【心理学】なぜ、完璧な計画は必ず失敗する?「計画の誤謬」を乗り越えるシナリオ思考法入門
結論:私たちが立てる完璧な計画が失敗するのは、予期せぬトラブルを過小評価し、自分の能力を過信する脳の癖「計画の誤謬」が原因であり、複数の未来を想定する「シナリオ・プランニング」で改善します。
理由:一つの「完璧な計画」に固執するのをやめ、未来の不確実性そのものを計画に織り込むことで、予期せぬ事態が起きてもパニックにならず、柔軟に対応し、着実に目標達成に近づけるからです。
今回は、ノーベル賞学者ダニエル・カーネマンらが提唱した「計画の誤謬」をテーマに、挫折しない目標達成術を3つのステップでご紹介致します。
こんにちは、文翔です。
「よし、明日からこの完璧なスケジュールで、資格の勉強を始めるぞ!」。
朝6時に起きて、1時間の勉強。
仕事から帰って、2時間の勉強。
土日は、8時間みっちり集中。
そんな、エクセルで美しく色分けまでされた計画表を作って、満足感に浸った経験はありませんか?
そして、その計画が3日と持たずに崩れ去り、「ああ、俺はなんて意志が弱いんだ…」と自己嫌悪に陥る。
この悲しいループ、もはや人類の風物詩とさえ言えるかもしれません。
しかし、それは決してあなたの意志が弱いからではないのです。
あなたの脳が、極めて楽観的に、そして「計画を立てる」という行為そのものに酔ってしまう、厄介な癖を持っているだけなのです。
まるで、大人気アニメ『鬼滅の刃』で、主人公たちがどれだけ緻密に鬼を倒す作戦を立てても、必ず想定外の血鬼術や、予想を超える強さによって、計画が覆されるように。

私たちの未来もまた、予測不可能な「鬼」で満ち溢れています。
それなのに、私たちは「今回だけは、鬼は出てこないはずだ」と信じて、丸腰で突撃してしまうのです。
この、計画を立てる時にだけ発動する、謎の楽観主義を、心理学では「計画の誤謬(Planning Fallacy)」と呼びます。
提唱者について

右 エイモス・トヴェルスキー(Amos Tversky)
出典: "Thinking, Fast and Slow" (ファスト&スロー)
この「計画の誤謬」という概念を世に知らしめたのも、以前「現在バイアス」の回でも登場した、行動経済学の父、ダニエル・カーネマン氏とエイモス・トヴェルスキー氏です。
彼らは、人間がいかに非合理的な意思決定をするかを、数々の実験で明らかにしてきました。
「計画の誤謬」に関する有名な研究では、学生たちに「卒業論文を書き終えるのに、どれくらい時間がかかるか」を予測させました。
学生たちの予測の中央値は「33.9日」でした。
しかし、実際に彼らが論文を終えるのにかかった時間の中央値は、なんと「55.5日」。
予測の1.5倍以上の時間がかかっていたのです。
驚くべきは、彼らが過去に同じような課題で、計画より時間がかかった経験を何度もしているにもかかわらず、その教訓が全く活かされていなかったことです。
なぜ、こんなことが起きるのか?
カーネマンによれば、私たちが計画を立てる時、脳は「内部情報(自分の意欲や能力、計画の美しさ)」ばかりに注目し、「外部情報(過去の失敗経験、他人の似たような事例、予期せぬトラブルの可能性)」を、意図的に無視してしまう傾向があるのです。
「今回は本気だから、大丈夫」
「あの時の失敗は、たまたま運が悪かっただけ」
「急な仕事や体調不良なんて、起きるはずがない」
この、自分に都合の良い情報だけを見る「楽観性バイアス」と、計画を立てるという行為そのものがもたらす万能感が、私たちを「計画の誤謬」の罠に陥れるのです。
あなたの計画には「敵」がいない
「計画の誤謬」の本質は、あなたの計画が「真空の中」で作られている、ということです。
そこには、あなたのやる気を削ぐ「敵」の存在が、全く考慮されていません。
外部の敵: 上司からの急な無茶振り、同僚からの飲みの誘い、電車の遅延、PCのフリーズ。
内部の敵: なんとなくやる気が出ない日、謎の体調不良、他の面白いことへの目移り。
完璧な計画とは、これらの「敵」が一体も出現しない、という奇跡的な前提の上に成り立っている、極めて脆弱な砂上の楼閣なのです。
そして、たった一体の敵が出現しただけで、計画はドミノ倒しのように崩壊し、「もう全部どうでもいいや」という「どうにでもなれ効果」を引き起こすのです。
「シナリオ・プランニング」という名のワクチン
では、この強力な「計画の誤謬」というウイルスに、どう立ち向かえばいいのか?
その答えが、「シナリオ・プランニング」です。
これは元々、軍事戦略や、ロイヤル・ダッチ・シェルのような巨大企業が、未来の不確実性に対処するために開発した思考法です。
たった一つの「完璧な未来」を予測するのではなく、起こりうる複数の未来の「シナリオ」をあらかじめ想定し、それぞれに対応策を準備しておく。
この戦略的思考を、個人の目標達成に応用するのです。

手順1:「最善・標準・最悪」の3つのシナリオを描く
まず、あなたの目標達成までの道のりを、3つの異なるシナリオで描いてみましょう。
テーマ:3ヶ月で資格試験に合格する
最善シナリオ(プランA):
計画通りに勉強が進み、一度もサボらない。急な仕事も入らず、体調も万全。模擬試験でも常にA判定。このペースなら、2ヶ月で合格レベルに達するかもしれない。
標準シナリオ(プランB):
週に1〜2日は、残業や疲れで計画通りに進まない。月に数回は、飲み会や他の用事が入る。勉強時間は計画の7〜8割程度になるが、なんとか3ヶ月でギリギリ合格ラインに到達する。
最悪シナリオ(プランC):
大きなプロジェクトを任され、1ヶ月間ほとんど勉強できない。インフルエンザにかかり、1週間寝込む。勉強時間は計画の半分以下。このままでは、合格は絶望的。
重要なのは、この3つのシナリオを、感情を交えずに、客観的な事実として書き出すことです。
特に「最悪シナリオ」から目を背けないこと。
これこそが、「計画の誤謬」に対する、最も強力なワクチンになります。
手順2:各シナリオの「トリガー」と「対策」を決める
次に、それぞれのシナリオが発動する「引き金(トリガー)」と、そうなった場合に実行する「対策」を、あらかじめ決めておきます。
プランBへの移行トリガー: 2週連続で、計画の8割以下の勉強時間しか確保できなかった。
対策: 週末の勉強時間を1時間増やす。通勤中のスマホ時間を、単語学習に切り替える。
プランCへの移行トリガー: 1ヶ月の勉強時間が、計画の半分に満たなかった。
対策: 試験の申し込みを、次の半期に延期することを検討する。学習範囲を「合格最低点」が取れる分野に絞り込む。
このように、「もし〇〇になったら、△△する」というルールを事前に決めておくことで、いざトラブルが起きても、感情的にパニックになることなく、冷静に次のプランに移行することができます。
これは、挫折ではなく、賢明な「戦略的撤退」あるいは「計画変更」なのです。
手順3:「プレモータム(事前検死)」で計画の穴を炙り出す
最後に、計画を開始する前に、あなたの計画が「すでに失敗した」と仮定し、その原因を探る思考実験「プレモータム(事前検死)」を行ってみましょう。
チームで集まり、「3ヶ月後、我々の資格試験プロジェクトは、見事に失敗しました。さて、一体何が起きたのでしょうか?」と問いかけるのです。
すると、不思議なことに、普段は言いにくいような、計画の穴やリスクが、次々と炙り出されてきます。
「そもそも、この参考書、分かりにくくないですか?」
「Aさんの担当範囲、専門外でキツくないですか?」
「夏の時期は、みんなモチベーションが落ちる傾向がありますよね」
この「未来からの視点」で計画を見直すことで、楽観性バイアスが取り払われ、より現実的で、強靭な計画へとアップデートすることができるのです。

まとめ
「完璧な計画」という、美しくも儚い幻想。
それがいかに私たちを裏切り、自己肯定感を奪ってきたことか。
しかし、「計画の誤謬」の正体を知った今、私たちはもう、その罠に無防備に陥ることはありません。
未来が不確実であることは、変えられない事実です。
ならば、私たちが変えるべきは、未来ではなく、未来に対する「構え」の方なのです。
たった一つの脆い計画に全てを賭けるのではなく、複数のしなやかなシナリオを準備しておく。
それは、臆病なのではなく、極めて知的で、誠実な態度だと私は思います。
計画が崩れるのは、あなたがダメだからじゃない。
計画が、現実を知らなかっただけ。
これからは、現実に揉まれても折れない、賢い計画を立てていきましょう。
今すぐできる3つのこと
あなたが今立てている計画について、「最悪のシナリオ」を一つだけ具体的に書き出してみる(2分)
その「最悪のシナリオ」が起きた時にどうするか、対策を一つだけ決めておく(1分)
過去に計画倒れした経験を一つ思い出し、その原因が「意志の弱さ」以外に何があったか分析してみる(3分)
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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参照元
参照元:Daniel Kahneman - Thinking, Fast and Slow (https://us.macmillan.com/books/9780374533557/thinkingfastandslow)
参照元:Gary Klein - Performing a Project Premortem (Harvard Business Review) (https://hbr.org/2007/09/performing-a-project-premortem)
参照元:Planning fallacy (Wikipedia) (https://en.wikipedia.org/wiki/Planning_fallacy)
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