採用実務 #01|キャリア採用で仕事内容をどう伝えるか
「経験者なら分かる」で終わらせない
採用情報は、短いほうがよいのか、詳しく書いた方がよいのか。これはよく聞かれる質問です。
媒体によって載せられる情報量や見せ方は違いますが、短ければよいわけでも、詳しければよいわけでもありません。
魅力的なキャッチコピーと丁寧な説明でも、候補者が判断するための材料が入っていなければ役に立ちません。反対に、候補者の判断に役立つのなら、情報量が多くても問題ありません。
大切なのは、意味のある情報を、大事な順に示すことです。
では、採用情報に入れるべき「意味のある情報」とは何でしょうか。
経験者採用を例に考えてみます。
1.同じ職種でも、仕事の中身は違う(カーディーラー営業の例)
次の二つの原稿は、どちらも「カーディーラーの営業職」の仕事説明を単純化した例です。まずは読み比べてみてください。
A社
来店したお客様を一人の営業担当者が継続して担当します。新車・中古車の提案から、自動車保険、車検・点検の案内、買い替えの相談まで、カーライフ全体の窓口になります。整備作業そのものはサービス部門が行いますが、担当顧客への案内や相談窓口は営業が担います。販売目標は個人単位で設定され、一定範囲の値引きは担当者が判断します。
B社
来店したお客様には店舗全体で対応し、商談内容によって店長や他の営業担当も加わります。新車・中古車の提案と契約を営業が担い、車検・点検など購入後のフォローはサービス担当者と役割を分けます。販売台数は個人実績だけでなく店舗全体の目標も重視し、値引き条件は店長との確認を基本とします。
どちらも、自動車を販売し、購入後のお客様にも関わる営業ですが、仕事内容がかなり違います。
A社は、担当者がお客様と個別の信頼関係を築いていく、個人担当型の営業です。顧客との関係を自分で築ける余地・裁量が大きい一方、販売後も窓口として広く関わります。
B社は、店舗や専門スタッフで顧客対応を分担する、チーム型の営業です。一人で抱える範囲は狭くなりますが、周囲との連携が仕事の重要な部分になります。
このように同じ「カーディーラー営業」でも、顧客との関係、役割や目標、責任範囲が違うことがわかります。
経験者に「自動車営業とは何か」を説明する必要はありません。
知りたいのは、「この会社の営業は、どのような営業なのか」です。
2.なぜ、具体的な説明が必要なのか
仕事内容を具体的に説明したからといって、応募が増えるわけではありません。詳しく知った結果、「思っていたよりも役割の範囲が広い」「自分はもっと技術提案に入り込みたい」「この働き方は自分には合わない」と判断する人もいるでしょう。
それでも、仕事の実態を適切に伝えることには意味があります。
採用研究では、仕事の魅力だけでなく、難しさや負担、制約も含めて正直に伝えることが、仕事内容や役割の理解を助けるだけでなく、「この企業は誠実に情報を示している」という認識につながることがわかっています。また、誠実さへの認識は、入社後の自己都合離職を抑える一つの経路になる可能性も示されています。[1]
誠実な印象が応募意欲まで高めるわけではありません。
それでも、候補者が早い段階から「自分に合う仕事か」を判断できれば、入社後に「思っていた仕事と違った」となる可能性を減らすことにつながります。
3.キーワードを具体に展開する(メーカー法人営業の例)
メーカーの法人営業の例を見てみましょう。
次の文章は、一見すると仕事内容を丁寧に説明しています。
Before
既存顧客を中心とした法人営業です。長年お取引のあるお客様との信頼関係を大切にしながら、ニーズや課題を丁寧に把握し、社内の技術部門とも連携して最適な提案を行います。
営業担当者一人ひとりに大きな裁量があり、自ら考え、周囲を巻き込みながら提案を進めることができます。単に製品を販売するだけでなく、お客様に長く寄り添い、ものづくりを支えるやりがいのある仕事です。
文章は自然で、「既存顧客」「信頼関係」「技術部門との連携」「裁量」といった情報も入っています。
しかし、メーカー営業の経験者が転職先として考えるには、この会社の営業がどのような仕事なのかが、まだよく見えません。
そこで、例えば、次のように説明してみます。
After
自動車・産業機械メーカーなどの既存顧客を担当し、顧客の新製品や生産設備に必要な部品・機器を提案する仕事です。
完成した標準品を選んで販売するだけではありません。顧客の開発・生産部門から、用途、必要な性能、数量、導入時期などを聞き取り、標準品で対応できない場合は、社内の技術部門と仕様を検討します。
営業部門は、最初の相談から見積、受注、納期調整、納入後の問い合わせまで顧客との窓口を担当します。一方、技術仕様の最終判断は技術部門、生産可否や納期の最終判断は製造部門が行います。
製品を売ること以上に、顧客の要求を整理し、自社の技術・製造条件とすり合わせながら、実現可能な提案へまとめていくことが、この仕事の中心です。
Afterの方がよい理由は、単に文字数が増えたからではありません。
Beforeの「信頼関係」「連携」「裁量」といった言葉を、この会社で実際に担う役割や判断範囲まで展開していることです。
仕事内容のすべてを説明しているわけではありませんが、この会社の営業職が何を中心に担う仕事なのかは見えてきます。
4.専門用語はそのままでOK(メーカー品質保証の例)
専門職でも同じです。例えば、「品質保証」の例を見てみます。
Before
当社製品の品質を守る重要なポジションです。製造部門、設計部門をはじめとする関係部署と密接に連携し、品質向上に取り組みます。
問題が発生した際には原因を究明し、関係者を巻き込みながら再発防止まで主体的に進めていただきます。これまで培ってきた品質管理・品質保証の経験や専門性を幅広く生かし、よりよいものづくりに貢献できる仕事です。
品質保証の経験者なら、書かれている言葉は理解できます。
しかし、「この会社の品質保証」がどのような役割なのかは、まだ十分には分かりません。そこで、具体的な役割について補足します。
After
設計・製造段階から出荷後に発生した不具合までを見渡し、同じ品質問題を繰り返さない仕組みをつくる役割を担っていただきます。
出荷後に不具合が発生した場合は、品質保証が案件の窓口となり、設計・製造部門と原因を調査します。原因を特定して終わるのではなく、関係部門と対策を決め、類似製品への影響も確認し、再発防止まで進めます。顧客への原因・対策の説明も品質保証が担当します。
また、開発段階のレビューや社内監査にも参加し、量産後に問題が起きないように未然防止にも関わります。
一方、日常的な完成品検査は製造部門内の品質管理担当、仕入先への定期監査は別のサプライヤー品質担当が担います。
自ら検査を行うよりも、設計・製造・顧客を横断して、品質問題の原因究明と再発防止を進めることが中心の仕事です。
この例では、経験者が読むことを想定しているので、「品質保証」という専門用語を簡単な言葉へ置き換えていません。
専門知識をもつ経験者にとっても分からないのは、「この会社では、どこまでを品質保証の仕事としているのか」です。
もちろん、実際の仕事はここまで明確に分業されていないこともあるでしょう。可能な範囲で、「担当すること」だけでなく「担当しないこと」まで説明できれば、仕事の解像度が上がります。
5.期待する役割の境界を示す(コンサルファームマネージャーの例)
役割が広い仕事ほど、どこまで担うのかの境界は重要になります。ここでは、コンサルティングファームのマネージャーを例に挙げます。
案件の品質管理やメンバー育成は、多くの会社に共通するかもしれません。しかし、自ら新規顧客を開拓するのか。チームとして売上目標を持つのか。新しいサービスの企画・開発まで担うのか。
同じ「マネージャー」でも、期待される役割が違えば仕事内容はかなり変わります。
さらに、同じ会社でも事業や部署によって役割が違うこともあります。その場合は、無理にすべてを「当社では」と一つにまとめる必要はありません。
全社では顧客との長期的な関係を重視しています。一方、今回募集する新規事業部では、市場検証の速度も重視するため、短いサイクルで仮説を試し、顧客の反応から見直す仕事が多くなります。
このように、会社として共通することと、所属する組織固有の違いを分けて示す方が、実態に近づきます。
違いがあることは問題ではなく、どこまで共通し、どこから違うのか分かることが大切です。
6.すべてを一つの求人に書く必要はない
ここまで読み進めると、「これだけの情報を、求人原稿にどこまで盛り込めばよいのか」という疑問がわいてくるかもしれません。
もちろん、媒体によって載せられる情報量や、適した見せ方は違います。すべてを一つの求人原稿や採用ページに詰め込む必要はありません。
大切なのは、まず仕事の大枠をつかめる情報を示し、知りたい人が必要な深さまで情報をたどれるようにすることです。求人票から採用サイトへ、そこから具体的な案件紹介や社員インタビュー、動画へと掘り下げ、さらに面談で確かめてもらうこともできます。
社員インタビューでは、会社が整理した仕事内容に対して、その仕事を実際にどのように経験しているのかを語ってもらうと役割が明確になります。
採用担当が仕事の「地図」を示し、社員がその地図の上での経験を語るイメージです。
7.書こうとしても答えられなかったものは、次の問いになる
最後に、自社の求人を一つ開いてみてください。
そこに書かれている「営業」「品質保証」「マネージャー」「裁量がある」「専門性を生かせる」といった言葉を一つ選びます。
その言葉の先にある、「何をする仕事なのか」「どこまで担うのか」「この会社では何が違うのか」まで説明できるでしょうか。
仕事内容を具体化する5つの問い
1. 誰と関わるか
2. どこまで担当するか
3. 何を自分で決めるか
4. 何を担当しないか
5. 何を成果とみなすか
答えようとして、「チームによって違う」「誰がどこまで決めるのかは、状況次第」「他社との違いが分からない」と気づくこともあります。
それは、採用担当者の表現だけの問題ではありません。その違いが意図して設けられた余白なのか、整理が必要な曖昧さなのか。候補者に仕事を説明しようとすることで、自分たちがその仕事をどう設計しているのかも見えてきます。
キャリア採用で提供すべき情報は、仕事の一般的な説明ではありません。「この会社の、この組織で、この仕事をするとはどういうことか」が分かる情報です。
それを伝えることは、候補者の理解を助けるだけでなく、自分たちの仕事を改めて理解することにもつながります。
注釈
[1] Realistic Job Preview(RJP)は、仕事について肯定的・否定的な側面を含む現実的な情報を候補者に提示する考え方です。Earnest, Allen, & Landis(2011)は52研究、約1万7,000人を統合したメタ分析で、RJPは組織の誠実さについての認識や役割明確性と正の相関があり、自発的離職とは小さいながら負の相関があることを報告しています。さらに、複数の媒介要因を同時に検討した分析では、組織の誠実さについての認識のみが、RJPと自発的離職の間の有意な媒介経路であるとされました。ただし、この媒介分析の一部は少数の研究に基づくため、因果関係の一般化には慎重さが必要です。
