東証カジノ「貯蓄から投資へ」と国民を呼び込んだ市場で、いま何が起きているのか【n+マーケット】

最近、日本の株式市場を揶揄して、
「東証カジノ」
という言葉を目にするようになった。
以前なら、私はこれを単なる株クラの冗談として聞き流していたかもしれない。
しかし最近の日本株を毎日見ていると、笑えなくなってきた。
一日のうちに株価が10%、20%と動く。
昨日まで買われていた銘柄が、翌日には理由も分からないほど売られる。
好決算なのに暴落する。
逆に、赤字でも株価が急騰する。
米国株が下がれば日本株が売られる。
韓国の半導体株が下がれば、日本の半導体株まで売られる。
先物が動けば現物が動き、現物が動けばETFが動き、それをアルゴが拾い、信用取引の投げまで誘発する。
その横では、投資系YouTuberが値動きの激しいキオクシアなどをデイトレードし、
「今日○百万円勝った」
「爆益」
「大暴落」
と発信する。
これは本当に、
「企業の成長に投資する株式市場」なのだろうか。
私は今、その根本を考える必要があると思っている。
国は「貯蓄から投資へ」と言った
日本政府は長年、
「貯蓄から投資へ」
という政策を進めてきた。
NISAを拡充した。
若い世代にも投資を勧めた。
老後の資産形成にも株式や投資信託を活用してほしいと訴えてきた。
方向性そのものを私は否定しない。
銀行預金だけではインフレに負ける可能性がある。
企業の成長を国民の資産形成につなげることにも意味がある。
しかし国民に、
「投資をしましょう」
と言うのであれば、その前提として必要なものがある。
安心して投資できる市場であることだ。
今の東証は、本当にそうなっているのだろうか。
「業績が良ければ株価が上がる」が通用しない
普通の人が投資を始めると、まず企業を調べる。
売上はいくらか。
利益はいくらか。
成長しているか。
財務は健全か。
将来性はあるか。
PERは高いのか安いのか。
これは正しい。
ところが実際の市場では、企業が好決算を出しても暴落することがある。
理由は、
「コンセンサス未達」
である。
会社自身が約束していない数字を、証券会社やアナリストが予想する。
その平均が市場コンセンサスになる。
会社は増収増益。
過去最高益。
それでも、
「市場予想より少なかった」
というだけで売られる。
そして、その数字に機械が反応する。
売り注文が出る。
株価が下がる。
SNSでは、
「決算失望」
という言葉が流れる。
個人も慌てて売る。
さらに下がる。
ここまで来ると、
企業が良いのか悪いのかではなく、「期待値ゲーム」になっている。
投資初心者に、ここまで説明しているだろうか。
日本企業なのに、韓国株で売られる
半導体市場ではさらに複雑だ。
米国でNVIDIAなどが売られる。
韓国でSamsung ElectronicsやSK Hynixが売られる。
すると翌朝、日本の半導体関連株まで売られる。
日本企業自身には何も起きていない。
決算も出していない。
業績予想も変えていない。
工場も普通に動いている。
それでも株価は大きく下がる。
なぜなら世界の巨大資金は、一社一社を日本人個人投資家と同じように見ているとは限らないからだ。
AI。
半導体。
メモリー。
アジア株。
日本株。
こうした地域・セクター・ファクター単位でポートフォリオを組み、先物やETFも利用して売買する。
だから韓国で起きたことが日本へ波及する。
米国で起きたことが韓国へ行き、日本へ来る。
逆方向も起きる。
個人投資家からすれば、
「昨日、一生懸命この会社の決算書を読んだ意味は何だったのか」
となる。
外国人の先物売買が現物市場を揺らす
そして日本株では、海外投資家の存在が非常に大きい。
海外勢は現物株だけを売買しているわけではない。
先物も使う。
日経225先物やTOPIX先物なら、多数の企業を一度に売買できる。
リスクを落としたい。
日本株の比率を下げたい。
アジア株全体を減らしたい。
そう判断すれば、個別企業を一社ずつ調べて売る必要はない。
先物を売ればいい。
先物が下がる。
裁定取引が働く。
現物も売られる。
指数寄与度の高い銘柄が動く。
ETFも反応する。
さらにアルゴが反応する。
つまり、
会社とは関係のない場所から、その会社の株価が動かされる。
これも現在の市場の現実だ。
そしてアルゴが人間より速く動く
現在の東証では、人間だけが株を売買しているわけではない。
高速アルゴ取引が存在する。
価格。
出来高。
為替。
先物。
海外市場。
ニュース。
金利。
様々な条件を機械が読み取り、瞬時に注文する。
アルゴ自体を悪者にするつもりはない。
流動性を供給するという重要な役割もある。
しかし怖いのは、
多くのアルゴが同じ方向へ反応したときだ。
先物が下がった。
アルゴが売る。
支持線を割った。
別のアルゴが売る。
出来高が増えた。
さらに別のアルゴが反応する。
株価が下がる。
信用取引の含み損が増える。
追証が発生する。
個人が投げる。
その売りをアルゴが再び拾う。
さらに下がる。
一つ一つの取引は正常でも、
全体として巨大な増幅装置になる。
私はここが、これから東証や金融庁が本気で検証すべき問題だと思っている。
違法取引だけを監視すればいい時代ではない
東証も金融庁も何もしていないわけではない。
相場操縦やインサイダー取引を監視している。
信用取引規制もある。
値幅制限もある。
サーキットブレーカーもある。
高速取引業者にも規制がある。
しかし私は、
それだけでは足りない時代になった
と思っている。
なぜなら現在の最大の問題は、
「一人の悪い人間が不正注文を出した」
とは限らないからだ。
外国人先物。
ETF。
信用取引。
アルゴ。
コンセンサス。
レバレッジ商品。
SNS。
すべて合法。
ところが全部が連鎖すると、
企業価値では説明できないほど株価が動く。
だから今後必要なのは、
「違法な取引があったか」だけではなく、「合法な取引の連鎖によって市場が異常になっていないか」を監視することだ。
そこへ信用取引が入る
現物投資なら、100万円を投資して株価が10%下落すれば損失は10万円だ。
しかし信用取引では、自己資金以上の金額を動かせる。
上昇すれば大きく儲かる。
下落すれば損失も増幅する。
そして一定水準を超えれば追証になる。
本人が、
「この会社は将来伸びるから売りたくない」
と思っていても関係ない。
保証金が足りなければ資金を入れるか、ポジションを減らさなければならない。
つまり、
株価下落そのものが次の売りを生む。
これも企業業績とは関係ない。
さらにレバレッジ商品まで増えている
そして現在では、指数だけではなく個別銘柄の値動きを増幅させる商品まで登場している。
上がれば大きい。
下がっても大きい。
金融技術としては面白い。
しかし私は考えてしまう。
国は一方で、
「NISAで長期資産形成をしましょう」
と言っている。
その同じ市場で、
「今日の値動きを2倍、3倍で取りに行く商品」
が増えていく。
これは本当に同じ「投資」という言葉で括っていいのだろうか。
そしてキオクシア
最近の「東証カジノ」を象徴する銘柄の一つが、キオクシアだと思う。
誤解してほしくない。
キオクシアという会社が悪いのではない。
AIデータセンター。
NANDメモリー。
ストレージ需要。
非常に重要な企業である。
問題は、
市場での扱われ方だ。
企業価値より、
「今日は何%動く?」
「ストップ高になる?」
「デイトレで何万円取れる?」
という話題が目立つようになる。
そして投資系YouTuberがデイトレードを実況する。
「今日+100万円」
「爆益」
「大暴落」
「キオクシアで勝負」
刺激的なタイトルが並ぶ。
もちろんYouTuberが悪いわけではない。
デイトレードも合法だ。
発信する自由もある。
問題は、その先だ。
値動きがエンターテインメントになった
YouTubeを見る。
大きく儲けている。
面白そうだ。
自分も証券口座を開く。
同じ銘柄を買う。
勝つ。
もっとやる。
負ける。
取り返そうとする。
ロットを増やす。
信用取引を始める。
さらに負ける。
ここまで来ると、
投資とギャンブルの境界線は急速に曖昧になる。
しかもSNSには構造的な問題がある。
「年間配当3%を10年間受け取りました」
より、
「今日+300万円!」
の方が伸びる。
地味な長期投資より、
大勝ち。
大負け。
暴落。
ストップ高。
爆益。
こちらの方がコンテンツとして強い。
つまり、
市場のアルゴが値動きを増幅し、SNSのアルゴが刺激を増幅する。
この二つがつながった。
私はこれをかなり危険だと思っている。
一番危険なのは情報弱者だ
ここで最も心配なのが、投資経験の浅い人たちだ。
機関投資家には情報がある。
高度な端末がある。
専門家がいる。
リスク管理部門がある。
先物でヘッジもできる。
アルゴも使える。
一方で初心者はスマートフォン一台だ。
YouTubeを見る。
Xを見る。
掲示板を見る。
「上がるらしい」
「AIだから強いらしい」
「昨日ストップ高だった」
それだけで買う。
そして信用取引まで使えばどうなるか。
一度の急落で、それまで何年も貯めた資金を大きく失う可能性がある。
さらに「取り返そう」とすれば、
もっと大きなポジションを取る。
私はここまで来ると、本当に危ないと思う。
情報弱者から市場を退場していく構造になりかねない。
「自己責任」で全部終わらせていいのか
もちろん投資は自己責任だ。
これは否定しない。
しかし、
国が国民に、
「貯蓄から投資へ」
と言って市場へ呼び込んだのであれば、
市場を運営する側にも責任があるのではないか。
道路で事故を起こせば運転手の責任だ。
だからといって、
信号も、
速度制限も、
ガードレールも、
交通ルールも、
必要ないという話にはならない。
市場も同じだ。
自己責任と市場整備は両立する。
法律上の「投資詐欺」とは違う。しかし違和感は残る
私は今の東証を、法律上の意味で「投資詐欺」と呼ぶつもりはない。
誰か一人が嘘をついて国民からお金を騙し取っているわけではない。
しかし、
「長期で資産形成しましょう」
と言って国民を市場へ呼び込む。
その市場には、
外国人先物。
アジア・バスケット。
コンセンサスゲーム。
高速アルゴ。
信用取引。
レバレッジ商品。
SNS投機。
デイトレ実況。
が存在する。
そして大損した最後だけ、
「投資は自己責任です」
と言う。
これでは国民から、
「話が違うじゃないか」
と言われても仕方がない。
誰が責任を持つのか
会社は、
「業績は変わっていません」。
証券会社は、
「市場で決まった価格です」。
ファンドは、
「運用戦略です」。
アルゴ業者は、
「ルールの範囲内です」。
YouTuberは、
「投資を推奨していません」。
東証は、
「市場監視をしています」。
金融庁は、
「投資は自己責任です」。
一つ一つを見れば間違っていない。
しかし、
最後に損失をすべて引き受けるのは個人投資家だ。
私は、この構造を一度きちんと議論するべきだと思う。
国は、このまま「東証カジノ」を許していいのか
私は株価を国が管理しろと言っているのではない。
下落を止めろとも言っていない。
空売りを禁止しろとも言っていない。
必要なのは、
市場構造を再点検することだ。
アルゴが極端な値動きを増幅していないか。
外国人先物が現物市場へ与える影響は適切か。
指数売買によって個別企業の価格形成が壊れていないか。
過剰な信用取引を放置していないか。
レバレッジ商品のリスク説明は十分か。
初心者が容易に過大なリスクを取れる仕組みになっていないか。
SNS時代の投資情報に対して、金融教育は追いついているのか。
そして何より、
企業価値を基準とした価格形成が本当に機能しているのか。
ここまで検証してほしい。
国民を市場へ連れてくることがゴールではない
NISA口座が増えた。
投資人口が増えた。
それだけでは成功ではない。
重要なのは、
5年後。
10年後。
20年後。
その人たちが市場に残り、
「投資を始めて良かった」
と思えるかどうかだ。
初心者を大量に市場へ呼び込み、
数年後に多くの人が大損して退場するなら、
「貯蓄から投資へ」は成功ではない。
東証が守るべきなのは日経平均ではない
日経平均が6万円になろうが、
7万円になろうが、
私はそこが重要だとは思わない。
東証が本当に守らなければならないのは、
市場への信頼だ。
企業を調べる。
利益を見る。
財務を見る。
将来性を見る。
そして長期で投資する。
そうした普通の投資家が、
「企業を調べても意味がない」
と思い始めたら、
株式市場として非常に危険な状態だと思う。
「東証カジノ」は笑い話ではない
私は今、
「東証カジノ」
という言葉を単なる冗談として聞けなくなっている。
コンセンサス。
外国人先物。
アジア・バスケット。
高速アルゴ。
信用取引。
レバレッジ商品。
ETF。
SNS。
YouTube。
これらがすべてつながり、
値動きが値動きを生み、その値動きにさらに人と資金が集まる。
企業価値を発見する市場から、
値動きを増幅して消費する市場へ。
もし本当にそこまで進んでしまえば、
「貯蓄から投資へ」
ではない。
「貯蓄から投機へ」だ。
そして、そのゲームで最も傷つく可能性が高いのは、
情報も、
資金も、
経験も少ない普通の国民だ。
だから私は国、金融庁、東証に問いたい。
国民に投資を勧めるのであれば、その国民が長期で投資できる市場を守る責任もあるのではないか。
「投資してください」
と呼び込むだけ呼び込んで、
市場が大きく崩れた最後だけ、
「自己責任です」
では済まされない。
株式市場はカジノではない。
企業に資金を届け、
企業の成長を国民の資産形成につなげる場所であるはずだ。
だからこそ、
「東証カジノ」と呼ばれている今を、東証自身が一番重く受け止めるべきだと思う。
国民を市場へ連れてくることが目的ではない。
国民が安心して10年、20年と市場に残れること。
それこそが、本当の「貯蓄から投資へ」ではないだろうか。
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