プロでも応募する理由がある。漫画家が創作大賞で「新しい仕事」を手にするまで
とにかく娘が可愛い――その想いがあふれ、娘さんのイラストを365日連続でSNSにアップし続けた漫画家・イラストレーターの西アズナブルさん。
イラストをもとに制作したマンガで創作大賞2023に応募して、オレンジページ賞を受賞しました。その後、「こどもオレンジページnet」で連載を開始。連載に書き下ろしを加えた書籍『ちかごろのわかい娘と〜子育てに興味ゼロだった僕が、娘に夢中になった理由』(以下、『ちかごろのわかい娘と』)が、2026年2月20日に刊行されました。
そこで今回は西さんに、すでにプロとして活動している方ならではの工夫や、書籍化する上で大切なことなどを語っていただきました。書籍化を担当したオレンジページの鈴木善行さんにも、編集者目線でのお話をお聞きしています。
イラストの365日連続投稿を経てマンガ制作へ発展
――まずは、創作大賞2023にご応募いただいた背景から教えてください。
西さん(以下、西) 娘が可愛くてイラストを描きはじめて、SNSにアップしていたのがはじまりです。それを365日連続で続けてみて、これならマンガも描けそうかなと思って。マンガがある程度たまったころに創作大賞がはじまりました。「応募しようかな」と言っている知り合いがいたので、自分も試しに出してみるか、という割と軽い気持ちで応募しましたね。
――365日連続投稿のお話がありましたが、毎日続けることはとても大変だと思います。秘訣を教えてください。
西 毎日なにかしら「○○の日」というのがありますよね。あれに乗っかる形でやりはじめたら、途中でやめづらくなって、結果的に365日続けられました。一番身近な存在である娘がテーマだったのも大きかったと思います。また、マンガにするにあたって娘をキャラクターに落とし込んだのですが、その作業にもイラスト連続更新が役立ちました。
――創作大賞に応募するにあたって、それまでストックしていた作品を、賞のコンセプトに合わせて整理されたりはしましたか?
西 それはほぼしませんでした。ただ、第1話は創作大賞用に構成を整えました。もとは1ページ目だけで完結していたんですが、うしろに僕の主観パートを足したんです。娘が成長するにつれ、主観パートが増えていきましたね。
――創作大賞に応募したり、書籍化するにあたって、構成で工夫した点や苦労した点はありますか。
西 読者に最後まで読んでもらうことを意識したことですね。コミックエッセイという形式は実際にあったことを描くので、オチをつけづらい部分もあります。
なので、日常生活でオチになりそうなことがあったらメモしておき、マンガにするさいにフリをつけて構成しました。短いマンガなのでそんなに入り組んだ構成などはないですが、とにかくきちんとオチをつけた話にしました。
また、実際にあった出来事の、どこからどこまでを切り取るかという作業も大切ですね。実際になかったことを加えることはないけれど、あったことを削る作業は結構していました。オチの部分を際立たせるため、不要な部分はバサッと切ります。
――オチの部分をメモしておくとのことですが、スマホにストックしているのですか。
西 はい。メモを取らないと忘れちゃうんです。コミックエッセイはとくに、いかに日常を忘れないかがカギ。フィクション・ノンフィクションにかかわらず、なにか心が動いたときにはスマホにとりあえず書き込む、こまめにメモを取ることはとても大事です。そのメモを見て「こういう感じだったな」と思い出して描きます。
――noteやオレンジページさんの連載で作品をつくっていくときに、スランプに陥ったことはありますか?
西 オレンジページさんの連載は月1回だったので、無理にひねり出すことはせず、自然体で継続できました。noteで描いていたときは、仕事じゃないからたのしんで描ければいいと思っていたので、なにか出来事があったら描く、なかったら描かないという感じでしたね。

「いなかった人間がこの世に誕生することの存在感」を描く
――創作大賞を受賞したというお知らせを受け取られたときのお気持ちは?
西 「おー、よっしゃー」という感じでしたね。とてもうれしかったです。
――担当編集の鈴木さんにもお話をうかがいます。西さんの作品のどんなところに一番グッときましたか。
鈴木さん(以下、鈴木) じつをいうと、僕は最初から西さんの担当編集ではなかったんです。書籍化のさい、子育て経験のある編集者が担当したほうがいいんじゃないかという話が出て、僕が担当することになりました。
西さんの作品は、男親の視点で描かれています。僕の個人的な見解ですが、男親って母親と違って子どもに甘い部分があるなと思っていて。西さんの作品は、とにかく子育てのいい面を描きたいというところと、本当に娘さんが可愛いんだというところがすごく滲み出ているなと思いました。
そこに非常に共感しましたし、書籍化するさいも、そこをどうやってうまく打ち出して読者に伝えられるかを考えながら、西さんといろいろ相談してつくりました。
――確かに、子育てはすごくたのしいことなんだなということが伝わってきますね。SNSなどで流れてくる情報に触れていると、どちらかというと子育ての大変な面を感じることが多いですが、西さんの作品は、子育てのたのしさや、少しホロリときてしまうような場面が印象に残ります。
鈴木 おっしゃる通り、子育ては大変な場面が多いので、「しんどいけれど、がんばろうね」と共感を呼ぶ描き方の作品は非常に多いです。けれど西さんの作品は、まったく別の側面から子育てを見ている。
もともといなかった人間がこの世に誕生することの存在感の大きさや、それによって親である自分の視点や暮らしが変わることが、すごく上手に描かれています。また、お子さんの視点で描かれているところと、西さんの視点で描かれているところが非常にうまくミックスされている内容だと思います。
書籍化のために「数字」を持つ重要性
――2026年2月に書籍化が実現しました。創作大賞を受賞してから2年ほど経っていますが、書籍化へのモチベーションを保つためにやったことはありますか?
西 僕としては書籍化を目指してやっていたので、オレンジページさんでの連載を続けさせてもらえる限りは一所懸命描こうと思っていました。モチベーションを保つというよりは、どうやってPVを増やそうかとか、書籍化するために必要なことをどうやってアピールするか、ということをつねに考えていました。
――創作大賞では、Webメディアを持つ協賛社から賞を受ける場合、Webでの連載化がゴールになることも多いですが、やっぱり「書籍を出したい」という受賞者は非常にたくさんいらっしゃいます。書籍化するために、やっておいたほうがいいことはなんでしょう?
西 連載中に、PVやフォロワーなどの数字を持っておくことは大切だと思います。書籍化は、結局「数字を持っているひと」が有利なのは事実ですし、持っている数字によって変わる面ってやはりあるので。書籍が出たあとのことも見据えて、連載中から助走をつけておけるとベターですよね。
とはいいつつ、そのなかで創作大賞にはその状況から逆転できる要素があると思います。埋もれている才能に光を当てるだけじゃなく、「数字を持つ側に回るきっかけ」をつくっているのではないでしょうか。こういう仕組みは、もっと広がっていってほしいです。
連載かどうかにかかわらず、ほかにもできることはいろいろあります。noteやポッドキャスト、YouTubeなど、複数のチャネルを活用できるひとのほうが、いまの時代は強いのではと思います。出版社さんも予算がふんだんに使えるわけではないですし、ある程度、著者ができることをやらないといけない時代になっていると思います。
――オレンジページの鈴木さんにもうかがいます。編集者として、連載化や書籍化を目指すクリエイターさんに対し、こうしたほうがいいということは、なにかありますか。
鈴木 なにかが際立っている、特徴的であるというところに編集者としてはまず目を引かれます。ストーリーはもちろん、キャラクターやタイトルも含めてです。とくに書籍の場合はタイトルが非常に重要ですね。
――やはりタイトルは重要ですよね。ちなみに『ちかごろのわかい娘と』というタイトルは、サラッと決まったのですか?
西 最近の若者の気持ちがわからないという意味で批判的につかわれる「近ごろの若い娘」という言葉を、娘の気持ちをわかろうとする親の立場でつかうという形になっていて、意外とハマったかなとは思います。
ただ、書籍化するさいの売り上げを考えたら、どんな内容なのかわかりやすいタイトルのほうが有利なのかもしれません。今回は、鈴木さんともいろいろお話しさせていただき、サブタイトルをつけた上で、タイトルは創作大賞にエントリーした「ちかごろのわかい娘と」を残す形にしました。
鈴木 タイトル案、サブタイトル案は、トータルで50本ほど出しました。案を出しては「これがいい」「こっちがいい」と綿密に議論し、時間をかけて決定しましたね。
西 書店の本棚に刺さっている(背表紙しか見えていない)状態でいかに読者に気づいてもらうか、という観点でも、タイトルはとても大事だと思います。「この本、どんな話なんだろう」とグッと惹かれるタイトルの本ってあると思うんですよ。とくにコミックエッセイに関しては、間違いなくタイトルだけで手に取りたくなる本が強いです。
応募したことで仕事の「ジャンル」が広がった
――実際に書籍化されたあとの実感はどのようなものでしょう。見える世界は変わりましたか?
西 正直な気持ちとしては、「やったー」というより「ホッとした」という気持ちのほうが強いです。オレンジページ賞をいただいた時点で、最低限、書籍化するまではがんばらないとダメだ、という責任感のようなものがありました。
それが実現できたのでとりあえずホッとして、瞬時に「売らなければ」という気持ちに切り替わりましたね。一人でも多くのひとに読んでもらうためのプロモーションをがんばっています。
鈴木 僕も西さんと同じで、本が出てホッとした、さあどう売るか、という感じです。とにかく多くのひとの目に触れるように販促活動をしなければと思っています。西さんもおっしゃった通り、やっぱり本を出したところがゴールではなく、一人でも多くの人に読んでもらうことが大切なので。
――西さんは本業でもマンガを描いていらっしゃいますが、今回の書籍化によって、本業のお仕事でなにか変化はありましたか?
西 『ちかごろのわかい娘と』は、本業で描いているマンガとはだいぶ毛色が違うんです。そのせいか、受賞したあとはいままでとは違うタイプの仕事がくることがチラホラありました。
やっぱり、創作大賞に応募する動機のひとつとして、自分の仕事内容の「ジャンルを広げたい」という気持ちはありましたね。賞がとれなかったとしても、中間選考に通っていろいろなひとに読んでもらえる機会を得て、それが仕事につながればいいなとは思っていました。
――次に描いてみたい作品はなにかありますか?
西 娘の過去のエピソードでマンガにできていないものもあるので、それも形にできたらと思っています。赤ちゃんのころの話とか。残っているメモのなかから思い出せる範囲で、現在の娘とリンクするエピソードみたいなものを描ければな、と。
また、嘘エッセイみたいなものを描きたいです(笑)。娘のエッセイを描いていると思わせつつ、実はフィクションみたいな話を描きたくて。時間ができたらそういう作品をnoteに上げようかなと画策しています。
創作大賞は「お祭りをたのしむ」感覚でいい
――創作大賞2026に応募される方に向けて一言いただけますか。
西 プロ・アマ問わず応募できるオープンなコンテストです。ハッシュタグをつけるだけで応募できるので、ぜひみなさん気軽に応募していただければと思います。プロの方の場合は、僕のように、いままでやってきた仕事とは違うジャンルへ挑戦するきっかけにもなります。賞をとる以前に、作品を多くのひとに見てもらうチャンスだと捉えるといいのではないでしょうか。
そして、とりあえずみなさん僕の本を買ってください(笑)。創作大賞は年々大きくなっていて、お祭りみたいになっていますよね。しかも参加者同士で盛り上がるという形ができている。そういう意味では、作品自体がコミュニケーションだと思います。お祭りをたのしむ感覚で、ぜひ気軽に参加してみてください。
――ありがとうございました。
*敬称略
【受賞者プロフィール】
西アズナブル(にし あずなぶる)

漫画家・イラストレーター。福井県出身。7歳児の子育て中。我が娘がかわいすぎるあまりSNS に娘のイラスト投稿を365日毎日続け、その勢いでマンガ「ちかごろのわかい娘と」をスタート。note 主催「創作大賞2023」オレンジページ賞受賞。書籍『マンガ 生涯投資家』(原作/村上世彰・文藝春秋)、『刑務所なう。』(著/堀江貴文・文春e-book)など。
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創作大賞2026について
あらゆるジャンルの作品を対象にした、日本最大級の創作コンテストです。各部門には、34のメディアが選考に参加。大賞受賞作品には担当者がつき、雑誌・メディアへの掲載や、書籍化、連載化、映像化などを目指します。2026年7月8日(水)まで、noteもしくはTALESでエントリーが可能です。くわしくは、下記のスケジュールや特設サイトをご覧ください。
創作大賞のスケジュール

応募受付期間:2026年4月8日(水) 11:00 〜 7月8日(水) 23:59
読者応援期間:2026年4月8日(水) 11:00 〜 7月31日(金)23:59
中間発表:2026年9月上旬
最終結果発表 & 授賞式:2026年11月上旬
text by 渡邊敏恵
