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アダム・サンデル 『瞬間に生きる: 活動するための哲学』

☆mediopos3905(2025.7.29.)

■アダム・サンデル (鬼澤忍訳)
 『瞬間に生きる: 活動するための哲学』(早川書房 2025/2)

本書では目標達成や成功を過度に重視する
ライフスタイルに囚われている現代社会が批判され
それらから解放され活動そのものに没頭する状態としての
「幸福」そして「自由」について哲学的に論じられている

タイトルがいまひとつピンとこなかったので確認してみると
原題は「HAPPINESS IN ACTION/A Philosopher's Guide to the Good Life」

「活動(ACTION)」が「「HAPPINESS(幸福)」と
むすびつけられているのは
アダム・サンデルのアスリートとしての経験からも
(1分間の懸垂最多回数77回というギネス世界記録保持者)
身体的な活動の重要性を強調しているからのようだ

ちなみにアダム・サンデルの父は
政治哲学者のマイケル・サンデル
帯には「本当の意味での「幸福」の革新に迫る一冊」
というその推薦文があるとはいえ
本書の内容は極めて常識的ともいえるのだが
たしかに現代では「目標志向」が蔓延していて
そこからは「幸福」も「自由」も見失われている

本書の基本的な内容は

現代人は「目標志向」によって
「自己統制」「友情」「自然」との関わりという
3つの美徳を損ってしまうことで
不幸や空虚感を生み出しているため
真の幸福は「瞬間」に没頭する活動そのものに
幸福を見出さなければならない

といったことである

私たちが「活動」しているとき
「活動」そのものに価値を見いだすのではなく
それらを「任務」「目標」に変えてしまうとき
私たちの不幸は始まる

「自己統制」「友情」「自然」
それぞれについていえば

目標達成に囚われず
活動の過程に没頭する意識を持つ

日の出を5分間眺めるなど
短い時間でも自然に意識を向ける

忙しくても友人に電話をかけるなど
小さな行動で関係を維持する

といった教科書的なアドバイスもしているが
実際のところこうした観点でさえ
意識化できないでいる人たちにとっては
それなりに実践的なガイドともなっているのかもしれない

ともあれ本書で重要なのは
目標達成の「ハムスターの回し車」から抜け出し
「活動」するその瞬間を生きることの価値を再発見するための
視点を提供していることである

現代社会では学校では成績向上や受験のための勉強
社会に出ればキャリアの昇進や経済的成果そして社会的評価
といったことを追いかけ続けているうちに
成果や報酬を考えないで活動そのものを楽しむことができなくなり
ほんらいの意味での「自由」が失われてしまっている

そうした問題意識から
アダム・サンデルは活動の結果や評価を忘れ過程に意識を向け
子供のような好奇心や無邪気さを取り戻し
小さな選択と行動を大切にするといったような
日常生活の中での小さな実践を通じ
自由を取り戻すことを促しているが

本書の最後に書かれてあるように

「哲学と日常の生は密接につながっている。
哲学は、決して高所から理論を立てて
現実を抽象に置き換える学問分野ではなく、
われわれを最も具体的なものへ引き戻してくれる、
必要不可欠な案内役なのだ。」

現代ではそうした「案内役」が切に求められているのだろう

本書の内容や示唆からは少し外れるが
本書を読みながらあらためて考えさせられたのは

世の中の人たちの多くは
損得勘定
承認評価
権威
によって考え行動し

しかも最初に刷り込まれてしまったそうした性向を
問いなおし新たに学び直すことは難しくなっている
ということだった

逆にいえばほとんどの場合
得にならないこと
評価されないこと
自分が信じ込んだ権威から外れ
あらたな視点を得るべく
みずからを変化させることはないということでもある

そんななかで
「われわれを最も具体的なものへ引き戻してくれる」
「日常の生」と密接につながった
「案内役」としての哲学が必要不可欠だとはいえるのだが
問題はそれが最も必要な人には届きにくいということだろう

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