見出し画像

伝説の名機ヤマハNS-1000 ベリリウム振動板を支えた特許とは?

【稼ぐ経営者のための知的財産情報】
 平成23年より桑名市で特許事務所を開業しております。
 特許・意匠・商標の出願をお考えなら坂岡特許事務所にお任せ下さい!
 
 弁理士の坂岡範穗(さかおかのりお)です。
 今回は、「伝説の名機ヤマハNS-1000 ベリリウム振動板を支えた特許とは?」をお伝えします。 

1.世界初のスピーカーは、どうやって生まれたのか


 ヤマハの名機「NS-1000」
 発売から50年以上経った今でも、多くのオーディオファンから高い評価を受けており、「伝説の名機」と呼ばれています。
 

https://jp.yamaha.com/products/contents/audio_visual/hifi-history/speaker/index.htmlより引用

 実は、私はNS-1000の兄弟分といっては失礼ですが、同じヤマハのNS-670というスピーカーを現役で使っており、その音には満足しています。
 (このNS-670も名機と呼ばれていたようです。)
 

https://jp.yamaha.com/products/contents/audio_visual/hifi-history/speaker/index.htmlより引用


 ところが、以前、NS-1000を聴く機会がありまして、「NS-670をさらに磨き上げて、全体的に良くした音」という印象を受け、音の良さにびっくりしました。
 特にボーカルや弦楽器の透明感や余韻は、今聴いても驚かされます。
 
 では、この音を支えている技術は何なのでしょうか。
 音の良さの理由として以前から、多くのオーディオ記事でベリリウム振動板が高く評価されています。
 
 今回は、NS-1000最大の特徴ともいえるベリリウム振動板について、当時の特許を見ながら紹介します。 

2.なぜベリリウムだったのか


 スピーカーの振動板には、
 ・軽い
 ・硬い
 ・よく振動が止まる
 という相反する性能が求められます。
 
 アルミは軽いものの剛性が不足し、チタンは強いものの重くなります。
 そこでヤマハが目を付けたのがベリリウムでした。
 
 例えば、特公昭53-3644¹にはベリリウムの特性として、
 ・ヤング率(硬さ)が非常に大きい
 ・密度は比較的低い
 ・E/ρ(比剛性)がアルミやチタンより圧倒的に優れる
 ことが説明されています。
 
 この材料特性によって、高域まで分割振動を起こしにくい振動板が実現できました。
 
 このベリリウムで作ったスピーカーの周波数特性が同文献に記載されています。
 アルミニウムに比べて、高域まで素直に伸びていますね。 

特公昭53-3644より引用

3.加工が非常に難しい


 しかし、ベリリウムは非常に硬くて脆いため、加工が非常に難しいという問題があります。
 
 特開昭49-129640²によれば、普通にプレス加工したり切削加工したりすると、
 ・歩留まりが悪い
 ・材料ロスが大きい
 ・非常に高価になる
 という問題があったそうです。
 
 つまり、良い材料だと分かっていても、作れない。
 これが最大の壁でした。 

4.ヤマハが考えた方法は薄膜技術


 そこでヤマハが考えたのが、型の上にベリリウムを真空蒸着、気相成長、イオンプレーティング等させる方法です。
 
 基板の表面にベリリウムの膜を形成し、十分な厚さになったところで基板から分離して振動板にします。
 
 上記の特公昭53-3644¹には、製造方法として、基板上にベリリウムを気相反応によって気相成長させた後、ベリリウムの薄板を基板から分離させるとあります。
 
 また、特開昭49-129640²には、基板上にベリリウム真空蒸着させ、その後に基板を溶解させるとあります。
 
 また、特公昭53-010535³には、不活性ガス雰囲気中に高電圧を印加して、ベリリウムをガスイオン化して胴基板表面に射突させ、その後に胴基板を溶解させるとあります。
 
 ここで複数の特許を読み比べると、面白いことが分かります。
 
 ベリリウムという材料そのものを発明しているわけではなく、「どのように薄膜を形成するか」「形成した薄膜をどのように型から取り出すか」という製造方法に改良の中心が移っています。
 
 つまり、材料そのものではなく、その材料を製品として実用化するための製造技術が競争のポイントになっていたことが、特許から読み取れます。
 
 これなら、
 ・材料を無駄にしない
 ・均一な厚さになる
 ・複雑なドーム形状も作れる
 という利点があります。 

5.さらに改良発明もある


 ここでは詳しく説明しませんが、ベリリウム振動板の表面をサーメット化(セラミックのような特性を加える)して耐久性と高音域の特性を改善した文献(特公昭53-26967)があります。
 
 また、これまではベリリウムを形成した後の型は溶かしていたのを、ベリリウム形成後に熱膨張差を利用して分離させる文献(特公昭55-2124)といったものもありました。
 
 つまり、NS-1000を発売して終わりではなく、その後も製造技術は改良され続けていたことが分かります。 

6.特許を見ると名機が生まれた理由が分かる


 オーディオの世界では、「昔の名機は音が良い」と言われることがあります。
 
 もちろん設計者の耳や経験も重要ですが、今回の特許を見ると、
 ヤマハは
 ・材料選定
 ・加工方法
 ・表面処理
 ・熱処理
 まで一つ一つ積み重ねながら性能を高めていたことが分かります。
 
 単に「ベリリウムを使いました」ではなく、どうすればベリリウムの性能を最大限引き出せるかという試行錯誤が、多くの特許として残されていました。
 
 こうした背景を知ると、NS-1000が今なお名機と呼ばれる理由が、少し見えてくるように思います。
 
 ちなみに、現在においてNS-1000に匹敵する又は凌駕するスピーカーは、NS-5000になると思いますが、定価で200万円くらいします。

https://jp.yamaha.com/products/audio_visual/speaker_systems/ns-5000/index.htmlより引用

 私にはとても買えないですが、いつか買える身分になりたいですね。。。
 
 この記事が御社のご発展に寄与することを願っております。
 
引用
¹日本楽器製造株式会社,スピーカの振動板およびその製造方法,特公昭53-3644.
²日本楽器製造株式会社,ベリリウム薄板の製法,特開昭49-129640.
³日本楽器製造株式会社,ベリリウム薄板の製法,特公昭53-010535.
 
坂岡特許事務所 弁理士 坂岡範穗(さかおかのりお)
 
【特許・意匠・商標の出願をお考えの中小企業様へ】
坂岡特許事務所では、製造業の特許や、店舗の商標登録などに関するご相談を対面・オンラインで承っております。
「noteを読んだ」とお伝えいただければスムーズです。
 
▼公式ホームページはこちら https://www.sakaoka.jp/
▼お問い合わせ・無料相談予約 https://www.sakaoka.jp/contact
(弊所へご依頼予定の出願に関する初回相談は無料です)
※noteやSNSへのコメントは、原則として返信できかねます。ご了承ください。