コメダで狂気のカロリーに溺れた話。



「休日のカフェ巡りって至福の時間ですよね!お洒落な空間で甘いスイーツとコーヒーを楽しんで、一週間の疲れをリセットしちゃいましょう!」


うるせえよ。


リセットなどされるものか。むしろ内臓への深刻なダメージによる強制シャットダウンである。

世の意識高い系カフェ愛好家たちは、カフェという空間を「癒やし」や「自己研鑽」の場だと勘違いしている。小さな白い皿にちょこんと乗せられたマカロンと、ハーブの匂いがする色付きのお湯をすすって、何が「リセット」だ。

真に精神をすり減らした現代人が求めているのは、そんな生ぬるいアロマの香りなどではない。脳髄を直接ぶん殴ってくるような、暴力的な質量とカロリーの塊なのだ。

社会福祉協議会という、名前だけは立派だが実態は泥臭い調整と事務作業の連続である組織に身を置いていると、時折どうしようもない虚無感に襲われる。

私は現場の最前線で直接お年寄りや困っている人を助けるような、輝かしい「現場の戦士」ではない。かといって、各加盟団体に高圧的に指導や指示を飛ばせるような偉い立場でもない。ただひたすらに、冷暖房の効いた部屋でパソコンの画面と睨めっこし、終わりの見えない会議の資料を作り、エクセルとkintoneの間を反復横跳びするだけの、しがない裏方である。

誰にも直接感謝されることもなく、ただ静かに精神の摩耗だけが蓄積していく日々。そんな名もなき事務員の荒んだ心を鎮めるためには、劇薬が必要だった。

休日の午後、私は逃げるようにあの看板の下へ駆け込んだ。

名古屋発祥の喫茶店チェーン、コメダ珈琲店である。

お洒落なカフェが「余白の美」を楽しむ場所だとしたら、コメダは「質量の暴力」を体現する魔境だ。メニューの写真よりも実物の方が巨大だという「逆写真詐欺」で幾多の胃袋を破壊してきた、合法的なフードテロリストである。

疲れ果てていた私は、メニュー表をまともに見る思考力すら失っていた。ただ本能の赴くままに、「カツパン」と「シロノワール」という、この店の二大巨頭を注文した。
そしてドリンクは、甘ったるい「アイスミルクコーヒー」だ。

ここで私は、財布の奥底から一枚のカードを取り出した。「ソウェルクラブ」の会員証である。


哀しき福祉従事者の証

社会福祉事業に従事する者だけが持てる、この福利厚生のカード。普段はこれといった恩恵を感じることは少ないが、ことコメダにおいては絶大な効力を発揮する。
店員にカードを提示すると、通常サイズのアイスミルクコーヒーが、なんの追加料金もなしに「たっぷりサイズ」へと進化を遂げるのだ。
「無料でサイズアップできますが?」という店員の悪魔のような提案に、疲労で判断力を失った中年の脳髄が「NO」と言えるはずがなかった。

数分後、私の目の前に現れたのは、絶望的な光景だった。
巨大な木の板に乗せられた、枕と見紛うほどに分厚いカツパン。その横には、温かいデニッシュ生地の上に、親の仇のようにうず高く盛られたソフトクリームが鎮座するシロノワール。
そして極めつけは、居酒屋の生中ジョッキのような巨大なグラスに、なみなみと注がれた「たっぷりアイスミルクコーヒー」である。

テーブルの上の兵站崩壊


狂気である。
どう考えても一人で消費していい質量ではない。

しかし、頼んでしまったからには後戻りはできない。私は震える手でカツパンの一切れを掴み、大口を開けてかぶりついた。

サクサクの衣、分厚い豚肉、そして甘辛いソースが、キャベツと共に口の中を蹂躙する。美味い。確かに美味い。だが、たった一切れで胃袋のキャパシティの三割が埋まるのを感じる。
熱々のカツパンを流し込むために、ジョッキの取っ手を握り、冷たく甘いアイスミルクコーヒーをあおる。胃壁が急速な温度変化と糖分の奔流によって悲鳴を上げている。

半分ほど食べ進めたところで、はたと手が止まった。
目の前には、まだ半分残っているカツパンと、ソフトクリームが溶け出し、無惨な姿になりつつあるシロノワールが待機している。
普段、現場で肉体労働をしているわけでもなく、ただ事務机に張り付いているだけの脆弱な胃袋に、これほどのカロリーを処理する能力など備わっているはずがなかったのだ。

迫り来る致死量の糖と脂


溶けゆくシロノワールのソフトクリームが、まるで私の溶けゆく理性を表しているかのようだ。
なぜ、私は休日の昼下がりに、たった一人でこんなフードファイトを繰り広げているのか。日々の業務の鬱憤を食で晴らそうとした結果、己の肉体を限界まで追い詰めるという、究極の自傷行為に走ってしまったのだ。
息も絶え絶えになりながら、私はシロノワールの冷たいソフトクリームと温かいパンを口に運ぶ。もはや味などわからない。ただひたすらに、目の前にある茶色と白の物体を胃袋という名のゴミ箱に投棄する単純作業である。
資料のホッチキス留めを無限に繰り返す、あの虚無の事務作業と何ら変わりはない。

一時間後。


テーブルの上には、パン屑が散乱した木の板と、空になった巨大なジョッキだけが残されていた。
私は膨れ上がった腹を抱え、動けなくなっていた。癒やしどころか、全身の血液が胃腸に集中し、猛烈な睡魔と吐き気が同時に襲いかかってきている。

寿命を削って得たものは、みっともなく膨らんだ下腹部と、後悔だけだ。


俺の尊厳は、カツの脂と共に永遠に消化されない。


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