「一発屋になりたくない」。書籍デビューが決まっていても、創作大賞に応募した理由——月岡ツキさん
創作大賞2024のエッセイ部門で「祖母の歌集」が入選した、月岡ツキさん。入選作を収録したエッセイ集『傷つきながら泳いでく』が、2026年1月に朝日新聞出版より刊行されました。
すでに『産む気もないのに生理かよ!』(飛鳥新社)で商業出版デビューが決まっていたにもかかわらず、創作大賞に応募した背景には、書き続けることへの切実な思いがあったそうです。
入選作「祖母の歌集」は、どのようにして1冊の本になったのか。担当編集の大谷奈央さん(朝日新聞出版)にも同席いただき、お話をうかがいました。
書籍化デビューを控えつつ「2冊目」を見据え応募
――創作大賞に応募されたきっかけを教えてください。
月岡ツキさん(以下、月岡) もともとnoteアカウントは持っていて、ちょくちょく文章を書いて載せていました。1冊目の『産む気もないのに生理かよ!』は、私のPodcastを聴いた編集者の方がnoteも読んでくださって、「こういう内容で本を書いてみませんか」と声をかけてもらったのがきっかけですね。
私はずっと、文章を書いてそれを仕事にしたいという気持ちが強くありました。たとえ1冊本が出たとしても次が続かなかったら心配だな、と。一発屋みたいになったらどうしよう、とずっと心配で。
そんな気持ちで1冊目をつくっている最中に、2024年の創作大賞がはじまったというわけです。
――すでに1冊目の出版が決まっているなかで、さらに先を考えていたのですね。
月岡 1冊目が「産む/産まない」の話でテーマがはっきりしていたぶん、「それだけを言っているひと」みたいになるのが怖かったんです。子どもを産まないということだけが私のアイデンティティではないし、ほかにも書きたいことがたくさんあるということを、早めに示したくて。もう1冊本を出せる予定があれば自分の気持ちも落ち着くだろうな、という思いもありました。
――本を出したいという気持ちはいつごろからありましたか?
月岡 小学生くらいからですね。卒業文集にも「作家になりたい」と書いていましたし、自分はそのうち本を出すんだろうなと漠然と思っていました。ただ、それを職業にしているひとは一握りだから、自分はおとなしく会社員をやらなきゃいけないんだ、と考えていました。
でも29歳のときに、ちゃんと本腰を入れて文章を書かないと本は出ないと気づいたんです。当たり前のことなんですけどね。このまま本を出せないで死ぬのは嫌だと思って、そこから文筆業を本格的に頑張るようになりました。
――チャンスをつかむまでに、どのような道のりがあったのでしょうか。
月岡 会社員をやりながら書いていたブログやnoteでたまにバズるものがあって、声をかけてもらいWebメディアのコラムを書く仕事がたまにありました。とくに2019年のnote「『ご自愛する』という戦い方」がすごくバズったときは、なにかのチャンスだと思いましたね。
月岡 けれど、自意識が邪魔して波に乗れなかったんです。「私は会社員なんだから、目立ちたいと思っちゃいけない」みたいな気持ちがあって……。
でも、あのときチャンスを生かさなかったことを、あとからすごく後悔したんです。だからこそ、次になにかチャンスがあったら絶対に取りにいこうと決めました。本屋さんに行って、いま必要とされている本はどんなものなのか、読みたいひとがいそうで、かつ自分が熱意を持って書けそうなものはなにかを考えるようになりました。
文章がうまいひとはたくさんいるし、自分はインフルエンサーのようにフォロワーがたくさんいるわけでもない。「このひとの書いているものを読みたい」と思ってもらうにはどうしたらいいかを、すごく考えていた時期がありました。

祖母が生きていたら、きっと文学フリマに参加していた
――創作大賞2024では「祖母の歌集」の1作に賭けていたのでしょうか。
月岡 「絶対に賞をとるぞ」という野心よりは、ふだんのnoteよりきちんと推敲して、ひとに読んでもらう作品として仕上げる、という気持ちがありました。
自分的にはよく書けたと思っていたので、これでダメだったら審査員と感性が合わなかったと捉えよう、くらいの感じでしたね。賞に引っかからなくても、次に本を出すときに収録できればいいか、とも思っていました。
ただ、結果発表のメールは通知が来た瞬間ものすごく速く開きましたけど(笑)。
――祖母について「書きたい」という思いがあったとのことですが、それについてくわしく教えてください。
月岡 似ている、とよく言われる祖母のことは、ずっとどこかで書きたいと思っていました。短歌を詠むことが趣味だった祖母。だれに頼まれるでもなく物書きをしていた祖母と自分はどこか似ているのではないかと、つながりを感じていました。祖母は時代や状況もあって「書くことを仕事にする」なんてことは考えていなかったと思いますが、もし同じ時代に生きていたら文学フリマとかに歌集を売りに行っていただろうな、私と同じようなことをやっていたんだろうな、という気がするんです。
私は、創作や仕事が自由にできる時代に生まれて、実際に本を書かせてもらえている。こういう祖母がいて自分がいるという話を、一度、世の中に出しておかないと心に引っかかり続けてしまうのではないか——。と、自分の言葉で記しておきたい気持ちが大きかったです。
――「祖母の歌集」を書くにあたって意識したことはありますか?
月岡 いつもの自分は「社会に対して私はこう思う」というオピニオンっぽい文章を書きがちです。でも祖母の話は他者の話なので、そのときにだれかがこう言ったという具体的な場面を書く必要がありました。オピニオンではなくシチュエーションを書くということですね。それはいつもとは少し違うことで、頑張ったところです。
書籍化するためにほかのエッセイを書くことになったさいにも、シチュエーションを描写している部分が増えた感覚があります。「祖母の歌集」がきっかけで、書き方の幅が広がったのかもしれません。
編集者の「声をかけたいひとリスト」と創作大賞が交わった
――担当編集の大谷さんは、以前から月岡さんに注目されていたそうですね。
大谷さん(以下、大谷) もともとSNSをフォローしていましたし、「いつかお声がけしたいひとリスト」のなかにずっと月岡さんが入っていました。ただ、自分の中でテーマを絞り切れず 、なかなか踏み切れずにいたんです。
なので創作大賞で弊社の候補に月岡さんのエッセイが入っていたときは、「読みたいです」と手を挙げました。やるなら絶対に自分が担当したいと思っていたので。
月岡 最初の打ち合わせで大谷さんが、「この1冊だけではなく、これからも一緒に本をつくっていきたいと思っていますよ」とスタンスを示してくれたのがすごくありがたかったです。それに応えられるような、いい文章と成果をお返ししたいという気持ちになりました。
――「祖母の歌集」を読んで、どのような本の姿が見えましたか。
大谷 「女って。私って。女って。人生って。なんなんだろうね、おばあちゃん?」という一節に感銘を受けて……。これで、月岡さんや近い世代の女性と、おばあさまのような違う世代の女性の人生を含めて、1冊の本にできるテーマが見えた気がしましたね。
――「祖母の歌集」が、本全体の方向性を決めるきっかけになったのですね。
大谷 そうですね。入選が決まった段階では1冊目の本の情報がまだ解禁されていなかったので、テーマのひとつとして「産む/産まない」という内容が入ることも考えていました。でも個人的にはそれだけではなく、もっと広い「女性の人生」というテーマで考えていたんです。最初の打ち合わせで1冊目のことをうかがって、本の方向を決めました。

嘘をつかないこと、書きたくないことを書かないこと
――執筆はどのように進めましたか。
月岡 私はあまり構成を事前にきちんと考えるタイプではなく、思いつくままに書きはじめて、書き終わったものを推敲する執筆スタイルです。LINEに自分しかいないネタメモ用グループをつくっていて、思いついたときに一言〜数行だけ書いておく。原稿を書くタイミングでそこを見返して、「これのことを書こう」と決めます。
週3で会社員をしながら、それ以外の日に執筆やPodcastの収録をしていて、創作大賞の応募作品もそのスケジュールのなかで執筆を進めました。週5で労働しながら原稿を書くキャパシティはないので、原稿を書くために会社員の時間を減らした感じですね。
――書籍化の過程で苦労されたことはありますか。
月岡 過去にnoteやWebメディアのコラムなどに書いたものが、いま自分が考えていることと微妙に違うんですよ。なので大幅に加筆修正したくなるのですが、過去に考えていた話をいまの自分が修正すると矛盾が生じてしまう。それならば、と最初から書き直すと、今度は先に書き下ろしたものが古くなって、また直したくなる。たとえるなら、ずっと寿司を握り続けてシャリが硬くなっていく……みたいなことをしていました。
大谷 構成案も何度かやり取りしました。最初は1章から5章まで、テーマごとにしっかり分けていたのですが、仕事のこととメンタルヘルスのことなどが、章が分かれていても結局絡み合ってくる。あちこちで同じ話をしているように見えたので、最終的には章立てをせず、エピソードごとに並べていくかたちにしていただきました。
月岡さんが文章を何度も書き直すうちに「これがおもしろいのか、わからなくなってきました」とおっしゃることもあったので、「この箇所がおもしろいです」や、「このエピソードがいいですよね!」など、具体的に感想を伝えるよう努めました。
月岡 『傷つきながら泳いでく』は締切ギリギリまで何度も手を加えました。だからなのか、私の著作を2冊読んだ方に「2冊目のほうが文章が洗練されている」と言っていただいて、「私もそう思います」という感じです(笑)。でも1冊目にはあのときにしか書けなかった勢いとか切実さみたいなものが強くあるので、それはそれで大事ですし、気に入っています。
――エッセイを書くときに、大事にしているルールはありますか。
月岡 ふたつあります。ひとつは、なるべく嘘をつかないことです。話の流れのスムーズさやインパクトを優先すると、どうしても実際以上に話を盛ったり、辻褄が合いやすいように事実を改変して書いたりしたくなりがちなんですが、自分はあまりそういう書き方はしたくないんです。
もうひとつは、書きたくないことを書かないこと。エッセイを書いていると、周りのひとやおもしろい出来事をエピソードとして消費してしまっているな、と感じることがあります。でも大事な友だちや家族について、書かないで心にしまっておきたいこともたくさんある。
消費したくない・消費されたくないことは書かないぞと線を引く。それでむしろ、意思を持って書くことが際立つんじゃないかと最近は思っています。なんでも書くという姿勢は、自分には合わないですね。
私は、生活がネタ探しのためみたいになってしまうのが嫌なんです。友だちもいなくなりそうだし(笑)。「あの話を勝手に書かれた」みたいな。エッセイにはそういう、あやうい部分があります。
――さらけ出す部分と書かない部分、その境界はどのように決めているのですか。
月岡 「ここまで書かなきゃ嘘になる」という気持ちと「これは書かない」という線引きは矛盾しているんですけれど、その境界を自分で決める、ということが大事なのだと思います。
届けたい相手は、審査員ではなく読者
――今後、どのような作品を書いていこうと考えていますか。
月岡 エッセイは引き続き書いていきたいです。ただ、先ほどお話しした「生活を消費したくない・されたくない」という思いもあって、エッセイというフォーマットだけでは、どこかで限界がくるような気もしています。フィクションも書けるようになると、もっと表現の自由度が広がるんだろうなと思っています。
いま磨きたいと考えているのは、届け方の技術です。私のように比較的言葉に勢いがある人間が自分のオピニオンをそのまま出すと、身構えられてしまって読んでもらえない場合もあるんじゃないかと思っています。
とくに最近は、世の中的に、怒りや憤りといった感情を受け取る耐性がどんどんなくなってきていると感じる場面も多くて。社会に対する憤りや意見を、受け取りやすいかたちで、おもしろがってもらいながら読んでいただくには技術が必要だと思うので、もっと文章を書く力をつけていきたいです。
『産む気もないのに生理かよ!』は「タイトルが強くて買えない」と言われることもありました。もちろん、タイトルに惹かれて読んでくださった方も大勢いるので、よかった面もあるのですが。『傷つきながら泳いでく』は、第一印象は怖くないけれどインパクトがある本にしたいというトライがありました。届け方は引き続き試行錯誤していきたいですね。
――これから創作大賞に応募する方に向けて、アドバイスをいただけますか。
月岡 「祖母の歌集」を書いたときは、「祖母のように、いろいろなことが許されなかった時代のひとがいて、さまざまな権利を獲得するために声を上げたひとたちがいて、そのうえでみんないまを生きている。だから自分の世代だけでなく、自分の親や上の世代にも届くといいな」という気持ちがありました。
私もまだまだ駆け出しなので、アドバイスなんて偉そうなことは言えないですが、結局、読んでほしい相手がだれなのか、ということだと思います。届けたい相手は、いってしまえば審査員ではありません。仮に本を出すことになったら読むのは読者なので。
自分だけが満足する文章と、読者に届ける文章は違います。他者に読んでもらうなら、自分自身でも満足しつつ、どういうひとにどんなふうに読まれるかを考える必要がある。だれに向かって書いているのか、という視点があるといいと思います。
――ありがとうございました。
*敬称略
【受賞者プロフィール】
月岡ツキ(つきおか つき)

1993年生まれ、長野県出身。会社員のかたわらコラムニストとしてエッセイ・インタビューなど幅広く執筆。マイナビウーマンにて「母にならない私たち」を連載。既婚・子育て中の同僚とのPodcast『となりの芝生はソーブルー』のほか、個人番組『月岡ツキの月面通信』を配信中。「創作大賞2024」(note主催)にて「祖母の歌集」が入選。著書に『産む気もないのに生理かよ!』(飛鳥新社)。新刊『傷つきながら泳いでく』は商業出版2作目となる。
X:https://x.com/olunnun
創作大賞2026について
あらゆるジャンルの作品を対象にした、日本最大級の創作コンテストです。各部門には、34のメディアが選考に参加。大賞受賞作品には担当者がつき、雑誌・メディアへの掲載や、書籍化、連載化、映像化などを目指します。2026年7月8日(水)まで、noteもしくはTALESでエントリーが可能です。くわしくは、下記のスケジュールや特設サイトをご覧ください。
創作大賞のスケジュール

応募受付期間:2026年4月8日(水) 11:00 〜 7月8日(水) 23:59
読者応援期間:2026年4月8日(水) 11:00 〜 7月31日(金)23:59
中間発表:2026年9月上旬
最終結果発表 & 授賞式:2026年11月上旬
text by 本多いずみ
