『エッセンシャルトークン経済学』【連載第1回:プロローグ(はじめに)編】
あなたが今朝、口にしたご飯を想像してみてほしい。その米を育てた農家は、毎日泥にまみれ、異常気象に怯えながら、私たちの命の源を作っている。
あなたが通勤で使った道路や、街を綺麗に保ってくれている清掃員、毎日のゴミを回収してくれる作業員が、もし明日から1週間ストライキを起こしたら、この社会は瞬く間にゴミに埋もれ、機能停止するだろう。
そして、あなたやあなたの家族が病に倒れたとき、病院のベッドの傍らで24時間、文字通り命を削って支えてくれる看護師や理学療法士といった医療・福祉の従事者たち。彼らがいなければ、私たちは安心して老いることすらできない。
彼らは社会の基盤を支える「エッセンシャルワーカー(命の労働者)」だ。社会が生きるために、絶対に、1日たりとも欠かすことのできない存在である。
では、もう一つの現実を見てみよう。
冷房の効いた都心の高層ビルで、横文字だらけの難解なスライドを作り、スマートフォンの画面を眺めながら「中抜き」の利権を調整し、実体のない金融マネーを右から左へ動かしているだけの仕事。
失礼を承知で、故デヴィッド・グレーバーの言葉を借りて表現するなら、もし明日その仕事がこの世から消滅したとしても、社会の誰も困らないばかりか、むしろ世界が少し平和になるような仕事――「ブルシット・ジョブ(クソどうでもいい仕事)」――に従事する人々だ。
ここに、現代の資本主義が抱える最大の、出来損ないの「バグ」がある。
「社会に本当に必要な仕事ほど薄給であり、社会に不要な仕事ほど高給である」という冷酷なパラドックスだ。
私は理学療法士として、長年医療と福祉の最前線に立ってきた。日々、患者さんの身体と人生に向き合い、「命の価値」を手のひらで感じてきた。しかし、現場を離れて一歩外に出れば、待っているのは容赦ない物価高、手取りを圧迫し続ける消費税、大企業の利権、職人の困窮、そして止まらない円安の波だ。
社会を根底から支えている真面目な人々が、なぜ日々の生活に怯え、すり減っていかなければならないのか。なぜ金融ゲームの勝者だけが、実体経済を買い叩いて暴利を貪れるのか。
トマ・ピケティは、その著書『21世紀の資本』で、働いて得る富(労働)よりも、お金が集まるスピード(資本)の方が常に速いという絶望的なデータを突きつけた。どれだけ現場で汗を流しても、ルールそのものが「持てる者がさらに富む」ように設計されているのだ。
この絶望を前に、私たちはただ指をくわえて国が崩壊するのを待つしかないのだろうか。「金持ちから無理やり税金を巻き上げて配れ」という、これまでの古い社会主義的なアプローチは、人々の労働意欲を奪い、フリーライダー(ただ乗り)を生み、歴史的に失敗してきた。新自由主義者たちは「それが市場の自由競争(弱肉強食)だ」と吐き捨てる。
だが、本当にそうだろうか。
2024年、ノーベル経済学賞を受賞したダロン・アセモグル氏は、世界を救うひとつの真理を証明した。「一部の特権階級が搾取する国は衰退し、多くの一般市民を温かく巻き込む『包摂的な制度』を持つ国家だけが、真に大繁栄する」と。
本書が提示するのは、国や大企業を攻撃して破壊するような、血の流れる革命ではない。Web3という誰も改ざんできないデジタルテクノロジーの器を用い、資本主義のバグを内側から静かに、あるいはエレガントにハック(修正)する、21世紀の全く新しい社会契約である。
その答えが、「エッセンシャルトークン(ET)」だ。
仕組みは信じられないほどシンプルだ。私たちの財布の中に、「円」と並行して動く、もう一つのデジタル通貨(トークン)を入れる。
このトークン経済圏の中では、あなたが生きるために必要な「食料」「医療」「インフラ」が、消費税ゼロ(完全免税)の、最も安価な「デジタル物々交換」のルートで手に入る。
ただし、お財布の機能(為替レート)には、あなたの「所得」に応じた動的なアルゴリズムが組み込まれている。エッセンシャルワーカー並みの所得しか得ていない真面目な下積みの研究者や職人、そして低所得層は、最安のレートで守られる。
一方で、実体価値を生産せず、社会に不要な仕事で暴利を貪っている高給BSJワーカーが、生きるために「米」や「医療」を欲したとき、彼らの財布からは自動的に、これまで私たちが搾取されてきた分の「正当な生存への感謝の対価」として、超高額の「高い円」がシステムを通じてむしり取られる。
このむしり取られた「高い円」は、中抜きされることなく、現場で汗を流して食料を生産し、命を救ったエッセンシャルワーカーへダイレクトに100%還流(再分配)される。
さらに、この「高い円」が市場を巡ることで、国が意図したマクロインフレが発生し、政府の赤字国債は事実上帳消しになり、国の税収は爆発し、結果として世界一「強い円」が復活する。
これは、誰も没落させない、性善説に基づく「大調和」の経済学だ。高所得者のこれまでの豊かな暮らしも1ミリも否定しない。ただ、社会の土台を支える人々へのリスペクトを、「為替のアルゴリズム」という目に見える形で支払ってもらうだけだ。格差が縮まれば、守られるラインも自動的にスライドして全員を引き上げていく。
本書を開いてくれたあなたへ。
もしあなたが、自分の仕事の無意味さに虚しさを感じているなら。もしあなたが、社会を支えているのに報われない理不尽さに涙しているなら。
どうか諦めないでほしい。テクノロジーは、人間が人間に対して「優しくあるため」に発明されたのだ。
さあ、資本主義のバグを消し、誰も取り残さない「優しきトークン経済」の扉を、一緒に開きに行こう。
次回→【連載第2回:第1章・グレーバーとピケティが暴いた真実編】へ続く
