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【特別編】甲府学館・学館祭レポート1年C組演劇『青春市場の見えざる手』全記録

甲府学館高校の学館祭。各クラスが知性を駆使した出し物で競い合う中、ひときわ異彩を放っていたのが1年C組の演劇『青春市場の見えざる手』だった。
「経済学で学園ドラマを読み解く」というコンセプトで、笑いと学びを両立させた45分間の舞台。1年生としては異例の講堂での講演は大盛況!
その裏側を、脚本・演出を担当した宮川絵菜と、キャストたちに聞いた。

前回のスピンオフ回です。


登場人物紹介

※全員甲府学館高校1年C組
【メインキャスト】
藤沢ユウタ(主人公):今井竜太(野球部内野手)
好感度ポイント不足の不器用な少年。経済学の知識だけは豊富。
春日アヤカ(ヒロイン):白石美月(チアダンス部)
誰からも好かれる優等生。好感度インフレ状態で悩んでいる。
水無月ミサキ(生徒会長):玉野こころ(野球部マネージャー)
好感度ポイント市場を裏で操る策略家。冷静沈着。
立花ケンタ(ライバル):甲賀裕大(野球部投手)
お調子者だが頭の回転が速い。ユウタの恋敵。
【サブキャスト】
桜井ハルト(文化祭実行委員長候補):飯田瑠海(野球部外野手)
黙々と仕事をこなす実務家タイプ。堅実性を重視する。
速水ソラ(放送部部長):原温人(野球部捕手兼外野手)
元気いっぱいのナレーション担当。経済理論を分かりやすく解説する。
氷室レイナ(クラス委員長):小島日華里(チアダンス部)
好感度市場崩壊を防ごうと奔走する。
葉月ナツキ(学級新聞編集長):森川陽菜(テニス部)
皮肉屋で観察眼が鋭い。市場の動向を記事にして解説する。
田中さん(購買部のおばちゃん):野田郁美(剣道部)
面倒見の良い購買部のおばちゃん。好感度ポイントの「中央銀行」的存在。市場に介入する。
寺田ツバサ(サッカー部助っ人):元山颯(サッカー部FW)
真面目だが少し抜けているムードメーカー。サッカー部の助っ人を頼まれている。
宮城レイヤ:嶋中春翔(バスケ部PG)
小柄で頑張り屋なバスケ少年。
平井アスカ:石山田寧音(吹奏楽部・トランペット)
冷静で論理的な思考の持ち主。劇中でも吹奏楽部トランペット担当。
大山ダイゴ:池谷嵩哉(バスケ部C・身長195cm)大柄で力持ち。そして優しい。あだ名はタワー
小谷ミキ:菅原絢乃(茶道部)
落ち着いた雰囲気で鋭い洞察力を持つ。
【制作スタッフ】
・脚本・演出・総監督:宮川絵菜(野球部マネージャー)
・ポスター制作:横井晴、深町望奈、倉田茜(美術部)
・予告編制作:谷将斗(サッカー部)、寺川仁華(サッカー部マネージャー)
・グッズ制作販売:浦川栞(バスケ部)、新田七星(陸上部マネージャー)、早村大進(化学部)、横川允(囲碁将棋同好会)
・音響、照明等:石川基、北川冬芽(軽音同好会)、濱田朝実(バスケ部マネージャー)
・衣装・ヘアメイク担当:南谷夏波、中浜芹香(チアダンス部)、秋田茉莉亜(家庭科部)
・広報:進藤杏珠(ESS)
・各シーンイラスト作成:一瀬勇貴(学館新聞委員会)

あらすじ

舞台は甲府学館高校。この学校には「好感度ポイント」という独自の通貨制度が存在(劇中のみ)する。良い行いをするとポイントが貯まり、そのポイントを使って、他の生徒に頼み事ができるシステムだ。
主人公のユウタは、ポイント残高マイナスの「信用不足」状態。一方、憧れのアヤカ先輩は優しすぎるあまり、発行したポイントが市場に溢れ「好感度インフレ」を起こしていた。
そんな中、文化祭実行委員長を決めるオークションが開催される。わずか10ポイントしか持たないユウタが、経済学の理論を武器に大逆転を狙う。
インフレ、機会費用、オークション理論。経済学の知恵が、彼らの青春を動かしていく。
果たしてユウタは、崩壊寸前の好感度市場の中で、アヤカに想いを伝えることができるのか─?

Scene1:好感度ポイント市場の紹介

舞台は学校の購買部前。購買部のおばちゃん・田中さん(野田郁美)がカウンターに立っている。
ナレーション(速水ソラ/原温人)「はい、注目ー! ここ甲府学館高校は、一見どこにでもあるフツーの進学校……に見えますよね? でも、少し違う! 実は劇中限定で、『好感度ポイント』っていうヤバい通貨が流通してるんです。親切にすれば貯まる、頼み事をすれば減る。まさに、友情を数字で殴り合う『信用経済』の最前線! さて、我らが主人公・ユウタくんの残高は……?」

ユウタ(今井竜太)が購買部にやってくる。手に「好感度ポイント通帳」を持っている。
田中さん(野田郁美)「はいはい、ユウタくん。今日も残高確認?」
ユウタ(今井竜太)「はい……」
田中さんが通帳を見て、眉をひそめる。
田中さん(野田郁美)「あんた、また赤字じゃない。残高マイナス20ポイント」
ユウタ(今井竜太)「すみません……友達に宿題見せてもらっちゃって、ポイント使いすぎました」
田中さん(野田郁美)「あんたねぇ、もうちょっと計画的に使いなさいよ。これじゃあ誰も君の頼みを聞いてくれないわよ」
ナレーション(速水/原温人)「これが『信用不足』! ポイントが赤字だと、誰も頼みを聞いてくれない。まるで『借金地獄』ですね!」

Scene 2:好感度インフレの弊害

舞台奥から、春日アヤカ(白石美月)が登場。複数の後輩たちに囲まれている。
後輩A「アヤカ先輩、数学教えてください!」
後輩B「先輩、生徒会の仕事手伝ってください!」
後輩C「先輩、放課後ちょっと相談に乗ってください!」
アヤカが困った表情を浮かべる。
アヤカ(白石美月)「えっと……ごめん、今日はもう予定がいっぱいで……」
後輩A「でも先輩、僕、先輩に10ポイント貸してますよ!」
後輩B「私も15ポイント!」
後輩C「僕なんて20ポイント!」
アヤカ(白石美月)「わ、わかった……じゃあ順番に……」
アヤカがため息をつく。
ナレーション(速水/原温人)「出たー! これが噂の『好感度インフレ』! アヤカ先輩、優しすぎて頼まれごとを全部引き受けちゃった結果、彼女が発行したポイントが市場に溢れかえってます! 希少価値はゼロ、もはやアヤカポイントは暴落の一途! 善意が自分を苦しめる……これぞ経済の皮肉です!」

学級新聞編集長の葉月ナツキ(森川陽菜)が学級新聞を配りながら通りかかる。
ナツキ(森川陽菜)「号外です! アヤカ先輩の好感度ポイント、ついに発行量1000ポイント突破! 市場では『アヤカポイント安すぎ問題』が話題になっています!」
後輩A「え、マジ? じゃあ俺、アヤカ先輩のポイント100ポイント持ってるけど、価値ないってこと?」
後輩B「そういうこと。インフレってやつだね」

アヤカが肩を落とす。
アヤカ(白石美月)「私、みんなの役に立ちたかっただけなのに……」
生徒会長のミサキが励ます。
ミサキ(玉野こころ)「アヤカさん、無理しちゃダメ。みんなに優しくしすぎて疲れちゃうのはもったいないよ。せっかく素晴らしい制度があるのだから、もっと自分を助けるために使って。大丈夫、私がついてるから」
ナレーション(速水/原温人)「インフレの弊害! ポイントが増えすぎると、一つ一つの価値が下がる。アヤカ先輩の善意が、皮肉にも彼女を苦しめています!」

Scene 3:ユウタの想い

ユウタ(今井竜太)が、購買部の隅でアヤカを見つめている。
ユウタ(今井竜太)「春日アヤカさん……優しくて、頭が良くて、みんなから好かれてる。僕なんかじゃ、釣り合わない」
購買部のおばちゃん・田中さん(野田郁美)がユウタの肩を叩く。
田中さん(野田郁美)「ユウタくん、好きなの? アヤカちゃん」
ユウタ(今井竜太)「え!? ……バレてます?」
田中さん(野田郁美)「バレバレよ。でもね、あんたの好感度ポイント、マイナス20。アヤカちゃんに告白しても、成功率ゼロよ」
ユウタ(今井竜太)「……わかってます」
ナレーション(速水/原温人)「キツイ! キツすぎる! これが『市場の非情な法則』! ポイントがマイナスの人間が何を言っても、世間様は『信用』してくれません。恋愛だって、まずは『格付け』から。ユウタくん、現在の評価は……残念、ジャンク債扱いです!」

Scene 4:文化祭実行委員長オークション

教室。生徒会長のミサキ先輩(玉野こころ)、クラス委員長の氷室レイナ(小島日華里)、が登壇する。
レイナ(小島日華里)「それでは、文化祭実行委員長を決めます。今回は『オークション方式』です。立候補者は、好感度ポイントを入札してください。最も高い額を入札した人が委員長になります」
ミサキ(玉野こころ)「みんな、準備はいい? 好感度ポイントは単なる数字じゃなくて、君たちが積み上げてきた信頼の証だよ。誰が委員長にふさわしいか、最高の形で証明してみてね。期待してるわ」
ナレーション(速水/原温人)「さあ、祭りが始まりました! 委員長の座を賭けたポイント・バトル! ……ん? ユウタくん、たった10ポイントで勝負に出るのか!? 」

桜井ハルト(飯田瑠海)が静かに手を挙げる。
桜井(飯田瑠海)「僕は……300ポイント」
立花ケンタ(甲賀裕大)が手を挙げる。
ケンタ(甲賀裕大)「俺、500ポイント入札!」
会場:「おおー!」
ナレーション(速水/原温人)「ケンタくん、大量ポイント投入! さすがお調子者、ポイント貯め込んでますね!」
レイナ(小島日華里)「他に立候補者は?」
ユウタ(今井竜太)が手を挙げる。
ユウタ(今井竜太)「僕も立候補します」
会場:「ええっ!?」
ナツキ(森川陽菜)「ユウタくん、ポイントマイナスなのに!?」
購買部のおばちゃん・田中さん(野田郁美)が通帳を確認する。
田中さん(野田郁美)「あ、今朝入金があったわね。クラスメイトの宿題手伝って、30ポイント獲得。現在残高、プラス10ポイント」
ケンタ(甲賀裕大)「はっ! たった10ポイントで何ができるんだよ!」

ユウタがニヤリと笑う。
ユウタ(今井竜太)「レイナさん、このオークション、『セカンドプライスオークション』ですよね?」
レイナ(小島日華里)「え? ……ええ、そうです」
会場「セカンドプライス?」
ユウタ(今井竜太)「セカンドプライスオークションとは、最高額入札者が落札するけど、支払うのは『2番目に高い金額』っていうルールです」
ナレーション(速水/原温人)「セカンドプライスオークション! これは『ヴィックリー・オークション』とも呼ばれ、入札者が自分の本当の評価額を正直に入札するように設計されたシステムです!最高額を提示した人が勝つけど、払うのは2番目の金額……。このルールの裏を突いた、ユウタの心理戦が火を噴くぞ!」

ユウタ(今井竜太)「レイナさんがこのルールを採用したのは、『吹っ掛け入札』を防ぐためですよね。例えば、ケンタくんが500ポイント入札しても、僕が10ポイントで入札すれば……」
ケンタ(甲賀裕大)「俺が落札するけど、支払うのは10ポイントってこと!?」
ユウタ(今井竜太)「そうです。つまり、ケンタくんは実質10ポイントで委員長になれる。でも……もし僕が10ポイント入札した後、ケンタくんが『やっぱり委員長面倒くさいな』って入札を取り下げたら……」
レイナ(小島日華里)「……2番目の入札者、桜井くんの300ポイントが基準になって、桜井くんが10ポイントで落札……?」
ユウタ(今井竜太)「いえ、桜井くんも『ユウタが委員長でいいよ』って取り下げたら、僕が最高額入札者になる。そして2番目がいなければ、僕は『0ポイント』で委員長になれます」
会場「ええええ!?」
ケンタ(甲賀裕大)「ちょ、待て! それズルくね!?」
ユウタ(今井竜太)「ズルじゃないです。セカンドプライスオークションの仕組みを利用しただけです。それに、ケンタくん……よく考えてみて。500ポイントって、すごい額ですよ」
ユウタが指を折りながら数え始める。

ユウタ(今井竜太)「500ポイントあれば、アヤカ先輩に個別指導を20回頼める。田中さんから購買部の特製パンを100個買える。クラスメイト50人に宿題を見せてもらえる。それに……来月の修学旅行、自由行動のグループ編成権も買えますよね?」
ケンタ(甲賀裕大)「……!」
ナツキ(森川陽菜)「あ、そうだ! グループ編成権、確か400ポイントで取引されてた!」
ユウタ(今井竜太)「ケンタくん、君は修学旅行で好きな子と同じグループになりたいって言ってましたよね? 500ポイント使って、たった3日間の文化祭準備のリーダーになるのと……500ポイント温存して、4泊5日の修学旅行で好きな子と一緒に過ごすの。どっちが価値あります?」

ケンタの顔が真っ赤になる。
ケンタ(甲賀裕大)「お、おまえ……!」
クラスメイトA「ケンタ!修学旅行で誰と一緒になりたいの?」
ケンタ(甲賀裕大)「う、うるせぇ! ……くそっ」
ナレーション(速水/原温人)「見ろ! これが『機会費用』の魔力! 何かを選ぶってことは、他の何かを捨てるってこと。修学旅行の夢を人質に取られて、ケンタくん、一気に戦意喪失だー! 500ポイントの『重み』が、彼を現実に引き戻した!」

ユウタ(今井竜太)「それに、文化祭実行委員長って、準備期間中は毎日放課後居残りです。朝も早く来なきゃいけない。その時間とポイント、本当に委員長の肩書きに見合いますか?」
ケンタが悩む表情を見せる。額に汗が浮かんでいる。
ケンタ(甲賀裕大)「は? 待てよ。500ポイントでアヤカさんの個別指導20回分に、修学旅行のグループ決めまで? おいマジか。文化祭の準備で居残りして、ポイント使い切って、修学旅行でボッチ飯とか無理だわ! あーもう降りる! 委員長なんてガラじゃねーんだよ!」
桜井(飯田瑠海)「僕も、別にユウタくんでいいよ。彼、頭いいし。僕は300ポイント、他のことに使いたい」
ケンタと桜井が入札を取り下げる。
レイナ(小島日華里)「では……0ポイントでユウタくんが文化祭実行委員長に決定しました」
会場「おおおー!」
ナレーション(速水/原温人)「決着! 少ない軍資金で最大の結果をぶち抜く……これぞオークション理論の勝利! ユウタくん、経済学の知識を武器に、下剋上完了です!」

Scene 5:シグナリング戦略

文化祭の準備が始まる。ユウタ(今井竜太)が、アヤカ(白石美月)に近づく。
ユウタ(今井竜太)「あの、アヤカさん。装飾の案、良かったら一緒に考えませんか?」
アヤカ(白石美月)「え? いいの? ユウタくん、委員長で忙しいでしょ?」
ユウタ(今井竜太)「大丈夫です。アヤカさんのアイディア、すごく参考になるので」
アヤカが微笑む。
アヤカ(白石美月)「ありがとう、ユウタくん」
ナレーション(速水/原温人)「(ヒソヒソ声で)おっと、ここからユウタくんの『シグナリング戦略』がスタート。コツコツと親切を積み上げて、『僕は優良銘柄ですよー』っていう信号をアヤカ先輩に送り続けます。企業のテレビCMと同じですね。好感度は、一日して成らず!」

翌日。アヤカが重い段ボールを運んでいる。ユウタが駆け寄る。
ユウタ(今井竜太)「アヤカさん、手伝います!」
アヤカ(白石美月)「ありがとう! 助かる!」

数日後。アヤカがユウタに微笑みかける。
アヤカ(白石美月)「ユウタくん、最近よく助けてくれるね。ありがとう」
ユウタ(今井竜太)(小声で)「よし……好感度、少しずつ上がってる」
ナレーション(速水/原温人)「これが『シグナリング理論』! 自分の価値を『シグナル(信号)』で伝えることで、相手に信頼してもらう戦略です! ちなみに、高額な結婚指輪を渡すこともシグナリングの一種なんです!」

Scene 6:レモン市場の出現

文化祭準備が進む中、購買部前に生徒たちが集まっている。寺田ツバサ(元山颯)が困った顔で立っている。
ツバサ(元山颯)「誰か、文化祭の看板作り手伝ってくれない? 好感度ポイント20払うから!」
数人の生徒が手を挙げる。
生徒A「俺やる! 俺、好感度ポイント増やしたいし!」
ツバサ(元山颯)「マジ!?助かる! じゃあ明日から頼むね!」

翌日。ツバサ(元山颯)が愕然とした表情で立っている。看板は雑に描かれ、文字は歪んでいる。
ツバサ(元山颯)「え…これ…」
生徒Aは既にどこかへ行ってしまっている。

宮城レイヤ(嶋中春翔)が近づいてくる。
レイヤ(嶋中春翔)「ツバサ、どうした?」
ツバサ(元山颯)「ポイント払って看板頼んだのに、こんな適当な仕事されて…もう生徒A、ポイントだけ受け取って逃げちゃったよ」
ナレーション(速水/原温人)「おやおや、雲行きが怪しくなってきたぞ……。これぞ経済学のホラー、『レモン市場』の出現だ! 誰が真面目に働くか分からない。善意の裏側に潜む『情報の非対称性』が、クラスの絆をジワジワと侵食し始めた……!」

別の場所。平井アスカ(石山田寧音)が困っている。
アスカ(石山田寧音)「音響調整手伝ってくれるって言ってた人、全然来ないんだけど…ポイント、先払いしちゃったのに」
大山ダイゴ(池谷嵩哉)が肩をすくめる。
ダイゴ(池谷嵩哉)「俺も、装飾の資材運び頼んだけど、半分しか運んでくれなかった。『疲れたから』って途中で帰られた」

教室。ナツキ(森川陽菜)が学級新聞の号外を配る。
ナツキ(森川陽菜)「号外です! 好感度ポイント市場に異変! 『質の低いサービス』が急増中! これぞ『レモン市場』の出現です!」
茶道部の小谷ミキ(菅原絢乃)が新聞を読みながら首を傾げる。
ミキ(菅原絢乃)「レモン市場? レモン?」

ユウタ(今井竜太)が前に出て解説する。
ユウタ(今井竜太)「『レモン市場』とは、経済学者ジョージ・アカロフが提唱した理論だ。中古車市場で、質の悪い車を『レモン』と呼ぶことから名付けられた」
ナレーション(速水/原温人)「レモン市場! 情報の非対称性がある市場では、質の悪い商品ばかりが出回ってしまう現象です!」
ユウタ(今井竜太)「今、この好感度ポイント市場で何が起きてるか?みんな、相手の『実力』や『誠実さ』を事前に知ることができない。だから、ポイントを受け取った人の中には、適当な仕事をして逃げる人が出てくる」
レイヤ(嶋中春翔)「確かに…誰が本当に真面目に働くか、依頼する前にはわからないもんな」
ユウタ(今井竜太)「『真面目に働く人』と『適当に働く人』が同じ市場に混在する。でも依頼者は区別できないから、両方に同じポイントを払う」
ツバサ(元山颯)「それって、真面目な人が損するってこと?」
ユウタ(今井竜太)「そう。真面目に働く人ほど『この仕事、割に合わない』と思って市場から去っていく。結果、『適当に働く人』ばかりが残る。これがレモン市場だ」
アスカ(石山田寧音)「まさに今、それが起きてる…」

生徒会長ミサキ(玉野こころ)が腕を組んで登場する。
ミサキ(玉野こころ)「面白い展開ね。これも予想通り」
レイナ(小島日華里)「ミサキ先輩! どうすればいいんですか? このままじゃ、誰も信用してポイントを使えなくなる!!」
ミサキ(玉野こころ)「レモン市場を解決する方法は、いくつかある。一つは『シグナリング』──自分の質の高さを証明する信号を送ること」
ユウタ(今井竜太)「それは、僕がアヤカさんにやってること…」
ミサキ(玉野こころ)「もう一つは『スクリーニング』──依頼者側が、相手の質を見極める仕組みを作ること。例えば、『評判システム』や『レビュー制度』ね」
ナツキ(森川陽菜)「なるほど! じゃあ、学級新聞で『好感度ポイント取引の評価欄』を作ります! 『この人は真面目に働いた』『この人は適当だった』って記録を残す!」
ミキ(菅原絢乃)「それなら、質の高い人が評価されて、質の低い人は依頼が来なくなるね」
ダイゴ(池谷嵩哉)「いいね! それなら安心してポイント使える!」

購買部のおばちゃん・田中さん(野田郁美)が登場。
田中さん(野田郁美)「ちょっと待った!それって、『評判』を偽装する人が出てくるんじゃない?」
ユウタ(今井竜太)「…その通りです。友達同士で高評価をつけ合ったり、自作自演したり…」
ミサキ(玉野こころ)「そう。レモン市場の解決策も、完璧じゃない。それが、市場の限界」
ナレーション(速水/原温人)「教訓! 数字だけじゃ、人の誠実さは測れない。情報の歪みが、市場を、そしてクラスを壊していく……。ユウタくん、このピンチをどう乗り切る!?」

ツバサ(元山颯)がため息をつく。
ツバサ(元山颯)「結局、ポイントだけじゃダメってことか。相手を信頼できるかどうか、それが一番大事なんだな」
アスカ(石山田寧音)「そう。数字じゃなくて、人を見ないと」
レイヤ(嶋中春翔)「でも、それって最初から『ポイントなんていらない』ってことじゃん」
ミキ(菅原絢乃)「そうね。結局、人間関係は数値化できないってことよ」
ユウタ(今井竜太)「市場の限界…か。僕も、ポイントだけでアヤカさんを振り向かせようとしてた。でも、それだけじゃダメなんだ」

Scene 7:サンクコスト(埋没費用)の罠

文化祭準備の途中、ツバサ(元山颯)が大量の装飾材料を抱えて困っている場面。
ツバサ(元山颯)「やばい…段ボールアート、もう3日も作業してるのに全然完成しない…」
ミキ(菅原絢乃)が茶道部らしい落ち着いた口調で声をかける。
ミキ(菅原絢乃)「ツバサくん、それ、もう方向転換した方がいいんじゃない?」
ツバサ(元山颯)「でも、ここまで時間かけたのに諦めるなんて…もったいないよ!」
ナレーション(速水/原温人)「あー、典型的な『サンクコスト(埋没費用)の罠』にかかってますね、ツバサくん。今までかけた時間がもったいなくて、泥沼から抜け出せない!」

ミキ(菅原絢乃)「茶道ではね、『割れた茶碗を繕うより、新しい茶碗で点てる』っていう​​​​​​​​​​​​​​​​判断も大切なの。過去の投資じゃなくて、これからの価値で判断しないと」
ユウタ(今井竜太)が通りかかる。
ユウタ(今井竜太)「その通りだ。経済学では『サンクコストは意思決定に含めない』が鉄則。ツバサ、君がここで使うべきなのは『残り時間で最大の成果を出せる選択肢』だよ」
ツバサ(元山颯)「…わかった。段ボールアート、諦める。代わりに得意な絵でポスター描く!」
ナレーション(速水/原温人)「正しい判断!過去は変えられない。未来の価値を最大化する、それが経済合理性です!」

Scene 8:比較優位と分業

文化祭の看板制作で、宮城レイヤ(嶋中春翔)と大山ダイゴ(池谷嵩哉)、平井アスカ(石山田寧音)が作業している場面。
レイヤ(嶋中春翔)が看板の上部を塗っている。背が低いため苦戦中。
レイヤ(嶋中春翔)「うーん、届かない…」
身長195cmバスケ部のタワーこと大山ダイゴ(池谷嵩哉)が見かねて声をかける。
ダイゴ(池谷嵩哉)「レイヤ、俺が上の方やるよ。お前は下の細かい文字、得意だろ?」
レイヤ(嶋中春翔)「でも俺、全部自分でやろうと思ってて…」
アスカ(石山田寧音)がトランペットの手入れをしながら言う。
アスカ(石山田寧音)「吹奏楽部でもそうだけど、みんなが得意なパートを担当した方が、全体の音が良くなるんだよ」
ナレーション(速水/原温人)「これぞ『比較優位の原理』!経済学者デヴィッド・リカードが提唱した、分業と貿易の基礎理論です!」
ユウタ(今井竜太)が説明を加える。
ユウタ(今井竜太)「たとえダイゴが細かい作業も上手くできたとしても、彼の『身長という絶対優位』を活かせる高所作業に専念した方が、全体の効率は上がる。レイヤは細かい作業で比較優位を発揮する。それが『分業』だ」
ダイゴ(池谷嵩哉)「なるほど。じゃあ俺は高いところ専門で」
レイヤ(嶋中春翔)「俺は細かい文字とデザイン担当!」
アスカ(石山田寧音)「私は音響チェック!それぞれの得意分野で!」

ナツキ(森川陽菜)が記事を書きながら呟く。
ナツキ(森川陽菜)「見出し:『1年C組に学ぶ、比較優位による生産性向上』…と」
ナレーション(速水/原温人)「これぞチームプレーの極意、『比較優位の原理』! 全員が『自分にしかできないこと』に特化すれば、クラスの生産性は爆上がり! 凸と凹が噛み合えば、1+1は3にも4にもなるんです!これが経済成長の秘訣です!」

Scene 9:機会費用と選択

文化祭直前、ツバサ(元山颯)とレイヤ(嶋中春翔)が選択を迫られる場面。
ツバサ(元山颯)「やばい!サッカー部の助っ人頼まれた。でも劇の最終リハーサルもある…」
レイヤ(嶋中春翔)「俺も劇の打ち上げとバスケ部の練習と被ってる。どうしよう…」
ミキ(菅原絢乃)が落ち着いて言う。
ミキ(菅原絢乃)「それって『機会費用』の問題だね」
ナレーション(速水/原温人)「登場!『機会費用(オポチュニティ・コスト)』!何かを選ぶということは、他の選択肢を諦めるということ。その諦めた選択肢の価値が機会費用です!」
アスカ(石山田寧音)「トランペットとホルン、両方できても演奏会ではどちらかしか演奏できないのと同じだね」

ユウタ(今井竜太)が冷静に分析する。
ユウタ(今井竜太)「経済学では、選択の価値は『得られるもの』だけじゃなく『失うもの』も含めて考える。ツバサ、君がサッカーを選ぶなら、劇の完成度という機会費用を払う。レイヤ、君がバスケを選ぶなら、仲間との思い出という機会費用を払う」

ダイゴ(池谷嵩哉)が両肩を叩く。
ダイゴ(池谷嵩哉)「でもな、どっちを選んでも『正解』はある。大事なのは、自分が後悔しない選択をすることだ」
ツバサ(元山颯)「…俺は劇を選ぶ。サッカーの試合はまだあるけど、この仲間との舞台は今日だけだ」
レイヤ(嶋中春翔)「俺も劇の打ち上げ!バスケの練習は毎日あるけど、1年C組の打ち上げは一度きりだから」
ミキ(菅原絢乃)が微笑む。
ミキ(菅原絢乃)「良い選択。『希少性』の高い方を選んだね」
ナレーション(速水/原温人)「究極の選択……。何かを得れば、何かを失う。『希少性』の高い一生モノの思い出か、いつもの部活か。機会費用を天秤にかけて、彼らは自分だけの『正解』を選び取ろうとしています!」

Scene 10:市場の崩壊──ケンタの買収作戦

ある日、ケンタ(甲賀裕大)が教室の隅で、クラスメイトたちに声をかけている。
ケンタ(甲賀裕大)「なあ、お前ら。俺に好感度ポイント売ってくれよ。1ポイント100円で買い取る」
クラスメイトA「マジで!?売る売る!」
クラスメイトB「俺も! 30ポイント持ってるから、3000円だ!」
ナレーション(速水/原温人)「おっと、これはマズイ! 好感度ポイントが『商品化』されてしまった! 信用経済が、金銭経済に取って代わられようとしています!」
学級委員長レイナ(小島日華里)が慌てて駆け寄る。
レイナ(小島日華里)「ちょっと待って! ケンタくん、それはルール違反じゃない!?」
ケンタ(甲賀裕大)「ルール違反? どこにも『ポイントを売買してはいけない』なんて書いてないぜ?」
レイナ(小島日華里)「それは……」

葉月ナツキ(森川陽菜)が学級新聞を配り始める。
ナツキ(森川陽菜)「号外! 好感度ポイント市場、崩壊の危機! ケンタくんの買収により、ポイントの信頼性が揺らいでいます! もはや『信用』ではなく『金』で動く市場に!」
教室が騒然とする。
クラスメイトC「じゃあ俺も売ろうかな」
クラスメイトD「ポイント貯めるより、売った方が得じゃん!」
ナレーション(速水/原温人)「あらあら。これはマズイですよ! 信用経済に『現金』が殴り込んできた! ポイントの現金買収……これぞ『モラルハザード』! 市場のルールが、人間の欲によって根底から覆されようとしています! 市場が暴走しています!」

Scene 11:黒幕の登場──ミサキの真意

混乱する教室に、生徒会長の水無月ミサキ(玉野こころ)が入ってくる。冷静な表情。
ミサキ(玉野こころ)「ふふふ。予想通りね」
レイナ(小島日華里)「ミサキ先輩 !?どういうことですか?」
ミサキ(玉野こころ)「私は最初から、この市場を予想していた。『需要と供給』『インフレ』『モラルハザード』……人間の行動は、経済学で予測できる」
ユウタ(今井竜太)「まさか……ミサキ先輩が、この『好感度ポイント制度』を作ったんですか?」
ミサキ(玉野こころ)「そう。クラスの自治実験として提案した。そして、ケンタくんが買収に走ることも、市場が混乱に陥ることも、全て計算通り」
ケンタ(甲賀裕大)「おい、俺を実験台にしたってこと!?」
ミサキ(玉野こころ)「怒らないで。あなたは『合理的経済人』として、完璧に行動した。金銭的利益を追求するのは、経済学的には正しいのよ」
ナレーション(速水/原温人)「ここで真打登場! 生徒会長ミサキ先輩、実はこの市場の設計者だった!なんとこのカオス、全ては彼女の掌の上だったのか!?」

購買部のおばちゃん・田中さん(野田郁美)が購買部のカウンターからゆっくり立ち上がる。
田中さん(野田郁美)「ちょっと待った!!」
全員が田中さんを見る。
田中さん(野田郁美)「ミサキちゃん。あんた、『全て計算通り』って言ったわね?」
ミサキ(玉野こころ)「? はい、そうですが」
田中さん(野田郁美)「じゃあ聞くけど。購買部のおばちゃんの残業時間は、計算に入ってた?」
ミサキ(玉野こころ)「……え?」
田中さん(野田郁美)「この1ヶ月、私ね、毎日30分残業してんのよ。『このパン、ポイントで買えますか?』『今日のレート教えてください』『ポイント分割払いできますか?』って!私、パン売るおばちゃんよ?為替トレーダーじゃないのよ!」
ナツキ(森川陽菜)(メモを取りながら)「これは……『天才生徒会長、購買部のおばちゃんに論破される』……!」
ミサキ(玉野こころ)「あ、あの……それは……」
田中さん(野田郁美)「天才サマも、現場の苦労は計算外だったってわけね」
ミサキ(玉野こころ)(珍しく気まずそうに)「……申し訳ございません。取引コストの試算が甘かったようです」
ケンタ(甲賀裕大)(小声で)「ミサキ先輩、意外と抜けてるとこあるんだな……」
田中さん(野田郁美)「まあ、いいわ。でも今度から実験するなら、現場にも相談してよね。机上の空論じゃわからないこともあるのよ」
ミサキ(玉野こころ)「……仰る通りでございまする」
会場、笑い。緊張が少しほぐれる。
ナレーション(速水/原温人)「購買部のおばちゃんがブチギレだー! 理論では完璧でも、現場の苦労は計算外。これはあるある問題!これぞ『取引コスト』の逆襲! 天才生徒会長も、おばちゃんの残業代までは予測できなかったー!」

ミサキ(玉野こころ)(気を取り直して)「……田中さんのご指摘、その通りです。でも、これで証明された。市場は、必ず失敗する。人間の『信頼』は、数値化できない。してはいけない。それを皆に知ってもらいたかった」

アヤカ(白石美月)が一歩前に出る。
アヤカ(白石美月)「ミサキ先輩……私、ずっと苦しかったんです。みんなの頼みを聞きすぎて、ポイントがインフレして。私の好意が、数字に変わって、価値が下がっていく。それが辛くて」
ミサキ(玉野こころ)「ごめんなさい、アヤカさん。でも、あなたのその苦しみこそが、『市場の限界』を示している。人間の善意は、市場では測れない」

沈黙が教室を包む。ナレーションの速水ソラ(原温人)が、ゆっくりと前に出てくる。
速水(原温人)「皆さん、ここで少し経済用語の解説をさせてください」
速水が観客に向き直る。
速水(原温人)「まず『市場の失敗』。これは、市場メカニズムが資源を効率的に配分できない状態のことです。今回のように、『信頼』や『善意』といった数値化できない価値は、市場では適切に評価されません」
速水(原温人)「次に『モラルハザード』。これは、責任を問われないと分かると、人が無責任な行動を取りやすくなる現象です。ケンタ君がポイントで買収を試みたのも、ある意味これに当てはまります」
速水(原温人)「そして『外部性』。ある人の行動が、他の人に意図しない影響を与えることです。アヤカ先輩が優しさからポイントを発行しすぎた結果、市場全体がインフレを起こした──これが『負の外部性』の例ですね」
速水が一呼吸置く。
速水(原温人)「でも、経済学が教えてくれるのは、『市場の限界』だけじゃない。『人間がどう行動するか』を理解することで、より良いルールを作ることもできるんです」
速水がミサキ先輩を見る。
速水(原温人)「みんな、よーく聞いてください。ミサキ先輩がこの実験で教えたかったこと……それは、『市場は万能じゃない』ってこと。数字にできない『信頼』や『思いやり』こそが、市場を、そして社会を支える最後の砦なんです!」
レイナ(小島日華里)「……なるほど。経済学って、冷たい学問じゃなくて、むしろ人間を理解するための学問なんだね」
速水(原温人)「その通り! さあ、物語の続きを見届けましょう!」
速水が再び舞台袖に下がる。

Scene 12:ユウタの決断──市場を超えて

ユウタ(今井竜太)が舞台中央に立つ。
ユウタ(今井竜太)「ミサキ先輩の言う通りだ。好感度ポイントなんて、所詮は数字。僕も、オークション理論を使って委員長になった。シグナリングでアヤカさんに近づいた。全部、計算だった」

会場がシーンとなる。
ユウタ(今井竜太)「でも……それだけじゃダメなんだ。本当に大切なのは、数値化できない『気持ち』だ!」
ユウタが、アヤカ(白石美月)に向き直る。
ユウタ(今井竜太)「アヤカさん。僕は、好感度ポイントが足りない。経済学的には、僕が告白するなんて非合理的な選択だ。成功率はほぼゼロ。でも……それでも、君に伝えたい。アヤカさん。あなたのことが好きです!!!」

会場 うぉぉぉーー!!!
ナレーション(速水/原温人)「ユウタくん、遂に勝負に出ました。成功率ゼロ、投資効率サイアク。でも、だからこそ尊い! 経済合理性をゴミ箱に捨てて、剥き出しの心が叫ぶ! 市場原理をも超えた、たった一人の人間としての、大博打だ!」

アヤカが驚いた表情を見せ、そして優しく微笑む。
アヤカ(白石美月)「ユウタくん……ありがとう。でも……ごめんなさい」
ユウタ(今井竜太)「……そっか」
ユウタが少し肩を落とすが、すぐに顔を上げる。
アヤカ(白石美月)「でもね、ユウタくんの勇気は本物だと思う。好感度ポイントなんて関係なく、真っ直ぐに気持ちを伝えてくれた。その気持ち、すごく嬉しかった」
ユウタ(今井竜太)「……ありがとう、アヤカさん。振られちゃったけど、この経験の価値は、数値化できない。これも、投資だ」
ユウタが笑顔を見せる。

Scene 13:市場の終わり、そして新しい始まり

購買部のおばちゃん・田中さん(野田郁美)が再び舞台中央に登場。
田中さん(野田郁美)「はいはい、皆さんお疲れ様。好感度ポイント市場は、本日をもって閉鎖します。これからは、ポイントなしで、素直に『ありがとう』『ごめんね』『好きだよ』を言い合いましょうね」

ナレーション(速水/原温人)「そして、甲府学館高校1年C組は、元の平和な日常に戻りました──」
レイナ(小島日華里)が前に出る。
レイナ(小島日華里)「うぅぅ......好感度市場を守りきれなかった......」
レイナ(小島日華里)「でも、この経験は無駄じゃなかった。市場の仕組みも、限界も、本当に大切なことも全部学べた。本当にありがとう!」
ケンタ(甲賀裕大)が照れくさそうに続ける。
ケンタ(甲賀裕大)「人間って、数字だけじゃ動かないんだなってわかった。心が大事なんだな」
「いやいや。待てよ!好感度ポイント市場が廃止になったら、俺の修学旅行自由行動のグループ編成権はどうなる!?大好きなあの子との4泊5日は!?」
ケンタ(甲賀裕大)が地団駄を踏んで悔しがる。

アヤカ(白石美月)が微笑む。
アヤカ(白石美月)「『ありがとう』の価値は、ポイントじゃ測れない」
ミサキ(玉野こころ)が満足そうに頷く。
ミサキ(玉野こころ)「実験、大成功ね!」
田中さん(野田郁美)「ええ、大成功だったわね。だからこそ言わせてもらうわ」

田中さんがゆっくりと、購買部の値札ボードをひっくり返す。ガチャン

そこには新価格表。
パン各種:全品一律 180円
(今までは120円だった)

田中さん(野田郁美)「えー。明日から、購買部のパン、全品180円にします」
全員:「ええええ!!」
ケンタ(甲賀裕大)「おいおい。マジかよ。なんで!?」
田中さん(野田郁美)「この1ヶ月の『取引コスト』を回収するためよ。私の残業代!これも経済学でしょ?」
ミサキ(玉野こころ)「……完璧な理論武装でございます」
田中さん(野田郁美)「ミサキちゃんに教わったわ。ありがとうね」
ナレーション(速水/原温人)「逆襲の購買部!経済学は、誰にでも使えるのです!」
ナレーション(速水/原温人)「こうして甲府学館高校1年C組は、ポイント経済の悪夢から目覚めたと思ったら、今度はパン180円経済の悪夢が始まったのであった!」

全員が舞台に並び、一礼。
全員「ありがとうございました!」
ナレーション(速水/原温人)「こうして、ポイント経済の狂乱は終わった。
しかし、翌日のクラスLINEには、相変わらず『ノート見せて!』という言葉が飛び交っている。
違いは一つだけ。
誰もそれをポイントに換算しようとはしなくなったこと。
……まあ、購買部のパンが180円に値上げされたせいで、みんなノートを見せる見返りに『パンの半分』を要求するようになったんだけど。
通貨が変わっても、人間のしたたかさは、見えざる手でも制御不能なようだ」

彼らにとって、青春そのものが、損得だけでは測れない投資だったのかも知れない。

制作秘話:キャストたちが語る舞台裏

今井竜太(主演ユウタ役・企画)
「最初は『経済学って難しそう』ってクラスメイトに言われたんです。でも、『恋愛とか友情とか、身近なことに当てはめれば絶対面白い』って信じて企画を進めました。セカンドプライスオークションの場面は、自分でも『これ、うまく説明できるかな』って不安だったんですけど、何度もリハーサルして、わかりやすくしました」
白石美月(アヤカ役)
「最初、台本読んだ時『好感度インフレって何?』って思いました(笑)。今井君が『君はみんなから頼られすぎて、ポイント発行しすぎてる状態』って説明してくれて、『ああ、なるほど!』って。演じながら、『優しすぎるのも考えものだな』って実感しました」
玉野こころ(ミサキ役)
「黒幕役、めちゃくちゃ楽しかったです!最初は『優しい生徒会長』のフリをして、最後に『実は全部計算してました』って種明かしするシーン。あの瞬間、客席がざわついたのが聞こえて、『やった!』って思いました。演出の宮川さんからは『冷静に。でも少しだけ優越感を滲ませて』ってディレクションをもらって。難しかったけど、やりがいがありました」
甲賀裕大(ケンタ役)
「僕の役は『悪役っぽいけど実は合理的』っていう設定で。ポイント買収のシーンは、わざと嫌な奴っぽく演じたんですけど、実は経済学的には正しい行動をしてるっていうのが面白くて。お客さんも最初は『え、ひどい!』って反応だったのが、ミサキ先輩の説明シーンで『あ、そういうことか』って納得してくれたみたいで嬉しかったです」
原温人(ナレーション・速水ソラ役)
「ナレーションって地味だと思われがちなんですけど、この劇では経済用語を解説する重要な役割だったので、やりがいがありました。『インフレ』とか『モラルハザード』とか、難しい言葉をどう分かりやすく伝えるか。リハーサルで何度も言い方を変えて、一番しっくりくる表現を探しました。本番で客席から『なるほど!』って声が聞こえた時は最高でしたね」
野田郁美(田中さん役)
「購買部のおばちゃん役、最初は『ただの脇役かな』って思ってたんですけど、実は『中央銀行』的な重要な役だって聞いて驚きました。ユウタ君とのやりとりでは、『厳しいけど優しい』っていうバランスを意識して。コメディ要素も入れつつ、経済の仕組みをさりげなく説明する。経済の番人みたいな気持ちになれて楽しかったです!」
小島日華里(レイナ役)
「レイナは、秩序を守ろうと孤軍奮闘する役どころ。演じながら一番辛かったのは、自分が信じて守ってきた『ポイント制度』が崩壊していく瞬間でした。ユウタ君がオークションで理論をぶつけてくるシーンでは、委員長としてのプライドと、彼の知性に圧倒される感覚をどう両立させるか、舞台上でずっと葛藤していました。最後、数字に頼らずに『ありがとう』と口にする時のあの清々しさは、レイナとしての解放感であると同時に、この舞台を全力でやり遂げた私自身の達成感そのものでした」
森川陽菜(ナツキ役)
「学級新聞編集長っていう役、最初は『ただ新聞配るだけ?』って思ってたんですけど、実は観客に状況を説明する重要な役だって気づいて。しかも皮肉屋っていう設定が面白くて。『号外です!』って言いながら、ちょっと嫌味っぽく市場の問題点を指摘する。その塩梅が難しくて、でも楽しかったです」
飯田瑠海(桜井役)
「セカンドプライスオークションのシーンで、僕が入札を取り下げる場面。あそこ、すごく重要なんですよね。『ユウタ君でいいよ』って一言言うだけなんですけど、あの一言で話の流れが変わる。リハーサルで今井君と『どういうトーンで言うか』って何度も相談しました。最終的には、『信頼してる感じ』を出すために、穏やかに、でもハッキリと言うことにしました」
元山颯(ツバサ役)
「レモン市場の『被害者』役、演じてて悔しかったです(笑)。でも『情報の非対称性』って言葉、すごく実感できました。ネットで物を買う時も、レビューがないと不安になるのって、まさにこれですよね」
石山田寧音(アスカ役)
「音響トラブルのシーン、リアルでした。文化祭準備でも、『やるって言ったのにやらない人』いますもんね…それが経済学で説明できるなんて」
池谷嵩哉(ダイゴ役)
「『質の高い人が市場から去る』っていう説明、なるほどって思いました。真面目な人が報われない仕組みって、社会問題だよなって」
嶋中春翔(レイヤ役)
「『結局ポイントいらないじゃん』って台詞、自分でも笑っちゃいました。そう、最初からいらなかったんだよ!って」
菅原絢乃(ミキ役)
「『数値化できない』っていうのが、私の役の一貫したテーマでした。茶道も、点数じゃなくて心で伝えるものだから、共感できました」

観客の反応

学館祭当日、講堂は立ち見が出るほどの盛況ぶり。上演中、客席からは「なるほど!」「そういうことか!」という声が何度も上がった。
特にセカンドプライスオークションのシーンでは、ユウタの説明に観客が真剣に聞き入り、ケンタが入札を取り下げた瞬間には拍手が起こった。 

また、ユウタの告白シーンでは、客席が静まり返り、その後のアヤカの返答に「切ない…」というつぶやきも。
終演後、観客からは「経済学ってこんなに面白いんだ」「恋愛と市場理論を結びつける発想がすごい」「笑えるし、勉強にもなった」という声が相次いだ。

審査員講評(抜粋)

社会科教諭・田村先生「セカンドプライスオークションやシグナリング理論を、これほど分かりやすく、しかもエンターテインメントとして成立させたことに驚きました。高校1年生がここまで理解して、さらに演劇として表現できるとは。素晴らしい試みです」 

演劇部顧問・山本先生「演劇部員が1人もいないクラスですが、演技のクオリティも高かった。特に今井竜太君の主人公は、不器用さと知性のバランスが絶妙で、感情移入できました。野田郁美さんの購買のおばちゃん田中さん役も、コメディリリーフとしてだけでなく、物語の要所で重要な役割を果たしていて見事でした」

脚本家・宮川絵菜の想い

「脚本を書く時、一番悩んだのは『どこまで経済学を詳しく説明するか』でした。専門用語を使いすぎると難しくなるし、でも簡単にしすぎると面白くない。だから、『日常の恋愛や友情』と『経済理論』を常にリンクさせるように心がけました。
演出では、野球部のメンバーが多かったので、チームプレーの感覚を活かそうと思って。『舞台もチームプレー』って伝えたら、みんなすごく協力的になってくれました。特に今井くんは、主演だけど決して出しゃばらず、全体のバランスを見てくれて。本当に助かりました」

「この劇を作って、一番学んだのは『人間は数字じゃ測れない』ってことです。経済学は便利だし、面白い。でも、それだけじゃダメで。ユウタくんが最後に『市場を超えて』告白するシーンは、私自身の想いでもあります。
クラスのみんなと一緒に作り上げたこの舞台。好感度ポイントなんてなくても、みんなが協力してくれた。それが何よりの『価値』だったと思います」

舞台裏を支えた精鋭たち:制作スタッフ座談会

演劇の成功は、表舞台に立つキャストだけで成し遂げられるものではない。1年C組の快挙を支えたのは、各部活動のスキルを惜しみなく投入したクリエイティブ・チームだった。

■広報:進藤杏珠(ESS)
「ターゲット層の徹底分析と、SNSを駆使した『需要予測』が的中しました」

「最初は教室での小規模公演の予定でしたが、脚本の面白さを確信していたので、『もっと多くの人に届けるべきだ』と提案しました。まず、劇中に登場する経済用語をチラ見せするティザー動画を各クラスのグループチャットに流し、さらに『好感度ポイント通帳』を模した整理券を配布したところ、事前予約が殺到。そのデータを数値化して生徒会に掛け合い、『これは教室では収容しきれない需要がある』と証明して、講堂公演の枠を勝ち取りました。ESSで培ったプレゼン能力が、まさか文化祭の交渉で役立つとは思いませんでしたね(笑)」

■ポスター制作代表:横井晴(美術部)
「抽象的な『経済』と、瑞々しい『青春』の融合を視覚化しました」

「『見えざる手』という抽象的な概念をどう表現するか、美術部の仲間の深町さん、倉田さんと何度も話し合いました。最終的に、アダム・スミスの古典的なイメージと、現代の高校生の制服をコラージュしたようなデザインに決定。背景には実際のグラフや数式を薄く配置し、知的な雰囲気を出しつつ、中心にいるユウタとアヤカの表情には徹底的にこだわりました。校内に貼られたポスターを見て、他校の生徒さんが『これ、何の映画?』と足を止めてくれたのが最高の褒め言葉でした」

■予告編制作代表:谷将斗(サッカー部)
「45分間の密度を1分に凝縮。ミステリー仕立ての編集を意識しました」

「サッカー部で試合分析用に動画編集をしていた経験を活かしました。サッカー部マネージャーでもある寺川さんが撮影してくれたメイキング映像と、本番のハイライトを組み合わせ、『生徒会長・ミサキの不敵な笑み』で終わる構成にしたんです。『この学校の秘密を知りたいか?』というテロップを入れたら、公開1時間で再生数が跳ね上がって。観客の期待値をマックスまで引き上げるのが、僕たちの『見えざる仕事』だと思って取り組みました」

■グッズ制作販売代表:浦川栞(バスケ部)
「体験型グッズで、観客を『市場』の当事者に引き込みたかった」

「新田さん、早村くん、横川くんと一緒に、劇中で使われる『好感度ポイント通帳』のメモ帳を制作しました。講堂の入り口でこれを販売し、観客にも『自分なら誰にポイントを払うか』を考えてもらう仕掛けです。バスケ部での遠征費管理の経験を活かして、予算内で高品質なものを作る『コストパフォーマンス』を追求しました。完売した時は、まさに経済の循環を肌で感じた瞬間でしたね。あと、出来心で作ったアクスタキーホルダーが売れて売れて......今、校内にうちのクラスの生徒のアクスタを持っている人がたくさんいます。人気上位はアヤカ、ユウタ、ミサキです!」

■音響・照明代表:石川基(軽音同好会)
「『インフレ』や『買収』の緊迫感を、音と光の演出で増幅させました」

「経済学の解説シーンが退屈にならないよう、速水君のナレーションに合わせて、クイズ番組のようなSE(効果音)や、北川さんの情景が浮かぶようなピアノ、緊迫したベースラインを挿入しました。特に後半、市場が崩壊していくシーンでは、照明の濱田さんと連携して、青白いフラッシュを使って『信用が消えていく冷たさ』を表現。軽音同好会で培った『会場の空気を操る感覚』を、演劇という新しい形で見せられたのが収穫です」

■衣装・ヘアメイク代表:南谷夏波(チアダンス部)
「キャラクターの『視覚的説得力』を追求し、配役の魅力を最大化しました」

「チアダンス部のメイク術と家庭科部の技術を合わせ、キャラのリアリティを追求しました。一番の難問は同級生の野田さんを『購買部のおばちゃん』に仕立てること。家庭科部の秋田さんと背中にタオルを入れたエプロンを自作し、中浜さんとチアとは真逆の『老け見え』マットメイクを研究しました。また、坊主頭の今井君を主人公らしく見せるため、頭の形に合うウィッグ探しに奔走。ヘアアイロンで無造作な動きをつけ、野球部感を消すのに苦労しました。観客から『おばちゃん本物?』と驚かれたのが最高の達成感です!」


観客席からのメッセージ:それぞれの「青春市場」への眼差し

■ 入学を夢見る中学生:中学3年生・男子
「正直、高校の文化祭の演劇って、もっと内輪ノリで盛り上がるだけだと思っていました。でも、1年C組の舞台は全然違って……。
特にセカンドプライスオークションのシーン。ユウタさんが論理的に相手を追い詰めていく姿がめちゃくちゃ格好良かったです!経済学って、テストのために暗記するだけのものだと思ってたけど、『あ、これを使えば世の中をハックできるかも』ってワクワクしました。運動部の先輩たちが、泥だらけの練習着じゃない姿で、あんなに知的な役を演じているギャップも凄かったです」

「最後の告白シーンでは、成功率とか損得を超えて気持ちを伝えることの大切さが刺さりました。僕も甲府学館高校に入学して、こんなに熱くて頭の良い先輩たちと一緒に、面白いことをやってみたいです!」

■ 入学を夢見る中学生:中学3年生・女子
「(真剣な表情でメモを取りながら)……凄かったです。ただの劇じゃなくて、クラス全員の『役割(比較優位)』が完璧に組み合わさっていて。
私は医者の娘ということもあって、父から『論理的な思考』の大切さをよく聞かされて育ちました。だから、劇中の経済理論にはすごく納得したんですけど、最後にユウタ先輩がそれを全部投げ捨てて告白したシーンでは、思わず涙が出そうになりました。
脚本を書いた宮川先輩や、黒幕の生徒会長ミサキさんを演じた玉野先輩……。あんなに素敵な先輩マネージャーたちがいる甲府学館野球部に、私も絶対に入りたいって改めて強く思いました。数字や効率も大事だけど、最後は『人を想う気持ち』が一番の原動力になるんだって……私もそんな風にチームを支えられるマネージャーになりたいです」

■ 野球部監督:柏村泰智 氏 
「グラウンドで見せる姿とはまた違う、彼らの『勝負強さ』を見せてもらいました。
主演の今井(竜太)や投手の甲賀(裕大)たちが、台詞一つ一つに意図を込めて演じているのを見て、普段の練習で伝えている『考える野球』がこういう形でも活きているのだなと感心しましたよ。ナレーションの原(温人)も持ち前の声のデカさを活かしましたね。
特に脚本と演出の宮川(絵菜)や、黒幕を演じた玉野(こころ)らマネージャー陣。彼女たちがこれだけの人間を組織し、一つの戦略(舞台)を完遂させた手腕は、わが部の運営能力の高さを証明してくれました。
経済学の『比較優位』ではないですが、各々が自分の役割を理解し、チームのために120%の力を出す。その姿は、大会に向けても非常に良いシグナルになりました。1年C組、見事なプレーでした」

ライターの目

今回の1年C組の成功は、単なる演劇の枠を超え、一つの「プロジェクト」として完璧に機能していた。進藤杏珠による戦略的な広報が講堂という大きな舞台を用意し、そこに各分野のスペシャリストたちが最高のコンテンツを載せる。このチームワークこそが、数字では測れない「甲府学館の底力」だったと言えるだろう。

学館祭が終わった今も、1年C組の教室には『青春市場の見えざる手』のポスターが貼られている。経済学と青春を見事に融合させた、忘れられない45分間の記録として。

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