春が来る頃には
前回、ことみ死す。(死んでいません)
巡る季節はいつの間にか冬、年が明けた頃。17歳に少し前になっていた俺は唐突に来たことみちゃんとの別れは意外にも泣いちゃったりしたものの、あっさりと乗り越えてしまった。
恋愛の傷は恋愛でのみ癒えるとは良く言ったもので、前回書いた奇遇にも同じ日に手ひどく振られた「ゆずかちゃん」と急激に仲良くなったのだ。
ゆずかちゃん、彼女はどこまでも気まぐれな女だった。
待ち合わせの時間に平気で今起きたと言うタイプであった。
時間を守らない人間が嫌いな俺が、そんなことをされても怒らない理由や如何に。
俺の解像度が高い強火ファンの皆さん、正解です。めちゃくちゃ顔が可愛かったのだ。
所謂当時流行りの目がぱっちりしていて顔が小さくて、よく笑う子だった。
でも同時に前述の男とのいざこざで恋愛に飽き飽きしているよ、と俺とデートしているのにも関わらず言ってきた。
それでもゆずかちゃんが俺と会ってくれるのは、ことみちゃんの好みで染めた茶髪がタイプだったかららしい。
俺さ、結構女に染められやすいタイプなんすよ
ゆずかちゃんは承認欲求の塊で、1人から愛を向けられるだけでは満足出来ないらしくて、俺を含めて四人同時攻略しているよとよく言っていた。
俺はそれを聞いて恋愛に懲り懲りの設定はどこにいったんだよ、と思っていた。
しかし意外にも「まあこんなに顔が可愛くてフリーならそうなるよな」なんてすんなりと受け入れた俺は、ささやかな抵抗としてゆずかちゃんが望む量とタイミングで会ったし、学校でよく一緒にお昼ご飯を食べたりした。
平気で他の男との話をしてくるゆずかちゃんにたまに苛立ちながら、あくまでも俺は理解がありますよと言うふうに立ち振る舞ったりしていたが、やはりどうしても沸々と一番の男になりたい衝動が湧いてきたりしてしまう。
そこで誰が一番なの?とか、俺を一番にしようよとか、そういうことを聞けないいじらしさとか、可愛げが多分透けて見えてたからゆずかちゃんは俺を気に入っていたんじゃ無いんだろうか。
あまりジメジメするタイプじゃなかったから楽だったのかもしれない。
お察しの通りゆずかちゃんの性格は終わっていて、我儘で自分勝手でそれでいて破茶滅茶に魅力を振り撒いていた。
明らかに手を出しちゃいけない種類の女だったのにずっとずっと魅了されてしまっているが故に片時も脳から消える事なくやっぱりずっとずっと一緒に居たくなってしまうのが俺と言う人間だった。
ゆずかちゃんは俺とカラオケに行くのが好きだった。
ゆずかちゃんは俺に歌わせたい曲をいくつも覚えさせて、カラオケで勝手に曲を入れてマイクを差し出してくるのが好きだった。
やはり俺はゆずかちゃんによく思われたくて、歌ってほしいなと可愛くお願いされると断る理由なんかなく歌ってあげたり一人で練習したりした。
人に期待を向けられるとどうしても応えたくなってしまうタチなのだ。
ゆずかちゃんはゆずかちゃんで歌がうまかった。だから一緒にカラオケに行くのが好きだった。俺がいい曲だねと言うと嬉しそうに何度か歌ったりする仕草が愛らしかった。
そんな日々をしばらく過ごすと段々男たちは厳選されていき、気がつけば俺一人しか残っていないようだった。
まあ俺が一番一緒にいるもんな、なんて得意げになったり独占欲が露わになったり、執着してみたりした。
そんな様子をゆずかちゃんは察して嬉しそうにする女だった。
そうして二人きりになった俺たちは、なんだったんだ今までの期間はと言う迷いやちょっとした後悔を埋めるようにまた、二人で過ごしたり大学に進学したらどうしようねえと話したりしていた。
やはりこう言ったパターンでは、あっさり終わりが訪れるのが俺の人生の典型的なパターンであって、しばらくしてから発覚したゆずかちゃんの他に好きな人ができたと言うアレでやっぱり終わってしまうのであった。
俺がゆずかちゃんの弱っている時につけ込んで掻っ攫ったように、また他の誰かも俺とゆずかちゃんがちょっとうまくいかなかったり、ゆずかちゃん由来の度を越した承認欲求を俺一人では満たせなかった部分につけ込んで掻っ攫っていくのであった。
始まった頃から薄らと終わりに向かって進んでいっていたのは理解していたから、まあ多分こんな感じになると思ってたんだよなあとぼんやりとしたことを今でもなんとなく覚えている。
ゆずかちゃんと始まった些細な交流は歯切れ悪く終わり、可愛い女の子と一時期でも一緒に居ることが出来たんだからラッキーと思わないとなと言ったちょっと方向性のおかしなポジティブシンキングを身に付けた。
この時くらいから、誰かに執着したり依存したりする事が無くなってしまって、多分ゆずかちゃんがどこかに持って行ってしまったのかもしれない。
返してもらえる目処は無ければ、もう連絡先もちょっとよくわからなくなっているんだけど、もしかしたら結構大事なものだったかもしれない。
ゆずかちゃんは彗星の如く現れ、俺に色々な影響を与えながら、少しだけ人生や高校生活の歯車を狂わせながら、多分嬉しそうに狂わせながらあっという間に消えてしまった。
その頃には気がつけば春を迎えていて、俺は高校三年生になっていた。
さようならをしっかりと言えなかったことが今でも、少しだけ心残りだったりする。
「春が来る頃には」
ぬくもり
