【脳科学】なぜ、散歩でアイデアが閃く?脳の「サボり機能」が創造性を覚醒させる意外な仕組み
結論:私たちが散歩中にアイデアが閃くのは、歩行という軽い運動が、論理的思考を司る「前頭前野」の働きを一時的に抑制し、代わりに脳のアイドリング機能である「デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)」を活性化させるからです。
理由:ガチガチに固まった論理脳の支配から解放され、脳がリラックスして過去の記憶や知識を自由に結びつけ始めることで、予期せぬ「アハ体験」が生まれやすくなるからです。
今回は、スタンフォード大学の研究などで明らかになった「歩行と創造性の関係」をテーマに、脳の力を最大限に引き出すための3つのステップをご紹介致します。
こんにちは、文翔です。
企画書に行き詰まり、パソコンの前でうんうん唸る。
良いアイデアなんて、一滴も出てこない。
「もうダメだ!」と諦めて、気分転換に外をぶらぶら散歩する。
すると、何の気なしに空を眺めている時や、道端の猫を見ている時に、突然「…! そうか、こうすればいいんだ!」と、探していた答えが天から降ってくる。
こんな経験、あなたにもありませんか?
それは、決して偶然や気まぐれではありません。
あなたの脳が、創造性を発揮するための、完璧なスイッチングを行った結果なのです。
まるで、人気アニメ『呪術廻戦』で、主人公の虎杖悠仁が、極限の集中状態「黒閃」を放つ時、理屈ではなく、感覚が研ぎ澄まされていくように。

私たちの脳もまた、デスクにかじりついて「考えよう、考えよう」と力むのをやめ、身体を動かしてリラックスした時にこそ、普段は眠っている潜在能力を解放するのです。
この現象の鍵を握るのが、「一過性前頭葉機能低下」という、脳の不思議なメカニズムです。
提唱者について

右
ダニエル・シュワルツ(Daniel L. Schwartz)
出典: "Give your ideas some legs: The positive effect of walking on creative thinking" (Journal of Experimental Psychology)
この「歩くこと」と「創造性」の間の強い結びつきを、科学的な実験で鮮やかに証明したのが、スタンフォード大学の研究者であるマリリー・オッペゾ氏とダニエル・シュワルツ氏です。
彼らは2014年、被験者を「座っているグループ」と「ルームランナーで歩いているグループ」に分け、創造性を測るテストを行いました。
その結果、驚くべきことに、歩いているグループは、座っているグループに比べて、創造的なアイデアの数が平均で60%も向上したのです。
さらに興味深いのは、この効果が「歩いている最中」だけでなく、「歩いた直後」にも持続したことです。
なぜ、このようなことが起こるのか?
その答えが、「一過性前頭葉機能低下(Transient Hypofrontality)」という仮説です。
これは、歩行やジョギングのような、頭を使わないリズミカルな運動を行っている時、私たちの脳の「司令塔」である前頭前野の活動が、一時的に低下するという現象です。
前頭前野は、論理的思考、計画、意思決定、そして自己コントロールなどを司る、いわば「真面目な管理者」です。
しかし、この管理者が働きすぎると、思考は常識や過去の成功体験に縛られ、自由な発想が生まれにくくなってしまいます。
散歩は、この「真面目な管理者」を、強制的に休憩させてくれるのです。
脳の「アイドリングモード」が創造性の源泉
では、司令塔である前頭前野が休んでいる間、私たちの脳では何が起こっているのでしょうか?
ここで主役となるのが、「デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)」です。
DMNは、私たちが特に何も考えず、ぼーっとしている時に活発になる、脳の神経回路網です。
一見すると、脳が「サボっている」状態のように思えますが、実はこのアイドリング中に、脳は驚くべき活動をしています。
DMNは、脳内に保存されている膨大な記憶や知識(過去の経験、読んだ本の内容、昨日見た映画など)を、まるで焚き火を囲んで雑談するように、ランダムに、そして自由に結びつけ始めるのです。
「あの時の失敗と、この前の読書で得た知識が、意外と繋がるかも…」
「全然関係ないと思っていた、AとBのアイデアを組み合わせたら、面白いものができるんじゃないか?」
この、一見無秩序な情報のシャッフルの中から、予期せぬ「ひらめき」や「アハ体験」が生まれるのです。
つまり、散歩とは、論理的な「検索モード」から、偶発的な「発見モード」へと、脳のOSを切り替えるための、最も簡単な儀式なのです。
スティーブ・ジョブズが会議室を嫌った理由
Appleの創業者であるスティーブ・ジョブズが、重要な会議や面談を、会社の周りを散歩しながら行っていた「ウォーキング・ミーティング」を好んだのは有名な話です。
彼は、会議室の椅子に座って腕を組んでいては、革新的なアイデアは生まれないことを、直感的に理解していたのでしょう。
歩くことで、参加者の前頭前野の働きを抑制し、DMNを活性化させ、より自由で、創造的な対話が生まれる環境を意図的に作り出していたのです。
彼の伝説的な創造性は、その鋭い知性だけでなく、脳の機能を最大限に引き出す「習慣」によって支えられていたのかもしれません。

手順1:「問題」を脳にインストールしてから歩く
まず、ただやみくもに歩くのではなく、散歩をより効果的な「アイデア創出装置」にするための準備をしましょう。
それは、散歩に出かける直前に、解決したい問題やテーマを、脳にしっかりとインプットしておくことです。
企画書のテーマについて、5分だけ集中して考える。
悩んでいる人間関係について、何が問題なのかを紙に書き出す。
新しい事業のアイデアについて、関連する資料に目を通す。
この「事前インプット」が、DMNがシャッフルするための「材料」になります。
材料を脳に放り込んだら、あとは一旦そのことを「忘れて」、散歩に出かけましょう。
答えを無理に探そうとせず、ただ歩くことに集中する。
すると、あなたの脳のDMNが、水面下で勝手に働き始め、材料をこねくり回し、最適な答えを届けてくれるはずです。
手順2:「スマホ禁止」のぼんやりタイムを確保する
次に、散歩の効果を最大化するために、絶対に守るべきルールがあります。
それは、散歩中にスマホを見ないことです。
音楽を聴くのも、できれば避けたいところです。
なぜなら、スマホからの情報や音楽は、あなたの脳の注意を奪い、DMNが自由に活動するための「ぼんやりする時間」を奪ってしまうからです。
せっかく前頭前野の活動が低下しているのに、そこに新たな情報を流し込んでしまっては、脳は休むことができず、DMNは活性化しません。
空の色、雲の形、風の音、道端の草花。
そういった、普段は気にも留めないような、どうでもいい情報に意識を向ける。
この「意図的な退屈」こそが、DMNを活性化させ、創造性を育むための、最高の栄養なのです。
手順3:ひらめきを「即座に捕獲」する準備をしておく
最後に、散歩中に訪れる「ひらめき」は、非常に儚く、すぐに消えてしまうということを覚えておきましょう。
「お、いいこと思いついた!後でメモしよう」と思っても、家に帰る頃には、そのほとんどを忘れてしまっています。
これは、ひらめきがDMNという、論理的ではない領域から生まれるため、前頭前野が司る「記憶の定着」プロセスを経にくいからです。
だからこそ、ひらめきを捕獲するためのツールを、常に携帯しておくことが重要です。
小さなメモ帳とペンをポケットに入れておく。
スマートフォンの音声メモ機能を、すぐに起動できるようにしておく。
アイデアが浮かんだら、歩みを止めて、その場で即座に記録する。
キーワードだけでも構いません。
この「即時捕獲」の習慣が、天からの贈り物を、あなたの資産に変えるための、唯一の方法なのです。

まとめ
企画に行き詰まったら、会議室ではなく、公園へ。
パソコンの前で唸るのではなく、太陽の下を歩く。
それは、仕事をサボっているのではなく、むしろ、脳科学に基づいた、最も効率的でクリエイティブな仕事術だったのです。
「一過性前頭葉機能低下」と「デフォルト・モード・ネットワーク」。
少し難しい言葉でしたが、要は「たまには脳の管理者を休ませて、現場の職人たちに自由に遊ばせてあげよう」ということです。
私も、この記事の構成がまとまらなかった時、PCを閉じて近所の川沿いを30分ほど散歩しました。
すると、忘れていた過去の読書の記憶と、最近見た映画のシーンが不意に結びつき、全体の骨格が見えてきたのです。
私たちの脳は、私たちが思っている以上に、賢くて、自由です。
その力を信じて、少しだけ手綱を緩めてあげる。
最高のアイデアは、いつも、そんなリラックスした瞬間に、向こうからやってきてくれるのかもしれません。
今すぐできる3つのこと
次の休憩時間に、スマホをデスクに置いたまま、会社の周りを5分だけ歩いてみる(5分)
今あなたが悩んでいることを一つだけ選び、それを紙に書き出してから、お風呂に入る(1分)
スティーブ・ジョブズの「ウォーキング・ミーティング」に関する記事を検索して読んでみる(3分)
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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参照元
参照元:Oppezzo, M., & Schwartz, D. L. (2014). Give your ideas some legs: The positive effect of walking on creative thinking. Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition, 40(4), 1142–1152. (https://psycnet.apa.org/record/2014-14435-001)
参照元:Scientific American - Why Walking Helps Us Think (https://www.scientificamerican.com/article/why-walking-helps-us-think/)
参照元:Transient hypofrontality (Wikipedia) (https://en.wikipedia.org/wiki/Transient_hypofrontality)
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