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一枚の葉が、私のもとへ来るまで



神棚に、一枚の葉を飾っている。

少し色褪せた、
先の細く伸びた菩提樹の葉。

遠いインドにルーツを持ち、
ネパールを経て、日本へやって来た。

正確には、
この葉そのものが海を渡ってきたわけではない。

小さな実が誰かの手によって運ばれ、
日本の土に植えられ、

一本の木に育ち、
そこから生まれた一枚の葉が、

不思議なご縁によって、
私のもとへやって来た。

今日は、
その葉っぱのお話を書いてみようと思う。

***

2025年5月4日。

古いお寺を訪れた帰り道、
私はバイクをゆっくりと走らせていた。

お寺からまっすぐに延びる、
石畳の参道。

その両側には、
昔ながらの家や小さなお店が並んでいた。

五月とはいえ、
その日は汗ばむほど暑かった。

参道を走っていると、
一軒の小さなお店が目に留まった。

なぜか、少し気になった。

「何かお土産でも買って帰ろうかな」

そう思ってバイクを降り、
店先に並んだ商品を眺めていた。

すると、店の奥から女将さんが、
冷たいお茶を持って出てきてくれた。

お茶をいただき、
商品を味見させてもらいながら、
先ほど訪れたお寺のことなどを話した。

初めは、ほんの短い世間話だった。

女将さんは、
店の軒先で育てている
ネパールのアサガオについても話してくれた。

季節になると、
濃い紫色の花を咲かせ、
ときどき小さなカエルも
遊びに来るのだという。

遠い国にルーツを持つ植物と、
そこへふらりと立ち寄る小さな生きもの。

このお店には、
不思議なご縁が自然と集まってくるような、
そんな空気が流れていた。

やがて話は、少しずつ
思いもよらない方向へ進んでいった。

女将さんは、
不思議なことを不思議なまま
受け取っているような方だった。

そんな女将さんが、
一本の菩提樹について
教えてくれた。

以前、ネパールを訪れたとき、
インド菩提樹の実を日本へ持ち帰ったのだという。

「日本では育たないよ」

そう言われたけれど、
持ち帰った実を日本の土に植えてみた。

すると、その菩提樹は、
すくすくと成長したのだそうだ。

遠い国で生まれた小さな実が、
海を越え、
育たないと言われた場所で、
静かに根を張った。

女将さんは、その木の葉が落ちる前に、
一枚ずつ大切に押し葉にして
残していたという。

その話を聞きながら、
私はただ、

「そんなこともあるのだな」

と、不思議な気持ちになっていた。

まさか、そのうちの一枚が
自分のもとへ来るとは思わずに。

***

しばらく話したあと、
女将さんはふと、不思議そうに言った。

「どうしてこの話を、
あなたにしたのかしら」

そして、少し考えるようにしてから、
こう続けた。

「なぜか頭の片隅で、
お釈迦様が、この方に一枚渡しなさいと
おっしゃったような気がしたの」

そう言って、
大切に保管していた菩提樹の葉を
一枚、私にくださった。

そして、
お釈迦様が見守ってくださるのだと
静かに伝えてくれた。

その言葉を聞いたとき、
私は泣きそうになった。

なぜ胸に響いたのか、
自分でも分からなかった。

けれど、その言葉は、
考えるよりも先に
胸の奥深くへ触れた。

その日、初めて会った人から
手渡された一枚の葉が、

ずっと前から私のもとへ来ることを
決めていたような気がした。

本当の意味は、今も分からない。

けれど、分からないからこそ、
あの日の出来事は
今も心の中に残っている。

***

あれから一年以上が過ぎた。

菩提樹の葉は今も、
わが家の神棚にある。

遠い国から日本へやって来た実。

育たないと言われながら、
この土地に根を張った木。

その木から生まれ、
女将さんの手で大切に残された葉。

そして、
偶然立ち寄った私のもとへ渡された一枚。

ひとつでも何かが違っていたら、
この葉はここにはなかった。

そう考えると、
出会いとは不思議なものだと思う。

人との出会いも、
場所との出会いも、

一冊の本も、
ひとつの言葉も、

そのときには意味が分からなくても、
ずっとあとになってから、

「あの日の出来事は、
ここにつながっていたのかもしれない」

と思うことがある。

今、私は、
「ココロリーフ」という物語を書いている。

心に寄り添う、
小さな葉っぱの物語。

あの日の私は、
まだその世界を知らなかった。

けれど今になって、
ふと思うことがある。

女将さんから受け取った
あの菩提樹の葉は、

私の物語に芽吹くよりも前に届いた、
最初の一枚だったのかもしれない、と。

一枚の葉は、
何も語らない。

ただ静かに、
神棚から私を見守っている。

それでも私は今日も、
その葉を見るたびに思い出す。

遠い国から運ばれた小さな実と、
日本の土に静かに根を張った一本の木。

あの日、偶然立ち寄ったお店で
出会った女将さんのことを。

そして、

人から人へ渡された小さな想いは、
いつか誰かの心の中で、

新しい葉を
芽吹かせるのかもしれない。

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