100時間は、プロとしてのスタート地点だと思っている
この冬の12月から、
白馬村のとある地区で
塩カル(融雪剤)散布の仕事をさせてもらっている。
除雪隊の一員として、
道路に塩カルを撒いて、
事故を未然に防ぐための仕事。
正直、かなり特殊な仕事やと思う。
白馬村は豪雪地帯で、
村全体としても塩カルの使用量は多い。
その中でも、
「塩カル予算の半分以上がこの地区に付いているらしい」
という噂を、
この仕事を始めてから何度か耳にした。
真偽はさておき、
実際に毎日道路を見ていると、
「ああ、これはそう言われても不思議じゃないな」
と思う場面はかなり多い。
それくらい、
この地区の道路環境は過酷だ。
12月だけで、
運転時間はたぶん100時間くらい。
そのあたりでようやく、
「ああ、この仕事ってこういう判断を求められるんやな」
という輪郭が見えてきた感覚があった。
目的はシンプルで、
事故を起こさないこと。
でも、事故が起きて一番よくないのは、
結局、道路を塞いでしまうこと。
そうなると、
この地区の住民の方や、
別荘の利用者、
観光で来ている人たちにまで、
大きな不便をかけてしまう。
日常生活に支障が出る。
それが一番よくない。
だからこの仕事は、
思っている以上に責任がある。
もうひとつ大事なのが、
塩カルは無限に使えるものじゃないということ。
村にはちゃんと予算があって、
地区ごとに振り当てられた量の塩カルしか使えない。
全部に全部撒けば、
そりゃ雪も氷も溶ける。
でもそれをやってしまうと、
12月で塩カルを使い切ってしまう。
そうなると、
1月、2月、3月。
本当にツルツルになる時期に、
もう打つ手がなくなる。
だから、
状況を見て、要所要所を見極める
という判断が、めちゃくちゃ大事になる。
この地区の道路事情は、
これまたかなり特殊だ。
入口から事務所までの
200〜300mくらいの区間は、
勾配はあるけど、
比較的道幅が広い。
実はここ、
あえて鬼門として見ている区間でもある。
意地悪で塩カルを撒いていないわけじゃない。
この区間でさえ登れない車は、
正直、それ以上奥に行くと
確実にスタックする。
特に観光客やレンタカーの方は、
雪道に慣れていないことも多い。
だからここで、
引き返すか、
チェーンを履くか、
判断してもらう。
道幅が広いから、
仮に路肩に止まっても
交通を完全に塞ぐことはない。
つまり、
事故や渋滞を未然に防ぐための関門
として、
あえて機能させている区間。
そこを越えて奥に入ると、
勾配はさらにきつくなり、
道幅も狭くなり、
つづら折りのワインディングが続く。
奥に行けば行くほど、
その道を使うのは
「そこに住んでいる人だけ」
になっていく。
一番奥に1軒だけ家があって、
そのためだけに通る道もある。
そういう場所は、
優先順位を下げる。
万が一通れなくなっても、
影響を受ける人が限られていて、
他の交通を塞ぐリスクも低い。
逆に、
この地区を縦に貫く
主要道路。
ここだけは、
絶対に事故を起こさせない。
ここが止まると、
上からも下からも車が動かなくなり、
本当に大きなトラブルになる。
実際、
塩カル散布が間に合わず、
車が横を向いて、
上下線ともに通れなくなり、
大渋滞になっている場面も見た。
だから、
リスクの高いところに、
限られた資源を使う。
それがこの仕事の本質やと思っている。
100時間くらいやって、
ようやく
「なぜここで撒くのか」
「なぜここでは撒かないのか」
が、感覚としてわかってきた。
よく言われる「ゼロイチ」。
僕はこれを、
ゼロから100時間
やと思っている。
ここまでは、
学びのスピードがとにかく速い。
だから、
プロとしてお金をもらってやるなら、
まずはこのステージに
いち早く立つ必要がある。
ただし、
100時間で一人前、
なんて全然思ってない。
むしろ、
100時間はスタート地点。
200時間、300時間と積み上げていけば、
また違う景色が見えてくるはずやし、
何年もやっている人からすれば
「1000時間やってからプロ名乗れ」
と言われるかもしれない。
それも正しいと思う。
でも、
そのポジションに立たないと
見えない景色があるのも事実。
だからまずは、
100時間まではペーペーでいい。
黙ってやる。
教えられたことを、
自分流にアレンジする前に、
まずそのままやる。
試行錯誤の前に、
OJTとして身体に入れる。
「こういうことか」を、
頭じゃなくて、
感覚で理解する。
1ヶ月、100時間。
この仕事を通して、
ようやくその構造が腑に落ちた。
村が守ろうとしているもの。
住民が税金として預けているもの。
それを受け取って、
現場で実行する側の責任。
僕は下請けの立場やけど、
生活を守る仕事の一部を担っている
という感覚は、
確実に芽生えてきた。
だから今は、
この100時間を
プロとしてのスタート地点
やと思っている。
