創作大賞は仲間から刺激をもらえる「文化祭」のような場――TALES投稿作品初の書籍化。秋田柴子さんインタビュー
物語投稿サイトTALESに投稿した『栗と牡丹』で創作大賞2025のお仕事小説部門に入選した秋田柴子さん。受賞作をもとに改稿を重ね、『栗は月色、こがね色 和菓子処長月堂』が2026年4月7日に朝日新聞出版より刊行されました。TALESに投稿された作品からは初の書籍化となります。
今回は朝日新聞出版の担当編集者さんにも同席いただき、受賞から刊行までの裏側についてお話をうかがいました。創作大賞2026への応募を考えている方はもちろん、小説を書いている方、書籍化を目指したい方にも、ヒントが詰まったインタビューです。
出版社と自分のカラーが重なる場所を探す
――まずは、創作大賞を知ったきっかけを教えてください。
秋田柴子さん(以下、秋田) 創作大賞は、2022年の第1回から応募しています。もともと日常的にnoteをつかっていたので、自然とコンテストの情報が流れてきて知りました。第1回は「みんな応募してるな」くらいの感覚で、私もさらっと出したんです。年中、公募に出していたこともあって、創作大賞もそのうちの1つという感覚でしたね。
――TALESが正式にオープンしたのは2025年4月です。同年の創作大賞で、応募媒体をnoteからTALESに切り替えた理由はなんでしょうか?
秋田 公募やアンソロジー関係の知人で、先行してTALESをつかっていた方々から「つかいやすい」という評判を聞いていたんです。章立てができるので、長編小説を書くにはnoteより向いているなと思って。その年から応募媒体をTALESに切り替えました。
――TALESに投稿された作品では初の書籍化となった、受賞作『栗と牡丹』。本作品はどのように生まれたのでしょうか?
秋田 もとになったのは、2021年に別の公募へ応募した作品です。私にとって2本目の長編で、いつか外に出したいと思いながら、ずっと寝かせていた 「栗」をモチーフにした物語でした。
創作大賞は応募期間が約3ヶ月間です。私は何度も推敲を重ねるタイプなので、いちから長編を書くのは少し厳しいなと感じていました。そんなとき、ある作家の方から「過去作を書き直すことは大事」と言っていただいて。その言葉に背中を押され、創作大賞の期間に入ってから、過去作を『栗と牡丹』として書き直すことを決めました。ただ、いざ読み直してみたら手を入れたい箇所だらけだったので、だいぶ書き直すことになりましたね。
――応募にあたって、戦略的に意識していたことはありますか?
秋田 創作大賞2024のときは、出版社さんのコメントを全部チェックして、過去の受賞作や中間発表に残った作品のうち、自分とジャンルが近いものを読むようにしていました。そこで意識していたのは、自分と出版社さんのカラーが、できるだけ重なる場所を探すこと。ただ、自分を曲げてまで寄せると、文章が歪んでおもねる文章になってしまう危うさがあります。だから私は「寄せにいく」というより、カテゴリーエラーになっていないかを確認するくらいの感覚でいました。
2025年は、出版社さんのコメントも大きくは変わっていなかったので、改めて調べ直すことはしませんでした。物語そのものの精度をあげることに集中しましたね。
でもこれはあくまで私の場合です。相手に寄せるのが得意なひともいれば、自分を貫くほうが向いているひともいる。振り回されすぎず、試行錯誤しながら自分に合うやり方を掴んでいくのが、結局は一番なんじゃないかなと思います。
なにを入れるかより、なにを削るか。大胆な断捨離で作品を磨く
――過去作を『栗と牡丹』に書き直すにあたって、どのような点を工夫しましたか?
秋田 過去の公募でいただいた講評で、いまもずっと意識していることが2つあります。1つは「物語の起伏を大きくすること」。もう1つは、「モチーフがあるときは、それでなければ成立しないと思えるほど、深みを持たせること」です。なので今回のリライトでも、物語の起伏と、モチーフが「栗」である必然性を強く意識しました。
一方で、当時の原稿を読み返すと、小説としてはまだ未熟に感じる部分も多かった。そこで無駄や自己満足になっている部分を徹底的に見直し、章を丸ごと削ったり、登場人物を1人なくしたりしながら、必要なものだけを残すつもりで、かなり大胆に断捨離しました。

――リライトでもっとも苦労したことはなんですか?
秋田 調べることです(笑)。私の作品は専門要素が多いことが特徴でもあるのですが、自分自身がその分野の専門家ではないので、図書館や書店、ネットをつかいながら、毎回ゼロから調べていく必要があります。
たとえば和菓子1つでも、本やネットで調べると、つかう餡やつくり方について書かれていることが少しずつ違うんです。なにが正しいのか裏を取る作業にも時間がかかりますし、調べたことを物語にうまくなじませる必要もある。
さらにむずかしいのが、調べれば調べるほど、全部入れたくなってしまうこと。でも、それをやると自己満足になってしまうので、線引きにはすごく悩みました。

――執筆中のモチベーション維持や、時間のつかい方で意識していたことはありますか?
秋田 私は火がつくまでが遅いタイプなんです。でも、一度書きはじめると何時間でも没頭できるので、モチベーション自体はあまり気にしません。とはいえ、エンジンがかかるまでにかなり時間がかかるうえ、体調にも波があるので、とにかく早めに動くことは意識していました。
――執筆中に直面した壁や、その乗り越え方についてもおうかがいしたいです。
秋田 私の作品は、昔から「序盤が弱い、長い、遅い」という欠点がありまして。仲間内からも「自分でそう自覚しているなら、かまわず切ったほうがいい!」と言われて、序盤を一章丸ごと削りました。それをTALESに投稿したのですが、大胆に削ったことで、結果的に作品が一番いい形になったと思っています。
自分で書いたものは思い入れがあるから、どうしても目が曇るんですよね。自分でも嫌というほどわかっている欠点なのに、なかなか客観視するのがむずかしい。だから、情熱を持って没頭する一方で、冷静に俯瞰する視点も必要だと思っています。
そのために大事なのが、一度時間を置いて見直すこと。できれば長い時間を空けるのが理想的です。それができない場合は、合間に家事を挟んだり、お風呂に入ったりするなどの工夫をするといいかもしれません。一度頭を冷やしてから読み返すだけで見え方はかなり変わる。だからこそ、早めに動いて、時間を味方につけることが大切なんじゃないかなと思います。
本になる未来を見据えて。書籍化を手繰り寄せた準備と熱量
――受賞の知らせを受けたときの、率直な気持ちはいかがでしたか?
秋田 中間発表を通過したときは、すごくホッとしました。ただ正直に言うと、受賞のメールをいただいたときは、「大賞じゃなかったんだ」という残念な気持ちも、一瞬湧いてきて。私はもともと、書籍化を目標に公募へ挑戦し続けていて、創作大賞にもその可能性があるから参加していたんです。だからこそ、「今回は書籍化はむずかしいのかな」と思いました。
一方で、自分が受賞したいと思っていた出版社さんから推薦をいただけたのは、本当にうれしかったです。もう本当に、残念な気持ちとうれしい気持ちが同時に動いているような感覚でしたね。
――その後、書籍化のお話はどのように進みましたか?
担当編集者 『栗と牡丹』は社内でもとても評価が高く、すぐに「ぜひ書籍化したい」という話が出ていました。そこで授賞式で秋田さんにお会いし、その場で書籍化について直接お声がけしたんです。
秋田 実は受賞メールをいただいた時点で、「これは授賞式で営業するしかない」と思い、名刺をつくりました。さらに当日は、過去に出した自分の本もラッピングして持って行ったんです。でも、緊張して結局渡しそびれました(笑)。
それでも、商業出版の経験がある仲間や先輩たちから「営業は大事」「黙って待っていてもはじまらない」と言われていたので、出版社さんに直接会えるチャンスは無駄にしたくなかった。それが実を結ぶかはわからなくても、まずは動いてみることが大事なんだと思います。
――出版までのスピードがかなり早かった印象です。改稿が少なかった理由や、このスピード感につながった要因はなんだったのでしょうか?
担当編集者 応募時点で、すでに作品のクオリティが非常に高かったんです。社内でも拝読したうえで、「大きく変える必要はない」という認識で一致していました。そのため改稿も細かな調整が中心で、全体の印象を整える程度にとどまり、結果的にスピード感を持って刊行できたと思います。
改稿で印象的だったのは、秋田さんが「最初から縦書き原稿と並行して、画面での読みやすさを意識した横書き原稿も書いていた」とおっしゃっていたこと。つまり、応募時は横書きなので、1行あたりの文字数をTALESにあわせたり、読者になじむよう改行を多めにとったりと、工夫をされていた。それだけでなく、将来的な書籍化を見据えて縦書きでも執筆されていたということです。
横書き作品を縦書きにすると読みにくくなるケースも少なくないのですが、『栗と牡丹』は縦書きでもしっかり成り立っていたんです。秋田さんからこのことを聞いたときに、理由がわかった気がして、とても納得しました。
――秋田さんは改稿中、編集者さんからの指摘で印象に残っているものはありますか?
秋田 びっくりしたのは、「(主人公の)沙都子の反応が薄い」と言われたことです。自分ではまったく気づいていなかったのですが、会話のシーンで沙都子が返事をせず、地の文で「俯いた」「頷いた」と書いてしまう癖があったみたいで。無意識的に、キャラクターを黙らせてしまっていたことに気づきました。
それ以来、ほかの作品でも、不必要に登場人物が黙っていないかを意識するようになりました。癖って、自分ではなかなか気づけない。でも指摘されることで、「黙る」のか「反応する」のかを選べるようになるんですよね。無意識のまま書き続けるのと、意識して選ぶのでは全然違う。改稿を通して、つくり手側のプロの目線を得られたことは大きな収穫でした。
ひとりで書く公募じゃない。創作大賞は「文化祭」
――そのようなやりとりで生まれたのが、『栗は月色、こがね色 和菓子処長月堂』だったのですね。書籍が刊行されてから、心境に変化はありましたか?
秋田 まず、本が出たことが本当にうれしかったです。私にとって書籍化は、公募に挑戦するうえでの目標だったので、実際に書店に並んでいるのを見たときはジーンとしました。
ただ、膨大な本のなかに、自分の作品も並ぶことになるんですよね。隣に伊坂先生や東野先生の作品が置かれていることもある。うれしさと同時に「このなかで生き残っていくのは、たいへんなことだな」と、感じる瞬間もありました。
でも、不安に振り回されすぎても苦しくなってしまうので、本を出していただいたことへのありがたみを忘れずにいたい。必要以上に構えすぎず、これからも1歩ずつ積み重ねていくことが、大事だと思いました。
――今後の活動については、どのように考えていますか?
秋田 それは本当にこの先次第ですね。出版社さんとのお仕事が続けばそちらが中心になるでしょうし、もし途切れれば、また公募の世界に戻ることになると思います。
一度商業出版を経験すると参加できる公募はかなり限られてくるんです。そういう意味でも、現時点でプロも応募可能な創作大賞は、私にとってありがたい存在ですね。
――今後、挑戦してみたい題材はありますか?
秋田 私は食べ物の小説を書くイメージを持たれることが多いのですが、実は社会的なテーマを扱う、少し重めの作品もいくつか書いています。そういった作品も、ゆくゆくは出版につなげられたらうれしいです。
――最後に、創作大賞へ応募する方に向けてエールをお願いします。
秋田 創作大賞は一般的な公募と違って、ほかの方の応募作品を読めるのが特徴です。だから孤独になりにくくて、一緒に取り組んでいるような空気感があります。私にとっては、ライバルというより仲間たちから刺激をもらえる、いわば「文化祭」のようなものです。
「受賞しなきゃ」と思い詰めすぎず、ぜひ周りの方々とたのしみながら参加してみてください。焦りすぎず、自分のペースで取り組んでほしいなと思います。
――本日はありがとうございました。
【受賞者プロフィール】
秋田 柴子(あきた しばこ)

2018年より創作を始める。長編からショートショート、エッセイまで幅広く執筆。第2回 日本おいしい小説大賞・最終候補(小学館)、第31回 やまなし文学賞佳作。『栗と牡丹』で創作大賞2025・お仕事小説部門入選。同作を改題・改稿した『栗は月色、こがね色 和菓子処長月堂』でデビュー。
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TALES:https://tales.note.com/akishiba_note
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創作大賞2026について
あらゆるジャンルの作品を対象にした、日本最大級の創作コンテストです。各部門には、34のメディアが選考に参加。大賞受賞作品には担当者がつき、雑誌・メディアへの掲載や、書籍化、連載化、映像化などを目指します。2026年7月8日(水)まで、noteもしくはTALESでエントリーが可能です。くわしくは、下記のスケジュールや特設サイトをご覧ください。
創作大賞のスケジュール

応募受付期間:2026年4月8日(水) 11:00 〜 7月8日(水) 23:59
読者応援期間:2026年4月8日(水) 11:00 〜 7月31日(金) 23:59
中間発表:2026年9月上旬
最終結果発表 & 授賞式:2026年11月上旬
text by 風間夏実
