「パートナーには勝手に“期待”をしない」。産後3ヶ月で仕事復帰した共働き夫婦の対話術
パートナーには「言葉を尽くさずとも私の気持ちをわかってほしい」と、つい期待をしては気持ちがすれ違ってしまう。そんな人は多いのではないでしょうか。
今回お話を聞いたのは、産後3ヶ月で仕事復帰をされたフリーランス編集者のえるもさん。夫婦で協力しながら、育児と仕事、そして自分の時間も大切にしています。
えるもさんがパートナーとの関係において大切にしているのは、相手に“勝手な期待”をせず、対話を重ねること。この心がけがあれば、結婚・子育てなどのライフイベントで生じる価値観のずれも乗り越えられると語ります。
今回は、相手に期待してしまう自分の気持ちの扱い方や、パートナーとの日々の対話方法を聞きました。

えるも / フリーランス編集者
フリーランス編集者。100名のライターが在籍する「ネコノテ編集部」代表として、コンテンツ制作を行う。そのほか、メディア編集長・コンテンツディレクター・スクール講師など、Webメディアを中心に幅広く活動中。2025年に出産。Xを中心に、ライフイベントを迎えてもキャリアを諦めない働き方を発信。
X /note
「相手に期待してしまう」のは自分自身の問題だった
―― note などで「パートナーシップにおいて、相手に“勝手な期待”をしないようにしている」と語っているえるもさん。そうした自責思考は昔から身についていたのでしょうか。
えるもさん:
かつては、他責思考のコミュニケーションをとっていました。夫と喧嘩をしても、「あなたが直してよ」と相手が変わってくれることを勝手に期待していたんです。
それに、私は思ったことをすぐに言葉にするタイプ。対する夫は優しい性格で、考えたことを言葉に出すのに時間がかかります。私の感じたモヤモヤをすべてわかってほしい気持ちが先行して、私が一方的に言いたいことを言って喧嘩を終えることが多々ありました。
これでは夫のモヤモヤは根本的には解消されませんよね。そのときは解決したように見えても、再び同じ内容で喧嘩が起きていました。
――何がきっかけで相手に期待しないと決めたのでしょうか。
えるもさん:
自分のなかで処理すべきことと、相手にわかってもらうべきことを切り分けられると気づいたのが大きいです。
突発的に感じた悲しみや怒りの波は、本来自分で落ち着けるべきことなんですよね。言葉を話せない赤ちゃんが癇癪を起こすように、荒れた感情をそのままぶつけても相手は受け止めることができません。ただつらさを訴えるのではなく、まずは自分で自分の機嫌を取ることが大切だと気づきました。
そのうえで、なぜ悲しい気持ちになったのかを伝えています。そうすることで、喧嘩の要因が相手にある場合でも、どうすれば同じような喧嘩を防げるかふたりで話し合えるんです。感情的に騒ぐのではなく、何があってどういう感情になったのか事実として伝えることを意識していますね。

――コミュニケーションの取り方が変わり、相手への見方にも変化はありましたか。
えるもさん:
自分の感情だけでなく、相手の言い分に目を向けられるようになったことで、背景にある相手のこだわりや価値観が見えるようになりました。
たとえば、夫は外出する直前に掃除機をかけ始めるんですよ。私としては予定に間に合うように家を出たいので、彼の行動が理解できずに何度も喧嘩になりました。
でも、彼は一度気になったことはやらないと落ち着かないと気づいてからは、そのルーティーンも彼の個性として受け入れられるようになりました。私にも、「食器を決まった位置に並べたい」というこだわりがあるので、それと同じことだなって。
価値観がわかれば相手の行動の理由が理解できます。気になることがあっても、喧嘩にまで発展することは少なくなりました。
――「期待をしない」ということには、なんとなくドライな印象をもっていましたが、相手の価値観をリスペクトすることでもあるのですね。
えるもさん:
たしかに、冷たい印象を与えてしまう言葉かもしれませんね。ただ、人への期待には、自分の思い通りに動いてもらおうという思考が隠れていると思うんです。「相手に期待をせず、まずは自分で考える」状態こそが、対等な関係だと思っています。
「喧嘩」から「対話」へ。フォーマット化でコントロール
――感情的になってしまったらどうすればいいのでしょうか?“期待”をせずにパートナーとの対話を進める具体的な方法を教えてください。
えるもさん:
自分の感情を言語化することから始めるといいと思います。感情が湧き上がるのは自然なことですし、簡単にコントロールできるものではありません。それを言語化して、冷静さを取り戻すことが大切です。
以前、私の芋けんぴを夫が食べてしまったことがあって。忙しくて昼食を買う余裕がないときに、置いてあった芋けんぴが目に入って食べてしまったようです。私はずっと楽しみにとっておいたのに…!
最初は、ただただ怒りが湧き上がってきました。でも、ここで相手にぶつけずに一度立ち止まり、なぜ怒っているのかを言語化しました。すると「芋けんぴを食べられたこと」ではなく「何度も同じやり取りをしているにもかかわらず、いつも無断で私のものを食べてしまうこと」に怒っていたのだと気づいたんです。
――なぜ怒っているのか感情を紐解くことで、解決すべき問題が明確になるのですね。
えるもさん:
そうです。喧嘩がこじれる原因って、それぞれ感じている問題が別のところにあるからだと思うんですよね。自分が冷静になってから話を聞いてみると、夫は自分が芋けんぴを食べたことを怒られていると思っているので、私が芋けんぴを食べないで置きっぱなしにしていたことが問題だと考えていることがわかりました。
お互いに感じている別々の問題が明確になったら、「私はすぐに食べないなら自分の部屋に持っていくようにするから、あなたはお腹が空いたからといって無断で食べないでね」とそれぞれに解決策を生み出すことができます。
喧嘩の裏には自分では想像できない相手の事情があるもの。正確に価値観を言語化できないからすれ違いが起こってしまうのです。お互い、何に問題を感じているのかを明確にすることで、建設的な対話にできるようになります。

――冷静さを保って対話をするにはどのようにすればいいのでしょうか。
えるもさん:
対話の前に必ずクールダウンの時間をとっています。最初から論理的に対話するのは難しいので、喧嘩の始まりは言い合いになってしまうことも。
そうなったときは、夫は洗車に出かける、私はお風呂に入るなど、それぞれがリラックスできる状態になって感情を言葉にする時間を作ります。そのあと、言語化した内容を話し合うのが私たちのスタイルになりましたね。
――喧嘩から対話に移るためのフォーマットがあるのですね。それでも、対話の最中に反論されたら、かえって大喧嘩に発展してしまいそうで怖いです。
えるもさん:
「必ず相手の意見は最後まで聞くこと」とルールをつくってしてしまうのはどうでしょうか。「あとで改善策を考えることにして、今はお互いの言い分をとにかく吐き出す時間にしよう」と対話を仕切っていくのも手だと思います。
当初は私が一方的に論破して終わっていたわが家の喧嘩も、徐々にこの形に落ち着きました。だいぶ対話がうまくなったと思います(笑)。
パートナーシップは長期戦。ライフイベントに合わせて対話もアップデート
――お子さんが生まれてからのパートナーシップも気になります。産後3ヶ月で共働きを選択されたおふたりは、育児と仕事を両立させるためにどのような対話をしているのでしょうか。
えるもさん:
子どもがいる生活に合わせて、つねに価値観をすり合わせています。子どもが生まれたことで、今まで考えてこなかったことを考えなくてはいけない場面が増えましたが、必ずひとりではなくふたりで考えるようにしていますね。
そのうえで夫も私もひとりですべての育児ができるようにしています。「共働きを選択するなら、負担が片寄らない体制作りが不可欠だね」というのが私たちの対話の結果です。
―― 育児の負担を分け合うためにどのような工夫をしていますか?
えるもさん:
日常の家事であれば、苦手なことは外注することもできますが、子どもに関することは「苦手だからやらない」ことが許されません。
そのなかで大切にしているのは、お互いができる方法を一緒に探すこと。夫は寝かしつけが苦手で、私は得意なのですが、だからと言って全部私が担当するのではなく、彼ができる方法を一緒に探していますね。
育児でも、自分のやり方を押し付けても、結局うまくいかないんです。苦手な側からすると、「自分がやってもできない」と感じてしまうし、得意な側からすると「本当はやってほしいのになぜやってくれないんだ」と失望してしまいがち。最初から一緒に取り組むことが大事だと感じます。

――対話のハードルを下げるために、普段から意識していることはありますか。
えるもさん:
友人夫婦のあいだで起こった喧嘩を例に挙げて、自分たちだったらどうするか、考察をしていますね。たとえば、保育園児のいる共働きの友達夫婦の例を取り上げて、「女性側はこういう気持ちだよね」「でも男性側もこう思うんじゃない?」と自分たちに置き換えて意見を交わしてみたり。
その場で結論を出せないことも多いですが、お互いが抱えている事情や価値観を知っているだけで、いざと言うときの対話のハードルが一気に下がると感じます。起こることすべてを想像することは難しいですが、引き出しを増やして準備できたらいいのかなと。
――最後に、パートナーに期待しない上手な対話を目指したい!という読者に向けて、メッセージをお願いします。
えるもさん:
最初はうまく気持ちを言葉にできないこともあるかもしれませんし、相手が応じてくれないこともあるかもしれません。でも、夫との関係づくりは長期戦です。お互いに歩み寄る気持ちがあれば、きっと大丈夫ですよ。
対話がうまく進まない理由を根気よく探って、ふたりなりの対話の方法を見つけてほしいです。対話とは、自分の内側を言語化し、相手の価値観を理解するという地道な作業の積み重ねです。長い時間をかけて向き合い続けることで、ふたりの関係は強くなるのだと思います。
・・・
今回のインタビューでは、えるもさんが「相手に勝手に期待しない」という考え方を軸に、相手とていねいに価値観をすり合わせ、前向きなパートナーシップを築いていく姿が印象的でした。
期待してしまうのは自分自身の問題であるという気づき。そして相手を変えようとせずに、互いを尊重し合う姿勢に愛情を感じました。
このインタビューが、パートナーとの感情のすれ違いに悩む人たちにとって、自分なりの対話の方法を見つけ、関係をより強くしていくきっかけになればうれしいです。
(編集:いしかわゆき、徳山チカ)
