AIで仕事が減った500人を「現場」へ――RIZAPの挑戦から見える、人間の仕事のその先【n+マーケット】

RIZAPグループが、社員500人を建設職人へ転向させるという。
最初にこのニュースを見ると、
「フィットネス会社が、なぜ建設?」
と思う。
しかし店舗内装という仕事を少し分解して考えてみると、これは単なる「建設業への参入」ではない。
むしろ、
AIによって余った人材を、AIがまだ苦手な現実世界の仕事へ移す。
そんなAI時代の人材再配置の実験に見えてくる。
そして、さらに先を考えると、
ではフィジカルAIが現場までできるようになった時、人間は何の仕事をするのか。
そこまでつながる話だと思う。
AIで「人の時間」が余った
RIZAPは生成AIを活用し、リサーチや資料作成などの業務を効率化した。
その結果、グループ全体の総労働時間の約2割が浮く計算になったという。
今まで10人でやっていた仕事が、AIを使えば8人分でできる。
これはRIZAPだけで起きる話ではない。
文章作成。
調査。
データ整理。
資料作成。
問い合わせ対応。
議事録。
見積補助。
こうしたPCの中で完結する仕事は、これからさらにAIへ移っていくだろう。
そうなると企業には当然、問題が出てくる。
余った人をどうするのか。
普通なら、
リストラ。
採用抑制。
配置転換。
外注費削減。
あるいはAIと人間の分業を進める。
RIZAPはそこで、かなり面白い答えを出した。
「だったら、その人たちで自社店舗の内装をやれないか」
という発想だ。
なぜ内装なのか
RIZAP、特にchocoZAPは店舗型ビジネスだ。
店舗を作らなければ売上は生まれない。
しかし店舗を一つ作るたびに、
物件費。
内装工事費。
トレーニングマシン。
設備。
看板。
その他の初期投資。
が必要になる。
特にchocoZAPは低価格サービスだ。
1店舗から得られる会費収入には限界がある。
つまり、
出店時に使ったお金を回収するまでの期間
が非常に重要になる。
そこで内装工事費を少しでも下げることができれば、1店舗あたりの採算はかなり変わる。
小さい店舗だから安い、とは限らない
chocoZAPの店舗は比較的小さい。
しかし内装工事は、小さいから比例して安くなるわけではない。
現地調査。
見積。
施工管理。
職人の手配。
材料発注。
搬入。
養生。
交通費。
廃材処分。
こうした費用は小型店舗でも発生する。
だから小さな店舗を1店舗ずつ単発で施工会社へ発注すると、坪単価ではむしろ高くなりやすい。
一般的な店舗内装会社も、自社社員がすべて施工しているわけではない。
元請が発注者や設計者と打ち合わせを行い、
軽鉄。
木工。
金物。
タイル。
床。
クロス。
塗装。
電気。
空調。
給排水。
などを専門業者へ発注する。
当然、それぞれに管理費と利益が必要になる。
RIZAP側から見れば、それらも店舗を作るためのコストだ。
だったら、
自分たちでできる部分だけでも内製化できないか。
そう考えるのは自然だ。
chocoZAPだからできる
これが高級ブランドショップなら簡単ではない。
特殊な木工。
石。
金物。
ガラス。
造作家具。
複雑な照明。
特殊塗装。
店舗ごとに違うディテール。
高度な施工技術が必要になる。
しかしchocoZAPは比較的シンプルだ。
軽鉄下地を作る。
石膏ボードを張る。
クロスを張る。
塩ビ系の床材を張る。
簡単な塗装や取付をする。
電気、空調、給排水、消防といった専門工事は、外部の専門会社へ頼めばいい。
しかも最大の強みは、
自社店舗だから毎回ほぼ同じ仕様にできることだ。
同じ床。
同じクロス。
同じ壁。
同じ金物。
同じ寸法。
同じ納まり。
同じ施工手順。
これなら施工マニュアルを作ることができる。
「この店舗はこの順序で施工してください」
と決めてしまえばいい。
高度な職人集団というより、
RIZAPの自社内装工事部
を作る感覚に近いのではないだろうか。
最初はプロと一緒にやればいい
もちろん、販売や事務をしていた社員を、いきなり現場へ送り込んで施工できるわけではない。
最初は既存の施工会社や熟練職人と一緒にやることになるだろう。
現場監督や職長が、
墨を出す。
納まりを判断する。
安全管理をする。
施工方法を教える。
その下で社員が、
軽天。
ボード。
クロス。
床。
などの標準作業を覚える。
そして同じchocoZAPを何店舗も作る。
10店舗。
30店舗。
50店舗。
と繰り返せば、
「この広さなら5人で何日」
「この材料は何枚」
「この工程なら最も早い」
というデータも蓄積される。
そのうち、標準店舗なら自社チームだけでもかなり施工できるようになるだろう。
施工費だけではない。材料費も大きい
さらに重要なのは、材料調達だ。
内装材料は少量で買うと高い。
LGS。
石膏ボード。
クロス。
床材。
金物。
接着剤。
建具。
副資材。
これを1店舗分ずつ買うのと、
「年間200店舗分買います」
と言うのでは、仕入れ条件が違う。
材料は数量、つまりロットが大きいほど価格交渉しやすい。
さらに価格は時期によっても変わる。
鋼材価格。
樹脂価格。
物流費。
繁忙期。
そして為替。
輸入材料なら円安・円高の影響もある。
つまり内装コストは、
何を使うか。
だけではなく、
どれだけ買うか。
いつ買うか。
でもかなり変わる。
年間の出店計画が分かっている企業なら、メーカーや商社と年間契約を結び、大量発注することもできる。
コンビニやユニクロと同じ「店舗の量産化」
これは多店舗展開している企業なら、程度の差はあれ行っている考え方だと思う。
コンビニ。
ユニクロ。
ドラッグストア。
ファストフード。
同じブランドの店なのに、毎店舗ゼロから全部デザインしていたら高くなる。
そこで、
床を統一する。
壁を統一する。
建具を統一する。
金物を統一する。
照明を統一する。
什器を統一する。
そしてまとめて買う。
店舗を一つの建築作品として作るのではなく、
工業製品のように量産する。
RIZAPはそこへ、
自社施工
まで組み込もうとしているのだと思う。
ただし、相当な投資になる
もちろん簡単ではない。
内装工事も一人前になるには経験が必要だ。
現場判断までできるようになるなら、数年は必要だろう。
その間も給与は発生する。
教育費。
外部研修費。
熟練職人への費用。
現場監督の採用。
工具。
安全用品。
施工ミス。
手直し。
さらに建設現場なので、
転落。
切創。
電動工具による事故。
腰痛。
資材落下。
などのリスクも自社で抱える。
今まで外部の施工会社が負っていたリスクを、RIZAP自身が負うことになる。
だから、
外注費がなくなるから得
という単純な話ではない。
教育投資を何年で回収できるのか。
自社施工によって本当に1店舗あたりいくら下がるのか。
そこはこれから見なければ分からない。
それでもRIZAPの考え方は面白い
AIで仕事が効率化された。
人に余力が出た。
普通なら人を減らすことを考える。
しかしRIZAPは、
「自社には高い内装工事費がある」
と考えた。
だったら、
AIで浮いた人材を、AIではまだできない現場へ移す。
そして、
人件費を新しい施工能力に変える。
外注費を減らす。
材料を大量発注する。
出店費用を下げる。
さらに将来は外部の簡単な内装工事まで受注する。
人員問題とコスト問題を一つにつなげた。
かなり思い切った経営だと思う。
しかし、これは「途中」の話かもしれない
ここから先がもっと重要だ。
現在、AIはホワイトカラーの仕事を急速に効率化している。
だから人間は、
デスクワークから、
建設。
物流。
製造。
介護。
接客。
など、現実世界で体を使う仕事へ移る可能性がある。
しかし、
そこも永遠に安全ではない。
AIの進化は非常に速い。
そして次に来るのが、
フィジカルAI。
AIが頭脳だけではなく、ロボットという身体を持つ世界だ。
いずれ内装工事にもフィジカルAIは入る
今は人間が、
ボードを運ぶ。
寸法を測る。
切る。
張る。
床材を施工する。
材料を搬入する。
という作業をしている。
しかし標準化された店舗は、むしろロボットに向いている。
毎回同じ床。
同じ壁。
同じ寸法。
同じ材料。
同じ施工手順。
RIZAPが今作ろうとしている施工マニュアルや標準化は、
将来、フィジカルAIが施工するためのデータ
にもなり得る。
これは非常に興味深い。
今は、
AIで仕事が減る
↓
人間を内装工事へ移す
という流れだ。
しかし将来、
フィジカルAIが内装工事をする
↓
今度は職人の人数が減る
ということが起きる可能性がある。
もしかすると、
監督1人。
職人10人。
だった現場が、
将来は、
人間2人。
施工ロボット数台。
になるかもしれない。
時期は誰にも分からない。
5年なのか。
10年なのか。
20年なのか。
ただ、技術の進化速度を考えれば、
「職人ならAIに奪われない」と考えるのも危険
だと思う。
では、その先で人間は何をするのか
ここまで行くと、非常に大きな問いになる。
AIが事務をする。
AIが文章を書く。
AIが設計する。
AIが計算する。
ロボットが運ぶ。
ロボットが作る。
ロボットが修理する。
では、
人間は何の仕事に必要とされるのか。
私は、人間の価値は「作業」から別のところへ移っていくと思う。
判断する
現場で想定外が起きた。
設計を変えるべきか。
工期を優先するか。
品質を優先するか。
最後に決める。
責任を取る
AIが判断したとしても、
事故が起きた。
顧客に損害が出た。
誰が責任を取るのか。
社会は最終的な責任主体を必要とする。
人をまとめる
会社。
現場。
顧客。
協力会社。
人間同士の利害を調整する。
信頼を作る
営業。
医療。
教育。
介護。
経営。
相談。
相手が人間だからこそ価値がある仕事は残るだろう。
そして、
「何をするのか」を決める
AIは、
「どう作るか」
については極めて強くなる。
しかし、
そもそも何を作りたいのか。
どんな会社にしたいのか。
どんな社会にしたいのか。
目的を決めることは別の問題だ。
最後に残るのは「人間にしかできない仕事」ではないかもしれない
私はさらに先では、
「AIにできない仕事を探す」
という考え方そのものが変わると思う。
なぜならAIやロボットの能力が上がれば、
「人間にしかできない」
と言える仕事はどんどん少なくなる可能性があるからだ。
その時に残るのは、
AIにもできる。
でも人間にやってほしい。
という仕事ではないだろうか。
AI医師が正確でも、人間の医師から説明してほしい。
AI教師が優秀でも、人間の先生に子どもを見てほしい。
AIが経営判断を出しても、最後は経営者本人から決断を聞きたい。
ロボットが施工しても、最後に人間が確認してほしい。
食事をする。
話をする。
相談する。
励ます。
教える。
楽しませる。
一緒に考える。
社会は効率だけでできているわけではない。
RIZAPの500人は、その入口にいる
今回のRIZAPの話を時間軸で見ると面白い。
第1段階
AIがデスクワークを効率化する。
↓
人が余る。
第2段階
余った人を、AIがまだ苦手な現場仕事へ移す。
↓
内装工事を内製化する。
第3段階
フィジカルAIが進化する。
↓
現場作業そのものも自動化される。
第4段階
人間は、
判断。
責任。
創造。
交渉。
信頼。
人間関係。
目的を決めること。
へ移っていく。
私はこれから起きるのは、
「AIに仕事を奪われる」
という単純な話ではないと思う。
もっと大きな変化だ。
AIによって、
人間が働く場所そのものが、次々と移動していく。
デスクから現場へ。
現場から監督へ。
監督から判断・創造・人間関係へ。
RIZAPが社員500人を内装職人へ転向させるという小さなニュースは、
もしかすると、
これから人間の仕事がどのように変わっていくのかを映す、一つの象徴なのかもしれない。
そして最後に残る問いはこれだ。
AIもロボットも、ほとんど何でもできる時代になった時、私たちは何を「人間の仕事」と呼ぶのだろうか。
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