「三年間のデータ、抱きしめて──元マネージャー斉賀藍乃、野山家を訪ねる夜」
引退から数日経った、ある夜のこと。 斉賀藍乃は、約束を果たしに野山家のインターホンを鳴らした。
引退してから部屋着になった甲府学館野球部のTシャツ。
カバンの中には、麦茶が2本と、野山友羽の好物チョコマシュマロ。
■ 玄関にて
ドアを開けたのは野山友羽ではなく、その母だった。 「藍乃ちゃん!いらっしゃい、いらっしゃい」と、両手で藍乃の手を握って、しばらく離さなかった。
「あの、そんな、恐縮です……」
「ううん、聞いて。私、藍乃ちゃんにはずっとお礼を言いたかったの」
野山母はそう言うと、玄関先で堰を切ったように話し始めた。
「変わり者の娘が、3年間も野球部のマネージャーをやり遂げられたのは、藍乃ちゃんのおかげだよ。友羽ね、中学までは本当に人に興味がなかったの。誰と誰が仲がいいとか、学校で今日何があったとか、そういう話を家で一切しない子だった。それが、高校に入ってから、藍乃ちゃんのことはよく話すようになって」
「友羽が……私のことを?」
「うん。『藍乃は今日、こういう理由でため息をついていた』とか『藍乃の判断は根拠がないのに大体当たる』とか、なんだかレポートみたいな話し方だったけど(笑)。それがだんだん、選手一人一人の話になっていって。誰々くんが今日は調子が良さそうだったとか、誰々くんが伸び悩んでいて心配だとか」
母の声が、少し湿った。
「人に興味がなかったあの子が、一人一人のことを考えて、悩んだり、喜んだり……星加くんが高校までで野球を辞めるって聞いた夜なんて、部屋で静かに泣いていたのよ、あの子が。私にとっては、衝撃的な成長なの。全部、藍乃ちゃんがそばにいてくれたおかげ」
藍乃は、何と返していいか分からず、しばらく黙っていた。それから、小さく笑った。
「友羽は、私が思ってる100倍、ちゃんと人のことを見てましたよ。データの向こう側、ちゃんと見てました」
「……そう言ってもらえると、母としては安心する」
■ 友羽の部屋にて
部屋のベッドの上には、あのクマのぬいぐるみが、律儀に鎮座していた。高知合宿で有名になった、あのクマである。
「約束通り、抱いてるよ」
友羽はそう言って、クマを膝の上に乗せた。手元には、タブレットが3台。充電器も3本。
「タブレット3台、多くない?」
「一台は3年間の全データ、一台は今夜のメモ用、一台は予備。予備は今のところ使う予定ない」
「予備、絶対使わないやつじゃん」
「使わない前提で持ってくるのが、私の安心の作り方」
藍乃は笑いながら、友羽の隣に座った。
「じゃあ、始めよっか。3年間を振り返る会」

小柳友輔(外野手、最後の夏は応援団長)
友羽がまず開いたのは、守備範囲のヒートマップだった。
「小柳くん、面白いんだよね。50m走のタイムも、20m走のタイムも、3年間ほとんど変わってない。単純な脚力は伸びてないの」
「え、じゃあ守備、あんまり良くなってないってこと?」
「ううん。センターでの守備範囲は、全体的に20%広がってる。特に、右打者が打った右中間方向の斜め後ろ、一番判断が難しい打球への対応は35%も広くなってる」
「脚が速くなってないのに、範囲は広くなった……?」
「一歩目の速さと、打球判断。走る力じゃなくて、読む力を3年かけて磨いたんだよ。データ上、一番地味に、一番着実に成長した選手。大学でも続けるなら、守備走塁では戦力になれるかも知れない」
藍乃はしみじみと頷いた。
「最後、応援団長やってる時の小柳くん、すごい声出してたもんね」
「あの声量のデータは取ってないけど、たぶん歴代トップだったと思う」
「チームの勝利のために誰より声出すって有言実行だったね」

西岡勝樹(外野手、最後の夏は応援)
「西岡くんは、遅咲きの代表だよ」
友羽の声が、少し柔らかくなった。
「一時期はベンチ入りメンバーと大きく差をつけられてた。でも3年の夏前には、練習試合の遠征メンバーに返り咲くところまで打力を伸ばしてる」
「夏のメンバー入りまであと一歩だったんだよ」
「星加くんを追いかけてた、って言ってたよね」
「うん。打撃に関しては星加くんの成長曲線を、約1年遅れでなぞってる。もしあと1年あれば、星加くんに近いところまで届いてたかもしれない」
「あと1年……」
「本人は国公立大学で野球を続けたいって話してた。伸びしろのグラフだけ見れば、大学でもう一段伸びる可能性は十分あると思う。あまり強くない国公立大学なら、中軸になれるかも」
太田滉大(捕手、最後の夏は応援・ブルペン捕手)
友羽の表情が、少しだけ曇った。
「太田くんは、私が一番悔いてる一人」
「珍しいね、友羽がそんな言い方するの」
「2年の夏頃、本人の希望でブルペン捕手に専念することになった。裏方に絞る判断が早すぎたって、今でも思ってる」
「でも、太田くん自身が選んだことでしょ?」
「うん。ただ、それ以降に、それまで積み重ねてきたトレーニングの成果が出たのか、身体つきが明らかに変わってきたんだよね。あのフィジカルのまま選手を続けてたら、って考えることがある」
友羽はタブレットの画面を少し見つめてから、静かに付け足した。
「もう少し、選手も続けながら頑張ってほしいって、当時の私は言うべきだった」
藍乃は、友羽の肩に軽く手を置いた。
「友羽がそう思ってたなんて、知らなかった」
「言葉にしたことなかったから」
脇山勇輝(投手、最後の夏は応援・打撃投手)
「脇山くんは、伸びしろの化身だよ」
急に声が明るくなった友羽に、藍乃も笑う。
「入学時から球速は10キロ以上アップして、131km/hまで来てる。それに、入学当初は変化球が何も投げられなかったのに、松尾コーチに見出された指関節の柔らかさを活かして、チーム一の落差のフォークを投げるようになった」
「松尾コーチ、脇山くんの指、最初に見た時めちゃくちゃ興奮してたよね」
「西岡くんと同じく、遅咲きタイプ。私の予測では、大学3年くらいで148キロ前後まで出してブレイクする」
「え、本当に!?」
「ただ、フォーク以外の変化球が今のまま増えないと、リリーフ専門に留まる可能性が高い。指は柔らかいだけで、器用ではないから。緩いカーブか、手元で小さく曲がるカットがあると良いけど。伸びしろと課題、両方はっきりしてる選手」

笠松翔(投手、最後の夏はエースナンバー)
「笠松くんは、数字だけ見ればチームで一番分かりやすい成長曲線だよ」
友羽はグラフを見せた。3年間で12キロのスケールアップ。
「制球も、ややアバウトだったところから、ストライク率が20%上がってる」
「エースナンバー、伊達じゃなかったね」
「ただ、実力に見合ったコンディションで臨めた大会が少なかったのが、私としては悔やまれる。3年の春も夏も、ベストじゃなかった」
「ベストだったのは……」
「2年の春。完璧なピッチングをして、自ら満塁ホームランまで放ってる。あの一試合のデータは、今でも見返すことがある」
藍乃は少し目を伏せた。
「一番良かった時を、みんなが見てるとは限らないんだよね」
「うん。だから、データに残してる」

星加龍飛(内野手、最後の夏は4番サード)
ここで、友羽の指が一瞬止まった。
冷静で、時にAIのようだとまで言われる野山友羽が、珍しく言葉に詰まった。
「……なんで、野球辞めちゃうんだろ」
「友羽...」
「弁護士になりたいって話は、応援してる。本人が決めたことだから。でも、まだ、納得したくない」
友羽はタブレットを操作しながら、早口になった。
「星加くんは、今の甲府学館で最強打者って言われてる。でもそれは、最後の春から夏にかけて一気に伸びたから。2年生の夏の時点だけを比べるなら、今の蒔田くん、松岡くん、高橋健吾くん、西田くんは、当時の星加くんを上回っている。今の1年生で言えば、仲田くん、石塚くんも1年生夏当時の星加くん以上」
「うん」
「でも、彼らが三年の夏に、今の星加くん以上になるには、並大抵の努力じゃ足りない。星加くんは、やっと成長期を迎えたばかりだった。設備の整った大学でDH専門で打撃だけに絞って練習してたら……プロに届くかどうか、そこまで期待できる成長曲線だったんだよ」
友羽は、そこで初めて、声を震わせた。
「だから、やっぱりショック」
藍乃は、何も言わずに友羽の背中をさすった。3年間、ずっと数字の側にいた友羽が、数字では説明しきれない喪失を、今、抱えている。
「友羽がそこまで悔しがってくれてるって、星加くん、知ってるのかな」
「知らなくていい。これは、私のデータの中だけの話だから」
「……伝えたら、きっと星加くん、泣くと思うよ」

今野遼太郎(捕手、副主将、最後の夏は代打要員)
友羽が、少し表情を戻して言った。
「今野くんの話は、私、好きなんだよね」
「珍しい言い方」
「身体が小さくて、身体能力は正直、高くなかった。誤解を恐れずに言うなら、スポーツが得意なタイプじゃなかった」
「うん」
「でも、頭を使って練習に取り組んで、人にも厳しいけど、誰よりも自分に厳しかった。だから、バッティングだけは本物になった。長打力はないけど、どんな形でもいいからヒットが欲しい場面での期待値は、星加くんの1.17倍で、チーム一位」
「え、星加くんより上なの!?」
「その場面に限れば、うん。今野くんは、東大に行って六大学でプレイするのが夢だって話してた。私のデータ上、現役合格の確率は……」
友羽はそこで言葉を止め、タブレットの画面を伏せた。
「これは、今野くん本人にも見せてない」
「見せなくていいよ、それは」
「うん。応援だけしてるし。努力の量も質もすごいから、ここから捲るかも知れない」

高橋歩(内野手、主将、最後の夏は守備要員兼三塁ベースコーチ)
「歩くんの話は、藍乃にした方がいいかもしれない」
友羽の声が、少しやわらいだ。
「サードの守備固めが主な役割だったけど、もし山口くんがいなかったら、レギュラーでショートを守ってたかもしれない。送球の精度は、どんな体勢からでもチーム一だった」
「歩くん、最後まで縁の下の力持ちだったもんね」
「1年生に、隠れ歩二世がいるよ」
「え、誰?」
「佐々木叡くん。佐々木兄弟の弟の方。私がアナリストのイロハを教えた、可愛いアナリストの後輩なんだけど……一年生の時の歩くんより、グラブ捌き、打球反応、スローイングは数段上のものを持ってる。アナリストより先に選手として開花するかもしれない」
「歩くんに教えてあげたら喜ぶかな」
「たぶん、喜ぶけど、少し悔しそうな顔もするかな?」
「分かる。歩くん、叡くんのことを可愛がっているけど、負けず嫌いだもんね。本質的には」
二人で、少し笑った。

■ そして、友羽が藍乃を振り返る番
「最後に、藍乃のデータ」
「私の?」
「うん。統括リーダーとして迎えた最後の夏、藍乃はスタンドから応援してた」
友羽は、少し言葉を選ぶように間を置いた。
「夏が終わった時、大号泣しそうランキング、私の予測では一位だった」
「……当たってたよ、それ」
友羽が顔を上げた。
「試合が終わった後、私、ずっと気丈に振る舞ってたの。1年生の目が腫れてるマネージャーの子たちに指示出して、蒔田くんを励まして、遼太郎くんに声をかけて。でも、歩主将が健吾くんの肩を掴んで、『ありがとうな』って泣きながら言ってるのを見た瞬間……糸が切れた」
友羽は、何も言わずに聞いていた。
「アスファルトの上に、崩れ落ちて。まだ終わりたくなかったって、誰に言うでもなく叫んでた。そのあと、友羽が来てくれて」
「……覚えてる」
友羽の声が、少しかすれた。
「私も、あの時、藍乃を抱きしめながら泣いた。あんなに泣けると思わなかった。終わった実感なかったのに」
「うん。二人で、めちゃくちゃ泣いたよね」
「予測は当たってたけど、立って我慢してたわけじゃなかったんだね、藍乃は」
「うん。最後の最後で、耐えられなかった」
友羽はタブレットを一度膝に伏せて、代わりにクマのぬいぐるみを藍乃の方に少し押しやった。
「じゃあ、これは訂正。藍乃の『学館の母指数』は、この3年で極大になった。でも、母だって泣いていい。1年生の頃の藍乃は、同級生の中で一番大人びてる方だった。今の藍乃が1年生と話してるところを見ると……先輩後輩でも、姉弟でもなく、親子に見える」
「親子って」
「データがそう言ってる」
藍乃は、しばらく黙って、クマのぬいぐるみを撫でている友羽を見ていた。それから、ぽつりと言った。
「友羽の家に来て、お母さんに、友羽が私のことよく話してたって聞いて……今日、ちょっと泣きそうだったんだよ」
「今、泣いてもいいよ。あの日、一緒に泣いた仲だから」
「もう、それ言われたら余計泣くじゃん」
そう言いながら、藍乃の目には、確かに光るものがあった。 友羽はそれを、静かに見ていた。数字にはしなかった。
3年間分のデータは、結局、深夜まで見終わらなかった。 クマは、いつの間にか二人の間に挟まれていた。 「続きは、また今度」と藍乃が言うと、友羽は「うん」とだけ返した。
データは正直だ。頑張った分だけ、数字に出る。 ──けれど、数字にできなかったものの方が、今夜は、ずっと多かった。

おまけトーク 「藍乃さんと友羽さんがいない部室は、ちょっと変な感じ」
──1年生マネージャー間山碧依 × 桜本帆乃花 × 一瀬緋菜多、3年生引退後の部室にて──
放課後のマネージャー室。テーブルには麦茶が3つ。進行役は、気づけば自然と一瀬緋菜多になっていた。
「じゃあ、始めますね。今日は藍乃さんと友羽さんについて話す会です」
桜本帆乃花がくすくす笑いながら言った。
「緋菜多ちゃん、ほんと自然に司会しちゃうよね~。頼りになる~」
「性分だから」と緋菜多は肩をすくめて軽く返す。
間山碧依はノートを丁寧に開きながら、真顔で尋ねた。
「この『話す会』ですけど、良かった話だけにしますか? それとも、悪かった話や改善点も含めますか?」
緋菜多が苦笑いする。
「碧依、そういう真面目なところが出るよね」
すると帆乃花が先に噴き出した。
「碧依ちゃん、真顔でそれ聞くのずるい!でも可愛い~」
Q. まず、それぞれの第一印象を教えてください。
一瀬緋菜多:
「私からいきます。藍乃さんは、入部初日に1年生20人以上の下の名前まで全部覚えてました。私がソフト部でキャプテンやってた時でも、そこまで早くは無理だったから、純粋にすごいなって思いました。」
桜本帆乃花:
「あるある~! 私も一瞬で名前呼ばれてびっくりしたもん。藍乃さん、記憶力すごすぎ!」
間山碧依:
「私は友羽さんの第一印象が特に強かったです。初日に『間山さん、勉強とマネージャー業を両立させて、睡眠時間が足りなくならないように気をつけてね』って指摘されました。」
一瀬:
「会って一日でそこ見抜くの、正直ちょっと怖くない?」
桜本:
「私もその話聞いた時、背筋凍った~!」
間山:
「実際そうなりやすいので、何も言い返せませんでした。でもその後、『睡眠を6時間切ると集中力のグラフはこう落ちます』ってデータまで見せてくれて……ただの指摘じゃなくて、心配してくれているのが伝わってきました。」
Q. お二人から学んだことで、一番大きかったことは?
桜本帆乃花:
「私は藍乃さんから『聞く力』を教えてもらいました。旅館のお客様の話は聞けるつもりだったけど、藍乃さんは選手の『言ってないこと』まで表情や間から読み取ってる感じがして……。『言葉にならないご要望を先回りする』みたいな。」
間山碧依:
「私は友羽さんから、記録の意味を学びました。最初はただ数字を取る仕事だと思ってたんですけど、友羽さんは『データは選手を守る盾になる』って。頑張りが目に見える形で残るからこそ価値がある、と。」
一瀬緋菜多:
「私は藍乃さんから『重圧の分け方』を教わりました。責任感が強くて全部背負い込みがちだったけど、藍乃さんはチーム全員の重さを背負ってるのに、誰よりも軽やかに見せてくれて……最後の日に『1人で背負わなくていいよ』って言われたのが心に残ってます。」
Q. 印象に残っているエピソードを教えてください。
一瀬:
「進行するね。まず帆乃花さんから。」
桜本帆乃花:
「友羽さんのギャップ話したい!普段はデータより先に誰が疲れてるか顔見て分かっちゃうくらい鋭いのに、遠征帰りのバスでぬいぐるみのクマを抱えてぐっすり寝てる姿を見て……もう、溶けたみたいで可愛くて!」
間山碧依:
「私もその時、隣で『起こした方がいいですか?』って聞いたら、帆乃花ちゃんが1人で笑いこけてました。素朴な疑問だったんですけど……」
桜本:
「それがツボに入っちゃって! 碧依ちゃんの真面目さが可愛すぎた~」
間山:
「あと、私は藍乃さんに『碧依、たまに休んでね。記録しなくていい時間も作って』って言われたこと。自分もすごく頑張ってるのに、他人の頑張りすぎを全部見抜いて声をかけてくれるんですよね。」
Q. 引退の日、あの場面を見ていましたよね。
3人とも少し表情が引き締まる。
桜本:
「話すね……私たち、あの場にいました。藍乃さんが高橋歩主将と健吾さんのやり取りを見て、糸が切れたみたいに崩れ落ちた瞬間……」
間山:
「いつも完璧で優しくて頼りがいしかなかった先輩の、初めて見る姿でした。」
一瀬:
「私はあの瞬間、藍乃さんのことをもっと好きになりました。チームのために強く『あろうとしてた』人だったんだって、改めて分かって。友羽さんも一緒に泣いて抱きしめてて……2人とも人間らしくて、でも、私たちの前では強くいてくれた。そのことに感謝したいです。」
Q. 正直、寂しいですか。
桜本帆乃花:
「めちゃくちゃ寂しいです……」
間山碧依:
「私もです。コンディション管理表の相談相手がいなくなってしまって……」
一瀬緋菜多:
「私はまだ実感が湧いてない部分があるんです。部室に入るたびに『あ、藍乃さんに報告しなきゃ』って思っちゃう瞬間があって。でも、新しいチームはこころ先輩たちが引っ張ってくれる。私たちも支える立場になったんだって、分かってはいるんですけど……2人が作ってくれたこの場所の大きさを、今頃痛感してます。」
Q. 最後に、二人に伝えたいことは?
間山碧依:
「私は……友羽さんが作ってくれたコンディション記録のシステム、ちゃんと続けていきます。途切れさせたりしないように、毎日丁寧にやっていきますね。」
桜本帆乃花:
「私は藍乃さんみたいに、選手たちの言葉にならない気持ちもちゃんと拾えるような渉外担当になりたいです。旅館でずっとやってきたホスピタリティ、ちゃんと活かして、みんなが安心できる存在になれたらいいなって思います。」
一瀬緋菜多:
「私は来年の夏、絶対にベスト8以上に連れていきます。2人が3年かけて育ててくれたこのチーム、今度は私たちが強くする番だから。……それと、単純に、今すぐ二人に会いたいです」
麦茶は3杯とも空になっていた。
ルーズリーフには几帳面な碧依の字で「藍乃さん・友羽さんに伝えたいこと」という見出しの下に、三人分の言葉が並んでいる。
緋菜多は最後にそのページを閉じながら、小さく付け加えた。
「これ、こころ先輩と絵菜先輩にも見せます。新しいチームでも、ちゃんと引き継ぎたいので。」
窓から差し込む夕方の光が、三人の影を長く伸ばしていた。

