タイムマシンはいらない。全恋を読めばいい
書評とは、新刊書などにつき、書物の内容を紹介しながら批評をした文章。
(Oxford Langagesより引用)
「書評」や「解説」というと、私の中でとても印象に残っているのは、
脚本家・作家の内館牧子さんが書かれた漫画「ベルサイユのばら」の解説だ。内容は、当時小学生だった「ベルばら」の大ファンである姪と、女子大生だった内館さんが一緒にフランスへ旅をするものだった。他にも林真理子さんや氷室冴子さんなどが解説をしていたけれども、私はダントツでこの「小学生と女子大生のフランス紀行」が心に響いた。
内館さんは今74歳だけど、その解説を読むと小さな子供の扱いにも慣れていない20歳そこそこの「牧子お姉ちゃん」が、胸にベルばらバッチを付けてはしゃぐ小学生相手に一生懸命な姿が目に浮かぶ。
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さて、ここからは「ベルばら」とは全く関係のない小説のお話。
「書評」なんていうと烏滸がましいけど、
新刊書の書評(というより感想)を書いてみようと思う。
「全部を賭けない恋がはじまれば」という小説が出版された。
(著者:稲田 万里 出版社:ひろのぶと株式会社)
この短編小説にはさまざまな「私」が登場する。
「私」は同一人物かもしれないし、全く違う人かもしれない。
でもそこは重要じゃない(気がする)。
「私」は20代。
ふと自分が20代の頃を思い出してみる。
20代かぁ。いい時期だ。
えらく昔のことだけど、いろんながあったっけ。
忘れたくない思い出や忘れたい思い出がなにしろたくさんあるのが20代。
じゃあ20代をもう一度、「私」の時代、を生きてみたい?
と、自分に聞いてみる。
う〜ん
私は今の自分が一番好きだ。別に20代ごろに戻りたいとは思わない。
しかし私の20代、それは1980年代だが、そこに戻るのではなく、
ただ単に20代の頃をもう一度体験したいな、とは思う。
そして今の私の年齢である54歳の脳みそのまま20代を体験してみたい。
きっとあのときの失敗や後悔をしないで先に進める気がするし、
自信がある。
しかし、よ?
20代にとってそんな「54歳の考え」は果たして必要だろうか。
今だからそんな風に思うだけで、生粋(というかわからないけど)の
20代ならそんなもん不要だ。
ゲームにたとえるなら、苦労せずに難なくクリアするようなもの。
ゲームの醍醐味は、時には攻略サイトを覗きつつも最終的には自分で決めて進んでいくからこそ面白い。
ちょっと違うか。
まあいい。話を戻そうか。
20代の毎日は、「ああすればよかった」「こうすればよかった」の連続。
自分の選択を後悔することもあるけれど、その時は「その選択こそが最高!」とか思っているものだからしかたない。
まあこれも「今になると」わかることなんだけどね。
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で、「全部を賭けない恋がはじまれば=全恋」だ。
前述したとおり、短編小説の主人公は全て20代の女性。
表紙の感じや帯を見る限り、20代女性の「生きる」にフォーカスされているのがわかる。私の20代の頃とは時代背景も違うし、そもそも私は恋愛小説にはあまり食指が動かない。
しかし、私の「死ぬまでに一度は会いたい作家・ライター」の上位ランクインしている田中泰延(たなか ひろのぶ)さんが
「この小説を世に出すために、出版社をひとつ、つくりました」
と、断言しているのだ。

だったら、読みましょう
読ませてください!
という勢いで手に取ってみた。
読んでみた。
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最初に書いたとおり、主人公は「私」だ。
その「私」は私ではない。
しかし、私ではない「私」の物語なのに、
なぜか「私」の気持ちがわかる。
結論から言ってしまうと、
ヤバい
油断してた。
っていうかこれ、
いわゆる恋愛小説とは違うでしょ。
完全にヤラれた。
小説の中の「私」はさまざまな体験をする。
早朝のサンドイッチ作りだったり、
変わったオトコとの逢瀬だったり、
歳の離れたバイト仲間との出会いだったり。
その短い文章の中に匂いや香りや色が感じられる。
音も聴こえてくるような気がするではないか。
「私」の目線がリアルに感じたり、
他人事に感じたり。
決着する話もあれば、オチのない芥川龍之介のような話もある。
著者の稲田万里氏はなんちゅう才能の持ち主なんだ。
いつの時代だって
20代が考えていることはきっと共通している。
ちょっとお姉さんの30代になっても
貫禄の40代になっても
親世代の50代になっても
20代だったときの
ちょっと野暮ったくて
ちょっとはずかしくて
ちょっと青春してて
ちょっと先が見えなくて
そんな世界へ連れてってくれるのがこの全恋。
タイムマシンなんて必要ない。
全恋を読めばいい。
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この小説はいろんな人に読んでほしい。
年齢なんて関係ない、時代なんて関係ない。
誰もが通る、通った、通っている、その道を歩く「私」を
ぜひ体験してほしい。追体験だ。
ある人は「そうそう!わかるわ」と思うかもしれない。
ある人は「そうなの?え?ホント?」と思うかもしれない。
またある人は「これ「私」のことだ!」と思うかもしれない。
そして読み終わるとこの小説のタイトルの意味がわかる。
そう「全部を賭けない恋」とはこういうことなのか、と。
そんな気がする。
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