「結果がすべて」と「まず理由を教えて」——二人の上司が教えてくれた、"報告の速さ"を決めるもの
問題が発生したとき、その責任追及から始める上司と、原因の確認から始める上司、どちらと一緒に働きたいでしょうか。もちろん、後者だと誰もが思うはずです。しかし現実には、前者に出会う方が多いのではないでしょうか。私自身、かつては「怒りを伴う指導」こそが人を早く成長させると信じていました。学生時代の部活動で、厳しい叱責とともに鍛えられた経験があったからです。しかし、その考えを大きく変えてくれたのが、キャリアの中で出会った二人の対照的な上司でした。
「結果がすべて」と言い切った上司は、なぜ部下を萎縮させたのか
日系ベンチャー時代、上司Aさんは体育会系そのもののマネージャーでした。プレイヤー時代の抜群の営業成績で抜擢された人で、自分のやり方に強い自信を持っていました。ある定例会で、中途入社のTさんが先週より下回る予測を報告した瞬間、「何で先週の予測がすぐ変わるの?」という怒声が響きました。「先方が急に……」と説明しようとしたTさんを遮り、「結果がすべて。能力が足りなければ他の人の力を借りろ」と言い放って会議は終わりました。
言っていること自体は間違っていないのかもしれません。でも、大勢の前でプライドを傷つけられたTさんが、その後奮起することはありませんでした。むしろ萎縮し、前職の経験を活かせないまま他部署へ異動していきました。悪意があったわけではなく、Aさんは本気で「自分が受けてきた同じ指導が部下を成長させる」と信じていたのだと思います。
「まず理由を教えて」——医者のように原因を聞いた上司の話
一方、米国IT企業時代に出会った上司Bさんは違いました。同僚のIくんが「この四半期は予算が未達になりそうです」と報告したとき、Bさんの顔から笑顔は消えましたが、出てきた言葉は「一旦、理由を教えて」でした。「何社担当してる?」「上位2割の企業にどれくらい時間を使ってる?」——まるで診察をする医者のように、怒りを挟まず淡々と質問を重ねていきます。
その結果わかったのは、Iくんだけでなくチーム全体が、売上規模の小さい取引先に必要以上の時間を使っていたという構造的な問題でした。Bさんはそこから時間配分のガイドラインを作り、チーム全体の営業効率を底上げしました。
二人の違いは、"性格"ではなく"環境"だったのではないか
『瞬動力』(著者・名郷根修)は、行動の初動の速さを決めるのは意志力や気合ではなく、環境だと説きます。「やらなければ」と分かっていても動けないとき、私たちはつい自分の意志の弱さを責めがちです。でも著者は、動けない原因の多くは本人の内側ではなく、動きにくくしている周囲の設計にあると指摘します。
読みながら、AさんとBさんの下で働いていた自分自身の"報告の初動"の違いを思い出しました。Aさんには悪い報告をするのに相当な勇気が必要で、報告するタイミングを計っているうちに事態が悪化することもありました。Bさんには、悪い報告でも躊躇なく相談できました。同じ「予算未達」という悪い知らせでも、報告までの速さがまるで違ったのです。部下の行動を変えていたのは、性格や能力ではなく、上司がつくる"環境"そのものだったのだと、今なら分かります。
今、あなたの職場は、悪い報告をすぐにできる環境でしょうか
自分が管理職になったとき、完璧にできているとは言えませんが、Bさんのように「まず理由を聞く」姿勢を心掛けました。怒りは、初動を遅らせるだけで、何も解決しないことを経験したからです。それでも忙しい日には、つい結果だけを見て声を荒げそうになる自分がいました。そんなとき思い出したのは、Aさんも決して悪い人ではなかったということです。ただ、自分が受けてきた指導を、そのまま部下にも再現していただけなのだと思います。しかし、その結果、部下を萎縮させることになってしまいました。
もし、あなたの職場で、報告が遅れがちなメンバーがいたら、その人の性格を疑う前に、自分がどんな"環境"を作っているか、一度振り返ってみてはいかがでしょうか。悪い知らせほど早く届く職場は、きっと誰かが意識してつくったものなのだと思います。
