いち早くグローバル情報キャッチ!(15)フィニアス・ゲージ (Phineas Gage)の前頭葉損傷と人格異変,現代神経学誕生への貢献
表紙写真:Phineas Gage (1823-1860)
筆者81才、毎日、”ボケ”ないよう、いやもう、”ボケ”とる。記憶力の低下、思考力の低下、もちろん運動能力の低下、日に日に感じる。高齢者が免許を更新するとき受ける認知テスト(筆記、実地運転)では結構高得点、しかし、あきらかに認知力は衰えてきており、人の迷惑にならないように車は処分し運転するのは一切やめた。その代わりどこに行くのも自転車、お陰で足の筋肉は頗る健在、とはいうものの、子供さんを後ろに前に乗せたママチャリの若いお母さんたちには次々追い抜かれる。つい10年前はその逆だったのに!でも無理せずヘルメットを被って安全運転、残された「儲けものの」人生なにかと邪魔にならないよう生きたいものだ。
ところが、どの業界とは言わぬが、筆者と同年配のご同輩たちが頑張られている(大学教員70才なのだ)。何かとうまくいけば良いが、残念ながら、中には記憶力が危うく、不整合で合理性を欠く言動、突発的判断とも思える症状が出て、努力はされているだろうが上手くいかない状況が生じている。リーダーとしての能力が問われてしまうとこれであるが、その原因を痴呆(Dementia Care - Alzheimer's Dementia)に求めてしまう論調が多い。
それに対し、筆者は、神経学(neurology)で有名な症例Phineas Gage(日本語資料 フィニアス・ゲージ - Wikipedia)に注目すべきでないかとかと考える。事故で以下の図にあるように鉄の棒が彼の前頭葉(frontal lobe)の損傷した。

このような負傷を受けたにもかかわらず、彼の言語能力を含め多くの機能は正常であった。しかしながら、事故前は、鉄道工事の現場監督として温厚で人柄もよくリーダーであり良き家庭人であったが、直後からは以下のように人格が変わってしまった。
「彼の知的才覚と獣のような性癖との均衡というかバランスのようなものが、破壊されてしまったようだ。彼は気まぐれで、礼儀知らずで、ときにはきわめて冒涜的な言葉を口にして喜んだり(こんなことは以前の彼には無かった)、同僚にもほとんど敬意を示さず、彼の欲望に拮抗するような制御や忠告には我慢ができず、ときにはしつこいほどに頑固で、しかし気まぐれで移り気で、将来の操業についてたくさんの計画を発案するものの、準備すらしないうちに捨てられてほかのもっと実行できそうなものにとって代わられるのだった。知性と発言には子供っぽさが見られ、強い男の獣のような情熱を備えていた。事故以前は、学校で訓練を積んでいなかったものの、彼はよく釣合の採れた精神をもち、彼を知る者からは抜け目がなく賢い仕事人で、エネルギッシュで仕事をたゆみなく実行する人物として敬意を集めていた。この視点で見ると彼の精神はあまりにはっきりと根本から変化したため、彼の友人や知人からは「もはやゲージではない」と言ったほどであった。」(ウィキペヂアより)
これに注目したAntonio Damasioは、ベストセラーになった
を著した。ゲージが感情を司る前頭葉にダメージを受け、人を思いやる社会性に欠けた(感情・情緒に欠けた)行動の要因と捉え、感情が理性にいかに重要であるかを説く。理性と感情を離す従来のデカルト的考え方に挑戦する好材料として取り上げている。Damasio Audiobook - Free Antonio DamasioにもDamasioにトークがある。
筆者自身、コミュニケーションメカニズムと言語機能に関心があったので、現役時代の筆者ゼミのテキストとしてExploring Antonio Damasio’s Descartes’ Error: Emotion ...を執筆した。また関連し、Exploring D. F. Benson's Neurology of Thinking: A Search for ...も執筆した。
Damasioの説は非常に説得力があるが、ゲージの事故後の生活データは担当医の所見と伝聞によるもので、しかも、量が極力少ない。その後、この事件に尾ひれがつき、M. Macmillanは以下の論文それに基づく研究に警告を与えている。
彼によると、上述のような言動、奇行が生じたのは事件直後であり、調査の結果、少なくとも1860年死亡する前は社会的にもかなり買い付記していたようだ。
しかしながら、ゲージがこの事故の後、上述のような言動、奇行があたのは事実である。と言うことは、Damasioが上記著書で現代のゲージに匹敵する彼の患者Elliot(Damasio, pp.34~)のケースが示すように、前頭野(frontal lobe)の感情を司る部位になんらかの原因(脳出血/脳内出血の後遺症や脳梗塞や脳腫瘍 など)で損傷を受けた場合、リーダーとしてはまことに相応しからぬ言動や奇行が生じるかもしれない。それは、痴呆症ではなく脳の障害であり、年齢いかんに関らず罹りうる(上記Benson’sのThe Neurology of Thinkingについての拙著でも紹介)。もっともアルツハイマーのような症状(UNDERSTANDING ALZHEIMER’S AND DEMENTIA)でその部位が縮小する可能性だってある。
以下、筆者がこれから目を通そうと思っている関連文献を挙げる。こりゃボケてなんかおられんぞ! 我ながら口だけは達者だ!(2025年8月27日)
【関連文献】
Phineas Gage's great legacy - PMC
What Happened to Phineas Gage? - Simply Psychology
Phineas Gage | Biography, Injury, & Facts | Britannica
Phineas Gage: Biography, Brain Injury, and Influence
Phineas Gage: Biography, Brain Injury, and Influence
https://www.verywellmind.com/phineas-gage-2795244
Damasio Audiobook - Free Antonio Damasio
Blakeslee, S. (1994, July 6). A miraculous recovery that went wrong. New York Times.
Damasio, H., Grabowski, T., Frank, R., Galaburda, A. M., & Damasio, A. R. (1994).
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Lessons of the brain: The Phineas Gage story - Harvard Gazette
Legacy of a flying tamping iron - Nature
On the neurology of morals - Nature Neuroscience
The Return of Phineas Gage: Clues About the Brain from the ...
Phineas Gage and the Birth of Modern Neuroscience
Phineas Gage brain pathways mapped for the first time
Why Is Phineas Gage’s Story Important to Neuroscientists?
Phineas Gage: The Incredible Story of a Brain Injury Survivor
A Face for Phineas Gage | Science
The story of Phineas Gage – Bridging Science
etc.
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