[SS] 真夜中のレモンスカッシュ
最近、よく眠れていない。
あの人が言うには寝ているらしい。
眠っているのか、起きているのか。
微睡。
自分ではそんな記憶。
夜、3,4時間。
日中、3,4時間。
分割でもいいから寝て下さい。
毎回、先生はそう言う。
つい、3日前。
「薬出しますね。」
眠れない時の薬。
「これは使っても大丈夫です。」
いつもの仏頂面。
午後2時過ぎくらいだったはず。
指先が少しピリピリ。
吐き気も少し。
何も食べる気にならない。
半分に割った薬。
小指の爪より少し小さい。
試しに飲んでみる。
少しめまい。
そのまま、ソファーに
ちょっとだけ、ちょっとだけ。
そう思って、目を閉じた。
少し肌寒い。
こめかみあたりが少し痛い。
真っ暗な部屋。
慌てて上半身を起こす。
壁の時計は、2:00。
薬のせい?
途中で肩をゆすられた気がする。
何か飲みたい。
フラフラと立ち上がって、冷蔵庫へ。
レモンスカッシュ。
昨日の買い物の帰り、コンビニで見かけたんだった。
懐かしくて、1本だけ買ってみた。
洗い物カゴからコップ。
プシュ。
シュワシュワシュワ。
シュー。
プチプチ、パチパチ。
一口。
頬の内側、舌の上
パチパチ、プチプチ。
やたら甘い、そして酸っぱい。
喉から、スッと胃に流れ込んでいく。
いつぶりだろう、記憶の奥の方の味。
コップを口に当てたまま
寝室のドアの前。
いつも通りのいびき。
今日は一段と大きく聞こえる。
台所、足踏み式のゴミ箱。
冷凍食品、パックごはんの空パック。
自分で食べたらしい。
ホッとした。
築30年のマンション。
地上8階。
25年ローン。
窓を開けてベランダに出てみる。
夏のような昼間の日差し。
そんなの嘘みたいな肌寒さ。
コップを口に当てたまま
ぼーっと街を見る。
煌々と電気がついている家が沢山。
仕事?趣味?
それとも、夜の営み?
可笑しくなって、吹き出す。
最後はいつだっただろう。
思い出せないくらい昔の事。
まだ出来るのかな?
あの人はどうなんだろう?
したくならないんだろうか?
ベランダにもたれるように部屋の中を見る。
したくないのかな。
それとも、どこかでしてる?
自分で?
そんな事を考えている事が可笑しくなる。
全然減らないレモンスカッシュ
もう一口。
すっかり抜けた炭酸。
さっきより、全然甘い。
部屋のテーブルの上。
花?
花束?
なんで?
近寄ってみる。
赤い花束。
小さい、結婚式のブーケトスみたい。
横に白い紙。
「結婚記念日、別日にちゃんとしような。」
時刻表を印刷した紙の裏。
ボールペンの文字。
コップを口から離して、紙の横に置く。
花束を持ってみた。
いい匂いだ。
レモンスカッシュもいい匂い。
でも、こっちの方がいい。
リアルだし
それにあの人の心もこもってるみたいだし。
「そういえば、明日出張だった。」
朝6時の新幹線。
慌ててスーツケースを取りに下駄箱へ。
玄関の端の方、スーツケースが立ってる。
開けてみた、中身も詰まってる。
自分でやったんだ、あの人。
「そっかあ。」
ソファーに座って、花束を持ってみた。
花びらを一枚ちぎってみる。
時刻表の上、下を綺麗に切り取って
ボールペンで、ありがとう。
ちぎった花びらを包んで、スーツケースに入れてみた。
眠れない、でも落ち着いた夜。
久しぶりだ。
なぜか今日はこのまま眠れそうな気がする。
コップを台所において、寝室に向かった。
こちらのお題に参加させて頂きました。
今回の組み合わせって、すごい綺麗だなと思ってしまいました。
毎回、楽しく参加させていただいています。
ありがとうございます。
