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耳障害の青年が銀閣寺へ――沈んだ美の破壊衝動 第2回配信 第一章【幼少期の囁き】

第一章:父の囁(ささや)きと耳障害の孤立」

私が耳の障害を負ったのは幼いころ。

周囲の声がときどき遠のくようにくぐもり、水底(みなぞこ)を通るように感じられる。

敗戦まぎわ、戦地から傷(きず)を負って帰還(きかん)した父は「銀閣こそ本物の美だ」と口癖のように語り、母はそれを「夢物語」と呆(あき)れ顔で聴(き)いていた。

父がいう「沈んだ輝き」は、金箔(きんぱく)のような華(はな)やかさとは無縁だが、どこか深い質素さを秘(ひ)めた美らしい。

耳障害ゆえ、父の言葉すべてを聴(き)き取れないまま「銀閣」という響きだけが私の心に刻(きざ)まれた。

ほどなく父は再招集(さいしょうしゅう)され、そのまま帰らず、母も私を置いて働きに出てしまい、親戚(しんせき)宅を転々(てんてん)する生活が始まる。

耳障害の子を抱える余裕は誰にもなく、私の小さな希望は、父の残した「銀閣こそこの国の心だ」という囁(ささや)きだけ。

華(はな)やかな声を聴(き)きとれない私には、沈んだ美がむしろ温かく感じられたのだ。

続く


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