🎮寄り道ギルド クエスト #01
※ここは、「帰れない夜」にだけ辿り着ける場所。
その名を――寄り道ギルド。
ロビーの窓辺には、小さな木製の郵便受けが置かれている。
ときどき、どこからともなく現れた鳥たちが、手紙を運んでくる。
その手紙をコヨリさんが受け取り、ロビーのクエスト掲示板へそっと貼り出す。
依頼を受けるかどうかは、旅人たちに委ねられている。
だから、誰も急かさない。
受けなくてもいい。
寄り道したくなった夜だけ、掲示板を眺めればいい。
その夜。
ロビーのクエスト掲示板には、一枚だけ見慣れない依頼書が貼られていた。
コヨリさんは首を傾げる。
「……こんな依頼、ありましたっけ?」
「私も貼った覚えがないんです」
風の猫も記録帳をめくる。
「記録にもありませんね」
そこへ、ひよこさんが小さくコホンと咳払いをした。
「掲示板へ自然発生した可能性があります🐣」
「……」
一瞬、ロビーが静まり返る。
「そんなことある!?」
全員が一斉に振り返った。
その依頼書は、
誰が運んできたのかも、
いつ貼られたのかも、
誰ひとり分からなかった。
* * *
依頼書の最初に書かれていたのは、一行だけだった。
📜 落とし物を届けてください。
その下には、
小さく、
持ち主は、もうすぐ思い出します。
さらに、その下には──
🎒 推奨アイテム
・両手が空く小さな鞄
・寄り道できるくらいの時間
・誰かの話を最後まで聞く気持ち
・「急がなくても大丈夫」と思える心
⚠️ クエスト注意事項
・落とし物は、持ち主より先に開けないでください。
※届ける前に開けると、「落とし物」ではなく「拾い物」になる可能性があります。
・届け先は最初から分からないことがあります。
・寄り道を繰り返すうちに、目的地へ近づく場合があります。
・道案内役のスライムが立ち止まった時は、周囲をよく見渡してください。
🎁 クエスト報酬
・持ち主だけが知っています
※このクエストでは、最短距離が正解とは限りません。
※持ち主は、あなたより少し先で思い出します
* * *
「……誰の?」
旅人がぽつりと呟いた。
誰も分からない。
依頼主も。
届け先も。
報酬が何を意味するのかも分からない。
* * *
その時だった。
ぷる。
ソファの下から、プルちゃんが現れた。
そのまま何も言わず、
ロビーの奥……
保管庫の方へ、
ぴょん。
と跳ねていく。

* * *
「……ついて来いってこと?」
ギンコさんが立ち上がる。
「面白そうやん。」
その様子を見ていた旅人も、小さく頷く。
「……私も行こうかな。」
* * *
保管庫の棚を調べると、
見覚えのない小さな箱が置かれていた。
手のひらに乗るくらいの木箱。
札だけが結ばれている。
* * *
『落とし物』
* * *
「中、見ます?」
風の猫が尋ねる。
するとカンガエルさんが、
静かに本を閉じた。
膝の上には、
『武闘家について 第二巻』
と書かれた分厚い本。
「届ける前に開けるのは、
落とし物ではなく、
拾い物になってしまうかもしれません。」
「なるほど……?」
「そもそも落とし物とは——」
「先生、それ長くなるやつ🤣」
* * *
「ちょっと待ってください😊」
コヨリさんが、住人たちを呼び止めた。
カウンターには、小さな木のお盆。
湯気の立つスープが、人数分並んでいる。
「帰る時だけじゃなくて、出かける時も温まってからです🌿」
「コヨリさんの特製スープや。」
ギンコさんが嬉しそうに受け取る。
プルちゃんも、
ぷる。
と、お椀の周りを一周だけ跳ねた。
* * *
結局。
中身は見ないまま、
住人たちは保管庫をあとにした。
旅人も、そのあとを静かに歩く。
どこへ向かえばいいのかも分からない。
それでも、
不思議と足は止まらなかった。
* * *
窓の向こうでは、
赤い鳥居の先に、
見たことのない小道が続いていた。
「どうやら……
今夜のクエストは、
あっちみたいやね。」
ギンコさんが笑う。
風の猫は、
静かに記録帳を開いた。
まだ白い最初のページへ、
ペン先が静かに触れる。
しかし、
インクは落ちなかった。
その瞬間。
赤い鳥居の向こうから、
かすかに鈴の音が聞こえた。
チリン——
住人たちは顔を上げる。
プルちゃんだけが、
その音を知っているように、
ぴょん、と一度だけ跳ねた。
風の猫は、
記録帳へ視線を落とした。
インクが、
ゆっくりと紙へ落ちた。
「……始まった。」
* * *
📖 ギルドクエスト記録 No.1
依頼名:
落とし物を届けてください
現在位置:
赤い鳥居の手前
同行者:
ギンコ
ひよこ
風の猫
旅人
(プルちゃん?)
クエスト状況:
▶ 出発
記録開始時刻:
帰れない夜
次の目的地:
未確認
※最初の一行は、これから書かれます。
🌿もし今夜、この依頼書を見つけたなら。
寄り道したくなったら、
その時は、一緒に歩きましょう。
ぷる。
……そういえば。
あのスライムと初めて出会った夜の記録は、今もどこかに残っているそうです🌿
