大学柔道部に教わる本当の危機管理。
この記事を読んであなたが得られるかもしれない利益:巷で昨今恐れられている”特殊詐欺”。しかし、武道の心得があれば恐るるに足りない。大学の授業でリアルな強盗シチュエーションに、柔道部E君の心技体が爆発した。武道こそ世界に誇る「合理的な動き」の教科書であり、スポーツマネジメントの手本でもある。
柔道部員が行った大学講義
先日の大学スポーツマネジメントの講義のテーマは、「武道に教わる合理的な動きとは何か?」でした。
サブテーマとして、「特殊詐欺vs柔道部」とつけてみました。
僕の大学講義は、常に新しい時事ネタをぶっこんで、無理矢理にでも経営学に結びつけ、経営学の可能性を探ることを一つの目的にしています。
スポーツマネジメントって、海外のスポーツ経営最前線を紹介するイメージですが、僕は日本の武道こそ、これまでにないスポーツマネジメントの地平を拓くものだと思っているのです。
それは、武道が合理的な動きのみから成り立っている技術体系だからです。
そこには、倫理も論理もあり、その真骨頂は「変化に対応すること」であり、考えてみれば、これらは世界のスポーツマネジメントが求めてやまない理想なのです。
僕は今回パワーポイントを捨てて、大学の教室の机に飛び乗り、柔道部のE君を指名し、僕と戦うよう指示しました。
ざわめく教室、柔道部E君による、危機管理の講義のはじまりはじまりぃー。
リアルな刃物を使う授業
特殊詐欺が世の中を恐怖に陥れています。
ネットで超高給バイトをうたい強盗予備軍を集め、指定された家屋に侵入し家人をふんじばって、暴力や殺人すらいとわず金品を強奪する、これが特殊詐欺(強盗)です。

幸いにも、武道の心得のあるものがそこにいたら、どう対応するか、それをシュミレーションしようというのが、授業の目的です。
僕が模範の動きを見せようと思ったのですが、柔道部のEくんは、なかなかの武道家だと見たので、僕が犯人役でE君を襲い、彼が危機管理を念頭に武道の動きを見せる運びになりました。
Eくんは、すばらしい武道の動きを見せてくれたのです。
僕はナイフと日本刀とピストルを用意し、彼に凶器別の対応を促しました・・ってさすがに本物は用意できなかったので、模擬刀よろしく本物の代用品を用意したのです。
ナイフの代わりにハサミを、日本刀の代わりに靴べらを、ピストルは指でピストルを模写しました。
柔道の実戦性が証明された
1.対ナイフ

いつもは授業も上の空の学生諸君も、眼の前で壇上いや机上の二人が、生死を賭けた勝負を繰り広げるとあって、固唾をのんで注目しています。
僕がナイフ(ハサミ)を横殴りに振り回し、E君に襲いかかりました。
Eくんは僕の左腕の手首を掴んで、下におろし、右パンチを僕のハラに入れてきたのです。
動きの解説:「これは空手だったら、左腕の上段受けでナイフをカチ上げる、これが本来の武道的な動きだ。
しかし、Eくんは僕のナイフを持った手首を掴んで下におろした。
このほうがより武道的な動きだ。
なぜならば、上段受けだとナイフが飛んでしまうからだ。
ナイフが飛ぶと、家族に刺さったり、また相手がつかんだりして危ないのだ。
Eくんはそこも読んで、むんずと僕の手首を掴み下におろして、ナイフを奪ったのだ。
そして、僕の身体を同時に巻き込んでバランスを崩し、当て身(パンチ)を入れた。これで相手はノックアウトだ。」
2.対日本刀

E君に向かって僕は日本刀(長い靴べら)を振りかざした。
その瞬間、ほとんどスペースのない机をすり足で、Eくんが僕に接近、振り下ろそうとする腕を制し、僕のアゴをかち上げ、後ろにまわり首締めだ。
すかさず僕はタップした。
動きの解説:
日本刀と対峙するには、先の先(先制攻撃)と後の先(技を出させてからの攻撃)の2つがある。
いずれにせよ、まず恐怖に打ち勝ち、思い切りよくやらねばならない。
Eくんは僕のふりかぶるような、大きな構えを見逃さなかった。
すぐに接近し、日本刀のやいばが落ちる寸前に腕を制し、同時に最も近い急所であるアゴを押し上げ、素早く首を取って締め、動けなくした。
3.対ピストル

最も難しい局面である。
これは文字通り瞬時の判断で、下手にマニュアルなど覚え込むのは、身体を固くするだけだ。
Eくんはなんとピストルを発射する寸前に、ピストルごと僕の両手を掴み、握りつぶしそのまま地面につけ、発砲できなくした。
動きの解説:
素手でピストルに対抗する技術を教える学校もあると聞く。
しかし、言ったようにマニュアルはナンセンスだ。
武道とは、まず、状況判断なのだ。
状況は無限にあり、そのシチュエーションを判断する能力こそ、武道家が日々磨いている感覚なのだ。
Eくんは、僕の勝ち誇った油断を見逃さなかった。
なんと正攻法でピストルを掴みに来たのだ。
大慌ての賊である僕はあっけにとられ、ピストルを手放すしかなかった。
相手を殺すか制すか
E君の武道家らしいと思ったふるまいがあったので、聞いてみたんです。
僕:
「なぜ、相手をボコボコにしなかった?」
E君
「いや、いつも柔道家として、危急の場合、過剰防衛にならないかを考えています。
それと、柔道は相手を殺す武道ではなく、活かす武道であり、自分が優位だと思えば、まずは相手を傷つけずに制することを考えます」。
なるほど、これが柔道流「活人剣」なのだな、と僕は深く納得したのでした。

武道の教育への応用可能性は無限
僕は今までも、武道の演武は世界中でやってきたのですが、今後はビジネスと武道を結びつけたまったく新しいパフォーマンスを、エデュテイメント(edutaimento教育+エンタテイメント)として見せたいと考えています。
Eくんを帯同できれば、いくらでも面白いことができる、そう確信しました。
いや、それはできないので、現地で外国人の生徒であればだれでも実験台いや実戦パートナーとして協力してもらい、素敵なショーができるな、そんな感触を得ることができました。
今日は僕がデモンストレーションの主役ではありませんでしたが、はっきりいってEくんは僕よりはるかに武道家であり、実戦の応用ができる本物の柔道家であることを証明したのです。
学生諸君に、僕のヘタレな技を見せなくてよかった。
E君先生に感謝です。
野呂 一郎
清和大学教授
