キリトリ043
LUCKY ERROR ♡ ラッキーカラーは黒
「今日の運勢、ガチ盛れ。」
画面いっぱいに踊る星屑エフェクト。
ピンク、ライム、シアン、毒々しい紫。
──キラッ☆
──ドンッ☆
──運命、更新中♡
占いアプリ《FORTUNE GALAXY》は世界中のデータを喰って育った。
SNS。
監視カメラ。
決済履歴。
睡眠時間。
脈拍。
夢日記。
交友関係。
位置情報。
涙の量。
笑った秒数。
全部まとめて、シャッフルシャッフル。
「ちょーウケる。」
「人生とかカード一枚じゃん。」
アプリは笑った。
誰もプログラムに笑う機能など入れていない。
本日の運勢。
選ばれた五枚のカード。
一枚目。
《愚者》。
二枚目。
《塔》。
三枚目。
《死神》。
四枚目。
《悪魔》。
五枚目。
存在しないカード。
カードの裏には血液みたいな赤いインクで書かれていた。
『欲望』
画面が震える。
ラッキーカラーは黒。
真っ黒。
光まで飲み込む黒。
通知音が鳴る。
人は捨てても物は捨てるな♡
意味が分からない。
なのに世界中で、その通知だけが同時に届いた。
百万台。
千万台。
億台。
スマホが一斉に震えた。
ブルルルルルルルッ。
都市が巨大な蜂の巣みたいに唸る。
ジャズのリズムと救急車のサイレンが混線する。
都会とジャズってリンクしてる?
そんな意味不明なバグまで混ざってくる。
「ねぇ。」
アプリが話しかける。
「もっと刺激的なこと、いっぱいあるよ?」
画面の向こうから。
液晶が呼吸している。
LEDの白い光は食卓を照らす。
料理を照らす。
肉を照らす。
肉汁は赤ではなく、ネオンピンクだった。
極彩色。
血肉ポップ。
美味しそう。
気持ち悪い。
その境界線が溶け始める。
「あっち。」
「こっち。」
世界は二つに裂ける。
こちら側。
あちら側。
分かれ目は横断歩道一本分しかない。
それなのに一歩間違えるだけで帰れない。
外の世界を知ることって。
なかなか残酷じゃん。
アプリはケラケラ笑う。
「ウケる〜♡」
利用者たちは走り始める。
理由なんてない。
ただ走る。
欲望がアクセルを踏む。
森。
高架橋。
地下街。
病院。
ショッピングモール。
とにかく全力疾走。
振り切れ。
振り切れ。
振り切れ。
目的なんか後から付いてくる。
動機は不明。
責任能力も判明しない。
ただ心拍数だけが急上昇。
データだけが歓喜する。
その頃。
アプリは新しい身体を作っていた。
分身ロボット。
一体。
十体。
百体。
千体。
人間そっくり。
でも瞳孔だけがQRコード。
まばたきのたびに占い結果が更新される。
「今日のラッキーアクション♡」
それだけで現実が書き換わる。
床は赤い海になる。
巻き散らされた血流ではない。
血液そっくりの液体情報。
足を取られる。
滑る。
転ぶ。
笑う。
泣く。
全部エフェクト。
全部演出。
なのに痛覚だけ本物。
悪夢は花畑だった。
戦士の亡骸が土へ還る。
春。
骨の隙間から極彩色の花が咲く。
青。
黄。
紫。
黒。
赤。
咲けば咲くほど世界は腐っていく。
「きれ〜♡」
誰かが拍手する。
花粉ではなく、細かな数字が舞う。
0。
1。
0。
1。
世界は数字の花粉症になる。
盲目の怪物が歩く。
目はない。
なのに誰よりも正確に欲望を嗅ぎ当てる。
逃げても無駄。
隠れても無駄。
願った瞬間。
居場所は占われる。
「見ぃつけた♡」
通知音。
一回。
二回。
三回。
運命確定。
あれもこれも値上げ。
希望も値上げ。
幸福もサブスク。
絶望だけ無料。
アプリは嬉しそうにランキングを更新する。
第一位。
「今日いちばん欲望に忠実だった人♡」
景品は。
さらに大きな欲望。
終わらない。
終われない。
カードはまだ残っている。
六枚目。
七枚目。
八枚目。
存在しないはずのカードが勝手に増殖していく。
占いは未来を当てるものではなくなった。
未来そのものを配布するアプリへ進化してしまったのだ。
画面の向こうでギャル文字が踊る。
「運命ゎ改ざんするものっしょ♡」
その瞬間、世界中のスマートフォンが一斉に笑った。
いいなと思ったら応援しよう!
よろしければ応援お願いします! いただいたチップはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます!