動き出す星
いらっしゃいませ。嘘屋です。
三が日の魔法が解け、真新しいカレンダーの白さが、少し目に刺さる頃合いですね。
本日は、そんな日常への境目で立ち止まっているお客様に、とっておきの嘘をご用意いたしました。
さて、今日あたり、妙に身体が重く感じたり、地面がいつもより頼りなく揺れているような感覚に襲われたりしませんでしたか?
まるで、自分の魂だけが半歩遅れてついてくるような、あの奇妙な浮遊感と気怠さです。
世間の医者や学者は、これを「正月病」だとか「連休明けの自律神経の乱れ」などと説明しますが……あいにく、私は嘘つきです。
そんな味気ない言葉で、あなたの不調を片付けてはいけません。
実のところその理由は「止まっていた地球が、再始動したから」なのです。
実は、元日から昨日までの三日間、この星は一年に一度の「完全停止」をしていました。
巨大な機械がメンテナンスを必要とするように、地球もまた、自転という過酷な労働から解放され、宇宙の暗闇の中で静かに休息をとっていたのです。
あの期間、私たちが穏やかで、どこか現実味のない時間を過ごせたのは、世界にかかる遠心力がゼロになっていたからに他なりません。
そして今日、四日目の朝。
地球はまた三百六十五回まわるために、ゆっくりと、しかし力強く回転を再開しました。
今、あなたが感じているその身体の重さは、動き出した惑星の「加速G」です。
急激に速度を上げた大地に振り落とされないよう、重力があなたをしっかりと地面に繋ぎ止めようとしている。
頭がぼんやりするのは、急旋回を始めた世界に、あなたの三半規管がまだ順応できていない、いわば「地球酔い」の状態なんですよ。
ですから、無理にキビキビと動こうとしてはいけません。
この気怠さは、あなたがこの巨大な星の運行と、正しくリンクしている証拠なのです。
今はただ、椅子の背に身を預けて、足の裏から伝わる星の駆動音に耳を傾けていればいい。そのうち、回転速度が安定すれば、身体も自然と軽くなるはずですから。
……まあ、ただの「生活リズムの乱れ」と言えばそれまでですけれど。
信じるか信じないかは、お客様次第。
何しろ、私は嘘つきですから。
またのお越しを。
動き出したこの一年が、あなたを良い場所へ運んでくれますように。
