曜日に決めましょう。これからは社中の人との関係が必要になってきたから」
髪を切った後にお師匠さんに告げられる
いつまでも母のことを握っていてはいけないんだ
母はもう天の国で笑っている
見守ってくれている
少しずつ少しずつ分からぬように変わっていく
これからの私を見ていてね
お母さん
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