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🌸 大人の入学式 🌸

入学式というのは、
本当は、子どものためのものじゃないのかもしれない。

子どもは、何も分からないまま立っている。
制服を着せられて、名前を呼ばれて、
「これからが始まりですよ」と言われるだけだ。

分かっていないのは、むしろ大人のほうだ。

わたしは二十八歳だった。
結婚して、子どもが生まれて、
やっと「大人になった」と言っていいはずの年齢だった。

でも、毎日こわかった。

この選択でよかったのか。
この先、ちゃんとやっていけるのか。
何かを間違えたら、もう戻れないんじゃないか。

誰も教えてくれない。
正解も、模範解答もない。
「母親なんだから」「大人なんだから」
その言葉だけが、重くのしかかる。


ある朝、子どもを抱きながら、
窓の外を見ていた。

桜は、もう咲いていなかった。
花は全部散って、
葉だけが、静かに揺れていた。

きれいだとも、華やかだとも思わなかった。
でも、強いな、とは思った。

派手じゃなくて、
誰にも見られていなくて、
それでも、ちゃんと立っている。

ああ、と気づいた。

わたしはいま、
卒業できていないんじゃない。

▶入学している◀

不安になるのは、
何もできていないからじゃない。
新しいフェーズに足を踏み入れたからだ。

知らない教室。
知らない役割。
知らない自分。

それでも、席には座っている。
名前も、もう呼ばれている。

大人になるというのは、
完璧になることじゃない。

「分からないまま進むこと」を
引き受けることだ。

わたしは今日、
大人として、入学した。

拍手も、式次第もない。
ただ、不安と一緒に立っている。

それでいい。

入学式は、
いつだって静かに始まる。
©︎2026 Nasu Takako
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