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NOT A HOTELとは何ですか?ブランドディレクターに問う

NOT A HOTELには現在(2025年5月時点)7つの拠点がある。それぞれデザインの異なるすべての拠点の宿泊体験に直結する品質をディレクションする役割がブランドディレクターだ。

ブランドディレクターは高い専門性と豊富な経験が求められるポジションのため、厳選された少数精鋭の2名体制でチームが構成されている。

リーダーである遊佐淳平は、大手組織設計事務所である日建設計で約13年にわたり意匠設計者としてキャリアを積み、2021年、創業間もないNOT A HOTELにプロジェクトマネージャーとして参画。2024年、ブランドチーム新設と同時に現在のポジションを務めるようになった。

そんな遊佐は、ブランドディレクターの役割を「建築のデザイン、機能、品質、納まりの定義・ディテールをこだわり抜き、NOT A HOTELの日常をつくること」と語る。創業期から現在までブランドづくりの最前線で走り続けてきた遊佐に、NOT A HOTELにおけるブランドディレクションの要諦を語ってもらった。


デザインと機能を両立させる、
ブランドディレクション


——まずは遊佐さんが考える「ブランドディレクション」の定義から聞いてもいいでしょうか?

遊佐:ブランドディレクターの役割を突き詰めると、「オーナーさんの日常をつくる」と言えるかと思います。NOT A HOTELの特徴として“WOW”と感嘆する圧倒的な体験があります。もちろんブランドディレクターとしてその体験づくりにも関わるのですが、そうした非日常の裏面である日常をつくるのも同じくらい大切なんです。別の言葉で言い換えるなら、オーナーさんにとっての安心感をつくり込んでいく部分ですね。

——考え方としては、デザインコードとは別なのでしょうか?

遊佐:まさにデザインコードをつくっていくところですね。ただ、そこで大事なのはルールを決めすぎないこと。(ルールを)決めすぎてしまうと、想像を超えるアウトプットが生まれづらくなるんです。だからこそ、あえて余白を持たせることを大切にしています。

「NOT A HOTELはこうあるべき」という視点と「これも確かに、NOT A HOTELだね」と言える両方をディレクションしていかなければ、ブランドとして進化しないと思うんです。

遊佐 淳平:県立大宮工業高校卒。日建設計にてホテル、オフィスビル、再開発複合ビルの意匠設計に従事。2021年10月NOT A HOTELに参画。全プロジェクトのブランド ディレクションを務める。

——遊佐さんが考える「NOT A HOTELらしさ」はどこにあると思いますか?

遊佐:一番に挙げるとすれば、デザインと機能の両立でしょうか。

一般的にデザインと機能はトレードオフの関係になりやすいんです。デザイン性がある代わりに使いづらかったり、汚れやすかったりする。NOT A HOTELではデザイン性に優れつつ、機能面でも妥協しません。こうした両立性に付随するところでNOT A HOTELのこだわりが表れるのが「素材」です。

——素材?

遊佐:NOT A HOTELでは本物の自然素材にこだわり、フェイク材はほぼ使いません。フェイク材を使用しないなかで、どれだけ素材を維持管理できるのかがチャレンジングなポイントです。NOT A HOTELには、ライフサイクルマネジメントという建築の管理を担うチームや拠点の運営を担うチームがあり、日々の不具合や改善に取り組んでくれています。当然、僕たちだけの力では到底実現できないので、彼らと一緒になって体験をつくり込んでいるんです。

——NOT A HOTELらしさは建築のみならず、インテリアにも現れますよね。

遊佐:そうですね。少しでもチープな印象や違和感があると、一気にNOT A HOTELらしさが失われてしまいます。ちなみに僕が入社して最初に手がけたのは、建築のデザインではなく、冷蔵庫のデザインでした(笑)。

——インテリアでもなく、家電ですか!

遊佐:当時、入社から数日しか経っていなかったのですが、代表の濵渦さんから「NOT A HOTELらしい冷蔵庫がほしい」と頼まれて(笑)。

もちろん冷蔵庫を開発したことも、デザインしたこともないので、わからないことばかりですが、自分で勉強したり周囲を巻き込みながら、なんとかNOT A HOTELらしい冷蔵庫を仕上げることができました。この冷蔵庫は、数年たった今でも全拠点に導入されています。

それを皮切りに、ソファやテーブルなどの家具や小物、照明に至るまでデザインするようになり、いまでは専門業者のみなさんと対等に議論できるまでに成長できました。

NOT A HOTEL NASU “CAVE”
家具・家電以外にも、NOT A HOTELセレクトのカトラリーがキッチンに美しく並ぶカトラリーケースや、洗面台のアメニティが並ぶトレイ、さらにはスマートホーム対応のタブレッド埋め込み型のベッドなども、自社でデザイン・開発している

攻めるために守るーー
“WOW”をつくる、日常のディテール


——これまでは空間内の話が中心でしたが、建築や空間以外の部分もディレクションするのでしょうか?

遊佐:いわゆる外構のあり方や建物の外形のあり方まで、全体のバランスを見ます。いわゆる意匠設計者とブランドディレクターの違いは先ほども言ったように、ブランドディレクターの力点が、より日常をつくり込む方に重きが置かれている気がします。

たとえばNOT A HOTEL KITAKARUIZAWA “IRORI”の空間を全面ガラス張りにしたい、という要望があったとします。一見シンプルなオーダーに思えますが、実際に実現しようとすると、とても難しい。いざやってみると、冬は寒くなるとか、風が入り込むとか、外からの視線が気になるといった問題が発生します。なので、ただガラスにすればいいという話ではなく、日常でも快適に過ごせるようにしなければならない。

そのために、「断熱性は大丈夫?」「気密性は?」「日射のコントロールは?」「結露しない?」「音は大丈夫?」「風圧に耐えられる?」といった、たくさんの技術的な要件をデザインを最大限に維持したままにクリアする必要があるんです。

もっとも難しいのは、「景色はしっかり見せたいけど、プライバシーは守りたい」というポイント。ブラインドを閉めてしまえば簡単ですが、それだと味気ない。だから僕たちは、外観の工夫や設計の工夫で、抜け感や風景の見え方を大事にしながらも、地形や植栽をコントロールしながらしっかりとプライバシーも守れるようにしています。このように、見た目だけではなく性能や快適さも含めて、さまざまな条件をバランスを見定めながら空間をつくっている、というのが大事なんです。

NOT A HOTEL KITAKARUIZAWA “IRORI”

——「ブランドディレクション」と聞くと、“攻め”の仕事の印象がありますが、遊佐さんの話を聞くと、実は“守り”の仕事も多いんですね。

遊佐:むしろ“守り”の方が多いと思います。実際、僕は現場の人や設計の担当者と絶えず細かいやり取りをしています。見えない部分をきちんと守っていく力は前職の組織設計事務所時代に培ったものです。よく「これをやるなら、こっちは諦めてほしい」と周囲から言われるのですが、僕は「いや、それはこうすれば解決できるのでは」としつこく粘るんです(笑)。

——攻めるために守るという感覚ですね。

遊佐:冒頭にも話した“WOW”な体験をつくるためには、WOW以外の部分で足を引っ張ってはいけません。むしろそこでも期待を上回るレベルを維持しないと、WOWに到達できませんからね。

「設計者としての当たり前」を捨てる


——遊佐さんのこれまでのキャリアについても触れていこうと思います。なぜ大手組織設計事務所からNOT A HOTELへ?

遊佐:前職では10年以上、意匠設計者として着々と経験を積ませていただきましたが、あるとき「これからの建築家は、単に建築の仕事だけをこなしているだけでは厳しいんじゃないか」と漠然と危機感を抱きはじめて。

新しいことにどんどんチャレンジして、自分の価値観を広げていかないといけない。そんなときに、綿貫さん(執行役員 Architecture)から熱心に声をかけてもらいました。

正直、2021年当時のNOT A HOTELには情報があまりなかったのですが、自分がこれまで関わってこなかった分野の人たちと接点を持てる環境だろう、という期待があり、最終的にNOT A HOTELに参画することを決めたんです。

——入社時の遊佐さんのミッションは何だったのでしょうか?

遊佐:最初は、今のようにデザイン寄りだったわけではなく、プロジェクトマネジメントの立ち位置でした。「まずは設計者の視野ではなく、全体を俯瞰してプロジェクトを見れるようになってほしい」と言われたのを記憶しています。

ただ、デザインを完全に手放すつもりはなかったですし、これまでやってきた領域の仕事も続けながら、これまで関わってこなかった分野にも挑戦できるという意味では、すごく前向きに捉えていました。「新しいことができるな」という感覚で、ネガティブな気持ちは特になかったです。

——もちろん建築のバックグラウンドがあるとはいえ、NOT A HOTELに入社した当初は未知の領域が多かったのではないかと想像します。入社直後にぶつかった壁はどんなことでしたか?

遊佐:NOT A HOTELは、いい意味でITスタートアップ的な考え方が強いんです。なので、まずは自分のなかにあった「設計者としての当たり前」をいったんすべて捨てる必要がありました。

それが一番大変だったかもしれません。実際、綿貫さんからも「これまでの意識は一回リセットしてほしい」と言われました。それまで積み上げてきたものを一度壊す感覚があったので、そこは覚悟が要りましたね。

——「設計者としての当たり前」?

遊佐:具体的に言えば、まずは「スピード感と質」。アイデアや意見はミーティングで出すのではなく、チャットで活発に出し合います。これまではじっくり考えて、自分のなかで答えがまとまってから、ようやく人に伝えるというフローでしたが、未完成でも早く出して、みんなでブラッシュアップしていくようなフローなので、ものすごくITスタートアップ的だと思いましたね。今までは漠然と長い時間考えれば質の良いものが生まれるという考えもあったのですが、いかに短時間で深堀りして反復できるかが質の高いものを生成する事だと考えを改めました。

もう一つ大きな違いとしてあるのは、「事業者の視点」で考えなければいけないこと。設計者のときは、建築のデザインそのものに集中していればよかったのですが、今は事業予算やスケジュール、土地の使い方等の中長期的な視点を含めて考える必要があります。

俯瞰して、全体を見ながら進める感覚。これらがぶつかった壁と言えますね。

ものづくりの本質に近い実感


——設立間もない「ブランドディレクションチーム」ですが、現時点ではどのようなフェーズにあると考えていますか?

遊佐:率直に言うと、まだ組織としては発展途上の段階です。現状、メンバーは僕を含めて2名だけで、日常業務をスケジュールに迫られながら基準の作成や各物件の判断しているというのが現状です。

ただ今後は、体制をしっかりと整えていきたいと考えています。僕自身がもう少し腰を据えて、チームとしての方向性を考えるようにしたい。「何がオーナーさんにとって本当に価値あることなのか」という視点をもっともっと深掘りする必要があると思っています。

——このチームの“あるべき姿”はどんな状態なんでしょう?

遊佐:時代や市況、オーナーさんの価値観もどんどん変化するなかで、その都度柔軟にアップデートしていけるような、言わば“進化し続けるチーム”ですね。簡単に割り切って「型」をつくるのは楽なのですが、それをしすぎないのが、このチームの価値だと信じています。

——「NOT A HOTEL=ブランド」と考えると、アップデートし続けるというのがよく理解できますね。

遊佐:一般的な設計者は建物が完成したらそこで大方の仕事が終わりますが、NOT A HOTELではむしろそこからが本番。

「建てた先」で、オーナーさんがどれだけ幸せに、気持ちよくその空間を味わっていただけるか。その声を聴いたときに初めて「ああ、ちゃんと達成できたな」と感じられるようになった気がします。

なので、かつての達成感とNOT A HOTELでの達成感は、ある種“時差”があるように思うんです。竣工して1年、2年、10年、50年と月日が経てば経つほど、達成感をより感じられると思います。

開業後も、社内外からさまざまなフィードバックをいただき、そのなかでオーナーさんが何を感じて、何に困って、何を求めているのかがリアルに伝わってくる。ものづくりの本質に近い実感を得ています。

——最後に、遊佐さんの野望を聞かせてください。

遊佐:「頼まれてもいない仕事」をしたいです。

——というと?

遊佐:実は前職時代から会社からの指示とかではなく、能動的に塗装材やサッシ、金属パネルなどの開発をしているんです。完全に興味としてやっていたんですが、そうした実験開発が今もNOT A HOTELの仕事でも活かされている実感があって。

たとえば、カトラリーやハンドソープ、ルームスプレーも独自開発するなど、その領域を広げていきたいですね。今はまだ、既製品の方が使いやすかったり、品質やデザイン性が優れていますが、それに負けないレベルの特注品を自分たちで手がけられたら、いずれすべてをオリジナルで揃えることができる。

それが実現できたときには、きっとどのホテルにも真似できない、NOT A  HOTELがつくれると思っています。

採用情報


現在、NOT A HOTELの建築チームでは意匠設計者をはじめ複数ポジションで採用強化中です。カジュアル面談も受け付けておりますので、気軽にご連絡ください。


STAFF
TEXT:Ryoh Hasegawa
EDIT/PHOTO:Ryo Saimaru

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