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誇り高き雌犬


 メイは中学生のときから「雌犬」と呼ばれていた。断るということを知らなかったのだ。脱げと言われたらほんとうに脱ぐし、金をくれと言われたらほんとうにくれてやる。

 それを聞いた高校のクラスメイトの男子が、「三回まわってワンって鳴いてみろよ」と半信半疑で言った。そしたら彼女がほんとうに従ったので、命令した男子だけでなく、見ていた奴らまでもが顔を引きつらせた。そしてその日以降、メイは高校でも同じ屈辱的あだ名で呼ばれることになったのである。

 メイを雌犬と呼ぶ奴らは、教師や他の生徒がいる前では彼女を知らんぷりする。しかし、まわりにいるのが仲間だけになると、「こっちに来てお座りしろよ雌犬」と豹変した。それまで童貞だった奴も、そうじゃなかった奴も、彼女を性欲処理の道具にした。場所は学校が多かった。「そのほうが興奮するから」という単純な理由からだ。こいつらはメイの貞操を奪うだけでは飽き足らず、彼女が居酒屋のアルバイトで稼いだ金までも奪った。

 物事には順序がある。いじめは出会った瞬間に始まるものではない。同じクラスになり、おたがいの距離感をつかみ、それぞれの立ち位置が定まってきたあたりから始まる。つまり、ある程度の時間がかかるのだ。しかし、メイの場合はちがった。同じ中学校出身の男子がクラスにいたことで、入学早々に目を付けられたのだ。

 アサヒダは当初、中学時代のメイについて口を閉ざしていた。命令したらなんでもすると他の奴らが知ったら、独り占めできなくなるからだ。もちろん、はじめは誰も信じないだろう。〈頼みごとを断れない性格〉というくらいに思うはずだ。

 でも、どんなところにも図々しい奴はいて、要求はエスカレートしていくものである。始まりは「シャーペンの芯を貸してほしい」という頼みだったのが、果ては「下着を脱いで尻を突き出せ」という命令にまでたどり着くことがあるのだ。実際にメイがそうだったのだから、たしかである。

 アサヒダは、メイが孤立することを望んだ。「目立つようなことはするな」「おとなしくしてろ」「友だちなんて作ろうとするんじゃねえぞ」と彼女に言い聞かせていた。

 しかしその醜い独占欲は、それを凌駕する性的欲求によって足をすくわれた。昼休み中、男子トイレにメイを連れ込んでいるのがクラスメイトにばれてしまったのだ。メイの痩せた尻に、アサヒダのでっぷりした腹が激しくぶつかり、ペチペチペチペチと音を立てていたのである。個室内だったとはいえ、気づかれないわけがなかった。

 教師への告げ口をちらつかされたアサヒダは、メイが中学時代に雌犬と呼ばれるゆえんとなったエピソードを洗いざらい話した。

 もしメイがいなかったら、アサヒダは童貞を卒業できなかっただろう。おそらく、一生。彼はメイ以外の女子とは目も合わせられなかったし、まともに会話することもできなかった。女子のほうも彼を避けていた。毎日歯を磨かないから、口の中が細菌兵器を量産できるほど汚くて臭かったのだ。そのうえ、夜にジャンクフードをたらふく食べる習慣があり、平均体重を三十キロほどオーバーしていた。常に全身から汗と脂が滲み出ており、肌がヌラヌラと光沢を放っていて、はち切れる寸前の胃袋みたいな外見をしている。醜悪で強欲な、おぞましい生き物だった。

 そんなアサヒダにとって、メイは最高の慰めだった。彼は自分のお粗末なペニスをくわえさせたあと、そのお返しに彼女の顔面をベロベロと舐めまわす性癖があった。その様子を見れば、「お前のほうがよっぽど犬畜生だ」と誰もが思うだろう。

 アサヒダほどではないにしろ、異性から見てなんの魅力も感じられない男は掃いて捨てるほどいる。そんな奴らは、自分と似たような恋愛弱者の異性で妥協するか、性風俗を利用することでしか童貞を捨てられない。

 メイは、そんなどうしようもない奴らから〈生涯童貞〉という不名誉なレッテルを剥がし取ってやった。そして結果的に、中学と高校で合わせて三十人以上の穴兄弟を生み出したのである。そういう意味では、ある種の〈聖母〉と呼べるかもしれなかった。


 同じく高校のクラスメイトであるワライは、自他ともに認める潔癖症だった。メイには指一本触れたことがない。だからといって罪が軽くなるわけではなく、こいつも鬼畜の排泄物みたいな男だった。見た目は真面目そうで、読書と将棋が好きな小学生みたいな顔をしているが、頭の中では生臭い欲望がとぐろを巻いていた。

 ワライは、仲間がメイを蹂躙じゅうりんしている光景を撮影し、それを編集してオリジナルのエロ動画を作っていた。ついたあだ名は〈監督〉である。撮影の際は、仲間の顔がカメラに映らないよう配慮するし、完成品の出来も悪くなかったので、腕は信用されていた。

 当初の撮影目的は、メイの弱みを握るためだった。でも最終的には、そんなことをしなくても彼女は言うことを聞くし、口封じの必要もないと悟った。「全校生徒がお前の裸を見ることになるぞ」と脅したところで、メイは顔色一つ変えないのだ。自分の無修正ポルノがばらまかれるのを恐れていない。たとえ流出したとしても、彼女ならすべてを受け止めるだろう。メイには、何をしでかすかわからない凄みがあった。

 鬼畜どもは、いつか自分たちのおこないが白日の下にさらされるかもしれないという不安を抱えていた。だが、楽観的に考えてもいた。彼女が親や教師に言う気なら、とっくに言っているはずだからだ。

 ワライは自家製のエロ動画を仲間内で共有したり、ネットで配信したりはしなかった。良心がとがめたわけではない。現役女子高生の無修正ポルノは金になる。でもそれで商売をするのは危険だとわかっていたのだ。作品を観るのは、ティッシュをかたわらに置いて勃起している奴らだけとは限らない。行きつく先によっては、自分が逮捕されかねないのだ。未成年だから実名では報道されないし、前科にもならないが、高校を退学になるのは確実だった。シビアな受験競争を勝ち抜いて入学したので、それだけは避けたかったのである。

 メイたちが通う高校は、偏差値七十超えの進学校だった。それが防波堤のような役割をし、彼女と同じ中学校の出身者が流れ込むのを防いでいた。残念ながら、勉強だけはできるアサヒダは例外だったが。

 そもそも、中学時代にメイを弄んでいた奴らが、ちゃんと勉学に励めるわけがなかった。何しろ、四六時中、彼女のことばかり考えていたのだから。それが純真無垢な恋心ならともかく、「休み時間になったらトイレでしゃぶってもらおう」だとか、「今日の放課後はどこで犯してやろう」だとか考えて、ペニスを硬くしていたのである。勉強する体力が余ってなくて当然だった。彼らは一年ないし二年間に渡り、股間ばかりにエネルギーを集中させていたのだ。精神への悪影響は計り知れなかった。

 今ごろ別の高校に通っているであろう彼らが、現在どうしているのか、そしてこれからどうなるのか。メイから離れたことで、幻想と現実の境界がはっきりし、健全な高校生活を送っているのだろうか。男にとって性欲とは、人生最大の敵である。急に欲がなくなったとは考えにくい。とはいえ、中学を卒業後、彼らがメイの前に姿を現していないことも事実だった。

 高校進学を機に、メイの一家は隣県に引っ越していた。小さいが、家族三人で暮らすにはじゅうぶんな一戸建てを購入したのである。

 メイの両親は、やや古い考えの持ち主だった。娘には携帯電話やパソコンを持たせず、「欲しければ自分でお金を稼いで買いなさい」と言った。

 メイには気の置けない友だちなどいなかったから、新しい住所や携帯番号は誰にも教えていない。家の電話番号なら誰か知っているかもしれないが、中学の同級生から電話がかかってきたことは一度もなかった。親が出るかもしれないので、気が向かないのかもしれない。

 もし中学時代の餓鬼畜生どもが本気で捜したら、たいして時間をかけずにメイを見つけられるだろう。同じクラスにはアサヒダがいるのだ。メイの行方を問われるかもしれない。実際にそんなことがあれば、おそらく彼は「知らない」と答えただろうが。いずれにせよ、メイは夜逃げしたわけではないから、捜す方法ならいくらでもある。

 ふたたび中学時代の鬼畜どもになぶられるか、自分のかわりに他の女性が犠牲になるとしたら、メイは間違いなく前者を選ぶだろう。「一人も二人も、十人も二十人も同じようなもの」と自棄になっているからではない。人数が二倍になれば、苦痛も倍になる。もちろん嫌に決まっていた。でも、彼らが性犯罪に手を染めるくらいなら、気が済むまで自分に欲望をぶつければいいと考える。メイはそういう人間だった。


 コマツは、メイたちとは別のクラスの生徒だった。彼はある考えに取り憑かれている。アサヒダやワライといった鬼畜どもを皆殺しにすることだ。特に計画があるわけではない。たとえるなら、「仏に逢うては仏を殺し」の境地だった。解釈が間違っているが、コマツの心境にこれほどぴったりな表現はないので、あえて訂正はしない。

 コマツは決して心優しい人間ではなかった。小学生のときは〈実験〉と称してバッタやカマキリの脚をもぎ取ったことがあるし、クラスメイトをいじめて不登校に追い込んだこともある。中学生のときは万引きにのめり込み、捕まるまでに総額で三万円分くらい盗んだ。性的欲求も人並みか、もしかするとそれ以上にある。ネットでポルノ動画を漁り、気分が乗ったときは二回連続で抜くこともあった。

「鬼畜どもを皆殺しにしてやろう」と決意させるほどの過激な思想や暗い過去など、コマツにはなかった。メイへの特別な思い入れもない。もし鬼畜のほうから歩み寄ってこなければ、彼女の存在を知ることなく高校を卒業していたかもしれなかった。

 幼稚園児のころは、ヒーローになりたいと思っていた。しかし高校生になった今では、勧善懲悪のストーリーを鼻で笑っている。「あんなものは子ども騙しであり、現実では悪のほうが栄えているのだ」などと悟ったようなことを考えていた。

「お前も仲間にならないか」とコマツを誘った鬼畜は、中学時代の友だちだった。彼が童貞だということを知っていて、親切心で声をかけたのだ。「今さらメンバーを増やすメリットはない」と仲間たちからは反対されたが、「こいつは信用できるし面白い奴だから」と強引に押し切ったのである。

 コマツは、話を聞いただけでは信じられなかった。まるで成人漫画やアダルトビデオみたいな話だと思ったのだ。「そんなに疑うなら見学しに来い」と言われ、放課後に男子トイレへ足を運んだ。そこには中学時代の友だちの他に、鬼畜が三匹いた。

 アサヒダが個室のドアを開け、「中を見てみろ」とニヤニヤしながら言った。

 恐る恐る中をのぞくと、目隠しをされたメイが、和式便器にしゃがんで陰部を丸出しにしていた。頬がふくらんでいると思ったら、自らの下着を口に押し込まれていた。

 アサヒダが「やれよ雌犬」と命令すると、彼女は小便を始めた。見られているにもかかわらず、堂々とした放尿っぷりだった。

 そこからも、アサヒダが活躍した。彼の性癖についてはすでに述べたので、ここでは繰り返さない。アサヒダはどちらかというと早漏なのだが、見せられているコマツには長く感じられた。吐き気がしたが、このときは何に対して嫌悪感を抱いているのかわからなかった。たぶん、このデブが気持ち悪いせいだろう。コマツはそう思うことにした。

 最後に、鬼畜どもを仕切っているイドガワラという男が、注意事項を説明した。今日見たことは誰にも言ってはならないこと。写真や動画の撮影は原則禁止だが、ワライだけは例外だということ。メイに触るのが嫌なら、ワライが作った動画を視聴してもいいこと。ただし視聴できるのは校内だけであり、コピーできないよう事前に所持品検査をすること。

 ワライがタブレット端末を差し出し、サンプルの動画を見せてきた。そこでもアサヒダが出てきた。四つん這いになったメイの尻に顔を突っ込み、ジュルジュルと音を立てている。スープを行儀悪く飲んでいるみたいだった。

 コマツが顔をそむけると、実物のアサヒダが言った。

「なんだよ、ビビッてんのか?」

「汚いものは見たくないんだよ」

 コマツがそう言い返すと、アサヒダはヒィヒィ笑った。

 イドガワラが、値踏みするような目でコマツを見ながら言った。

「今週末、アサヒダの家で〈ハメハメ輪姦大会〉をやるから来いよ」

 有無を言わせない口調だった。内容については、質問するまでもない。

 帰宅後。部屋にこもり、夕飯を食べず、ムカムカとする胃を抱えて床に寝転がっているとき。コマツは自分が何をすべきか悟った。「あいつらを全員殺そう」といきなり決意したわけではない。何度も言うように、物事には順序がある。

 最初コマツは、「自分と彼らがまったく種類の異なる人間だと証明するにはどうすればいいのか」と考え始めた。あの鬼畜どもと同性であり、同級生であるということに、生理的嫌悪感をおぼえたのだ。

 コマツが何よりも耐えがたかったのは、きっかけ次第では自分も彼らのようになっていたかもしれない、と思えることだった。タイミングと運が、たまたま自分を鬼畜の道に案内しなかっただけだ。「自分はいかなる場合でもメイに手を出さなかった」と考えようとしたが無理だった。他ならぬ自分自身が、「絶対にありえないことではない」と思えてしまったからだ。

 メイが今までに何をされてきたかは、他の動画を見なくても想像がつく。想像がついてしまう。そのことが、自分と鬼畜どもは紙一重なのだという証拠に思えて、さらに自己嫌悪が強まった。

 しかし、あくまで奴らが異常なのだ。コマツは自分にそう言い聞かせた。どんな天罰が下っても、奴らは文句を言えない。鬼畜の所業を可能にするような精神構造は、改善の見込みがないだろう。悔い改めることさえ許されない。地獄の業火にくべて、骨も残らないほど焼き尽くすべきだ。

 もしメイがコマツの考えていることを知ったら、なんとしてでも思い留まらせようとしただろう。どうしてもやめないなら自分だけを殺せ、と言ったにちがいない。そうすれば、否が応でも、鬼畜どもは彼女を手放すことになる。

 しかし、それでもコマツを止めることはできなかっただろう。なぜなら彼は、メイを助けるために血を浴びようとしているわけではないからだ。雌犬と呼ばれているのがメイではなかったとしても、彼は同じ結論に至っていた。自分と鬼畜どもが同一視できてしまうこと、わずかでも共感できてしまうことに耐えられないから、自分のかわりに彼らをこの世から消し去ろうとしているだけなのだ。ある意味、形を変えた自殺だった。

 メイは被害者であり、救いの手が差しのべられるべきである。だが、その役目を果たすのはコマツではない。それはまた別の話だ。

 彼女はなぜ頼まれると断れないのか? ただ一言「嫌」と口にすれば済むのに、なぜそれができないのか? そういった事情も、本題とは関係がないことである。


 今度で五回目になる〈ハメハメ輪姦大会〉は、鬼畜どもにとって何にも代えがたい娯楽であり、心身ともに疲れさせられる苦行でもあった。

 仲間たちとは裸の付き合いを始めて半年になるが、ペニスを突き合わせることにまだ緊張を感じていた。大小の差が露呈してしまうし、男性としての技術や持久力の優劣がはっきりするからだ。

 鬼畜どもは、根が勉強熱心だった。大会ごとに反省し、それぞれが個人練習でテクニックを磨くことに腐心している。

 第一回目では、メイ一人に対して全員が群がり、あとで映像を確認するとバーゲンセールのようになっていた。しかし努力の甲斐あって、回を重ねるごとに上達していった。ワライのカメラを意識した立ち回りができるようになったのだ。

 誰かがメイに絡んでいるときは、一歩離れたところから見守り、体力を温存する。誰かが下の口を使っているときは、上の口を使う。逆の場合もしかり。無駄な動きはせず、空いているポジションにはあまり気が乗らなくても積極的に入るようになった。

 大会前日。イドガワラは、場所の提供者であるアサヒダに最終確認するのを忘れなかった。仕切り役を任されているだけあって、イドガワラは抜け目がなかった。もともと、人の上に立って一から十まで管理したい性格なのだ。一万円札は好きだが、「天は人の上に人を造らず」と言った福沢諭吉のことは嫌っていた。

 成績だけ良くてそれ以外は壊滅的なアサヒダとはちがい、イドガワラには社交性と清潔感があった。おまけに、平均以上の身長もある。たいして中身がないことをいかにも意味ありげに言うのが得意だった。

 同じクラスの女子たちは、ガリ勉で身だしなみに気を遣わない男子たちの中では、イドガワラが一番マシだと考えていた。そのことを彼もなんとなく感づいていたから、余計に自信がついた。女子からすれば「比較的マシ」というだけのことであり、決して好意を抱いているわけではないのだが、この場合は勘違いしているほうが幸せだろう。

 イドガワラは、メイにも確認を取った。

「明日、アサヒダの家に十時集合だからな。絶対に遅れるなよ。もう何度か行ってるから、場所はわかるよな?」

 メイは何も言わずにうなずいた。

「朝ごはんはちゃんと食べてこいよ。たっぷりとな」

 イドガワラは、メイを無理やり嘔吐させ、彼女がその日に何を食べたのかをみんなで当てるゲームが大好きだった。

 前日の夜、コマツは鬼畜どもの顔を思い浮かべていた。イドガワラ、アサヒダ、ワライ、中学時代の友だち。明日は、さらに二匹が加わることになっていた。合計六匹である。

 計画らしきものは考えていたが、紙には書かなかった。「証拠を残したくない」という心理が働いたのだろう。コマツは捕まることを覚悟していたし、それを恐れていなかった。ただ、自分のほうから捕まる気もなかったのである。

 コマツは、おどろおどろしいイメージトレーニングを繰り返した。頭の中で、何度も血飛沫が上がり、断末魔が響き渡る。ベッドに入ってからも続けていたが、そのうち眠りについた。七時間後に目覚まし時計が鳴るまで、彼は一度も目を覚まさなかった。


 アサヒダの家は、よほどあくどい商売をしているのだろうと思わせるくらい、高い塀に囲まれていた。二台入る駐車スペースには、BMWとベンツを停めているのだが、今は空っぽだった。格子状のシャッターが下りている。

 塀の内側では、至るところに防犯カメラが設置されていた。自分が悪いことをしているのに、他の人間が悪いことをしに来るのは見逃せないらしい。

 毎年少なくない税金を納めている両親はともかく、彼らの一粒種はまぎれもなく悪だった。なぜなら、両親が外出している隙に学友たちを招き入れ、母親がヨガ教室で使っている地下で一人の少女を囲み、彼女が泣いたり吐いたり漏らしたりしている様子をカメラにおさめ、憐れむどころかむしろ興奮し、さらなる性的虐待を加えているのだから。

 最初に到着したのは、メイだった。インターフォンを押したら、「一番乗りするほど楽しみにしてたんだな」とアサヒダに言われ、すでに満身創痍みたいな表情である。

 ふくらんだショルダーバッグの中には、着替えとタオル、洗面用具の他に、今までの経験から必要になると予想された様々な用途の薬が入っていた。格好だけ見れば、友だちの家へ泊りにきたかのようだ。

 門を通り抜け、玄関のドアを開ける。廊下の奥からチワワが出てきた。メイとは何度か会っているのに、まるで初対面みたいに甲高い声で吠えてくる。人間の手は噛むものだと調教されているのか、手を狙ってピョンピョンと跳びついてきた。

 メイはボクサーみたいに両手を上げながら、勝手知ったる様子で階段を下りていく。チワワは階段が苦手なので、追いかけてこなかった。

 地下には、プレスベンチやフィットネスバイク、ランニングマシンなどが奥の壁際に並べられていた。それ以外に余計なものはなく、がらんとしている。十二畳くらいの広さで、床はフローリングだった。

 部屋の真ん中あたりに、折りたたまれたブルーシートが無造作に置いてある。メイは入口の脇に荷物を下ろし、さっそくブルーシートを広げ始めた。これから何がおこなわれるかを知っていれば、自らの墓穴を掘る行為に等しいとわかるだろう。もちろん彼女は、この作業の意味を知っている。しかしあくまで無表情だった。自分は何も知らないみたいな顔をしている。

 アサヒダが下りてきた。階段のほうに背を向けているメイを、「おい雌犬」と呼ぶ。彼女が振り返ると、顔に食らいついた。最初は舐めるだけだったが、それに飽きると唇に噛みつく。飼い犬のチワワ同様、親のしつけが行き届いていないのだ。メイが痛がって身をよじると、逃がさないぞと言わんばかりに抱きしめた。場所を提供してやるんだから、これくらいの恩恵はあって当然だ、とアサヒダは考えていた。

 玄関のほうから人の声がする。犬がやかましく吠え始めた。他の鬼畜どもがやってきたらしい。アサヒダはメイを突き飛ばし、階段を上がっていった。

 尻もちをついたメイは、立ち上がろうともしなかった。そこに何があるわけでもなく、宙の一点を見つめている。彼女が自分だけの世界に避難したときの顔だった。

 鬼畜どもが鼻の穴をふくらませながら下りてくる。ブルーシートの手前で座り込んでいるメイを見て、「俺たちが来るのを心待ちにしていたのか」と勝手に解釈し、鼻息を荒くさせた。でも、まだ手は出さない。視姦だけで我慢する。

 監督のワライは、メイのことなど興味がなさそうにカメラを点検している。彼は一人きりにならないと興奮しないし勃たないのだ。

 数分経って、インターフォンの呼び出し音が鳴った。大会の常連なら、勝手に家へ上がっていいことになっている。この日、新入りが来ることは全員知っていたので、誰も不審に思わなかった。

 犬の鳴き声と、アサヒダの声が聞こえる。

 やがて遠慮がちに、コマツが階段を下りてきた。彼の中学時代の友だちが、「よう」とあいさつする。コマツはうなずくだけで何も言わなかった。

 このとき、メイは顔を上げていた。コマツのことは学校で何度か見かけたことがあるものの、名前までは知らなかった。数日前の放課後、男子トイレで見学していたのは彼だったのかと驚いている。他の鬼畜どもにくらべて、コマツは良くも悪くも見た目に特徴がなかった。こんなところへ来なくても、がんばれば恋人を見つけられそうなのに、とメイは思った。

 イドガワラがやってきたのは、予定の時間を十五分ほど過ぎてからだった。「おはよう」と、のんきにあいさつする。遅刻を悪びれる様子はなかった。重役出勤の理由は、待たされるのが嫌だからだ。そのあと、アサヒダが小走りで階段を下りてきて、ようやく全員がそろった。

 イドガワラが、「自己紹介でもしたら?」とコマツに言った。「初めて会う奴もいるだろうし」

 いきなり言われたので、コマツは困惑していた。下を向いて、なかなか口を開こうとしない。

「なんでもいいんだよ。好きなAVのジャンルとか、やってみたい体位とかさ。まだ童貞なんだろ? 最初にお前の好きなことをやらせてやるからさ」

 コマツはうつむきながら「よろしく」とだけ言った。鬼畜どもは失笑する。俺たちにもこういう時期があったな、と懐かしんでいるようでもあった。

 そろそろ始めようということになり、イドガワラがメイとワライに合図する。彼女はためらうことなく服を脱ぎ、下着姿でブルーシートの中央に立った。ワライがそちらへカメラを向ける。イドガワラも、パンツだけになった。無地の真っ赤なボクサーパンツで、すでに半勃起している。

 ワライが五からカウントダウンを始め、三からは声を出さずに指だけで示す。

 そして、撮影が始まった。

 まずは恒例の〈今日のご飯はなんだろな?〉からだ。


 一番多くおかずを言い当てたのは、イドガワラだった。〈好きこそものの上手なれ〉とは、まさにこのことだろう。

 吐瀉物を片付けるために、いったんカメラを止める。するとコマツが、トイレはどこかとたずねた。顔が真っ青だった。しかしアサヒダは、意地悪な笑みを浮かべるだけで答えない。しかたなく、コマツの友だちがトイレの場所を教えた。

 あわてて階段を上がっていくコマツを、鬼畜どもはニタニタしながら見ていた。

「もらいゲロかよ。情けない奴だな」とアサヒダが笑う。

「ちゃんと見てなかったのか?」イドガワラが言った。「あいつ、勃ってたぞ。我慢できなくなって抜きに行ったんだよ。せっかくの一発目なのに、もったいないな」

 当たり前のような顔で、メイが吐瀉物を掃除する。乾いた雑巾で拭き取り、ビニール袋に入れて口をきつく縛った。アサヒダが「まだくせえよ」と顔をしかめ、彼女に消臭スプレーを吹きかけた。

 コマツはしばらく戻ってこないだろうと思われたので、彼らだけで続きをやることにした。次のコーナーは〈肉棒倒し〉だ。他の鬼畜たちも服を脱ぎ始めた。

 メイはブルーシートの上で縮こまり、次の絶望を待っていた。

 ワライは暇なので、録画していない状態のカメラをメイに向けた。髪の先端にへばりついている汚物を拡大し、「おえっ」とつぶやく。

 そのころコマツは、まだトイレにいた。用は足していない。硬くなったものが柔らかくなるのをひたすら待っていた。

 手入れが隅々まで行き届いたトイレだ。トイレットペーパーは三角に折ってあり、芳香剤がフローラルの香りを充満させている。きっとリビングやキッチンも綺麗にしてあるのだろう。アサヒダがこの家の長男だなんて信じられなかった。あれこそ、まっさきに片付けるべきゴミだろうに。

 ペニスをおとなしくさせるには、出すものを出すのが手っ取り早い。ここで射精しても、フローラルの香りがニオイを掻き消してくれるだろう。でも、しごく気にはなれなかった。そんなことをしてしまえば、鬼畜どもと同じになる。ただ場所を変えただけだ。

 コマツは心の中にスイッチを作っていた。条件付けみたいなものだ。もしちょっとでも勃起してしまったら、処刑を実行すると決めていた。ただし、勃たなかったら絶対に手を出さない。たとえ目を覆いたくなるような行為があったとしても。あくまで、メイを助けに来たのではないのだ。まさか初っ端でスイッチが入るとは思っていなかったが、決して彼女を憐れんだわけではなかった。鈍器のように硬くなったペニスが、その証拠である。

 フランネルのシャツの裾をまくりあげる。ズボンと尻のあいだに差し込んであった、二本の包丁を取り出す。刃の部分は、それと同じ形に切り抜いたダンボールで包んである。剥がし取って細かく破り、トイレットペーパーに包んで、三回に分けて流す。指紋を残さないよう、何かに触れるときはハンカチを使った。

 トイレを出ると、チワワが待っていた。人の気配を感じて、様子を見に来ていたらしい。猛烈に吠えてくる。コマツは左手に持った二本の包丁を見た。それから、ゆっくりとチワワのほうを見る。その視線の意味を察したかのように、犬が後ずさりした。コマツが近づこうとすると、尻尾を丸め、急いで廊下の奥へ引っ込んでいった。

 地下へ戻る前に、身に着けているものをすべて脱ぎ捨てる。困ったことに、ペニスは勃ったままだった。これも含めれば三刀流みたいなものだ。場違いだとわかっているが、コマツは思わず笑ってしまった。

 地下では、〈肉棒倒し〉が終わったところだった。ブルーシートが汚れてしまったので、メイに掃除させている。彼女はすでに全裸だった。

 次のコーナーは、ワライが考案した〈女体綱引き〉だった。読んで字のごとく、メイを綱に見立てて引っ張り合うのだ。

 イドガワラは当初、「どうやって楽しむんだよ?」と難色を示した。他の鬼畜たちも同意見だった。しかし、アサヒダだけがやけに食いついた。「引っ張り合いながらこんなことやあんなことをするのはどうか」「あるいはこうするといいんじゃないか」と次から次へとアイデアを出し、それらが案外悪くないので、やってみようということになったのである。

 二人一組になり、それぞれがメイの両手首と両足首をつかむ。持ち上げて引っ張り、ワライが撮りやすいよう、彼女の体を横向きにした。それから、「オーエス! オーエス!」と綱引きを始める。

 メイはまぶたを固く閉じ、唇を噛みしめて、手足が引きちぎれそうな痛みに耐えている。涙がこぼれ落ちたが、声は出さなかった。理由は話さないが、泣き叫んだり弱音を吐いたりはしないと決めているらしいのだ。だからこそ、鬼畜どもは過激なことをやりたがった。体だけでなく、心さえも屈服させようと痛めつけるのだ。

 腕組みしながら見ていたイドガワラが手を挙げる。やめろという合図だった。四人は綱引きをやめたが、メイを床に下ろすことはなかった。今からは、アサヒダの画期的なアイデアを元に、いろいろと遊ぶ時間なのだ。イドガワラは嗜虐的な笑みを浮かべながら、メイに近づいていく。

 ワライは、虐待の様子をしっかり撮ろうと、立ち位置を変える。横歩きで階段のほうへ寄っていった――それによって死期を早めることになるとは知らずに。

 鬼畜どもの目は、メイに集中していた。

 階段で待機していたコマツは、ゆっくりと下りていく。包丁を逆手に持って振り上げると、後ろからワライの首を刺した。刃先が喉を突き破るくらい力を入れたつもりだが、半分も刺さらなかった。

 ワライは何が起こったのかわかっていないらしく、声を出さずに目を白黒させている。カメラから絶対に手を放そうとしなかった。倒れまいとして、両足を踏ん張らせている。首から流れ出る血が、白いカットソーの背を赤く染めていく。

 コマツはもう一本の包丁を右手に持ち替えた。さいわい、大きな物音はしなかったので、他の鬼畜どもはまだ気づいていない。

 イドガワラの背後に忍び寄り、うなじに包丁を突き立てようとした。が、気配を察知されて振り向かれ、その勢いのまま胸を刺してしまう。びっくりして思わず包丁を抜くと、正面からまともに返り血を浴びた。

 でもこの出血量なら助からないだろうし、結果オーライだと思った。コマツは頭を切り替え、次の獲物を見据える。

 残った四匹の鬼畜たちは、胸から血を噴き出しながら倒れているイドガワラを、ぽかんとした顔で見ていた。〈女体綱引き〉をされて宙に浮いているメイだけが、コマツを見ている。だがその表情は、自分だけの世界にいるときと同じだった。

 向かって左側の手前にいる鬼畜を、突き上げるように刺す。肋骨には当たらず、奥深くまで刃をもぐらせることができた。手首を回しながら包丁を抜くと、そいつは血と汚物をまき散らしながら倒れた。

 ようやく事態を把握した残りの三匹は、メイを床へ投げ出した。悲鳴を上げながら部屋の奥へ逃げていく。

 コマツは彼女に一瞥いちべつもくれなかった。腰を抜かしている奴と、足が遅そうなアサヒダは後回しにし、ランニングマシンにしがみついている奴に狙いをつける。そいつはコマツの中学時代の友だちだったが、そんなことは関係なかった。

 甲子園球児が投げた豪速球みたいに飛んでゆき、腹を突き刺す。両手で柄を握りしめ、横に裂いた。割れた水風船のように血があふれ出す。かつて友だちだった鬼畜が、家の外まで聞こえそうなくらい絶叫する。でも短かったし、一回きりだったので、放っておいた。

 仲間がやられているあいだに、残りの二匹が逃げるだろうとは予想していた。案の定、名前も知らない奴とアサヒダが、萎びたペニスを振り乱しながら出口に向かって走っている。死にかけのイドガワラを跳び越え、すでに死んでいるワライを蹴飛ばし、階段を駆け上がっていく。

 コマツは追いかける。ワライの首に刺した包丁を回収することにした。柄を握り、頭を踏んづけながら引っ張ると、なんとか抜けてくれた。それから急いで階段を上がる。

 あと少しで一階にたどり着きそうだったアサヒダの尻に、包丁を突っ込んだ。「あひゃっ」とくすぐったそうな声を上げてひっくり返ったので、とっさに横へずれてかわす。アサヒダは地下まで落ちていった。

 一階に上がると、最後の一匹はチワワに手を噛まれていた。鬼畜が叩いても振り落とそうとしても、犬は絶対に離れようとしない。ハンマー投げみたいにぐるぐると回転したが、それでも食らいついていた。そのうち鬼畜が目を回してふらついたので、コマツは体じゅうを滅多刺しにする。犬は遊び相手が死んでいることなど気にせず、楽しそうに手を噛み続けた。

 地下へ戻ると、アサヒダがうつ伏せになってすすり泣いていた。尻に刺した包丁が、根本まで埋まっている。階段を転がり落ちた拍子に、奥へ押し込まれたのだろう。尻から一気に包丁を引き抜いてやると、「ぎゃああああっ」と最後の力を振り絞って叫び、そして動かなくなった。刃には血液だけでなく、糞がこびりついていて悪臭がした。

 イドガワラは、まだ息をしていた。コマツが顔をのぞき込むと、意識が朦朧としながらも、「人殺し」「童貞」「地獄へ落ちろ」などと毒づく。そしてあろうことか、「鬼畜」と口走った。禁句を口にしてしまったのだ。

 コマツは血と糞が塗りたくられた包丁をイドガワラの口に突っ込み、抜いたり刺したりした。逝く瞬間、彼は気持ち良さそうな顔をした気がする。

 コマツは返り血で染まった自らの体を見下ろす。勃起はいつの間にかおさまっていた。

 あらためて部屋を見渡す。床を汚さないためのブルーシートは用をなさず、そこらじゅうで血や排泄物や吐瀉物がまき散らされている。それらの湿気とニオイが強烈すぎて、空調設備がまったく役に立っていなかった。

 メイはブルーシートに座り込み、両腕で自分を抱きしめていた。今さら裸を隠しているわけではないだろう。彼女の顔には、まったく恐怖が浮かんでいなかった。死体が雑魚寝しているこの状況を、すでに受け止めている。

 もう命令する奴はいなくなった、とコマツはメイに言った。帰るなりなんなり好きにすればいい。俺は行けるところまで行こうと思う。そう言って、背を向けた。

 メイが彼に近づいていく。途中で血溜まりを踏んだせいで、赤い足跡がついた。

 彼女は背後から手を回すと、コマツのペニスに触れる。そこにも返り血がべっとりとついていた。ローションほど滑らかではないが、生温かくて粘り気がある。メイが撫でたり揉んだりするうちに大きくなり、やがて両手の中におさまりきらなくなった。

 コマツは自分の下腹部を見ながら、これが性的興奮によるものなのか考える。ほんとうは考えるまでもないのだが、認めるのが難しかったのだ。でも最後には、鬼畜どもは片道切符で地獄へ行ったんだからいいだろう、と開き直った。

 血のついていない床の上で、二人はセックスをする。どちらから言い出したわけでもなく、メイのほうが上になった。

 絶頂の寸前、コマツは叫んだ。俺を殺せ。殺してくれ。

 メイは、かたわらに置いてあった包丁をつかんだ。

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