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考古学者だけど、発掘ができません。多忙すぎる日常 (青山和夫・大城道則・角道亮介)

 いつも顔を出している図書館の新着書の棚で見つけた本です。

 タイトルと装丁の奇抜さで目についたのですが、内容は、現役考古学者の方々の研究活動にまつわるエピソードを語ったエッセイ的な読み物です。

 著者の青山和夫さんはアメリカ大陸のマヤ文明大城道則さんはアフリカ大陸のエジプト文明角道亮介さんはユーラシア大陸の中国文明の専門家で、それぞれが執筆を担当した3パートで構成されています。
 通常では伺い知ることのできない考古学者の方々の日々の営みは、発掘作業というビッグイベントから大学教員に負荷されるブルシットジョブ的色合いもある日常活動まで幅広く、そこで生まれるエピソードはとても興味深いものばかりでした。

 それらの中から特に私の関心を惹いたものをいくつか書き留めておきます。

 まずは、青山教授のグァテマラ共和国セイバル遺跡(マヤ文明)の発掘でのエピソード。
 この熱帯雨林での調査の最大の危険は猛獣ジャガーや猛毒のサンゴヘビではありません。「人間」です。

(p207より引用) ライダーを使って上空から調査をしていると、立ち入り禁止の私有地で、いくつも遺跡が発できた。だが、麻薬・武器密売人など犯罪者の巣窟である私有地の場合もあるので、命の危険冒してまで地上で調査をしてはならない。また、サヤシュチェ町が立地するグアテマラとメキシコの国境付近では、自由に行き来が可能なパシオン川の上で秘密のやり取りが行われることもるので、巻き込まれないように近づいてはならない。

 実際、発掘調査隊の料理係が麻薬取引現場に遭遇した際は、組織から身を守るため2年間も姿を隠していたそうです。
 なので、現地での発掘活動にあたっては、犯罪者と邂逅しないような行動に十分配意するとともに、身の危険を感じた場合は軍隊の同行を依頼することもあるとのこと。遺跡調査の困難さは日本国内とは異次元ですね。

 もう一点、同じくマヤ文明における「石器の分析」の意義について。

(p229より引用) 石器はマヤ文明の主要利器であり、全ての社会階層の人たちが使った。・・・石器の分析を通してマヤ文明の実像に迫りその高度な政治経済組織を垣間見ることができるのが、研究の醍醐味である。

 マヤ文明の研究と言えば、「オカルト」的な関心に拠るものや、壮麗な大建築・奇抜な造形のマヤ文字などに集中していたのですが、青山教授は、使用痕分析というユニークな実証的研究手法による石器研究で大きな成果を残しました。
 さらに、それらの研究で顕かにしてきた古代アメリカ文明の実相を、学校教育での学習内容の改定という形で社会還元しているのです。

 本書には、こういった青山さんのパートの他、大城さん、角道さんお二人による小文が採録されていて、考古学者ならではの遺跡発掘現場でのエピソードに加え、大学に籍をおく教員なら等しく感じるであろう日々の研究者生活での裏話も目にすることができます。

 正直なところ、もっと「発掘調査でのネタ」を聞きたかったとの思いは残りましたが、こういった形でないと経験できない世界を垣間見られたという点で、読んでいて楽しい本でした。



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