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「投資」を増やしたいのか、「投機」を増やしたいのか――単一銘柄レバETFが突きつける市場の矛盾【n+マーケット】

キオクシアホールディングスの株価に連動する、2倍・3倍といったレバレッジ型ETFを米国市場に上場させようとする動きが出ている。

キオクシアだけではない。

トヨタ、ソニーグループ、ソフトバンクグループ、任天堂など、日本を代表する企業を対象とした単一銘柄レバレッジETFの申請が米国で相次いでいるという。

一見すると、日本企業への海外投資家の関心が高まる歓迎すべきニュースにも見える。

しかし私は、この記事を読んで逆のことを考えた。

日本は本当に、これ以上「株価の値動きそのもの」を商品化していいのだろうか。

レバレッジETFは「企業に投資する商品」なのか

2倍レバレッジETFであれば、対象株が1日に5%上昇すると、ETFはおおむね10%の上昇を目指す。

3倍なら約15%だ。

当然、逆も同じである。

5%下落すれば10%、15%という大きな損失につながる。

しかも、この商品が単純な「株価の2倍コピー」ではないことが重要だ。

倍率を維持するために、先物やスワップなどのデリバティブを使い、運用会社やマーケットメーカーが毎日ポジションを調整する。

その結果、

上昇すれば買う。
下落すれば売る。

という順張りの機械的売買が発生しやすくなる。

規模が小さければ市場への影響は限定的だろう。

しかし、人気が集中し資金が巨大化すれば、その金融商品自身が原株の値動きを増幅させる可能性が出てくる。

ここで私は疑問を感じる。

これは本当に「投資商品」なのだろうか。

むしろ、

企業の成長に投資するのではなく、企業の株価変動に賭ける商品

ではないだろうか。

キオクシアは、すでに十分すぎるほど動いている

今回、特に象徴的なのがキオクシアだ。

株価は短期間で猛烈に上昇し、一時10万円を超える水準まで買われた。

その後は大きく下落し、高値から半値近くになる場面まで出ている。

もちろんAI、データセンター、NANDフラッシュ需要など、企業価値を評価する材料はある。

しかし考えてみたい。

わずか数カ月の間に、

工場が10倍になったのだろうか。

技術力が10倍になったのだろうか。

利益が10倍になり、その直後に半分になったのだろうか。

そうではない。

大きく動いたのは、

企業そのものではなく、市場参加者の「期待」だ。

期待が期待を呼び、株価が上がる。

株価が上がるから、さらに人が集まる。

そして期待が少し崩れると、今度は逆回転する。

これだけでも十分に投機的な値動きである。

その市場へさらに、

キオクシア2倍ETF
キオクシア3倍ETF

まで投入する必要が本当にあるのだろうか。

火力の強い火に、さらにガソリンを注ぐようなものにならないだろうか。

最近の市場は「会社」より「期待値」を売買している

私は最近の株式市場を見ていて、同じ違和感を感じることが増えた。

代表的なのがコンセンサスだ。

企業が増収増益の立派な決算を出した。

しかし、

「市場予想より少し低かった」

というだけで株価が10%、15%と売られる。

逆に、会社そのものの業績が決して素晴らしくなくても、コンセンサスを上回れば買われる。

いつの間にか、

企業が出した実績より、アナリストが事前に予想した数字の方が重要

になってしまっている。

コンセンサス自体が悪いわけではない。

市場の期待を測る参考値として必要だ。

問題は、それが企業価値より上位の判定基準になってしまうことである。

そこへアルゴリズム取引が反応する。

信用取引が乗る。

空売りが乗る。

オプションやデリバティブが乗る。

そして今度は単一銘柄2倍・3倍ETFまで乗る。

すると株価は、

企業価値

決算

コンセンサスとの差

アルゴ売買

信用・空売り

レバETFのリバランス

という何重もの金融取引を通じて動くようになる。

もはや企業を分析するだけでは株価を理解できない。

これは本当に、健全な資本市場なのだろうか。

一番困るのは「普通の個人投資家」ではないか

私はここが最も重要だと思う。

日本は長年、

「貯蓄から投資へ」

と言い続けてきた。

NISAを拡充し、若い世代にも資産形成を勧めている。

東証も株式分割を促し、少ない資金でも個別株を買いやすくしようとしている。

それ自体は正しい。

ところが一方で市場が、

コンセンサス、

高速アルゴ、

信用取引、

空売り、

デリバティブ、

そして単一銘柄レバETF、

という方向へ進んでしまったらどうなるだろう。

100万円、200万円しか投資資金のない個人が、一生懸命会社を調べる。

決算書を読む。

将来性を考える。

そして株を買う。

しかし好決算だったにもかかわらず、

「コンセンサス未達」

という一言で翌日に15%売られる。

さらにETFのリバランスやアルゴが下落を増幅する。

そんな経験を何度かした新規投資家は、どう思うだろう。

おそらく、

「企業を調べても意味がないじゃないか」

となる。

そして個別株から離れる。

S&P500やオルカンだけを買う。

あるいは株式市場自体から離れてしまう。

これは日本市場にとって決して良いことではない。

本当に怖いのは個人投資家が減ることではない

もっと怖いのは、

長期投資をする個人投資家だけが減っていくこと

だと思う。

市場に投機家が存在すること自体は悪いことではない。

短期投資家も空売りも必要だ。

市場には様々な時間軸の参加者が必要であり、それによって流動性も生まれる。

しかしバランスが重要だ。

もし市場が、

長期投資家 ↓
短期投機家 ↑
アルゴ ↑
レバレッジ ↑
デリバティブ ↑

となっていけば、

企業の5年後、10年後より、

今日上がるか、

明日下がるか、

コンセンサスを1%超えるか、

ETFのリバランスがどちらに出るか、

という話の方が重要になってしまう。

それは株式市場ではあっても、

「企業へ投資する市場」ではなくなっていく。

「海外に資金が逃げるから日本も解禁する」は違う

今回の記事では、米国で日本株の単一銘柄レバETFが上場すれば、日本の個人投資家も米国市場を通じて購入し、日本から資金が流出する可能性が指摘されている。

そして、

「海外で買えるなら、日本でも解禁すべきではないか」

という議論が出てくる可能性もある。

私は、この理屈には慎重であるべきだと思う。

海外のカジノが人気だから、日本にも同じものを作ろう。

海外で高レバレッジ商品が売れているから、日本も作ろう。

それでは規制の意味がない。

考えるべきなのは、

なぜ日本がこれまで単一銘柄レバETFを認めてこなかったのか。

そこではないだろうか。

投資家保護。

相場操縦。

大株主把握。

インサイダー管理。

そして原株の価格形成への影響。

これらには理由がある。

海外へ資金が出るからという理由だけで規制を緩めれば、本末転倒である。

10万円しか持っていない人を30万円賭けさせる市場ではなく

日本が目指すべき方向は、私は逆だと思う。

10万円しか投資資金を持っていない人に、

3倍レバレッジを使わせて30万円分賭けさせること

ではない。

10万円しかなくても、

日本を代表する優良企業の株主になれる市場

を作ることである。

株式分割を進める。

少額投資を可能にする。

企業の情報開示を改善する。

長期投資家を増やす。

企業と株主が長い時間軸で成長を共有する。

それが「貯蓄から投資へ」の本来の意味ではないだろうか。

投資人口を増やしたいのに、投機家ほど有利な市場にしてはいけない

金融商品は進化する。

それ自体を否定するつもりはない。

プロ投資家が短期間のヘッジなどにレバレッジETFを利用する合理的な場面もある。

しかし、便利な商品が必ずしも良い市場を作るとは限らない。

金融市場には、ある境界線が必要だと思う。

市場を活性化する商品なのか。
市場を投機化する商品なのか。

キオクシアは、単一銘柄レバETFが存在しない現在ですら、短期間に10万円を超え、その後大きく値を下げた。

そこへさらに2倍、3倍の商品を入れる。

私は、これを単純に「金融市場の進化」と呼ぶことには違和感がある。

企業が金融商品を生み出すのではなく、

金融商品が企業の株価を動かす。

そんな逆転が起き始めているからだ。

株式市場とは、本来何のために存在するのか。

企業が成長資金を得て、

投資家がその成長に参加し、

企業価値の向上によって利益を共有する。

その原点を忘れてはいけない。

投資を増やしたいのか。
それとも投機を増やしたいのか。

日本市場はいま、その境界線を真剣に考える時期に来ているのではないだろうか。

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