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定年が待ち遠しい人、そうでない人 ― その間にある溝とは?

ハローワークの相談デスクの担当者は、僕と同じ世代の柔和な男性。

彼は、僕の差し出した書類に目を通しながら、

「あと2年ですね…」と言いました。

最初は何のことか分かりませんでしたが、

「そうか、あと2年で60歳定年なんだ…」。

今から数年以上前の58歳当時、僕は初めて定年という言葉を意識しました。

それまでは、定年は何となく来るもの…と考えていましたが、

確実にやってくること、

そして、自分自身もすでにその世代だったこと。

自分にとっては曖昧な現実でも、

一歩外の社会の中では紛れもない事実であることを、

彼の言葉で気づかされた出来事でした。


待ち遠しい人と、そうでない人

それから、周りが少しずつ違って見えてきました。

昔の会社で同期だった彼と飲んだ時、定年の話になりました。

彼は、「あと少しで楽になるよ」と、本当に嬉しそうでした。

でも僕は、うまく相づちが打てませんでした。

定年が待ち遠しい、という感覚がなかったからです。

かといって、まだまだ働きたいわけでもない。

自分でもうまく言い表せない思いでした。

定年が待ち遠しい人と、そうでない人。

前者は、

会社という組織からの束縛や

抱えている数字や役割のプレッシャーから解放されたいと願い、

後者は、

うまく言葉にできない、漠然とした不安を抱えています。

世の中には、それぞれの人がいますが、

どちらか一方がいいというわけではないと思います。

・自分が今どのように感じているか?

・これからどうしていきたいのか?

大切なことは、こういった自分の問題と正面から向き合うことだと思うのです。


問題は、定年したいかどうかじゃなかった

しばらくして、ようやく分かってきたことがあります。

問題は、定年が待ち遠しいかどうかではなく、別のところにあります。

ハローワークの担当者の「あと2年ですね」と、同じ溝です。

自分の中ではまだ曖昧なのに、社会の側ではもう答えが決まっている。

その間にある、説明できない溝。

待ち遠しいと言っていた同期の彼も、たぶん同じ溝の前に立っていただけなのだと思います。

彼はそれを「早く解放されたい」という形で、

僕は「うまく言葉にできない違和感」という形で、受け取っていた。

それだけの違いだと思います。

給料も、役職も、まだそこにあります。

表向きは、何も変わっていない。

それなのに、自分という人間が組織の中で「これから」ではなく、

「これまで」の人として扱われ始める。

こういう流れは、多くの組織で55歳を過ぎたあたりから静かに始まっているのかも知れません。


55歳から60歳という時間

いま振り返ると、55歳から60歳までの数年には、特別な意味があったと思います。

55歳を超えると、給料も役職もまだあるのに何かが減り始める。

この減っているのは、制度の中での「これから」の量です。

60歳を超えると、今度は社会の側から、

戦力を縮小していく対象としてのラベルが貼られていきます。

だからこの数年は、まだ組織の中にいながら次の準備ができる、

最後のまとまった時間だと思っています。

ですが、この時間は何もしないままでも、当たり前のように過ぎていきます。

そして、気づいたときには、もう組織の外に出てしまっているのです。


あの相談デスクのあと、僕がしたこと

あの相談デスクを出たあとの僕は、ただ漠然とした不安を抱えたまま、

思いつくことを手当たり次第に試していました。

家に帰ったら、求人サイトを開き、検索してはため息をついて閉じる。

書店に行くと、副業の本やセカンドキャリアの本が平積みになっていて、

気になった本を何冊も買いました。

読んでいる間は少し前向きになれるのに、閉じると自分の現実との距離を感じる。

一度痛い目にあっていたので、起業を目指していたわけではありません。

ただ、「今のままではない何か」を探していました。

業務委託という働き方に出会ったのは偶然です。

誰かに教わったわけでも、最初から狙っていたわけでもなく、

迷いながら動いているうちに、たまたま視界の端に入ってきたのです。

ーー暗中模索ーー

当時の自分を表すのに、一番適した言葉だと思います。

答えを探し続けて、もがいていたのです。


見えてきた、もうひとつの道

それでも、迷いながら動き続けるうちに、ぼんやり見えてきたものがありました。

働き方には、雇用契約一本ではない選択肢がある、ということです。

起業ではなく、アルバイトのような働き方とも違う。

組織の外側で、それまで積み上げてきた経験を、契約という形で活かしていく。

そういう道が、確かにありました。

定年が待ち遠しかった人が、本当は欲しかったであろう自由。

そうでなかった人が抱えていた違和感。

その両方の答えに、もしかしたらなり得る道かも知れない、と思っています。

もちろん、簡単な道ではありません。

組織が引き受けてくれていたものを、自分で背負う場面も増えます。

だからこそ、55歳から60歳という、まだ内側にいられる数年のうちに動けるかどうかで、
その後に見える景色が大きく変わってくるのだと思います。


ここまで読んでくださった、あなたへ

もしどこかで、「これは、自分のことかもしれない」と感じて下さったなら、もう少しだけ続きをお話しさせてください。

55歳から60歳までの数年間、

僕が何を試して、何を間違えて、最終的に何にたどり着いたのか。

そして、60歳で定年退職し、組織の外を出てから今まで、

業務委託という働き方の現場のリアル。

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あの相談デスクで「あと2年ですね」と言われた時の僕のような人に、
この話が届けば、と願っています。

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