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【悲劇】AIのデモでなぜか奥歯がすり減ったという話

GeminiやChatGPTなどが出てくる、ずっと昔のお話です。 当時の私は会社の役員に同行し、あるシステム会社が開発した「最新AI」のデモを見学することになりました。

会場のブースには、先方からは開発担当や営業の精鋭が5、6名。対するこちらも、役員を筆頭に同じくらいの人数が顔を揃えていました。デモ自体も先方の社長自らが行うという、かなり気合の入った場でした。

そんな重厚な、ビジネスマン特有の緊張感が漂う中でデモが始まりました。

前方の大きなモニターには、ゲームのような大草原が映し出されています。そこへ、一匹のロボット犬がスタスタと走ってきました。

先方の社長がマイクで「エースくん、こんにちは」と挨拶をすると、そのAIロボット犬も、少し機械的な声で「こんにちは~」と返してきました。

「これが最新AIロボット犬のエースくんです」社長は得意げに紹介しました。どうやら、このエースくんが本日のデモの主役であり、彼を通して最新AIの実力を見せてくれるようです。

その後、社長はマイクに向かって次々と質問を投げかけました。 「今日の天気は?」 「ニューヨークの今の時間は?」 エースくんはよどみなく次々と正解を返していきます。

一通り質疑応答が終わると、社長はさらに声を弾ませました。 「実はエースくん、単純な質問への回答以外に、複雑な計算もできるのです

そして、社長は自信満々に問いかけました。 「エースくん、28,654足す35,646は?」

エースくんは間髪入れずに答えました。

「64,300だよぉ~」

「おお……」おそらく正解であろう数字を即座に回答したため 十数名の大人の間に、感嘆の声が漏れました。

しかし、再び質問のデモに戻ったとき、異変が起きました。

「エースくん、今の時間は何時?」 社長の問いに、エースくんは答えました。

「64,300だよぉ~」

一瞬、ブース内の空気が凍りつきました。 社長は一瞬絶句しましたが、「ハハハ、前回の計算がまだ頭に残っているのかな?」と苦笑まじりにフォローを入れました。 こちらの役員も「ハハハ、計算が好きなんですなぁ」と軽く受け流します。さすがは歴戦のサラリーマン。周囲の大人たちも、何事もなかったかのように頷き合いました。ビジネスマンとしての節度が、その場を支配していました。

社長が気を取り直して、次の質問を投げます。 「エースくん、明日の天気を教えて?」

エースくんは、なんの迷いもなく答えました。

「64,300だよぉ~」

何を聞いても、エースくんが機械的なロボット口調で「64,300だよぉ~」と回答するのが、私の笑いのツボにクリティカルヒットし、死ぬ気で笑うのを我慢しました。

この段階になると、先方の社長の顔からは余裕が消え、バツが悪そうに「すみません、少し調子が悪いようで……」と小声で漏らし始めます。背後のスタッフたちは顔を見合わせ、現場には言いようのない焦燥感が漂い始めました。

だが、総勢十数名も集まった重役デモです。簡単に引き下がるわけにはいきません。社長は、エースくんに届けと言わんばかりに少し大きな声で質問しました。

「エースくん! 今日のニューストピックを教えて!」

「64,300だよぉ~」

(もう……やめてくれ……) 私はスラックスの上から膝を強くつねり、奥歯を噛み締めました。しかし、耳の奥では「64,300だよぉ~」というエースくんの脳天気な声が無限ループし始めています。

「し、失礼。本日は少し調子が悪いみたいですので、デモはこのあたりで……」

社長がデモを強制終了しようとしました。しかしマイクのスイッチを切り忘れたらしく、その言葉をマイクが拾ってしまったのです。

エースくんが、反応しました。

「64,300だよぉ~」

十数名の大人の誰もが、一人、また一人と視線を逸らし、うつむき始めました。 隣の社員を見ると、顔を真っ赤にして笑いをこらえています。あまりの苦しさに強烈な鼻息が漏れ、それを必死に「鼻水をすする音」で誤魔化していました。(フガッ、グッズズズ……)

それを見てしまった私は、決壊するのを防ぐため、さらに強く、強く奥歯を噛み締めました。

誰も喋らない。 ただ、モニターの中でエースくんだけが、満足げに微笑んでいました。

そのあとどういうやり取りがされたのか、私にはあまり記憶が残っていません。ただ、静かにデモの幕は閉じられました。ただ奥歯がかなり痛かったことは覚えています。

現在はChatGPTをはじめとする、とてつもなく優秀なAIが次々と発表されています。 けれど、私の中で最も忘れられない、心に刻まれているAIは、あの日あの時、世界を「64,300だよぉ~」だけで塗りつぶしたエースくんなのです

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最後までお読みいただき、ありがとうございました! あれから月日は流れ、今は賢いAIが当たり前の時代になりましたが、私の心の中にはずっとエースくんが住み着いています(笑)。

もしこのエッセイを読んで、思わず「フガッ」と鼻を鳴らして笑っていただけたなら、画面右下の「♡(スキ)」を押して、あの日のエースくんを労ってやっていただけるとオッサンはとても喜びます。

次回は、いよいよ連載の最終回。 実家の父と同じくらいマイペースで、私に「好き」という感情を教えてくれた三毛猫「タマちゃん」の思い出を書こうと思います。笑いゼロ、不器用な愛情100%でお届けしますので、どうか最後までお付き合いください!

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