村田沙耶香とピーター・ティール
引き続き『世界99』のことを考えている。
『世界99』で描かれていた「人間が人間である限り、平等な世界は作り得ないのではないか」という主題は、最近世界をざわつかせているある思想とも通じるものがある。トランプ政権の中心にいる人々が好む思想――新反動主義と呼ばれる思想である。
新反動主義については、木澤佐登志さんの『ニック・ランドと新反動主義 現代世界を覆う〈ダーク〉な思想』に詳しい。いい本なのでたくさん読まれてほしい。というか2019年の本だが、むしろ今のほうがみんな実感をもって詠むことができるのではないだろうか、とすら思う。
タイトルはあれだが、もはやダークでもなんでもなく、5年くらいかけてど真ん中の流行思想になった、ということかもしれない。
どういうことを書いている本かというと、現アメリカ副大統領のJDヴァンスやイーロンマスクが好んで読むブログの作者に、カーティス・ヤーヴィンという人がいる。で、この人がどういう思想の持ち主なのか、そしてヤ―ヴィンとともに現代アメリカへの影響力が大きい、ピーターティールとニックランドが加わった体系思想「新反動主義」そして2010年代に生まれる「加速主義」を解説していく……という内容である。
2025年になるとそこまでぴんとこない話もあるにはあるが、コロナ禍を経てより理解できることもある。それはたとえば「資本主義は機能不全でも機能し続ける」という話だったりする。
たとえば鬱病などは個人の脳気質的な問題に還元されてしまい、周囲の労働環境や社会構造は考慮されない。そこでの精神の病はどこまでも個人の問題、つまり自己責任という新自由主義的な倫理に回収されてしまい、それが翻ってメランコリーをさらに深刻化させる。こうした資本主義リアリズムが支配化した社会に見られるストレスと無力感の悪循環ーーこの事態に対して為すすべがないといういう諦め──をフィッシャーは「再帰的無能感」と名付けている。だが、このメンタルヘルスの問題とメランコリーの蔓延は、資本主義が唯一機能しうる社会制度であるというよりも、それが本質的に機能不全であるということを指し示している。
しかし資本主義の問題は、それが機能不全でありながらも現実に機能してしまう点にこそある。資本主義の倫理と速度に適応できない人間は鬱病やADHD(注意欠陥・多動性障害)などの診断を与えられ、薬物によって半強制的に社会に組み込まれる。Netflixの『テイク・ユア・ピル――スマートドラッグの真実』というドキュメンタリーでは、アメリカの大学キャンパス内でADHD薬のアデロールが蔓延しているというエピソードが取り上げられている。ADHD薬には集中力を増す効果、眠気を覚ます効果などがある。学生たちはアデロールを服用することで、授業と試験と交友と競争からなる忙しいキャンパスライフをサヴァイヴしているのだ。
資本主義に適応しようとし続けると、メンタルを壊してしまったり、あるいは適応できないという診断を下されたりしてしまう。しかし一方で、「資本主義の加速的スピードに適応しないでいる」という選択肢をとることは、とても難しい。なぜなら資本主義に適応しないとサヴァイヴできない――生き残れない状況が、存在しているからだ。
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