同級生・第三部 ーSo Longー|第三話【全5話】|Restaurant SurfWind 10周年
――この物語は、『同級生 -after 15 years-』から十年後の、かおりと正人の記録である。
八月十三日。
夏の光が、九十九里の海を白く照らしていた。
かおりのスマートフォンが震える。
姉の桃香からLINEだった。
『また九十九里?』
続いてもう一通。
『……ふふ、分かりやすいなあ、かおりは』
かおりは思わず笑った。
『うるさい』
それだけ返してスマートフォンをバッグへしまう。
そしてRestaurant SurfWindの扉を開けた。
かおりが店へ入ると、いつもより賑やかな声が響いていた。
「いらっしゃいませ!」
店内にはよく見かけた常連客たち。
そして中央のテーブルには、大きなホールケーキが2つ。
十本と五本のキャンドルが揺れていた。
「……十周年なのに?」
かおりが笑う。
その時だった。
入口のベルが鳴る。
振り返った瞬間、かおりの呼吸が止まった。
白いシャツ。
少し疲れた目元。
でも変わらない歩き方。
正人だった。
「……え」
正人も立ち止まる。
「なんで……かおりがいるの」
「それ、こっちの台詞なんだけど」
マスターが吹き出した。
「かおりさんは十年通ってくれてましたからね」
正人は言葉を失う。
「正人さんは一年で来なくなったけど」
正人は何も言えなかった。
その瞬間だった。
目に涙が浮かんだ。
「えっ、ちょっ……」
かおりが慌てる。
「もうっ。私の誕生日に泣かないでよ。世話が焼けるわね」
でもその目は、
かおりも少し潤んでいた。
マスターがスパークリングワインを配る。
「それでは。SurfWind十周年、そしてかおりさんのお誕生日を祝って」
「何回目かは察してください」
店内が笑いに包まれる。
「マスター酷い!」
「お前は中学生かよ」
正人が笑う。
その空気が、
十年前に戻ったみたいだった。
しばらくして。
マスターが店の外を見ながら言った。
「まだ乗ってたんですね、あの白いアウディ」
かおりが少し驚く。
「……まだ乗ってるんだ」
正人は苦笑した。
「買い替えるタイミング、なくしちゃってさ」
かおりは何も言わなかった。
ただ少しだけ、
優しい顔をした。
夜。
二人は海岸を歩いた。
波の音。
潮風。
遠くに浮かぶ星。
「学生の時行った稲佐山の夜景も、十年前の海ほたるも覚えてるよ」
かおりが静かに言った。
正人は少し驚いたように笑う。
「俺より覚えてるじゃないか」
「どうかしら」
かおりは海を見つめたまま答えた。
しばらく沈黙が続く。
波だけが寄せては返す。
「私ね」
ふいに、かおりが口を開いた。
「どうした?」
正人が振り向く。
かおりは少しだけ迷うように笑った。
そして首を横に振る。
「ううん」
「なんだよ」
「やっぱりやめとく」
正人は苦笑した。
「気になるだろ、それ」
「私、大事なことは一度しか言わない女性なの」
「まだ言ってないだろ」
かおりは少しだけ目を細めた。
「そう思う?」
正人は返事ができなかった。
潮風が二人の間を通り過ぎる。
遠くの駐車場には、白いアウディが停まっていた。
十年前と同じように。
「正人って、ホント運がないわね」
かおりが笑う。
その声は明るかった。
でも瞳には、小さく星が滲んでいた。
波の音だけが続いていた。
▶次の物語
第四話|天の川は、まだそこにある(最終話直前)
▶ シリーズ一覧
同級生シリーズ第一部 かおりと正人の青春編
マガジン|同級生 ─流れゆく季節の中で─
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同級生シリーズ第二部 かおりと正人の再会編
マガジン|同級生 -after 15 years-
▶ シリーズ一覧
同級生シリーズ第三部 かおりと正人の黄昏編
マガジン|同級生(最終章) So Long
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