ー『江戸川コナン大好きリカちゃんって、文化史なんですか?』ー 司書と司書教諭の会話(コレクション編)
ーリカちゃん60年の歴史と「名探偵コナン」コラボを学校図書館で考える放課後ー
放課後の学校図書館。
返却された本を棚に戻していた楠木恵子は、カウンターの下から何かを取り出してニヤニヤしている八洲ミライを見つけた。
「その顔、また何か買ったわね」
「なんでわかるんですか」
「その顔は“積読が増えた顔”か“推しグッズが増えた顔”のどっちかよ」
「今回は後者です!」
ミライは勢いよく箱を取り出した。
「じゃーん!」
「……リカちゃん?」
「コナン大好きリカちゃんです!」
恵子は思わず吹き出した。
「何その直球な商品名」
「正式には『名探偵コナン 江戸川コナンだいすきリカちゃん』です!」
箱を開けると、青いジャケット姿のリカちゃんが現れた。
蝶ネクタイ型変声機。
伸縮サスペンダー。
腕時計型麻酔銃。
細かい小物までしっかり再現されている。
「思った以上に本気ね……」
「すごいんですよこれ!」
「リカちゃんサイズで麻酔銃まであるの?」
「あります!」
「子どもの夢と推理漫画の危険アイテムが混ざってる」
「そこは触れないでください」
恵子は箱を手に取った。
「でも、リカちゃんって意外と長い歴史あるのよね」
「1967年生まれです」
「即答」
「調べましたから!」
ミライは得意そうに胸を張った。
「フルネームは香山リカ。日本生まれの着せ替え人形です」
「もう授業できるレベルね」
「しかも今年で六十年近い歴史です」
「私たちの親世代どころか祖父母世代も知ってるわけね」
「累計出荷は六千万体規模らしいです」
「国民的人形だわ」
ミライはさらに熱が入った。
「しかもリカちゃんって、ずっと同じ顔じゃないんです」
「世代があるのよね」
「あります!」
図書館のパソコンで資料を開く。
「初代は1967年登場」
「昭和だ」
「今見るとちょっと子どもっぽい顔立ちなんですよ」
「当時の日本の女の子像を反映してるのね」
「そうです。で、1968年にはいづみちゃんとわたるくんが登場して『リカちゃんトリオ』になります」
「わたるくん懐かしい」
「恵子先生知ってるんですか?」
「うちの母が持ってた」
「歴史の証人がいた」
「失礼ね」
恵子は苦笑した。
ミライは続ける。
「二代目になると少し大人っぽくなります」
「時代の流行を反映したのね」
「三代目になるとかなり変わります」
「小顔化の時代?」
「そうなんです!」
ミライは身を乗り出した。
「ボディもスリム化して、今のリカちゃんの原型になった世代らしいです」
「80年代だものね」
「そして1987年から現在まで続く四代目」
「今のリカちゃんね」
「身長が少し伸びたり、体型も変わったりしてます」
「服の互換性が微妙だったりするのよね」
「詳しい!」
「ドール趣味の友達がいるのよ」
「なるほど」
ミライはコナン大好きリカちゃんを持ち上げた。
「つまりこの子は四代目リカちゃんの流れを受け継ぎながら」
「うん」
「令和の人気アニメをまとった最新型リカちゃんなんです!」
「言い方が文化財みたい」
「実際そうなんですよ!」
ミライは真顔になった。
「リカちゃんって、その時代の女の子の憧れを映してるんです」
「ファッションとか職業とかね」
「昔はおしゃれな洋服」
「うん」
「今はアニメコラボ」
「なるほど」
「つまり」
ミライは人差し指を立てた。
「昭和の子どもは『リカちゃんになりたい』と思った」
「そうね」
「令和の子どもは『コナン君になりたいリカちゃん』を見る」
「情報量が多い」
「しかも怪盗キッド版もあります!」
「増やす気ね?」
「はい」
即答だった。
恵子は額を押さえた。
「で?」
「で?」
「買って満足じゃないんでしょ」
ミライはニヤリと笑った。
「学校図書館展示です」
「ああ、そう来た」
「リカちゃんの歴史展示をやりたいんです」
「ほう」
「初代、二代目、三代目、四代目の写真を並べて」
「うん」
「最後にコナン大好きリカちゃん」
「歴史の到達点みたいに」
「『1967年から2025年へ』です!」
恵子は少し感心した顔になった。
「それは面白いかも」
「でしょ?」
「単なる玩具じゃなくて」
「はい」
「日本の女の子文化の変遷が見える」
「そうなんです!」
「住宅事情に合わせたドールハウスとか」
「家族設定とか」
「職業設定とか」
「全部その時代を映してる」
ミライは満面の笑みを浮かべた。
「リカちゃんって、日本の文化史なんですよ」
恵子はコナン大好きリカちゃんを見た。
蝶ネクタイ。
麻酔銃。
青いジャケット。
そしてキラキラした瞳。
「確かに」
「でしょう?」
「半世紀以上続いた文化史の最新ページが」
「はい」
「なぜ麻酔銃を持っているのかは謎だけど」
「そこはコナンだからです」
「説明になってない」
放課後の図書館に、二人の笑い声が静かに響いた。
その日の帰り道。
ミライはスマホで怪盗キッドだいすきリカちゃんの商品ページを見ていた。
そして翌日。
恵子はカウンターの下に増えた白い箱を発見することになる。
「……買ったのね」
「えへへ」
推理力は高くないミライだったが、
コレクションが増える未来だけは、誰より正確に予測できるのだった。
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