APの頭の中:経営者より偉いのは誰だ?PMVVだ
PMVVって何だろう、という話から始めようと思う
最近「パーパス経営」や「MVV」という言葉をよく耳にするようになった気がする。
でも、「なんとなく聞いたことはあるけど、実際のところ何が大事なの?」という感覚の人は、まだ多いんじゃないかと思う。かくいう私も、数年前までそういう一人だった。
PMVV(パーパス・ミッション・ビジョン・バリュー)は、簡単に言うと企業の理念体系のことだ。
・パーパス(Purpose) — なぜ、この会社は存在するのか
・ミッション(Mission) — 社会や顧客に対して何を果たすのか
・ビジョン(Vision) — どんな未来の姿を目指しているのか
・バリュー(Value) — 日々の行動や判断の基準となる価値観は何か
この4つが揃って初めて、会社の「軸」が生まれる。ここ最近でこれらが注目されるようになった背景には、採用難や人的資本経営への対応、ESGへの社会的関心の高まりなど、「企業はなぜ存在するのか」を問われる機会が増えてきた時代の変化があるように思う。
PMVVは、経営者よりも上位にある
少し驚かれるかもしれないけれど、PMVVというのは経営者の「ツール」ではない。
むしろ、経営者自身が従うべき原理原則だと思っている。
「理念」という言葉は、「理(ことわり)」と「念(常に心に在り続けるもの)」の組み合わせからできている。つまり、時代や状況が変わっても揺らがない普遍的な原則であり、常に意識され続けるものだ。
そう考えると、PMVVは経営者が「作ったもの」であっても、一度定められたそれは経営者の上位に位置する存在になる。社長が変わろうと、事業の方向性が変わろうと、PMVVだけは揺るがない。それが組織の「背骨」になるわけだ。
PMVVを「経営層が利便上使うもの」と誤解してしまうと、後述する失敗に直結してしまう。ここはとても大事な前提だと感じている。
PMVVが、すべての判断基準になる
「判断に迷ったとき、何を基準にするか」という問いに、どう答えるだろうか。
利益か、社員の意見か、社長の鶴の一声か——そういう曖昧な基準で動いている組織は意外と多い。けれど、PMVVが本当に機能している組織では、答えはシンプルだ。「PMVVに照らして、どちらが正しいか」というのが、最初の問いになる。
採用の場面で言えば、「スキルがあるけどバリューに合わない人を取るか」という判断。事業の場面では「儲かるけどパーパスから外れる案件をやるか」という判断。日々の小さな仕事の場面でも「このコミュニケーションはミッションを体現しているか」という自問。
PMVVは、こういうあらゆる場面での「判断の基準」になるものだ。それができていると、組織全体の意思決定が自然とそろっていく。上司に確認しなくても「これはうちらしい」「これはうちらしくない」という感覚が共有されてくる。
逆に言えば、PMVVが機能していない組織では、判断が属人的になったり、都度ブレたりしやすい。「あの人が言ったからそうする」「とりあえず売上優先で」というような動きが増えていく。
PMVVを基軸に、戦略が展開される
PMVVは「理念の言葉」だけで完結するものではなく、それを基軸にして様々な戦略や施策に投影されてこそ意味を持つ。
たとえば採用では、どんな人を求めるかの基準がバリューから導かれる。評価制度でも、何を評価するかの軸がミッションやバリューと連動している。プロダクト開発でも「これはパーパスを体現しているか」という問いが起点になる。マーケティングでも、発信する言葉やトーンがビジョンと一致している必要がある。
こうして見ると、PMVVというのは「戦略の上流」にある概念であることがわかる。PMVVがぼんやりしていると、各部門の戦略がバラバラになりやすい。人事は人事の論理で動き、営業は営業の論理で動き、マーケは別の方向を向いている——そういう「縦割りのサイロ」が生まれやすくなる。
PMVVが明確で、かつ組織全体に共有されていると、部門を超えて「私たちが目指していることは同じ」という感覚が生まれやすくなる。戦略の整合性が取れ、リソースの使い方にも一貫性が出てくる。
PMVVに、人が集まってくる
「なぜこの会社で働くのか」という問いに、明快に答えられる会社と、答えられない会社とでは、採用においてかなりの差が出てくる気がしている。
特に今の時代、若い世代を中心に「給与や福利厚生だけでは選ばない」という動きは確実に強まっている。「この会社が何を目指しているのか」「自分の価値観と合うか」「社会に対してどんな意味のある仕事ができるか」——こういう観点で就職先や転職先を選ぶ人が増えている。
そのとき、PMVVが明確な会社は、自然と「共鳴する人」を引き寄せる。逆に、PMVVがぼんやりしている会社は、「とりあえず条件がよかったから」という動機で来た人が集まりやすくなる。
採用の時点でその差は小さく見えるかもしれないけれど、3年・5年と経つにつれて、じわじわと組織の文化や雰囲気に影響してくる印象がある。
給与より深いところで、帰属意識は育まれる
ここを、もう少し深く考えてみたい。
「社員が会社にとどまる理由」を聞くと、多くの場合、給与・働きやすさ・人間関係が上位に来る。それはもちろん大切で、無視できない。でも、それだけで帰属意識が育つかといえば、少し違う気がしている。
給与は「会社を離れない理由」にはなるけれど、「この会社のために頑張りたい」という内側から湧くエネルギーとは、少し性質が違うんじゃないかと思う。
PMVVへの共感から生まれる帰属意識は、もっと別の質感がある。うまく言葉にすると「この会社の旗のもとで戦いたい」という感覚に近いかもしれない。
自分の価値観と組織の価値観が重なっているとき、仕事はただの「労務の提供」ではなくなってくる。「自分がここにいる意味」を感じながら働けるから、多少しんどいことがあっても踏ん張れる。昇給がすぐなくても、すぐには離れたくないという気持ちが自然と生まれやすくなる。
これはある意味、PMVVが「見えない給与」として機能している状態とも言えるかもしれない。
社員がファンになるとき
もう一歩進めると、PMVVへの深い共鳴は、社員を「会社のファン」に変えていく可能性がある。
ファンというのは、ちょっと大げさに聞こえるかもしれないけれど、要はこういうことだ。飲み会の席で「うちの会社ってさ、こういうことを大事にしてるんだよね」と自然に話せる社員がいるかどうか。SNSで会社の取り組みを自発的にシェアする人がいるかどうか。友人に「うちの会社、いいよ」と薦めたくなる気持ちが生まれているかどうか。
こういう社員は、採用面接で「御社の○○という考え方に共感しました」と言える候補者を連れてくることもある。いわゆる「リファラル採用」が自然と機能しやすくなるのは、PMVVへの共感が土台にあることが多いんじゃないかと感じている。
共鳴で入社した人が、共鳴した理由を語れる人を連れてくる。そういう循環が生まれると、採用コストが下がるだけでなく、文化の一貫性も保たれやすくなる。
「ファン社員」が外にもたらすもの
社員がファンになることの影響は、組織の内側だけにとどまらない。
顧客との関係においても、PMVVに共感した社員が接点を持つとき、何かが少し違って見えることがある。マニュアル通りの対応と、「自分がこの会社のやり方を信じている」という人の対応とでは、言葉や雰囲気に微妙な差が出てくる気がしている。その差が、顧客の印象や信頼感にじわっと影響してくることもあるんじゃないかと思う。
また、PMVVに共感した顧客もまた、同じような「ファン」になる可能性がある。「安いから使う」から「この会社が好きだから使う」への変化は、価格競争に左右されにくい関係性をつくっていく。いわゆるブランドロイヤルティの話と重なるけれど、その根っこにPMVVへの共感があることは少なくない気がしている。
社員のファン化と顧客のファン化は、実はつながっている。PMVVが内側に浸透することで、外側にも伝播していく——そういう構造が、長期的に選ばれ続ける組織の背景にある気がしてならない。
よくある失敗:経営層がPMVVを軽視しているケース
さて、ここからが個人的にいちばん伝えたいことかもしれない。
PMVVにまつわる失敗の多くは、「言葉を作っただけで終わった」ことより、もっと根本的なところにあると感じている。それは、経営層自身がPMVVを軽視しているケースだ。
よく見られるのが、次のような状況だ。
言行不一致 — 「チャレンジを奨励する」と掲げながら、失敗した社員を叱責する。「社員を大切に」と言いながら、残業や休日出勤が常態化している。言っていることとやっていることが違う状態。
言行相反 — もう少し深刻なケースで、バリューとして「誠実さ」を掲げているのに、顧客への対応が誠実でないとか、「チームワークを大切に」と言いながら部門間の競争を煽るような施策を取るとか。言葉と行動が真逆になっている状態。
言行齟齬 — 明確に矛盾しているわけではないけれど、ちぐはぐな印象を与えてしまう状態。ビジョンで「革新を」と言いながら、実際の意思決定は保守的で前例踏襲ばかり、というようなケース。
こうした状況が続くと、何が起きるか。
社員は、PMVVを「飾り物」として見るようになる。「どうせ額縁に飾るだけの言葉でしょ」という冷ややかな目が組織の中に広がる。エンゲージメントが下がり、「言われたことをやるだけ」という受動的な働き方が増えていく。
お客様にとっても同じだ。「あの会社、言ってることとやってることが違うよね」という評判は、意外と広がりやすい。ブランドへの信頼は、一度失われると取り戻すのに時間がかかる。
PMVVは「いいことを言う道具」ではなく、「自分たちが従うべき原則」だ。経営層が率先してその原則に従い、体現し続けることで初めて、組織の中に根づいていく。
最後に
PMVVという言葉は、知っている人も多いと思う。でも「本当に機能しているPMVV」を持っている組織は、まだそこまで多くないかもしれない。
機能するかどうかの差は、言葉の美しさよりも「誰が、どう体現しているか」にある気がしている。
「壁に貼ってあるだけ」から「意思決定の軸になっている」へ。その距離を縮めていくことが、組織づくりの中で地味だけど大事な仕事なんだと、最近改めて感じている。
