見出し画像

[SS] 恋愛小説

4月の頭から雨だった。
連日の雨で、桜はすっかり枯れてしまった。
葉桜にはまだ早い。

そして
私と彼も。

10年前くらいだろうか。
たまたま、町でバッタリ。
再開した幼馴染、そんな漫画みたいな話。

そのまま居酒屋。
朝まで昔話、連絡先を交換して。
週末は彼の家、私の家を行き来して。
気がついたら、この家で二人。

彼は優しい。
私の事を誰よりも分かってくれていた。
多分、私よりも。

記念日を欠かさない。
毎月、毎年。
私は忘れちゃってたけど。

贅沢じゃない。
近くのケーキ屋で小さなケーキを買って
二人でお祝いして。

マメな彼。
私は、その真逆。
覚えている約束は半分くらい、多分。
甘えていたんだろうな、今はそう思ってる。

すっかり片付いた部屋。
彼も出て行って、私も今日出ていく。
内見で見えた窓からの桜。
それが理由でこの部屋にしたんだっけ。

「毎年、あの桜を見ようね。」
「そうだね。」
お揃いのカップ。
近くのお店のアイスコーヒー。
お気に入りだった。

二人で並んで
そんなこと言って笑ってた。

彼はいつでも私を優先していた。
いつでも、二人で出かけた。
映画、旅行、動物園。
水族館は私が好きだと言ったら
すぐに行こう、ってなったっけ。

毎週、どこかに出かけてた。
いつも笑ってたな。

でも、いつだっただろう。
そんな事、言わなくなったのは。

お互いに仕事が忙しくなって
彼は家にいる時間が短くなった。
週末はゴルフ、新しいクラブ買ってたっけ。

私も別にそれで良かった。
仕事だし、私も忙しかったし。
そう、それに。
なんとなく。

なんとなく。
一人の時間が、心地良かった気がした。

お互いに気づいている。
でも、言葉にしない。
言葉にしなければ、いい。
見なければいい、何も変わらない。

何も言わない。
いや、お互いに何も言えなかったのかもしれない。

彼は優しいままだった。
私は。
でも、それが二人だった。
二人だったと思ってた。

帰ってくるなり、土下座した彼。
「ごめん。好きな人が出来た。」

私は座ったまま
「そう。その人、どんな人?」

「多分、俺がいないとダメな人。ダメになっちゃう人。」
「そう。分かった。」

二人の会話はそれが最後。
だった気がする。

しばらくして彼は自分の荷物をまとめて
先に出ていくことになった。

最後の日。

「桜。約束したのに、ごめん。」
トラックの助手席に乗り込んだ彼。

最後まで、彼は優しいままだった。
そう、二人は二人のままだった。
ままだったはず。

トラックが発車する。
マンションの前で、それを見ている。

漫画、ドラマ?
映画?いや、現実。
気がつけば、走り出してた。

子供みたいに、彼の名前を叫んで。
子供の頃みたいに、走り出してた。

トラックはどんどん遠くなっていく。
見えてるよね?見えてない?
気づいてるよね?気づいてない?

信号、赤。
停車したトラック。
助手席のドアが空いて
彼が降りてきて。
ぎゅっと抱き合って。

なんて
そんな事は、無かった。

部屋に戻った。
いつもと同じ一人、でも違う一人。

冷蔵庫。
1杯分くらい残ったアイスコーヒーのペットボトル。
彼が残してくれたんだろうか。

近くのお店の特製ブレンド。
pisolino
イタリア語で昼寝だったかな。

「コーヒーなのに昼寝って面白いですね。」
「そうなんですよ、オーナーがつけたらしいんですけど。」
私はそれを少し離れたところで聞いていた。

彼は笑っていた。
いつも、いつも。

恋はなんとなく分かった気がする。
愛は、難しいって事が分かったのかも。
恋愛は?じゃあ、結婚は?

二人でいる事。
それをもっと考えるべきだった。
大切にするべきだった。
当たり前だと思っちゃいけなかった。

もう、遅い。
今更こんなこと考えても。

手の中のコップ。
コーヒーの水面。
波紋が広がる。

「ごめんなさい。」
「本当に、ごめんなさい。」
そう言って、その場に座り込んだ。


こちらの企画に参加させて頂きました。
毎回、ありがとうございます。

自分なりの恋愛小説です。


いいなと思ったら応援しよう!