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産後によぎった“離婚”の2文字。乗り越えられたのは「婚前契約」での対話があったから

この人と結婚したい。
けれど、この先もずっと、いい関係でいられるのかな…?

結婚は幸せなはずなのに、ふと不安がよぎる。そんな自分に「きっと大丈夫」と言い聞かせてしまうこともあるかもしれません。

今回お話を伺ったぽんさんも、結婚に対してネガティブな感情を抱えていました。両親の熟年離婚という原体験から「嫌いになって別れるくらいなら、結婚したくない」と思っていたほどです。

そんな太田あゆみさん(ぽんさん)が選んだのは、婚前契約を結ぶことでした。別れるための準備としてではなく「“もしも”のときも、嫌いになって別れたくない」という願いから始まった対話。

婚前契約がもたらしたのは、条文ではありません。向き合ってくれた時間の記憶と、パートナーへの感謝でした。その本当の価値に迫ります。

太田あゆみ(ぽん)さん
複業フリーランスとして、プロジェクトマネージャー業(PM)のかたわら、動画制作も行う。2022年に、会社員でエンジニアのパートナーと結婚。第一子の出産を機に休業を経て、少しずつ仕事に復帰中。

両親の離婚がトラウマに。結婚に前向きになれない私が踏み出せた理由

―― 2022年に結婚したぽんさん夫婦は、結婚の際に婚前契約を結んだと伺いました。どうして婚前契約を結ぼうと思ったのでしょうか?

ぽんさん:
実は私がもともと、結婚に対してネガティブで…。そんな私に、パートナーは「結婚したい」とまっすぐ伝えてくれたんです。その想いに感化される形で結婚を意識するようになりました。

ただ、いざ結婚が現実味を帯びてくると、どうしても拭えない不安があって――私の両親、熟年離婚をしているんです。大学生くらいのころかな。かなり大変な状況を間近で見ていました。

「あんなふうになるくらいなら、私は結婚なんてしたくない」と強く思ってしまったほどです。でも、彼の「結婚したい」という想いに答えたい。結婚への不安を完全に消すことはできなくても、お互いの価値観をきちんとすり合わせたいと感じて、私から婚前契約を持ちかけました。

―― ご両親の離婚という原体験が、ぽんさんの考え方に影響を与えたのですね。

ぽんさん:
そうですね。結婚だけではなく、働き方にも影響していると思います。

母はずっと専業主婦で家庭を支えてくれました。それが突然、離婚によって自分で生計を立てなければならなくなった姿を間近で見ていて。「女性は仕事を手放してはいけない」という思いが、そこで強く根づいたんです。

だからこそ、自分の人生や働き方をどう守るのか、もしものときにどう向き合うのかを、結婚前にパートナーと話し合い、言葉にしておきたかったんだと思います。

週1ミーティングと対話で育てた「ふたりの関係性」

―― 婚前契約を結ぶまでは、どのように進んだのでしょうか?

ぽんさん:
結婚を意識し始めると「膝を突き合わせて話す必要のあること」が増えたんです。そこで、週に1回の頻度でミーティングと称して、話し合いの時間をつくるようにしたんです。ビジネスライクなんですけどね(笑)。

これから夫婦になる人とは、ちゃんと話し合える関係でいたい。両親の離婚を見てきたからこそ、自分のなかに根付いていた感覚なんでしょうね。週1でミーティングはしていましたが、婚前契約をいきなり話し合いの議題にはしませんでした。

私は調べたことをすぐに共有するタイプなので、「最近こういうこと調べてさ〜」と日常的に話していて。そのなかで何度か婚前契約を話題に出すうちに、自然とふたりの間に浸透していきました。

そのうえで、ミーティングで改めて「実際どうする?」と切り出し、婚前契約についての本格的な話し合いが始まった、という流れだったと思います。

―― 婚前契約はデリケートなテーマでもありますよね。パートナーへの伝え方で、意識したことはありますか?

ぽんさん:
伝え方にはいちばん気を遣いましたね。だから、頭のなかで一度整理してから話すようにしていました。

婚前契約を結ぶとなると「離婚」に関する内容も含まれるので、どうしてもネガティブになりやすいテーマです。両親の離婚を見てきた私にとっては、なおさら敏感な部分でした。

だからこそ、婚前契約はこれからのふたりにとって過ごしやすい関係をつくるためのものだということ、そして「あなたが悪いわけではない」という前提を伝えました。気分を害する内容もあるかもしれないけれど、別れを想定するものではないのだと。

“ここは越えないでおこうね”というラインを共有できれば、そのほかは安心して自由に過ごせるはずです。そんな未来を想像できるような伝え方を意識していました。

もちろん、別れないことを前提に結婚します。けれど、万が一別れることがあったとしても、結婚したいと思えた人を嫌いになりたくない。関係が壊れきってしまう形では終わりたくない。そんな気持ちが強かったですね。

「もう無理かも」と思ったとき、救いになったのは婚前契約だった

―― 結婚してから「婚前契約を結んでいてよかった」と感じた場面はありましたか?

ぽんさん:
婚前契約を結んだこと自体はよかったのですが、正直に言うと、結婚してすぐは出番がなかったんですよね。遠い昔に結んだな〜くらいの感覚で(笑)。日常で思い出すこともほとんどありませんでした。

でも、産後に大きく気持ちが揺れたことがあって。パートナーが特別ひどいことをしたわけでもないのに、なぜか「離婚」という言葉が頭をよぎってしまった時期があったんです。今思えば、ホルモンの影響や、いわゆる”ガルガル期”で精神的にも不安定だったんだと思います。

―― そんなことがあったんですね…。

ぽんさん:
そのときに、ふと婚前契約を結んだときのことを思い出したんです。あのとき思い出したのは、婚前契約の中身というよりも「パートナーが向き合ってくれた時間」でした。

婚前契約を結んだことは、私にとってトラウマを克服するためで、結婚に対するイメージをマイナスからゼロに戻す作業です。でもパートナーからすれば、わざわざネガティブな想像をして、しんどいテーマを話し合う必要はなかったはずなんですよね。

それでも、一緒に対話を重ねて向き合ってくれた。そんなパートナーへの感謝を思い出しました。それと同時に、婚前契約を結べたということは、本来話し合いができるふたりだったはずだと気づいたんです。

「ふたりで話し合えた」という確信が、離婚を思いとどまる理由になりました。今となっては笑い話で、また少しずつ落ち着いて話し合いができているので、本当にあのとき踏みとどまってよかったです(笑)。

“結婚への不安”をあえて言葉に。婚前契約はふたりの対話の記録になる

―― これからのぽんさん夫婦、どんなふたりになっていきたいですか?

ぽんさん:
おじいちゃんとおばあちゃんになっても、「一緒に旅行する?」と自然に言い合える関係でいられたらいいですね。

海外に行くのは体力的にしんどいかもしれないけれど、元気だったら行きたいですし。杖をつくような年齢になっても「ちょっと温泉行こうか」とか、公園を一緒に散歩できるような関係でいれたらいいな。

だからこそ、これからもふたりで「話し合い」をして、お互いに変化しながら手をつないでいられる関係でいられたら、と思っています。

―― これから結婚、入籍をする人へのアドバイスはありますか?

ぽんさん:
結婚は「保証のないところ」に飛び込んでいくことだと思うんです。そこに不安があるのは自然なことなので、不安を感じること自体は悪いものではありません。だけど、そんなネガティブな気持ちを無視するほど後からしんどくなる気がしていて。

だから少し立ち止まって「私はここが怖いんだ」と知るだけでもいいんです。たとえば、婚前契約の項目を見ながら「これについてはどう思う?」と問いかけてみる。そこで初めて、自分の不安の正体が見えてくることもあるんじゃないかな。

それをもとにパートナーと話してみて「こうなったらいいよね」を共有してみる。答えが出なくてもいいんです。そうやって「不安の正体を知る」という意味でも、婚前契約はひとつの有効な方法なんじゃないかなと思います。

2025年に第一子が生まれ「3人で生きていく」と決意を新たにした、ぽんさんご夫婦。
ありがとうございました!

***

婚前契約という言葉に、身構えてしまう人は少なくないと思います。「結婚前にそこまで決めるなんて」と思う人もいるかもしれません。けれど、ぽんさんの話で印象的だったのは、婚前契約そのものよりも、そこに至るまでの時間でした。

何度も話題に出し、すぐに結論を出さず、ふたりで少しずつ“当たり前”にしていった過程。その積み重ねがあったからこそ、気持ちが揺らぐ瞬間にも「話し合えるふたりだ」と思い出せたのではないでしょうか。

婚前契約は、対話を通してふたりの関係をより深く信じるための準備なのかもしれません。

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