世界が音に溢れすぎているので、チリ一粒まで文字起こしする
世界、音に溢れすぎ。
そう思いませんか?
私はSNSに投稿された写真に心惹かれて現地に足を運んだ結果「こんなに騒々しい場所だったの!?」と驚くことが多々ある。
意外と交通量の多い道路が近くにあったり、自分含めて観光客が多く賑わっていたりするのが主な原因だ。
昔ながらの旅行雑誌やブログ、最新のSNSなどに投稿された写真を見て、様々な素晴らしい場所を知ることができるけれど。
写真だと『音』がわからない。
じゃあ動画なら『音』もわかるのではないかと思いきや、見やすい動画を作るために音は綺麗に調整されていたり耳心地の良いBGMに差し替えられていたりする。
ネットに溢れる写真たちは、綺麗に『音』を取り除かれて無害な顔をしているのだ。
本当はあんなに騒々しいのに。
そこで私は出先で写真を撮るたびに、環境音を直接書き込んで真実を記録することにした。
画像だけ見ると静かそうなのに、実際はめちゃくちゃ音に溢れていた写真を厳選して5枚載せようと思う。
1:兼六園のヤマガラ

例えばこれは、金沢の兼六園の近くで撮ったヤマガラの写真。
緑のなかに、ぽつんと佇む一羽の鳥。
静かな写真に見えるが、音に溢れていた。

ヤマガラの「ニーニー」としゃがれた鳴き声と、カサカサと草の間を跳ねて移動する音。
すぐ傍に水路があるため常に水がじゃーじゃーチョロロと流れる音が聞こえて、この反対側には車道があり、ブロロロロと車の走行音も聞こえる。
兼六園は有名な観光地であり、周囲には国内外から人が集まっているため話し声も絶えず聞こえた。
「集合場所はこちらですよ」「早く早く~」「あ゛ーーーーーーーーーーーーーーん(赤ちゃんの泣き声)」
結局は人間の声が一番騒がしく聞こえるのは、自分が相手の言葉を聞き取れるからだろう。
ちなみにヤマガラはカメラを向けられていることに気づくと「ヂヂヂヂ」と警戒音を出してどこかへ飛び去ってしまった。
この「ヂヂヂヂ」も、本当はなんと言っているのだろう。気になる。
「こっち見んな!」だったら悲しい。
2:神社の藤棚

これは神社の藤棚。
5月の空の下、爽やかな風がそよそよと吹き、ゆったりと揺れる藤の花……。

と、もちろんそれだけではなく、空の下で美しく咲く藤の更に下には大勢の観光客がおり、あっちこっちから話し声が聞こえた。
「綺麗~!」「初めて見た!」とわいわい楽しそうな声。
近くに池があるため常に水音がチョロロロロと聞こえるほか、参拝客が鳴らす賽銭箱上の鈴の音がガラガラと遠くに聞こえる。また、パンパンと拍手を打つ音も……。
藤の花の周りにはミツバチがブンブンと元気に飛んでいた。
小さい羽根がブブブブブ……と振動する様子が可愛らしい。
花の蜜集めに一生懸命で、真下に人間がいても全く気にしていない様子。
人間だけがミツバチに刺されないかと慌てていた。
「ミツバチが……」「めちゃくちゃいる……」と藤の花に近づけない人も。
※ミツバチは大人しいので、基本的に人を刺すことはない。
3:彼岸花祭り

9月に観た彼岸花。
堤防一面に咲いており、圧巻だった。
彼岸花というと反り返った真っ赤な花びらが派手で見た目は美しいが、なんとなく花自体に賑やかな雰囲気はない。
彼岸の花、と名前もどこか静かというか、少しひんやりと怖い……落ちついたイメージがある。
そして花の香りもなかったりする。

彼岸花が静かに咲く代わりに、周囲の音は賑やかだ。
いや賑やかどころではない。祭りだ。
ツクツクボウシの鳴き声がすごいのだ。祭りの太鼓にだって負けないだろう。
ツクツクボーーーシツクツクボーーーーシツクツクボーーーーーーーーシ!
う、うるせーーーーーーーーーー!
観光客がいると圧倒的に人の声が目立つのに、ツクツクボウシの鳴き声が全てをかき消していた。強すぎる。
ちなみにツクツクボウシのピークは8月下旬から9月上旬らしく、私が行ったのはちょうど一番騒々しい時期だったらしい。
彼岸花を見にきたのか、ツクツクボウシの大合唱を聞きにきたのか、よくわからない一日になった。
4:蚤の市の蝶

蚤の市の売り物の花にとまり、休憩する蝶。
一瞬飾りかと思ったが、ゆっくりゆっくりと羽を動かしながら花の上を移動しており、本物だとわかった。
蚤の市自体は賑わっていたが、客層が穏やかであまり騒がしくはなかった。
だからこそ、この蝶を見つけた瞬間の人々の盛り上がりを忘れられない。

写真では表せない興奮がそこにあった。
「え~!? 生きてる!?」「かわい~~~」「写真撮ろ~」
蝶に夢中になる人々の横で、商品の売り買いがあり、謎の楽器の音がポロロンと鳴り、掘り出し物を見つけようと熱心に歩きまわる客の足音が聞こえる。
「ありがとうございまーす」「ちょうだいしますねー」と声から楽しそうな雰囲気が伝わってくる。
語尾がぴょこぴょこと跳ねている感じだ。
そして蝶はカメラの音も気にしないでしばらく休憩した後、マイペースに飛び立ち、蚤の市の会場を去ったのだった。
5:善光寺の猫

善光寺に向かう途中で見つけた、もふもふの毛並みがかわいらしい猫。
「にゃあ」と一回鳴いた後、向こうへ歩いて行った。
かわいい後ろ姿に、もしもBGMをつけるならピアノかオルゴールの音がいい。

しかし実際は善光寺という人の集まる場所で、音に溢れていた。
近くに車の通りがあるためブロロロロと走行音が聞こえて、土産屋に荷物を運びこむ音もあり、善光寺に向かう人々の足音や話し声が絶えず聞こえる。
鳥の鳴き声もよく聞こえた。
ちなみに、この時猫が歩いていく後ろ姿を動画で撮ったのだが、今見直すと「ンモーンモー」と牛のような鳴き声が入っていた。
けれども近くに牛はいなかったはず……。
「牛にひかれて善光寺参り」というし、なんか……あの……そういうやつですか……?
最後に謎の不思議現象に遭遇しつつ……。
とにかく『音』は重要だ。
ネットに溢れる写真たちは綺麗に『音』を取り除かれて無害な顔をしているが、本当はとっても騒々しい。
ガヤガヤ、とことこ、ドヨドヨ、さらさら、ジャージャー、ぴよぴよ、ガンガン、からから、ゴーゴー、ぎゅるるる、パンパン、うぃーん、ガラガラ、こつんこつん、パキッ、ぱらぱら、ブロロロロ、たったったっ……。
外に出ると、たまにめまいがするほどのたくさんの音に包まれる。
でもそれが逆に面白かったりする。
そう、私は逆にうるさい音を聞くのが楽しくなってしまった。
たくさんの音に包まれて、うるさければうるさいほど、異世界に来たようなワクワクした気分になる。
よって、これからも音を探しに出かけては、環境音の文字起こしを続けようと思う。
写真と一緒に録音した音を使って、曲を作るのもオススメだ。
世界は音に溢れていて面白い。
静かでも騒がしくても『音』は楽しいのだ。
■追記
オモコロ杯2025の「アイディア賞」部門で、この記事が入選しました。
ありがとうございました。
